ニュースリリースの目的とは? 間違えやすいプレスリリースとの違い
この連載では、主に企業の広報担当者に向けて、初めて書く人でもわかるリリースの書き方から、ネット時代に即したリリースの書き方など、明日から役立つ基礎情報をお届けします。まずは、リリースを書き始める前段階として、リリースの定義について考えていくことにしましょう。
ニュースリリースの定義とはなにか
企業や行政などの組織が、自社の製品・サービスをマスコミや株主、消費者などに広く情報発信を行うこと。広告枠を買い取って商品の宣伝を行う「広告」とは本質的に異なる。
企業が広報活動※を行う際に、基本となるのが「ニュースリリース」です。「リリース」と省略されるケースも多く見られます。一方で、「プレスリリース」と呼ばれることもあります。では、そもそもニュースリリースとは何なのでしょうか。まず、ニュースリリースの定義について考えてみます。
ニュースリリースをいろいろな辞書で引いてみると、それぞれ微妙に表現が異なりますが、おおむね次のような主旨で書かれています。
企業がマスコミ向けに情報を発表すること、そのために配布する印刷物
ここでいう情報とは、自社に関する新しい情報(ニュース)を指します。つまり、ニュースリリースとはマスメディアを通して広く一般に自社の情報を伝えるための文書だと理解できるでしょう。ニュースリリースは企業が外部に向けて発表する公式な文書であり、広報活動の最も重要なツールです。情報を発表する行為自体も、「ニュースリリースする」などと言われますが、このコーナーでは、特に文書そのもののことを「ニュースリリース」と呼ぶことにします。
ところで、上記の辞書の表現は、本コーナーで説明するニュースリリースとはやや異なり、どちらかと言うと「プレスリリース」に近い意味合いを持っています。その詳しい理由をこれから述べていきます。
ネット時代ではプレスリリースよりもニュースリリースが適切
ニュースリリースと同じような意味で使われる言葉にプレスリリースがありますが、一般的にニュースリリースとプレスリリースは区別されることなく語られているようです。官庁ではリリースのことを報道発表資料とも呼びます。
インターネットが普及する以前、企業は自社の情報を広く一般に告知する術を持っていませんでした。自社の情報を世の中に幅広く伝えるには、マスメディアに頼るしかなかったのです。その結果、「企業が発信する情報=プレスリリースや報道発表資料」となりました。
しかし今日では、インターネットによって、マスメディアを通すことなく、企業が生の声を自社のWebサイトなどで消費者に伝えることが可能になりました。それと同時に、マスメディアのフィルタを通した二次情報として多くの情報を得ていた消費者の行動も変化し、消費者が直接情報を得るように状況も変わってきたのです。
インターネットの普及にともなって、多くの企業が自社のサイトで情報発信できるようになり、特殊なケースを除けば、マスメディア(プレス)だけに向けて情報を提供することはなくなりました。自社サイトにリリースの文書ファイルをそのまま掲載する企業も多く、そういった意味でもリリースはもはや、マスメディアだけに向けた文書だとは言えなくなっているのです。
そもそも「プレスリリース」とは、報道向けの発表資料を意味する呼び方です。つまり、企業が情報を「プレスリリース」として提供することは、報道関係者を対象に文章を出している事実を意味します。しかし、企業が自社サイトにリリースを掲載するのは、報道用文書を一般“にも”見せるためではなく、幅広い層に自社の情報を直接知ってもらうためでしょう。となると、ネット時代の現代では、幅広く一般層に向けた情報であることを意識するためにも、「プレスリリース」ではなく、「ニュースリリース」と呼ぶ方が適切だといえるでしょう。
ニュースリリースは無料広告チラシではなく企業活動を伝える公式文書
ニュースリリースは、企業の新しい情報を広く発表するための公式文書であり、その内容は、新商品・新サービス発表から社長交代、組織変更、筆頭株主変更、決算、社会的活動、不祥事まで、自社に関するあらゆることに及びます。目的は、企業活動を利害関係者(「ステークホルダー」と英語で語る人もいます)に伝えることです。ここで理解しなければならないのは、ニュースリリースは、商品やサービスの広告チラシではないということです。外部に向けた公式文書ですから、チラシのような「ぜひご利用を」「大安売り」などの売り込みを目的とした文言はあり得ません。勘違いしている人もいますが、広報PRはコストをかけずに行う広告活動ではないのです。
ニュースリリースは、マスメディアの記者にとっては、内容を判断して記事にするための基礎資料であり、サイトで直接ニュースリリースを読んだ消費者にとっては、マスメディアの記事では省略されている詳細な情報を知ることができる重要な資料です。ニュースリリースをベースにブログを書く人もいるでしょう。公開されたリリースがその後、どのように使用されるかは受け手次第となるのです。そして、どんな内容がどう書かれているかによって、マスメディアや消費者がその企業に対して持つイメージが大きく変化してしまうという性格もニュースリリースは持っています。外に向けた公式な文書ですから、それによって企業の信用度も左右される事実を肝に銘じて、ニュースリリース作りに取り組む必要があるでしょう。
今回はニュースリリースのあるべき姿の概論を説明しました。次回以降では、ニュースリリースの具体的な作成法や作法、素材となる事柄などを解説していきます。
- ネット時代では報道関係者向けの「プレスリリース」より、さまざまな利害関係者が関与してくることを意識した「ニュースリリース」が適切な呼び方となる
- 企業が発する公式文書であるため、企業に対するイメージや信用度が大きく左右される事実を肝に銘じる必要がある
コメント
プレスは印刷媒体を表す言葉?
「プレスはもともと印刷媒体を表す言葉だから、テレビ、ラジオ、
ネットにはそぐわない。だから、ニュースリリースという表現の方が
適切だ」と思っていましたが、「企業がステイクホルダー向け
(全方位)で発表する公式コメントだからプレスリリースではなく、
ニュースリリース」という考え方は発展系ですね。
10数年前いくつかの外資系企業では、News Releaseというレターヘッドを使いながら、
担当者(日本人も外国人も)は「プレスリリース」と呼んでいた記憶があります。
現場もきちんとした認識はなかったのだと思います。
コメントありがとうございます。
編集部の鈴木です。
参考になるご意見ありがとうございます。
「プレス」には報道機関という意味も含まれますから、テレビの記者会見などもプレスという意味合いが強いイメージですね。プレスからニュースへの変化はやはりインターネットによるところが大きいと思います。
以下参考になりそうなネタを集めてみました。Google insightsの結果に限っていえば、まだまだ「プレスリリース」の方が一般的なようです。
次号以降にもどうぞご期待ください。
言葉は生き物ですが……
記事を書かせていただいている山川です。
コメントをいただき、ありがとうございます。
現状では「ニュースリリース」と「プレスリリース」は、特に区別されることなく、何となくあいまいな形で使われているようです。
言葉は生き物なので(例えば「ホームページ」という言葉、本来の意味から考えると明らかに誤用され、特にマスコミはウェブサイトと同義語で使い、それがまん延して定着してしまった感もあります。挙句の果てに新聞の見出しでは「HP」などと略したりしています)、あまり細かいことを言いたくはないのですが……。だからこそ、早めにきっちりと定義しておかなければならない、とも感じています。
プレスリリースと言うとプレス(メディア)向けの文書、というイメージになりがちです。インターネットが普及し、誰もがプレスリリースを読めるようになったた今では、プレスだけを対象にする訳にはいかないでしょう。
別の見方をすれば、ウェブコンテンツやブロガーなどプレス(メディア)なのかどうかの境界もあいまいになっています。このような現状を考えると、広い意味で「ニュースリリース」と呼んだ方が適切ではないか、と思い、連載の最初に定義させてもらいました。
プレスだけに出す文書を「プレスリリース」、広く一般にも見せる文書を「ニュースリリース」と、分けて考えることもできるかと思います。もっとも、民間企業の場合、プレスだけを相手にする、というケースは今ではほとんど考えられません。
警察や一部の政府機関・役所のように、プレス(記者クラブ)にしか情報を出さないのなら「プレスリリース」と呼べばいいでしょう。あるいは、レイヤー的にはニュースリリースという大きな枠組みがあって、その1つとしてプレスだけに向けたプレスリリースがある、とも考えられるかもしれません。