PR 2.0の現場から
ネットPR時代を生きる広報&マーケティングパーソンへ
多くの企業ウェブサイトのオーナーが広報部であるというのは、ご存知のとおりです。
従来の広報の仕事に新しくサイトの運営が増えたと同時に、インターネット時代のPR活動としてマスメディアが対象の広報活動からインターネットを通じたあらゆるステークホルダーとのコミュニケーションへの変化にも対応しなければなりません。
広報のプロフェッショナルがウェブサイトのオーナーのプロフェッショナルになるためには、大きな意識改革が必要です。
この連載では、試行錯誤の中、成功のルールを発見しつつある企業の広報担当者から、成功のルールを導き出すまでのプロセスやノウハウをレポートしてきます。
神原 弥奈子(株式会社ニューズ・ツー・ユー 代表取締役社長)
江戸時代の鎖国の間に、国内で唯一、海外文化を摂取していた長崎県。異国情緒豊かなイメージは、そういった背景もあるのでしょう。長崎県では、県外に向けて積極的に情報発信をしていくためにウェブサイトをはじめ、さまざまなPR活動を展開しています。
同じ九州にある宮崎県が、東国原知事のキャラクタで一気に知名度を上げたのはご存知のとおり。情報がはんらんしている東京からみるとPR下手だといわれることが多いという地方自治体。その広報広聴活動の実際について、長崎県庁のみなさんにお話をうかがいました。
記者クラブを中心とした広報活動
自治体の広報は、「県内に向けた情報発信」と「県外への情報発信」に分かれています。広報広聴課では、県内向けの広報誌とテレビ番組の制作を担当。県外に向けては、インターネットのホームページが重要な媒体となっています。
「広報部門は約10人。広報誌とテレビの広報番組の制作を担当しているほか、県民相談室の窓口も担っています。県民の方やマスコミからの問い合わせがあれば、担当部署にふり分けるなどの交通整理も私たちの仕事です。
相談があれば、広報の出し方を考えることはありますが、定期的な発表やイベントの報告は、基本的に各部門が独立して情報発信しています
」(川口氏)
県が発表するニュースリリースは、自治体の記者クラブへの投げ込みが前提です。その件数は、平成19年度で総計約2800件。さまざまな部署から、1日あたり実に10件以上もの情報が記者クラブに届くことになります。
「物産流通推進本部だけで、昨年は65件のリリースを出しましたが、今年の目標は100件です
」(村部氏)
広報は、スピードが大事
記者クラブに投げ込みをしたあとのホームページへの情報公開は、広報広聴課の担当。記者発表の翌日には、ホームページで公開しています。
「(情報は)すべて出しましょうということが、以前から主眼にあります。出した情報を見てもらえるかどうかを気にするよりも、まず、隠さない。できるだけタイムリーに、多くの情報を公開しましょうというのが、県の考え方です
」(川口氏)
発表の翌日に情報公開ができるのは、ホームページの更新を自分たちで行っているから。基本的な更新のオーナーシップを自治体の中に持っているというのは、タイムリーな情報開示の大切なポイントです。
「広報については、県庁全体もスピードを持って行うというのが浸透しています。私も直接、各所属のトップと(リリースの内容について)やりとりできる環境になっています。スピードが大事という土壌が、長崎県庁にはできているんです
」(川口氏)
スピードという言葉は、役所とは縁遠いイメージがあったのですが、長崎県庁ではスピード重視の文化が浸透しているようです。
民間企業出身の本部長のもと、積極的なPR活動を展開
広報の活動については、「結構、自由にやらせていただいていますね」(宮本氏)とのこと。これもまた、役所イメージを覆す発言です。こういった自由な雰囲気の背景には、物産流通推進本部の本部長が民間出身であることが大きく寄与しているようです。
「PRはお金をかけずにやるというスタイル。広告ではなく、広報的なアプローチをしようということで、広報活動の中で、広告的にやっていこうという考え方です
」(宮本氏)
「物産流通だけでなく、企業立地も観光も、本部長は民間の出身なんです。民間的な発想で県の仕事をやっていこうという知事の方針です
」(村部氏)
「あれはやったか?」「これは?」といった感じで、直接、現場の担当者に確認される、とてもフランクな本部長。実際に取材をしている間も、部署内を歩き回って、スタッフに声をかけていらっしゃいました。物産流通推進本部には、「お役所」的な雰囲気は、まったく感じられません。
ニュースリリースは、情報を県外に届けるためのツール
長崎県からのリリースには、県外からの人材募集をはじめ、イベントへの応募や参加を告知/推進するものが多いようです。
- 長崎県のニュースリリース一覧(from News2u.net)
物産流通推進本部が出すリリースは首都圏向けのイベント情報が中心となっていますが、組織としては県内、県外、そして海外と、3つのターゲットにあわせた情報発信体制になっているそうです。
「長崎は海外との交流がさかんで、10月18日から10月25日まで北京で長崎県の総合フェアを行う予定です。上海や北京で物産展は何度か実施していますが、総合フェアは初めて。日系のマスコミ向けにプレスリリースをしたいと思っています
」(百田氏)
首都圏の百貨店を活用したPR活動として話題になっているのが、平成16年度からスタートした「ブランドながさき総合プロデュース事業」。物産流通推進本部が中心となって、長崎産の物産を全国に紹介していく活動で、「めぐみの長崎」というホームページも開設し、全国に情報を発信中です。
「生産者情報をバイヤーさんに届けていきたい
」(村部氏)「地元の旬の情報がここでわかり、販売側の声がフィードバックされるようなホームページにしたいですね
」(宮本氏)という本事業、昨年は本事業の広告で「日経MJ広告賞」も受賞しています。
パンフレットや広告のクリエイティブにも力を入れるなど、ブランド育成への真剣な取り組みがうかがえます。
物産流通推進本部では、前年の実績をベースに本年度の目標として、取材件数や広告換算による効果目標も設定しているそうです。「結果の分析をしていることはありますが、目標をさだめて評価している部門はほかにないと思います
」(川口氏)とのこと。「リリースのあとに、記者さんに電話をしている課はないと思いますね(笑)
」と村部氏もおっしゃいます。まさに「民間企業」と同様の広報活動だといえます。
これまでは、ニュースリリースとしてどの情報を出すのかは、「全国的に発信できる情報かどうか
」(村部氏)という視点で選んでいたとのこと。しかし、お話をうかがっていると、調査レポートやアンケート結果などいろいろな情報をお持ちで、県内のイベントもさまざまあるので、それらを積極的に発信していけば、さらに長崎県の魅力をアピールできる可能性を感じました。
一方で、「(調査結果の)数字は一人歩きするので、リリースは慎重
」(川口氏)になったり、記者クラブに開示していない情報を発信することにも記者との関係を考えると躊躇したりしてしまうようです。この辺りは、自治体ならではの、情報発信にあたっての1つの課題だといえるかもしれません。
「記者クラブに投げ込むほどの情報じゃないけど、ネットだから気軽に出そう、という発想に切り替わると、情報量が増えると思いますね
」(村部氏)
次の課題は、効果測定
積極的な情報発信の成果として、どのような指標をお持ちなのかをお訪ねしたところ、「実は、今月(7月)、トップページにアクセス解析をやっと導入したところなのです
」(川口氏)という回答が。県内外からの反響はどうなのでしょうか?
「反響は、なかなかわからないですね。ネットを見てという方はいらっしゃるのですが、どこからきたかは確認していない。県のホームページを見ているのか、それ以外なのか。また、「田舎暮らし」の募集などは、ネットだけではなく、雑誌や県人会にも告知協力のお願いをしていましたし……
」(川口氏)
一方で、「たとえば、テレビ番組で“ごんあじ”が取り上げられると、“ごんあじ”の検索が増える、ということはありますね
」(宮本氏)と、マスメディアをきっかけとした検索を通じて、アクセスを増やすという流れは、実感しているようです。
「県の情報ですから、そのままだと県の公式ホームページの中だけで完結してしまうのですが、ニュースリリースを出すと、県のホームページ以外の有名なポータルにリリースが掲載されます。自分たちが作ったものが、ネット上にたくさん載っているので感動しますね
」(宮本氏)
「検索結果が積み上がっていくのがいいですよね
」(川口氏)
検索結果への関心は、ニュースリリースを活用しだしてから特に高くなったようです。
「これまでは記者さんのことを考えていましたが、一般の人がみる検索エンジンを意識し始めました。ニュースリリースについては、ほかの企業や団体のリリースを見て、どういう形が目を引くかをチェックしています。特にタイトルは、通常の記者クラブへの投げ込みとはちょっと変えて、記事風に工夫しているんですよ
」(宮本氏)
長崎県では、情報を出すことから、次はその効果を検証するフェイズへの転換期を迎えているようです。
これまでの実績についてまとめられていた資料を拝見したのですが、こういった資料に関しては、さすが役所というぐらいしっかりと整理された状態で保存されています。経験の積み重ねに加えて、あとから参照できる形でまとめられている資料とアクセス解析の情報などを活用することで、新しいノウハウは確実にたまっていき、組織の力が着実に向上していくのだろうと思います。
首都圏の百貨店を活用したPRやニュースリリースの活用など、新しいことに積極的な長崎県。「自分たちとしては、まだ足りないなという感じはあります。まだまだやれることはたくさんあると思っています
」(川口氏)とおっしゃるように、お話をうかがった方々の生き生きとした表情は、一般・民間企業と同じか、それ以上だと感じるほどです。
マスコミで注目されている宮崎県はもとより、海外戦略に積極的な佐賀県の動向など、同業者の情報収集も重要な仕事。さらに、最近では、自治体ホームページユーザービリティ調査のようなものも増えており、自治体として情報発信の可能性も増えています。
今の時代、長崎県からの情報は、長崎県のホームページに掲載したものが一次情報。マスメディアで流れるのは、長崎県から情報を入手して報道している二次情報です。自治体の媒体であるホームページをさらに活用した新しい発想で、積極的に情報発信に取り組んでいただきたいと思います。
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