インタビュー

Webのライフサイクル全体を1つのプラットフォームで管理

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Webのライフサイクル全体を1つのプラットフォームで管理

●編集部 具体的なサービスの内容について教えてください。

●ミューゼル 企業にとっての課題は、Webエクスペリエンスについて、閲覧者の期待値が上がっているということです。高速に動的でインタラクティブなページや、AjaxやFlashを多用したコンテンツを、多種多様なブラウザや端末があるような環境に配信するのは、非常に手腕を問われるところです。米ゴメス社のサービスは、これらのさまざまな内容を計測して数値化し、Webサイトの最適化に貢献します。

米ゴメス社はシングルプラットフォーム上で、Webのライフサイクル管理全体をカバーする複数のサービスを提供しています。まず、サービスにはいくつかのグループがありますが、「Reality QA(リアリティ・クオリティアシュアランス)」です。その中で、Webサイトのデザイン設計段階で利用できるのが「Reality View(リアリティ・ビュー)」で、Reality ViewではさまざまなOSやブラウザ、画面サイズの環境でWebサイトがどのように表示されるのかをテストできます(図1)。

図1
図1 Reality Viewでは任意のOSやブラウザのバージョンを選択して表示をテストできる。

公開前のテストフェーズで使うのは負荷テストである「Reality Load(リアリティ・ロード)」です。ファイアウォールの外側から擬似的な訪問者が集中的にアクセスした場合をシミュレートして、サイトの表示速度にどの程度の影響があるかをテストします。それも、東京からと大阪からではどう違うかとか、海外からの場合はどうかといったテストが行えます。

従来の負荷テストでは、Webサーバーと同一ネットワークセグメントに置いた負荷発生装置から負荷をかけていましたが、それはサーバーやアプリケーションの負荷に対する強度の理論値を計測しているに過ぎません。実際のインターネットユーザーの場合は、住んでいる地域や利用しているプロバイダなどの影響を受けますので、その理論値通りではありません。そこで、Reality Loadでは、同一セグメント内のからだけでなく、米ゴメス社が負荷テスト用の装置を置いているデータセンターからのアクセスによる負荷テストと、ゴメスが契約している一般インターネットユーザーのPCからの負荷テストを行います。現在はまだベータ版で市場提供していませんが、「Reality Check(リアリティ・チェック)」という、パフォーマンスに対する負荷テストだけでなく、Webアプリケーションの機能テストを行うサービスも準備中です。

実際にWebサイトが稼働してからのパフォーマンスをモニタリングするサービスは3つあります。まず、世界の主要なデータセンターに置いてあるサーバーからアクセスする「Active Network(アクティブ・ネットワーク)」と、米ゴメス社が契約しているPCからアクセスする「Active Last Mile(アクティブ・ラストマイル)」という「Active Monitoring(アクティブ・モニタリング)」サービスに属するものが2つ。これらは、米ゴメス社の計測用プログラムが自動的に送信してくる情報を使っています。

もう1つは「Actual Experience(アクチュアルエクスペリエンス)」で、これはアプローチが異なります。外からアクセスしてレスポンスを測るのではなくて、実際にページにアクセスしてきたユーザーのレスポンスをサンプリングしていきます。外からアクセスをしてレスポンスを測るのではなくて、実際のユーザーがアクセスした際のレスポンスをサンプリングして集計するのです。

「Experience First」サービス一覧
  • Reality QA
    • Reality View
      さまざまOSやブラウザ、画面サイズの環境でWebサイトがどのように表示されるのかをテスト
    • Reality Load
      Webサーバーがあるファイアウォールの内部と外部のデータセンター、および一般ユーザーのPCからの負荷テストを行う
    • Reality Check
      Webアプリケーションの機能テストを行うサービス。現在ベータテスト中
  • Active Monitoring
    • Active Network
      世界の主要なデータセンターに置いてあるサーバーからのアクセスを計測
    • Active Last Mile
      米ゴメス社が契約している個人のPCからのアクセスを計測
  • Actual Experience
    実際のユーザーがアクセスした際のレスポンスをサンプリングしてデータを集計

●編集部 一般ユーザーのPCで使う計測プログラムは、個人が自分の意志でインストールしているのですか。

●ミューゼル 米ゴメス社のホームページ上で、常にモニターを募集しています。そこから計測用のソフトウェアをダウンロードしてインストールすることで、このプログラムに参加できます。計測にデータを使わせていただいた場合には謝礼を支払っていますが、ネットワーク環境やPCの利用状況など、Webエクスペリエンス計測に適しているかどうかを精査していますので、参加したらすぐにデータが使われるというわけではありません。もちろん、今は忙しいからPCを計測に使いたくないという時は機能をオフにできますし、アンインストールも自由にできます。

また、インターネットからのパフォーマンス測定だけでなく、企業の地方拠点や海外拠点を結んだイントラネットでの測定も可能です。測定用のソフトウェアを、自社が使っているデータセンターや、地方拠点のPCにインストールして、本社にあるWebアプリケーションのパフォーマンスを計測するという使い方です。

公開前のテストから運営後のチェックまで1つのプラットフォームで

事例をいくつか紹介しましょう。たとえば、米国の大手百貨店のサイトでの導入例ですが、クリスマスのキャンペーンなど、シーズンごとにサイトのデザインを変えますよね。そのような場合、OSやブラウザの種類、画面のサイズの違いによってそのサイトがどう見えるかを、Reality Viewで確認します。これは、それぞれの項目をチェックボックスで選んで、数分でその環境での画面キャプチャするサービスです。WindowsとIEの組み合わせならば見えるけれどMac OSとSafariだときちんと表示されないなどの状況が、一目瞭然になります。Webのデザイナーも作成時にはチェックをしていますが、すべての環境をテストするのは無理でしょうし、バナーや入力用の窓が表示されないなど、外部からのサービスをモジュールとして組み込んでいる場合には、このサービスが特に有効です。また、2つのブラウザの画面をモーフィングによって比較できるので、微妙な違いも簡単に判別できます。

もう1つは、ある大手写真共有サイトの例です。ユーザーからサイトが遅いという苦情があったので、Actual Experienceを導入してアルバムの新規作成が異常に時間がかかっているということを特定しました。そして、それを解決するためのインフラ増強を行いました。ところが、2週間後にまた同様のトラブルが発生したのです。ここで、詳しいユーザーエクスペリエンス計測をしていないと、まだインフラの増強が十分ではなかったのだと考える可能性が高いですね。しかし、Actual Experienceで詳しく調べると、今回はある特定のISPからのアクセスのみ、しかも特定の地域からのアクセスのみが極端に遅くなっているということが判明しました。つまり、インフラ側ではなくユーザーのネットワーク側の問題だったのです。インフラの増強ではこれは解決しませんから、無駄な投資をせずに済んだという例です。さらに、もしその特定の地域からのアクセスだけが常に極端に遅いのであれば、それはネットワークのせいですと言い逃ればかりしていても顧客にそっぽを向かれるだけですから、その地域にはキャッシュサーバーを設置するなどの対策を打つべきでしょう。

社内外のトラブル要因を適切に分析でき
ユーザーごとの環境の違いを想定したテストが可能

●編集部 サービスの価格はどのようになっていますか。

●ミューゼル Reality QA、Active Monitoring、Actual Experience、3種類6つのサービス(Reality Checkはベータテスト中)から必要なものだけを契約していただいて、米ゴメス社のホームページからログインしてお使いいただくわけですが、最小のコストは年間約80万円からです。これは、計測対象のページ数や計測に使うノードの数、計測頻度やキャプチャの回数によって変わります。テスト対象URLを絞ったり、テスト間隔をコントロールしたりすることで、予算に合わせたスモールスタートができます。

●編集部 何かエラーが出たら、アラートを飛ばすようなことはできますか。

●ミューゼル どういう条件の時に誰にアラートのメールを出すかという設定ができますので、サーバーがダウンしたとかレスポンスが悪くなっているというメールを飛ばすことができます。また、Active Networkには、エラーが起こった時にそのエラー画面をキャプチャするというオプション機能があります。

問題をピンポイントで特定し、過剰な投資を防ぐことができる

●ミューゼル SaaSで簡単に使えるということをこの場でお見せしましょう。実はWeb担当者Forumのサイトを、この2日間くらい計測していました。1時間に1回くらいモニタリングしたのですが、実際にデータを見てみましょう。ニューヨーク、ドイツ、ロンドン、香港、東京、韓国、マレーシア、シンガポール、台湾といったといった異なるノードからのアクセスをモニターしました(図2)。

図2
図2 Active Last Maileのレポート画面のサンプル(画面は大阪、札幌、東京、ドイツからの計測結果)

ユーザーエクスペリエンスは、表示の速さ(レスポンスタイム)、サーバーのダウンやタイムアウトがない(可用性)、どのような環境でも閲覧できる(表示)ということで判断できます。ここに表示しているのはレスポンスタイムと可用性です。レスポンスタイムは18秒前後と非常に遅いですが、これは海外のデータも入っているからでしょう。東京から見た場合はホームページが表示されるまで7秒くらいですから、悪くありません。ドイツから見た場合は表示までにかなり時間がかかっていますが、海外に読者はいないと考えていいわけですね。それなら大丈夫。アベイラビリティは100%なのでサーバーは非常に安定して動いているということがわかります。

結果を日本のノードのデータだけに絞り込んで見てみましょう。データセンターからの計測はネットワークの影響を受けにくいですから、本来は一日通して安定しているはずですが、御社の結果はちょっと変わっていますね。特に遅くなっている時間帯がある。これを詳しく見てみましょう(図3、4)。

1ページ全部表示されるまでに、7.6秒かかっています。最初のコネクション0というのがDNSによってクライアントがホストを見つけて最初コネクション張られるまでのことですが、これはかなり速い。問題は次のファーストバイトですね。サーバーにリクエストが届いてコンテンツが返される時間ですが、1秒というのはかなり長い。ここが遅いのは、サーバーのレスポンスが遅いか、もしくはサーバーの後ろで動いているデータベースが遅い。ということは、サイジングやアプリケーションのチューニングに何らかの問題があるかもしれないということがわかるわけです。逆に、全体のパフォーマンスが遅くても、ファーストバイトが速い場合は、マシンの増強やデータベースのチューニングをしても改善されません。

図3
図3 Active Networkによるデータセンターからの計測結果画面
図4
図4 Active Last MileやActive Networkの結果はドリルダウンして詳細に分析できる

その後に滝のようになっているのは、コネクションがたくさん張られて、SCCやJavaスクリプト、画像ファイルなどがダウンロードされる時間です。特定のコンポーネントに問題がある場合は、ここに現れます。リンク切れやタイムアウトのコンポーネントがあればわかるようになっています。

米ゴメス社では、契約の有無にかかわらずメディアや銀行などの主要なサイトに対しては定期的なパフォーマンス測定をしていますので、それらのデータを基準値にして自社のサイトのレベルを判断できます。それによって、パフォーマンスのチューニングやインフラの増強にまだ投資が必要か否かの判断が合理的に下せます。

まずはソリューションを理解してもらうところから広めていく

トマス・ミューゼル氏

●編集部 米国に比べると日本企業はWebの予算が少ないですから、Webのエクスペリエンス管理まで手が回らないのではないかと思いますが、日本ではどのくらいの企業が導入していますか。

●ミューゼル 30社から40社です。日本企業だったり、多国間でビジネスをしている企業の日本拠点だったり。ヤフーとかマイクロソフトなどは後者ですね。今ではインターネットは速くて安定しているのが当たり前だと思っているユーザーが多数派になっていますので、もう気にしないわけにはいかないというのが現実でしょう。

●編集部 日本では代理店を通じてサービスを提供していますが、米ゴメス社の日本法人を作らずにパートナー経由での参入にしたのはなぜですか。

●ミューゼル 米国でも、直販とあわせてパートナー経由の販売をやっています。今回、日本に参入するには、主に迅速さとコストの面でパートナーの力を借りる方が良い結果が出ると考えたからです。私も頻繁に来日していますし、ユーザー企業と直接お話しをして日本のニーズを学んでいるところです。

●編集部 諸外国と日本で、一番違いを感じたのは何ですか。

●ミューゼル 米国に比べて携帯のテクノロジーがとけ込んでいますね。地下鉄の改札を携帯電話で通りますし、もちろんWebブラウジングもします。ゲームとかショッピングとかも含めて、日本人は街中でもインターネット接続しますよね。欧米人は、もっとパーソナルな環境でインターネットを使います。ただし、携帯技術は過渡期にあって、今の携帯がそのまま続くかどうか。携帯電話向けサービスについても挑戦してみようという気はありますが、新しい製品を作るというのは時間もコストもかかります。日本市場に参入するにはある程度の実地訓練も必要ですし、PCサイトと同じテストをするには、数百台の携帯を常に動かす必要があります。技術的に可能だとしても、オプションとしては高い金額になってしまいますから、まずはPCサイトの顧客を増やしていきます。

●編集部 今後の目標について教えてください。

●ミューゼル 最初の目標は、日本市場で我々のテクノロジーやソリューションを認知してもらうことです。日本でビジネスを継続していくためには、それが一番重要です。中期的には日本での顧客を1000社程度、その中でエンタープライズ企業が100社程度というのが目標ですが、この1、2年で達成するのは難しいかもしれません。数十というレベルでお客さんを開拓できればいいかな。顧客数よりもまず、製品の価値をわかってしっかり使い込んでくれるハイクオリティなユーザーが欲しいですね。そういう顧客が、ビジネスの成長に欠かせないと思っています。

●編集部 ありがとうございました。

Gomez, Inc.

米ゴメス社のトップページ画面
  • 所在地 ● 米国マサチューセッツ州 レキシントン
  • CEO ● Jaime Ellertson
  • 設立 ● 1997年
  • URL ● http://www.gomez.com/
  • 事業内容 ● Webサイトの品質チェックや負荷テスト、公開後のコンテンツ品質のモニタリングなど、Webサイトのライフサイクル全体にわたる品質管理をオンデマンド提供する。Webサイトパフォーマンス計測のノード数は全世界で4万以上と世界最大規模を誇る。日本では販売代理店を通じてサービス提供を行う。

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