初代編集長ブログ―安田英久

『マーケティングとPRの実践ネット戦略』でマーケと広報の「汽水域」で何をするべきかがわかった

「マーケ」「宣伝」「広告」「広報」「PR」「販促」、あなたは区別して説明できますか? 最近、さらに区別が難しくなってきていますよね。
Web担のなかの人

今日は、「マーケティング」と「広報」の境目がなくなっているという話を。

「マーケティング」「マーコム」「宣伝」「広告」「広報」「PR」「販促」、それぞれの用語が何を指すのか、あなたは説明できますか? おそらく、人や会社によって微妙に違うことでしょう。それが最近、さらに区別が難しくなってきているのです。

そのあたりの考えが、ニューズ・ツー・ユーさんから献本いただいた書籍『マーケティングとPRの実践ネット戦略』を読んでスッキリとしました。

結論としては、

  • 企業がネットを活用するには「マーケ」「広報」の枠組みにこだわってはいけない
  • ネット活用の実現手法に関しては現場の人間が試行錯誤しながら進むしかない

というところ。ちょっと熱が入って長いコラムになってしまいましたが、最後までおつきあいくださいませ。

昔むかし、「マーケ」と「広報」がありました

私は昔はプログラミングなどの書籍編集をしていました。しかし雑誌へ異動になって最初に悩んだことが「マーケと広報って何が違うの?」でした。

当時、私がいったん納得した理解は、次のようなものでした。

  • 広報/PR = 外部に情報を伝える窓口。お金は発生しない。対象はメディア
  • マーケ/宣伝/広告 = 広告を出す。お金を払う。対象はメディア
  • 販促 = 現場での営業活動。お金を払う。対象は顧客

まだインターネットといっても「ネット利用者が○○○万人」という調査が必要なくらい「普通のもの」ではなかった時代です。もちろんブログも普及しておらず、多くの人にとって「情報」とは既存のメディアから一方的に流れてくるものでした。

気がつくと世の中の仕組みが変わっていました

さて、それから時代は変わり、みんなネットを使うようになったために「インターネット利用者数」という調査がほぼ不要になりました。さらに、インターネットを利用できる携帯電話の大幅な普及で、高価で複雑なパソコンに縁のない若年層や主婦にとってもネットが身近なものになりました。

そして、消費者が受け取る「情報」は、必ずしも既存メディアを経由するとは限らなくなりました。幅広い利用者層を背景にブログやSNSが普及したことで、個人が発信する情報を幅広い人が受け取ることが普通になったのです。

さらに企業や団体も、メディアを経由しなくても、ネットのサービスや自社サイトを使って消費者に対して直接、情報を伝えられるようになったのです。

さらに、ネットを使えば、双方向コミュニケーションを以前よりもはるかに安いコストで行えるため、一方通行ではない企業と消費者とのコミュニケーションが現実的に行えるようになりました。

企業は変化に対応しようとしました

そうなると企業は、昔はできなかったアクションが可能になります。というようりは、ネット普及以前には行っていなかったアクションをすることが、事業を効率よく進めるために重要になってきました。具体的には、次のものです。

  • メディアを経由せずに直接消費者に対して行う情報伝達やコミュニケーション
  • オンラインでの広告出稿や購買促進(最終着地点はリアルもネットもある)

さて、これらのアクションは、既存の「マーケ」「広報」などの分類ではどこに入るのでしょうか? どの部署が行うのがいいのでしょうか?

既存の広報部はずっとマスメディアの人間を相手にしてきていますから、消費者に情報を伝えるという視点では慣れていません。
マーケの人も基本的には広告代理店やメディアを通じてのアクションが中心ですし、インタラクティブなやりとりには慣れていません。
販促を行う営業の人は消費者との接点がありますが、視点は直近の売り上げであって、初期認知やブランディングの考えには慣れていません。

そう。ネットを通じた消費者との直接のコミュニケーションを行う部署なんて、既存の枠組みには存在しないのです。組織として長い経験もないので、方法論が存在するわけではないのです。ということは、会社としてそれを行うやり方を知っている社員もいません。

さらに舞台がネットということもあり、何かしようとしたら必ずテクノロジーが関係してくるので、ネットの仕組みを理解していないと難しい。それに、加えてネットでは常に新しい仕組みやサービスが出てきて、企業が慣れるよりも早く、一般のネットユーザーが新しいツールを使ったコミュニケーションを行ってしまいます。

そう考えてみると、私がこれまで取材させていただいた「デキる」ネットマーケやネットPRやウェブ担当の人が、みなさん、個人として組織のなかで苦労して試行錯誤しながら成功に向かっていった人ばかりなのも納得がいきます。そうするしかないのですから。

でも、マーケと広報の境目になる部分こそが、ネットでおいしい部分なのです。海水と淡水が混ざり合う「汽水域」に魚が多く、良い漁場であるように。

んじゃ、具体的にどうすりゃいいの?

マーケティングとPRの実践ネット戦略

ここまでに書いたものは私の個人的な意見のまとめですが、冒頭で紹介した書籍『マーケティングとPRの実践ネット戦略』では、こういった変化を詳しく説明しています。さらに本書では、「じゃぁ、何をどうアクションすればいいのか?」「どんなメディアをどう使えばいいのか?」という疑問への具体的な答を提示してくれています。ネットで利用できるさまざまなメディアやツールを紹介しながら、ハウツーやアクションプランとして解説しているのです。

原書名は『マーケとPRの新しい法則』というものでしたが、日本では書名が『実践ネット戦略』となったのも、こういった具体的な部分が強いからでしょう。事例、個別のテクノロジーの使い方、アクションプラン例など具体的なものが多いのは、本書の非常に良い点です。さすが、発売されていきなりアマゾンのマーケティング関連書で3位になったのは伊達ではありませんね。

また、アクションプランとして最初に「ビジネス目標の設定」「顧客の理解」「ペルソナの作成」などがちゃんと記述されているのも、Web担で解説していることと共通していて、大きく頷けるところ。ペルソナに関しても、本格的なペルソナの作成は非常に時間とコストのかかるものですが、そこを厳密ではないものの現実的な手法にうまく落とし込んでいるのも、興味深いところです。また、アクションプランの全編にわたってとにかく「顧客のために行動する」ことを繰り返し説いているところは、「ユーザー中心設計」とか難しい言葉よりも読んでいてその重要さが伝わってきます。

ちなみに、本書の翻訳は、日本でのブログの普及に最も貢献したといわれる、ニューズ・ツー・ユー取締役CFOの平田氏。そして、Web担にはネットPR担当者さんへのインタビューをする「PR 2.0の現場から」という連載コーナーがありますが、そのコーナーの取材・執筆をお願いしている、同じくニューズ・ツー・ユー代表取締役社長の神原氏が本書の監修をしています。

連載「PR 2.0の現場から」は、ネットPR、つまりオンライン広報の今を伝えるコーナーとして開始したのですが、回を重ねるうちにマーケティングと広報の境目がなくなってきていることを強く感じるようになっていました。でも、インタビューでわかるのは各社さんがどう考えて何をしたのかの事実だけであり、企業が何をどうすれば成功できるのかの方法論は、はっきりとは見えていなかったのです。でも、本書で具体的な手法が網羅的に解説してくれたので、考えを整理できました。

冒頭にも書きましたが、すでに企業にとって、ネットをうまく活用しないと成功から離れてしまう状況になっています。なぜなら消費者の世界はすでに変わってしまっているのだから。そして、企業がネットを活用するには「マーケ」や「広報」の枠組みにこだわっていては、正しい動きができないし、実際に行うアクションもブログ、SNS、検索エンジン、オンラインメディアルーム、リリース配信など、さまざまな方法があり、常に新しい技術が生まれるので、それぞれをうまく使い、さらに現場の人が試行錯誤しながら進むしかないのです。

この『マーケティングとPRの実践ネット戦略』という書籍の「ウェブで何がどう変わったか」を解説する前半は、1年後に読んだとしても役に立つでしょう。しかし、具体的なツールや手法を解説した後半は、1年後には古い情報になってしまうかもしれません。今後のネットのツールの変化には対応するには、世の中が消費者がどう変わっているのかを理解して、本書で紹介されているアクションプランなどを参考に「自分で」「いま」飛び込んで試すしかありません。

なぜなら、ネットの「ソーシャルメディア」的な部分を理解するには、自ら体験するしかないからです。Web担の連載「ブロガーウォッチング」のいしたに氏も言っているじゃないですか、「まずは自分で、だまって毎日! 半年! ブログをかく」と。実際に体験してみなければわからないことって、本当に多いものです。

本書を読んだ方は、読んで納得するだけじゃなくて、ぜひ実際に行動し始めてみてください。そして、Web担が取材しに伺いますから、ぜひ話を聞かせてください。

※ちなみにこの記事では「マーケティング」は主に狭義のマーケの話として扱っています。リサーチやCRMなどの部分は少し離して考えています(ホントはそちらもネットで大きく変わっているんですけどね)。

この記事は、メールマガジン「Web担ウィークリー」やINTERNET Watchの「週刊 Web担当者フォーラム通信」に掲載されたコラムをWeb担サイト 上に再掲したものです。

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