落とし穴だらけ!CMS都市伝説
第一回
CMSの導入失敗は必然?
間違いと失敗だらけの導入プロセス
CMSのことを、「導入するだけでウェブサイトの構築や運用管理を効率化できる魔法のツール」だと思っているなら要注意だ。CMSを導入したからといって、すぐに人的リソースや運用コストを削減できるわけではないし、導入コストをすぐに回収できるわけでもない。当然、CMSの運用担当者も必要になる。CMSは目的あってこそのツールであり、なにができるかを知り、目標をもって運用しなければ宝の持ち腐れだ。CMSの導入や運用にひそむ落とし穴に掛からないよう、実際の現場を覗いてみよう。
石村雅賜(株式会社ビジネス・アーキテクツ)
Web担当者が抱く幻想、CMSの都市伝説
CMSに関する活動をとおして、「CMSは使えない」とか「CMSは費用がかかりすぎる」といった発言を耳にする。
一方で、CMSをこれから導入しようとするWeb担当者から「CMSを導入したらコンテンツ制作費を大幅に低減できる」とか「CMSを導入したらWeb担当者の負担が激減する」といった発言を耳にすることがよくある。
こうした「CMS都市伝説」「CMSへの幻想」、はたしてどちらが正しいのであろうか?
どちらもある狭い視点においては正解と言えるものの、多くの場合はあてはまらない発言である。
なぜこのようなことを言うのかというと、この記事を読まれている方はみなさんCMSに関心をおもちだと思うが、一方で前述のような話を耳にされている可能性が高いだろうからである。まずはその幻想が生まれた経緯を知ってもらうことで、みなさんがCMSへ正しく取り組むきっかけをつくりたい。
ウェブ黎明期より存在する、CMSは古くて新しいテーマ
CMSは古くて新しいテーマだとつくづく思う。筆者である私自身が初めてCMS(Contents Management System)に取り組んだのは十年以上前のウェブ黎明期のことである。つまり、コンテンツ管理(CM:Contents Management)へのニーズはウェブ黎明期から存在していたのである。
CMやCMSという言葉はまったく浸透していなかった当時の話になるが、大手損害保険会社の代理店向けウェブサイトのコンテンツ管理システムの開発に初めて関わり、“運よく”そのプロジェクトで成功を収めた経験がある。
運よくというのは、多種多様なCMS製品がリリースされている現在とは違い、当時はCMSと呼べるものがほとんどなく、プロジェクト自体は苦難の連続であったからだ。
そこで、そのプロジェクトでは、当時利用できたウェブサーバーやCGI、出始めのオーサリングツールなどを駆使して、コンテンツ生成機能、自動インデキシング機能、ワークフロー機能、配信管理機能などを一から開発した。現在のエンタープライズ向けCMS製品と同等の機能である。
開発と一言でいっても、当時はNetscape社のブラウザが全盛の時代で、それを後発のIEが追い上げるという状況だった。ゆえに、ブラウザは頻繁に更新され、ブラウザ間の互換性も乏しいといった状況が続いていた。さらに、CMS機能を実装するウェブサーバーの拡張機能も標準化が進んでいなかった。そのような環境であったので、プロジェクトが難航することは当初から予測することができた。
この予測により、我々は、試行錯誤や検証に多くの時間と費用をかけるようにプロジェクトを設計し、プロジェクトの終了予定日までにはなんとか成功に導くことができた。
そして、CMS導入後、そのクライアント企業では多数の社員がウェブによる情報発信を行うようになり、代理店向けサイトは飛躍的に発展し、損害保険会社と代理店のコミュニケーションはあきらかに進化した。かかった時間と費用に対してそれ以上の十分な成功を得ることができたのだ。
つまり、このプロジェクトの成功要因を要約すると、図1のようになる。
- 目標が明確で、かつ、想定する効果は多大なものであった。
- 乗り越えるべき大量の課題とその対策をあらかじめ明確にできた。
- 必要な費用、体制、期間を確保できた。
このプロジェクトが一般的なCMS導入プロジェクトとは思えないが、成功要因についてはすべてのCMS導入プロジェクトに共通する成功要因だといえる。
では一般的なCMS導入プロジェクトの多くはどうであったのか? CMSのここ10年を振り返ってみると、図2のような流れであったように思う。
「CMSへの過度な期待が高まった時期(この時期の多くのCMS製品が登場)」
↓
「CMSの失敗事例の山が築かれた時期」
↓
「それでも進むCMS導入の時代」(現在)
CMSさえあれば……過度な期待と焦りが築いた失敗の山々
CMSが登場した初期には、CMSベンダーの「コンテンツ生成を自動化して大幅に効率化!」とか「複雑なコンテンツ管理フローをワークフロー機能で簡単に!」という売り文句もあり、CMSへの過度な期待が高まった。
一部の先行する企業が導入に踏み切ったが、この時期に導入した企業は、初めてみるCMSの導入に慎重であったし、また、決して安くはないCMSの導入にあたって、目的を明確にする企業が多かったので、CMSの適用範囲も目的に応じて限定的にするところが多く、その結果成功したところが多かったように思う。もちろん、CMSベンダーの売り文句にのせられて、目的をあいまいにしたまま全範囲に導入しようとして失敗する企業もなかったわけではない。
続いておとずれたのは、急激に高まるコンテンツ管理負荷に耐えられなくなった企業が、CMSベンダーの売り込みや先行企業の成功事例に後押しされて、あまり目的や実現性を明確にしないままにCMS導入に踏み切った時期であった。この時期に、CMSの失敗事例が多数生まれたように思われる。この次期は、企業が扱うコンテンツの量が加速度的に増加した時期であり、Web担当者は、大まかな導入効果と実現性の確認だけで導入に踏み切ることができる環境にあったといえる。ところが、ここに落とし穴があったのである。
失敗したWeb担当者の代表的な意見を聞いてみると、次のようなものがあげられる。
- CMSはお金がかかりすぎる
- CMSは柔軟に変更できない
- CMSは使いにくい
- CMS導入で仕事が増えた
- CMSは現業のワークフローに合わない
この理由からは、まるでCMS製品が駄目だから失敗したという印象を受ける。こうした声が広まるようになり「CMSは導入しても効果が少ない」という都市伝説が生まれたのではないだろうか。
拡大するウェブとコンテンツ、必要に迫られ進むCMSの導入
確かに、現在のCMS製品は、これまでの熟成期間を経ても、他のソフトウェア製品にくらべて完成度が低い。導入を支援する者として、CMS製品に対して不満に思う機会が他のソフトウェアに比べて多いことがそれを表している。
では、本当にCMS製品が駄目で失敗してきたのであろうか? 答えは否である。現にCMS導入の成功事例をいくつも知っている。CMS製品が本当に駄目なのであれば、成功事例を多数生むことはできなかったはずだ。つまり、製品の以外に大きな失敗要因が存在するのである。
そして現在に至るわけだが、「それでもCMS導入の時代」としたのは、以前とかわりなくCMS導入の相談をうけることが多くあるし、むしろ以前に比べて大規模でより具体的な相談が増えたように思うからである。これは、相変わらず企業が扱うコンテンツの量が増え続けていることと、コンテンツの領域もWeb 2.0などの新たなコミュニケーションの登場により広がっていることに起因していると捉えている。
このような大規模で、さまざまなコンテンツ管理のニーズに安価に応えられる製品は現時点では存在しない。一言でCMSと言っても、それぞれの得意とする領域やコンセプトがバラバラなのである。このことがCMSへの理解を妨げる1つの要因になっていると思われる。
一方で、CMSベンダーの売り文句は、現在もさほど変わっていない。製品を売る側からすると誤った表現ではないのだが、コンテンツ管理という広い視点から捉えると、前述のような売り文句は一面的で不親切であり、自ら信頼を失っている行為ではないかと思われる。このような売り文句に乗せられ、安易にCMS導入を図ろうとするWeb担当者がいまだに多いのも事実である。「CMSを導入すればコンテンツ制作費を大幅に低減できる」といった幻想が今も生き残っているのだ。
これらの経緯を経て、Web担当者のCMSへの意識をタイプ別けすると、次のようにいえる
- CMSの良いところ、限界を理解した上で適切に利用しているタイプ
- CMSで痛い目にあいCMSに大して懐疑的なタイプ
- Web担当者の経験が浅く、CMSベンダーの売り文句を鵜呑みにしてしまっているタイプ
CMSを使いこなしたい、見え隠れする新たな動き
最近のCMS導入の相談を通して感じることは、いまだCMS製品の失敗事例に対する知識が乏しいWeb担当者がまだまだ多いということだ。また、失敗事例を知っていても、あるいは経験していても、改めてCMSの導入、もしくはリプレースを検討しているWeb担当者も多くいる。前者は、「CMSさえあれば……」といった幻想を抱いた担当者である場合が多く、後者は失敗を経験した上で、再チャレンジしようとする担当者が多数当てはまる。
CMSは導入の手間やコストを考えると、おいそれと導入できるものではない。それにもかかわらず、失敗を経験した担当者は再チャレンジするのか。失敗を重ねるかもしれないのに、そのリスクをおかしてでも獲ようとしているのは何故なのか。このあたりの視点がCMS導入を成功させる第一歩となると考える。
担当者からは次のような声をよく聞く。
- 更新負荷が増大しキャパシティが足りない
- 外注費の増大に対して予算確保が難しい
- コンテンツが増大し、同時にコンテンツ管理の関係者が増えることで品質の維持が困難になっている
- IR情報やサポート情報など即時性が求められるコンテンツの更新に対してリードタイムの短縮が課題になっている
- 立体的なコンテンツ構造などによりユーザビリティを向上することができたが、一方でコンテンツが複雑化し、正確な更新が人手では難しくなっている
これらについては10年前から存在していた課題といえるが、10年間の間にどんどん深刻になってきており、大きな問題になっている企業が少なくない。
加えて最近は、情報セキュリティリスクの増大、会社や事業の統廃合によるコンテンツ再編に対する柔軟で効果的な対応なども求められるようになってきている。
こうしたコンテンツ管理の課題や問題は、ウェブサイトの発展とともに大きくなっているのだ。
これらの問題を解決することが本来のCMSの役割であるが、Web担当者とウェブサイトが抱える問題すべてを解決できるCMSは存在しえない。ブログに強いCMSもあれば、自動生成に強いCMS、ツリー構造サイトに限定して効率化を図るCMSなど製品ごとにまったく違う分野を狙っているのである。まずは、解決すべき問題を明確にし、それに応じたCMSを選択しなければ、CMS導入の成功は成し得ないのである。
失敗の上に成功あり、いざ正しい導入の時代へ
ウェブサイト自体、もしくはウェブを媒体としたコミュニケーションは今も拡大し、比例してコンテンツ管理へのニーズも引き続き急速に拡大している。
コンテンツ管理に対してなにも対策をしないでいることは限界に近づいているのだ。とはいえ、そのニーズに応えるべきCMSの世界は混沌としたままなのが現状だ。さまざまなニーズに安価に応えてくれるCMS製品がすぐに登場する可能性も微小と思われる。それならば、まずは、この混沌としたCMSの世界を1つずつ整理していくことによって、CMS導入の勘所を明確にする必要があるはずだ。
ワークフロー、コンテンツ自動生成、簡易なオーサリングツール、コンテンツのコンポーネント化……。CMSのさまざまな機能は、コンテンツ管理の多様なニーズに答えるために用意されたものである。
これらの機能を適切に選択して投資していくための第一歩として、次回からは、コンテンツ管理へのさまざまなニーズを明確にし、そのニーズに応えるための対応策や課題について、成功事例なども交えながら1つずつ明らかにしていきたい。
CMS導入の落とし穴に掛からないためには!
- CMS導入成功の第一歩はコンテンツ管理の正しい理解から。
- 売り文句に踊らされるな。何がしたいのか目的を明確にしよう。
- CMSは導入してからが本番、製品選択は長い目で見る。
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