落とし穴だらけ!CMS都市伝説
第二回
「CMS導入でコンテンツ管理が楽に」は大間違い!
意外と知らないコンテンツ管理業務の真実
CMS(コンテンツ管理システム)を導入する前に、コンテンツ管理業務が抱える課題を正確に認識すること、その課題解決のどの部分にCMSが利用できるのかの理解は必須だ。とはいえ、誤りを含むコンテンツを公開してしまったり、更新の納期が守れなかったりと、悩みを抱えているWeb担当者はとても多く、その原因を正確に理解しているWeb担当者と出会うことは少ない。なぜこうしたことが起きるのか、今回は、中規模サイトのコンテンツ管理業務が一般的にかかえる課題から探ってみよう。
石村 雅賜(株式会社ビジネス・アーキテクツ)
ウェブサイトの重要性が増し
コンテンツを充実させるのが課題に
ウェブサイトの重要性が増すにしたがい、ほとんどの企業ウェブサイトでは、コンテンツ量が増加する一方で、コンテンツの内容もより深く詳細になってきている。また、ウェブサイトの利便性をあげるために、ナビゲーションやコンテンツ間のリンク構造も複雑化する傾向にある。
サイトのコンテンツが充実し、より便利になることは、利用者にとっては歓迎すべきことであるが、コンテンツ管理者にとっては頭の痛い課題を多く生むことになっている。その課題を解決するために、CMSが大きな役割を果たすわけだが、まずは具体的な課題を順にみていこう。
課題
肥大化するコンテンツと
長期化するリードタイム
ウェブサイトのコンテンツの充実が図られるようになり、コンテンツ更新までのリードタイムが長期化しつつある。その大きな原因は2つある。
1つ目の原因は単純で、コンテンツ管理のリソース(人員)の欠如である。いうまでもないが、リソースが抱えているタスクが完了しないと次のタスクにとりかかることはできない。
2つ目の原因は、意外と意識していないことが多いのだが、コンテンツに関係する人数の増加である。コンテンツを充実させるには、よりコンテンツの源流に近い担当者(たとえば製品紹介であれば研究開発部門)を巻き込む必要がある。さらに、コンテンツの正確性を向上させるためには関連するすべての部門の代表者に内容の確認を得る必要がある。その結果、1つのコンテンツを更新する際に非常に多くの関係者とコンテンツ内容やスケジュールの調整を行うことになる。ところが、そのような関係者はコンテンツ管理が専業ではないので、打ち合わせのスケジュール調整1つとっても時間がかかるものである。
リードタイムの短縮における
CMSの効能
CMSがもつ簡易コンテンツ更新機能を利用すれば、HTMLやCSSなどの専門知識をもたない担当者がコンテンツを更新することが可能となり、結果としてリードタイムの大幅な短縮につながる。
しかし、注意しなければならないのは、簡易コンテンツ更新機能の開発コストである。CMS導入の相談を受ける際、すべてのコンテンツに簡易コンテンツ更新機能を適用するというイメージ(というか野望)をもっている担当者をみかけるが、とても現実的とはいえない。簡易コンテンツ更新機能は、コンテンツのテンプレートの種類ごとに開発することになるので、テンプレートの種類が多い場合は開発コストが膨大となる。したがって、現実には、投資対効果が成り立つ範囲のコンテンツにのみ簡易コンテンツ更新機能を適用しなければならない。
導入前は効果が見えにくいのだが、実際に大きな効果をあげるのはワークフロー機能である。ワークフロー機能を用いれば、コンテンツの制作者、確認者、承認者を明確にして、コンテンツ更新時の作業の流れを「見える化」できる。また、ワークフローを導入しようとすると、業務フローを明確化しなければならず、それまで場当たり的に対応してきたコンテンツ管理フローに対して、最適な業務フローを関係者間で設計できる。さらには、作業状況を関係者で共有することで、関係者同士の調整がしやすくなり、並行作業(たとえば複数のメンバーが並行して確認作業を行う)が行えるようになる。
課題
複雑化する更新フロー
コンテンツの誤りが増加
扱うコンテンツが複雑化すれば、それだけミスも発生しやすくなる。そのなかでよくあるのが、コンテンツの誤りだ。これには、いくつかの原因があるのだが、意外と多いのはコンテンツの“先祖がえり”である(図1)。
コンテンツが大量になることで更新担当者が増えてくると、まずは、コンテンツの最新版を一元管理することが困難になってくる。その結果、コンテンツを更新する際に、誤ったバージョンのコンテンツをもとに更新してしまい、一部のコンテンツに関して先祖がえりが発生するのである。また、複数の担当者でそれぞれが担当するコンテンツを並行して更新する際、双方に関連する共通のコンテンツを同時期に更新してしまうような事故も発生する。
誤りの削減におけるCMSの効能
コンテンツの誤りを削減するには、更新したコンテンツを念入りに確認することが最もベーシックな対策であるが、その確認作業が効力を発揮するには、コンテンツ管理が正しいプロセスを用いて行われていることが前提である。たとえば、誤ったバージョンのコンテンツをもとに更新していたり、同時に同じ箇所を更新してしまったりしていては、確認作業自体の工数が膨大なものになるし、確認作業だけで誤りを防止することは不可能となる。
その点、CMSのコンテンツ一元管理機能とワークフロー機能を用いれば、コンテンツ更新プロセスを正しく保つことが可能となる。また、リビジョンチェック機能は、万が一誤って複数の担当者が同一のコンテンツを更新した場合に、はどめの機能としても利用できる。さらに、更新コンテンツのプレビュー機能やリンクチェック機能は、更新前のコンテンツに対して、公開されたときと同等の環境を擬似的に実現して確認作業を行うことを可能にする。
課題
企業コンプライアンス
情報漏えい、セキュリティの問題
情報漏えいなどのセキュリティ対策はここ数年の大きな課題である。インターネットでは、発表前の製品の写真や価格情報などが流通していることが少なくない。そのなかでも問題だと思うのは、あきらかにその製品のメーカーが来るべき製品発表のために準備していた素材が使われている場合があることだ。前述したとおり、コンテンツ管理の関係者が増加したことで機密情報の管理がとても困難になっているが、その点に対して明確な対策をもたないことが主な原因である。
情報漏えいなどの削減に対するCMSの効能
CMSの公開管理機能を用いると、すべてのコンテンツに対して企業内部・外部、部署単位など、公開範囲を管理することが可能だ。また、素材管理機能を用いれば素材の利用履歴を記録することもできる。
さらに、ワークフロー機能を使えば制作、確認、承認の責任を明確にするとともにその行為を記録できる。これらは、セキュリティ管理のベースとなる機能である。
多くのWeb担当者が抱える希望
最大の課題は管理コストの増加
いうまでもないが、最も切実な課題はコンテンツ管理コストの増加である。
ウェブサイトの運営に年間数億円かけている企業はいまや珍しくない。ウェブサイトがコストに見合う成果を生み出していればコストをかけること自体を問題とはいわないが、次のステップに備えてコスト削減に日頃から取り組むことはとても重要である。このことは、トヨタが“KAIZEN”を実践し続けることによって世界一の自動車メーカーに登りつめたことで実証済みである。
CMS=コスト削減には要注意
CMS=コンテンツ自動生成機能と考えている人がまだまだ多く存在する。そういったWeb担当者は、CMSの導入=コンテンツ管理コストの削減ととらえている。CMS導入を失敗してCMSが使えないという都市伝説の片棒を担いでいるのは、このような担当者である。
こういった担当者に共通してみられる傾向は、コンテンツ管理業務を議事録かなにかの更新と同等くらいにしか考えていないことである。本来、企業のウェブサイトとは、企業とそのクライアントのコミュニケーションツールであり、広報、宣伝、販売、サポート、製品企画、IRなどすべての企業活動の最前線としての役割を果たす場である。クライアントのことを理解し、また、社内の各部門の能力を理解し、その上で最適な接点を作り出すことが業務の本質でなければならない。クライアントも社内の活動も常に進化し続けるので、単純なツール化を全領域に適用しようとする発想自体が間違っている。
CMSが持つコンテンツ自動生成機能は、確かにコンテンツ管理コストを低減できる。しかしながら、コンテンツが高度かつ複雑になるに従って、自動生成機能の開発にはそれなりの開発コストを要する。自動生成機能の開発コストを投入してあまりある効果を得られるコンテンツ(更新頻度が多く、一度に大量に更新するようなコンテンツ)でしかコストメリットが得られないのである。また、自動生成機能を広範囲に適用しようとして、コンテンツを無理に標準化するケースがみられる。標準化して自動生成機能の適用範囲を広げて、コスト削減を実現したとしても、そのウェブサイトが機能不足に陥ってしまっては、本末転倒だといわざるをえないのである。
このことが、コンテンツ管理コストの抑制はもっとも重要な問題ながらもっとも難しい問題となっている本質的な要因である。
あえていうならば、ウェブサイトの価値が向上しているのであれば、応分の費用を投入するべきである。実際のところは、ウェブサイトの価値を数値化する方法が確立されていないなどの理由から、企業内では予算獲得が難しい(企業のウェブサイトの価値を数値化することは可能であるが、その企業の何を価値ととらえるかが基礎数値になる。その能力と時間があれば、経営者を納得させられる追加投資の稟議資料を作成できるはずだ)。
では、CMSの導入はコストメリットが乏しいということなのであろうか? 私はそうではないと考える。前述したとおり、CMSにより、コンテンツ管理能力の底上げをはかることで、コンテンツ管理作業の手戻りやコンテンツの誤りを減少できる。そうやって捻出した時間は、次世代のコンテンツの企画やクライアントを理解する時間にあてることが可能になる。このことは顕在化していない価値であるが、長期的な視野でみると他社に対して決定的な差をつけることができる非常に大きな価値だと考えるべきである。CMS導入の主目的は、コンテンツ管理能力の底上げとコンテンツ管理基盤の確立とすべきである。そうすることで各社の特性に応じた独自施策を展開することが可能となる。
時代のニーズとともに問われる
CMSの新しい課題
製品やサービスのライフサイクルは、これ以上ないのではと思うところまで短期化されている。自動車のような開発に時間がかかる製品でさえ、毎年マイナーチェンジが実施され、その都度コンテンツを更新しなければならない。また、企業の事業再編も活発になっている。自社で採算がとれないと判断された事業は他社に売却されるか撤退の判断が下され、一方で戦略的に拡大していく分野については他社の事業ユニットを買収するといったことが珍しくなくなった。事業再編にともなうコンテンツ変更は大掛かりなもので、たいていの場合はサイト全体の構造に影響することになる。
モバイル端末の台頭
20代の家庭でのPC利用率が下がっているという統計がある。可処分所得の低い層が多いという話もあるが、実際のところはPCが日常にとっては不便なツールであるということに起因していると考える。実際、私自身も休みの日にPCを開くのは、CMS都市伝説の原稿締め切りなどの必要にせまられた場合だけである。一方、携帯はいつでも(家の中でも)手元に置いている。野球の試合結果を見るときは携帯だし、仕事のメールが気になったときも携帯電話を利用している。世界一ユーザーインターフェイスのデザインと製品のパッケージングが上手いアップルがこのタイミングでiPhoneを投入するということは、PC向けのサイトだけではたちゆかなくなることを予感させる。
CMSの本質は課題解決の基盤提供と
コンテンツ管理業務水準の向上にあり
コンテンツ管理の新たな課題に対するCMS製品の対応は、ブログなどの一部の例外を除いてまだまだこれからの状況である。これは、企業のウェブサイトにおける新たな課題への取り組みがあまり定まっていないことに起因している。
とはいえ、先進的な企業では新たな取り組みを開始している。実際、弊社のクライアント企業では、既存のCMSの機能を拡張することで、いくつかの成果をあげはじめている。たとえば、携帯用コンテンツの生成やWeb 2.0的なコンテンツパーツの提供などの分野において、データベース機能とコンテンツ自動生成機能を用いたワンソースマルチユースの環境を実現しているのだ。
このように、CMSはコンテンツ管理のすべての課題を解決するわけではなく、各課題解決の基盤となる機能を提供することで、コンテンツ管理業務の水準を引き上げることが本質的な効能である。CMSに過大な期待を抱いている読者にとっては期待はずれな事実かもしれないが、前述したようにコンテンツ管理業務に対する課題はまったなしなのである。思い当たる課題が1つでも存在するならば、CMSの導入を検討しなければならない。
次回以降では、各課題の解決方法についてさらに掘り下げて解説し、具体的なCMSの利用方法の事例をあげながら都市伝説を暴き、解説していく。
CMS導入のポイント!
- CMS=自動コンテンツ生成機能でコンテンツ管理が楽になると思ったら大間違い。
- CMSの本質は自動生成にあらず。コンテンツ管理基盤の確立にあり。
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