レッシグ講演録:オールド/ニューエコノミー融合のために著作権管理に求められる新たな発想

ローレンス・レッシグ

憲法学者でもあるローレンス・レッシグ氏は、ネット上の著作物をシェアする新たなルールを取り決めた「クリエイティブ・コモンズ」の提唱者として知られている。そのレッシグ氏が、従来の「リードオンリーのカルチャー」から、新たな想像力と経済の活性化をもたらす「リード/ライトのカルチャー」へのパラダイムシフトが来ていることを説く。

ローレンス・レッシグ(スタンフォード大学 ロースクール教授)

この記事は、2006年9月に開催されたイベント「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2006」(デジタルガレージグループプロデュース)において登場したスピーカーの講演内容を再現した書籍『WEB 2.0の未来 ~ザ・シェアリングエコノミー ~ Web 2.0への道 3』に掲載された記事をオンライン化したものです。
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今年も開催!
THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007
9/25(火)~9/26(水)

この記事の元になったカンファレンスが今年も9月25日(火)と9月26日(水)に、東京都のウェスティンホテル東京にて開催される。

25日は「The User's Web ~ユーザーが創る新しいWebの世界」、26日は「Web Visionaries ~Webの未来を創る先駆者達」として、今回も豪華なスピーカー陣を迎えての開催だ。

さらに詳しい情報や参加の申し込みはTHE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007(コンカン2007)のサイトをご覧いただきたい。

ジョン・フィリップ・スーザ(1854~1932)。アメリカの作曲家。行進曲の名作「星条旗よ永遠なれ」や「ワシントン・ポスト」などを作曲し、世界中から親しみを込めて「マーチ王」と称される。楽器「スーザフォーン」の考案者。

今から100年前の1906年、『星条旗よ永遠なれ』で知られる作曲家のジョン・フィリップ・スーザは、アメリカの議会に出向いて、次のように述べている。

「『話す機械』(蓄音機)は、この国における技術的な音楽の発展を阻害してしまう可能性がある。私がまだ少年だったころ、夏の夜になればどの家の前にも若者が集まり、昔の歌を楽しんだものだった。しかしこの『いかがわしい機械』により、人は声帯を失ってしまうだろう。サルが人間に進化したときに尻尾を失ってしまったように……」

若者が歌を歌っている姿、これはまさしく参加型の文化そのものだ。最初にこんな話をしたのは、スーザが感じたような出来事が、100年後の今、起きようとしているからだ。たとえば「参加型の文化」という概念を、コンピュータの世界でよく使われる言葉に置き換えれば、「リード/ライトのカルチャー」だといえるだろう。つまり、複数のユーザーがコンテンツを共有しながら、さまざまな表現方法でアウトプットしていくというリミックスの文化だ。ところが、今どきの若者が楽曲や映像の再生ツールとして利用しているiTunesは、100年前にスーザが懸念したように、参加型の文化をダメにしかねない「いかがわしい」ものだ。

円筒型蓄音機。1877年にトーマス・エジソンが発明。錫箔を巻いた円筒を使い、記録した音を初めて再生し、「フォノグラフ」と命名。後に蝋管式、円盤式へと進化するレコードの原型。

新たな「リード/ライト・カルチャー」の創出が求められる

「リード/ライトのカルチャー」の対極にあるカルチャー、つまり「リードオンリーのカルチャー」では、クリエイティビティが単に消費されるだけで、消費者がクリエイターになることはあり得ない。そこにあるのは、カルチャーが一方的に流されるトップダウンの構造でしかない。カルチャーがトップダウン化してしまうことは、カルチャーに触れる人たちの、いわば“声帯”が失われることを意味する。

スーザがいっていたことは、果たして正しかったのだろうか?

事実、20世紀を振り返ってみると、何百万人という人の創造性が「いかがわしいマシン」のせいで失われてきたという見方もできる。また、20世紀と21世紀の間には大きなシフトがあり、「リード/ライトのカルチャー」から「リードオンリーのカルチャー」への転換が行われ、発展してしまった。ミュージシャンが作った楽曲が記録されたレコードやCDを、消費者は再生機にかけて読み取ること(リード)で楽しむしかなかったのだ。

しかし、インターネットは、この状況を逆転する可能性を秘めているといえるだろう。ただし、単に「リードオンリーのカルチャー」を排除するだけではなく、これを補完していく必要がある。新しい「リード/ライトのカルチャー」をつくり出していかなければならない。

「リードオンリー」では、つねに制限の壁がつきまとう

クリス・アンダーソン著『The Long Tail』。米『Wired』誌編集長のクリス・アンダーソンが同誌の記事で提唱。2006年に、Hyperion Booksで単行本化された。邦訳は早川書房刊『ロングテール』(篠森ゆりこ訳)。

では、「リードオンリーのカルチャー」と「リード/ライトのカルチャー」がいったい何を意味するのか? ここで改めて話を整理しておこう。

インターネットは、さまざまな技術をもたらしてくれた。いつでもどこでも買い物をすることができ、どこかで誰かがつくったカルチャーを消費することができる。

『Wired』誌の編集長、クリス・アンダーソンは、その著書『ロングテール』で、次のようなビジョンを示している。

「iTunesは低価格で音楽を買うことを可能にしただけでなく、ネットで動画の販売も行っている。コンピュータに音楽をストリーム配信する『ラプソディ』やオンライン書籍販売の『Amazon』などの盛況ぶりをみると、今やネットでカルチャーを買うための市場は成熟しつつある。デジタル技術が市場のアーキテクチャーを変えつつあるのだ」

※1 ロングテール

縦軸を販売数量(population)、横軸を商品名(product)として商品売り上げをグラフにすると、売れない商品が恐竜の尻尾(tail)のように長く伸びる。販売数量が低い商品のアイテム数が多いということを表す。

アンダーソンが提唱する「ロングテール」※1の概念によれば、デジタル技術によって多様なコンテンツに誰もがアクセスできることで、市場の主流がロングテールに置き換わろうとしているのだという。アナログの世界では、コストの問題からこのような市場に参入することがむずかしかったが、インターネットの登場によって、ロングテールによる商品販売の可能性が注目されることとなった。

オンラインでのDVDレンタルサービスを展開する「ネットフリックス」では売り上げの21パーセントがロングテールによるもので、Amazonでは25パーセント。「ラプソディ」では40パーセントの売り上げがロングテールだという。これは、コンテンツのあり方が多様化してきたことを意味する。

オンラインでのDVDレンタルサービスを展開する「ネットフリックス」では売り上げの21パーセント、Amazonでは25パーセント、音楽をストリーム配信する「ラプソディ」では40パーセントの売り上げがロングテールだという。
「ラプソディ」は150万曲以上の音楽をストリーム配信する有料オンライン配信サービス。月額料金制で1曲あたりの平均ダウンロード販売回数は、四半期ごとに3回だといわれている。
http://www.listen.com/index.jsp
iTunesは、アップル社が配布しているメディアプレーヤー。同社が運営する有料オンライン配信サービス「iTunes Store(iTS)」で楽曲等の購入・ダウンロードを行うことができる。

たとえば、「ラプソディ」は150万の楽曲を提供しているが、1曲あたりの平均ダウンロード販売回数は、四半期ごとに3回だといわれている。つまり多様性が広がっているだけでなく、カルチャーのニッチ化も進んでいるのだ。とはいえ、「リードオンリー」のインターネット市場が登場したことにより、コンテンツの管理が厳しくなってきたという側面もある。iTunesは1曲あたり99セントで楽曲を購入できるが、iPodにしかダウンロードできない。市場にはコンテンツが広く普及するようになったが、つねに「コピーの制御」という問題がつきまとっている。

アップル社はiPodやiTunesを使えばクールだというイメージを植えつけており、Amazonも「Pay per Page」というサービスを展開、e-booksも「Pay per Read」という販売形式を進めている。いずれも、コンテンツの管理機能を高めるための仕組みが備わっている。

つまり、「リードオンリーのカルチャー」は、カルチャーの消費や利用を「制限」する側面をもっているのだ。

ネットのコミュニティで生まれる「共有型経済」感覚

※2 ジェイZ

ブルックリン出身のヒップホップMC、俳優、作詞家、作曲家、音楽プロデューサー(1966~)。

※3 ブラックアルバム

ジェイZが2003年に発表したアルバム。もちろん、ビートルズの『The Beatles』(通称ホワイトアルバム)のリミックス。

※4 デンジャー・マウス

ジェミナイ・ザ・ギフテッド・ワンのバックアップDJだったが、『グレイアルバム』で一躍有名になりメジャーデビュー。

※ 5グレイアルバム

『ブラックアルバム』のアカペラと『ホワイトアルバム』を素材に制作。回収され、大きな話題を呼んだ。

一方で、新たな「リード/ライト」の概念を打ち出している企業もある。つまりカルチャーを消費するのではなく、クリエイティビティ(創造性)を共有し、多くの人に参加してもらうことでカルチャーを生み出していくという考え方だ。

たとえば、欧米諸国ではアニメミュージック・ビデオが人気を集めている。日本のアニメが発端とされているが、編集されたアニメと音楽を合わせてリミックスするという手法だ。このアニメミュージック・ビデオのクリエイターは(「リクリエイター」という呼び方が適切かもしれないが)、インターネットのコミュニティの中で活動し、文化を創造している。

今や、アニメミュージック・ビデオに限らず、文化のリミックスは多くのジャンルで見られるようになってきた。ビートルズの『ホワイトアルバム』からジェイZ※2の『ブラックアルバム※3が生まれたように、音楽の世界でも行われている。そうそう、デンジャー・マウス※4の『グレイアルバム』※5も忘れてはいけない。

『ターネーション』(2004年、監督・編集・主演ジョナサン・カウエット)「ターネーション」とは天罰の意。ジョナサンが11歳から撮りためた膨大な映像を、iMovieでわずか218ドル(約2万円)で編集した。

2004年には、『ターネーション』というリミックスを駆使した制作費218ドルの映画がロサンゼルスのフィルム・フェスティバルで優勝した。『Chocolate Cake City』という、いろいろな映画の予告編をリミックスするサイトも人気を呼んでいる。

もちろん、ここで紹介したテクニック――ビデオをリミックスしたり、コンテンツを再利用したり――といった手法は新しいものではない。テレビや映画が始まって以来、プロデューサーや映画監督は、常にこういったリミックスを手がけてきた。しかし今は、誰でも1500ドルのコンピュータさえ持っていれば、いろいろな音や画像を取り込みリミックスして違った形で表現できるわけだ。「リード/ライトのカルチャー」により、表現の手法がより民主化されたともいえる。

しかもビデオを利用したリミックスは、文章以上にパワーのある表現が可能だ。イラク戦争の際に、ブッシュ大統領とブレア首相が放映したメッセージビデオを思い出してほしい。もし、新聞で同じメッセージを伝えようとしても、あれだけの説得力を生み出すことはできなかっただろう。パソコン上で手軽に使えるビデオ編集ツールの登場により、我々はいまやブッシュやブレアに匹敵する表現力を得たともいえる。またこれら、ユーザーの創造性を支援するツールの登場により、ユーザー参加型の「リード/ライトのカルチャー」が復権しつつあるのも事実だ。

コミュニティと企業が支援しあうハイブリッドエコノミーの世界を

では次に、「リードオンリー型インターネット」と「リード/ライト型インターネット」の違いについて見てみよう。

まず最大の差は、基本的な価値観が違うということだ。クリス・アンダーソンが自著の中で、ユーザー参加型プロジェクトの成功例として挙げているWikipediaの場合、カルチャーを受け取るだけの「カウチポテト的な発想」を放棄している。つまり受け身ではなく、誰もが能動的にクリエイティビティにかかわることを求められているのだ。民主的であり社会的であることが重視されるという、バークレー的な価値観といい換えてもいいだろう。

ではスタンフォード的な価値観、金銭面での価値観についてはどうだろうか。現状では「リード/ライト型インターネット」のほうが、経済成長のポテンシャルが大きいこともあり、巨大な価値を発揮している。ここでポイントとなるのが、「リード/ライト型インターネット」では通常の商業活動とは異なる、「共有型経済」ともいうべき原動力で動いているということだ。ここを理解しておかないと「リード/ライト型カルチャー」の本質を知ることはできない。

スティーブン・ウェバー著『The Success of Open Source』。2005年にHarvard University Pressより発売。
邦訳は毎日コミュニケーションズ刊『オープンソースの成功~政治学者が分析するコミュニティの可能性』(山形浩生、守岡桜訳)。
※6 スティーブン・ウェバー

カリフォルニア大学バークレー校の政治学教授。専門は国際関係学。国際コンピュータ・サイエンス協会所属。

政治学者のスティーブン・ウェバー※6は、その著書『オープンソースの成功』において、共有型経済コミュニティを活性化させ、商取引の場で成立させることがいかにむずかしいかについて触れている。今、オールドエコノミー・ビジネスと、ドットコム企業などのニューエコノミー・ビジネスの融合する「ハイブリッドエコノミー」が唱えられているが、共有型経済コミュニティと企業が、お互いに支援しあうこと……これこそが「ハイブリッドエコノミー」なのだ。

Mozillaが提供するフリーのウェブブラウザー「Firefox」。マイクロソフトに駆逐された「ネットスケープ」をオープンソース化して優れたブラウザーに生まれ変わり、十数%のシェアを占めるまでになった。
「レッドハット」はLinuxディストリビューションを製品として配付・販売・サポートしている会社。その製品は、誰でもそのソフトウェアの改良、再配布が行えるオープンソースを基本としている。

Mozillaやレッドハットのように、商業ベースで成功しながら共有型経済コミュニティと共存するという、ハイブリッドエコノミーを実践している企業も多い。とはいえ、こういったコミュニティから利益を引き出すためには、さまざまな知的所有権を尊重しなければならないし、コミュニティの道徳観を尊重しなければならない。企業側のお金の論理(収益優先の価値観)が、コミュニティに感染してしまう問題もある。「セカンドライフ」のようなバーチャルワールドにおいても、最も大きな問題となっているのは、ユーザーが作成したコンテンツの保護だ。

もちろん、うまくいっていない例もある。たとえばYouTubeは、「リード/ライト型」の性格を備えているが、アップロードされたコンテンツはすべてが自分たちのものであるという主張を展開している。これは独占主義的な主張だ。「リード/ライト」のカルチャーの一部に依存しているにもかかわらず、IT評論家のティム・オライリー※7がWeb 2.0の中核と位置づけた「共有」という価値観を支持していないのだ。

※7 ティム・オライリー
「Web 2.0」という言葉の生みの親。IT評論家として知られ、技術系書籍出版などを手がける「オライリー・メディア」社の創立者。

バーチャルワールド「セカンドライフ」は、すべてユーザーが創造し発展させてゆく、永続的な3Dオンラインスペース。土地と通貨を所有し、本物のビジネスを構築することができる。

価値あるクリエイティビティを法律が阻害してはならない

3つめのポイントは「態度」(Attitude)だ。「リードオンリー型インターネット」では、コンテンツのやり取りが完全に著作権法でコントロールされている。もちろん、従来のアナログの世界では、著作権の制約は限られており不完全なものであった。

本の活用法を考えると分かりやすいだろう。本を読んだり、人に本をあげたりしてもそのコピーは作られない。また、自由に本を売ることもできる。本を枕にするといった行為を「フェアユース」とはいいがたいが、そのことが問題になることもない。本の一部を引用し、評論を書くことも自由だ。私の著書から言葉を引用して、私を批判することだってできる。つまりアナログの世界において、多くの利用方法は著作権法の範疇になく、商業的な活用のみが規制の対象となっていた。つまり、法的に完全なコントロールは不可能だったのだ。

※8 DRM

インターネットなどでデジタルデータで表現されたコンテンツの著作権を保護するために、利用や複製を制御・制限する技術の総称。

ところが、デジタルの世界は根本的に違う。デジタルの世界では、あらゆる「使用」がコピーを生む。そのため、カルチャー(著作物)の使用には必ず許諾が必要であるという考え方が支配的になりつつある。これらコントロールは、DRM(Digital Rights Management)※8といったテクノロジーによっても補完されている。つまり現状の「リードオンリー型インターネット」は、著作権法によって完全にコントロールされているともいえるだろう。

一方で著作権法は、「リード/ライト型インターネット」のアーキテクチャーと相反している。もし、著作物を使うたびに「コピー」とみなされるのであれば、すべて許可を取る必要があるためだ。これは現実的ではない。ハリウッドの弁護士は、ネットで公開されているアニメビデオに対し、すでにさまざまな問題点を指摘している。先ほど紹介した制作費218ドルの映画『ターネーション』も、著作権料を支払うとすると40万ドルが必要といわれている。

つまり許可制という現行の考え方を支持するのであれば、「リード/ライトのカルチャー」を拒否するということだ。いまの法制度では、「リード/ライト」の創造性を開拓するすべての要素が排除されてしまう。もちろん市場全体の規模を考えれば、「リードオンリー」の規模は「リード/ライト」よりはるかに小さい。しかし法律は、「リード/ライト型インターネット」の考え方を排除している。もっとも価値のあるクリエイティビティを法律が阻害するということはあってはならないはずなのに、なぜインターネットではそれが許されてしまうのだろうか。

クリエイティブ・コモンズは、完全な著作権保持と完全な著作権放棄の中間層を埋める役割を果たすことを目指している。コンテンツに対して著作権を保持しながら、一定の自由を事前に許諾している。

「ALL RIGHTS RESERVED」から「SOME RIGHTS RESERVED」へ

インターネットは、いまや著作権をめぐる戦争状態にあるのだ。

米映画協会(モーションピクチャーズ・アソシエーション)の責任者であるジャック・レンティーは、「テロ戦争」という言葉さえ使っている。彼にいわせれば、ここでいうテロリストとは「子供」のことだ。この戦争における武器は法律やテクノロジーで、これらを使って海賊版や模倣を排除していくのだという。

しかし、海賊版の制作を抹消するためのツールやテクノロジーは、「リード/ライト型インターネット」をも同時に殺してしまうことを忘れてはいけない。リードオンリー型インターネットを守るために使われたDRMなどの技術は、「リード/ライト型インターネット」の可能性を阻害するものだ。いわば、法律が「リードオンリー型インターネット」の周りに、檻を作っているようなものだ。

これは、ハイブリッドエコノミーを形成しようとしている人たちにとって頭痛の種といえる。新しい経済の中で成功するには、消費者をいかにクリエイターに転換するかが成功の鍵になるためだ。つまり、観客を舞台に乗せることで、製品やブランドを支持してもらうという概念だ。とはいえ既存の法律に照らし合わせると、クリエイターの存在そのものが不法になってしまう。

もちろん私が主張する内容は、海賊版を推奨するものではないし、市場を破壊しようとするものでもない。課題は、あくまで「商取引」と「共有」のバランスなのだ。なにも、ブリトニー・スピアーズの音楽に無償でアクセスすることを考えてくれ、といっているのではないのだ。無償のコンテンツをどのように提供していくかではなく、二つの経済をどのように融合させるかが課題なのだ。

※9 マッカーシズム

1950年、マッカーシー上院議員(共和党)の告発を契機に、ハリウッド映画界などをも巻き込んで大規模な「赤狩り」に発展。反共ヒステリー状況と見る社会学者もいる。

法制度を変えて、いかにして二つの経済の共存を可能にしていくのか、ということも重要な課題だ。しかし現在アメリカでは、どんな些細な著作権に関する提案でも、即座に著作権の全面廃止だと解釈されてしまう。メディアでは、知的財産における共産主義的な考え方だと誤解されることも多い。著作権におけるマッカーシズム※9はアメリカ中に広がっており、完全に二極化しているといえるだろう。政治的な改革も当面は望めないため、今もっとも求められているのは民間で改革を起こすことなのだ。これこそが、私の運営しているクリエイティブ・コモンズの目的でもある。

たとえば、無断転載の禁止を意味する「ALL RIGHTS RESERVED」という言葉があるが、我々はこの「ALL」を「SOME」に変えることを目指している。そのため、クリエイティビティを可能にするインフラ提供も行っている。

我々はさまざまな無償ライセンスを提供しているが、コンテンツにデジタルなライセンスを埋め込み、デバイスが自動的にフリーコンテンツだと認識できるような仕組みを用意している。すでにYahoo!やGoogleといった主要な検索プロトコルには、フリーコンテンツに対応したフィルタが組み込まれ、フリーコンテンツとして公開されている素材だけを検索することも可能になっている。

すごい勢いで伸びているクリエイティブ・コモンズ・ライセンス

ここで、フリーコンテンツを利用したクリエイティビティのケースを見てみよう。

私が好きなのは、コリン・マチュラが演奏するギター楽曲の例だ。彼は、この曲に『マイライフ』という題名をつけ、オンラインのサイトから誰でもダウンロードできるようにした。コラ・ベスという17歳のバイオリニストが、これをダウンロードしてバイオリンの音色をリミックスした。そして、題名を『マイライフ・チェンジ』と変えてアップロードした。さらに何人かのアーティストがリミックスに加わり、『マイライフチェンジ・アブソルートリー』を含めいくつもの曲が生まれた。

ここで重要なのは、一度も顔を合わせたことがない人たちであっても、クリエイティビティを追求することができたという点だ。著作権法を気にしていては、クリエイティビティの追求はできない。もちろん、ここでいうクリエイティビティとは、あくまで共有化を前提としたもののことだ。

ccMixterは、あるアーティストがアップロードした楽曲を、ほかのアーティストに自由にリミックスさせるというシステム。このような仕組みを導入することで、音楽のあり方も変わりつつある。
http://ccmixter.org/

もうひとつ例をあげると、最近スタートした「ccMixter」と呼ばれるプロジェクトがある。これは、アーティストにさまざまな楽曲のアップロードを促し、自由にリミックスさせるというシステムだ。楽曲のリミックスに加わった人の履歴を追跡できるため、クリエイティビティのコミュニティがきちんと見える特徴がある。このような仕組みを導入することで、音楽のあり方も変わってきたと実感している。

シルビア・オーというコロンビアで有名な女性アーティストがいるのだが、彼女がccMixterでの体験を私に語ってくれた。彼女は自ら、アカペラのトラックをccMixterにアップロードしているのだが、そのことで多くのアーティストと対話する機会を得たという。アップロードした楽曲をほかのアーティストがリミックスし、さらにそれを彼女自身がリミックスし直すというプロセスが新しい協業を可能にしているのだ。彼女はccMixterのライセンスのもとで新たにリミックスのアルバムを出し、リミクサーとしての名声も獲得した。

もちろん、こういった動きは歴史的に新しいことではない。映画が発明された当初、それは舞台を記録するための手段だと考えられていた。エジソンが記録のために作ったスタジオも、舞台でやっている演技を記録するためのものだったのだ。ところがあるとき、映画自体が芸術的な表現の手段だということに気づく人が出てきた。今や、インターネットでも同じような状況が起きているのだ。インターネットは、単にCDを売るためのジュークボックスではない。新しい創作を促すための手段なのだ。

クリエイティブ・コモンズは2002年の12月にプロジェクトを開始し、国際的な広がりを見せているが、ライセンスの採用は劇的な広がりを見せている。最初の1年で100万ライセンス、次の年には180万。2年後に400万、さらにその半年後には1200万、3年後に4400万。2006年の6月で、1億3700万リンクバックという勢いで伸びている。今後、人々はますますこのテクニックを使って自由な表現をし、共有型経済をサポートしていくだろう。

2002年12月にプロジェクトを開始したクリエイティブ・コモンズのライセンス数推移(横軸の単位は開始後の月数)。最初の1年のライセンス採用は100万だったが、2006年6月には1億3700万に達した。ライセンスの採用は劇的な広がりを見せている。

著作権法によって新しい創造性をつぶしてはならない

ここで、共有型経済の新しい可能性を見てみよう。少し前に、コーラの泡を噴水のように飛ばすパフォーマンスの自主制作ビデオが話題を集めたが、このビデオの制作者は「Revver」という映像共有サービスを利用することで、1週間に2万5000ドルを稼ぐことができた。

Revverは、ビデオが再生されるたびに広告が表示され、再生回数に応じてクリエイターに金が支払われる映像共有サービス。コンテンツを広く分散させることで認知度を高めるという、まったく新しいモデル。
http://one.revver.com/

Revverではビデオが再生されるたびに広告が表示され、再生回数に応じてクリエイターに金が支払われるのだが、クリエイティブ・コモンズのライセンスのもとで共有が承認されており、インターネットのあらゆる場所でビデオを共有することが可能となっている。コンテンツをひとつの場所でコントロールするのではなく、広く分散させることで認知度を高めるという、まったく新しいモデルと言えるだろう。

Scooptでは、コンテンツの二次利用を支援するサービスも行っている。新聞社がアップロードされたコンテンツを商用目的で利用したいと考えた場合、ユーザーに代わってライセンス交渉を行ってくれる。
http://www.scoopt.com/
オンラインの動画編集サービスを提供するeyespotでも、クリエイティブ・コモンズに基づいたクレジットの入力に対応しており、コンテンツの配布や共有が容易に行えるよう配慮されている。
http://www.eyespot.com/
マグナチューンは、ノンコマーシャルでの楽曲提供を行っているダウンロード配信専門のレコード会社。ここもクリエイターが商用目的で利用できる。
http://www.magnatune.com/

また「Scoopt」では、ノンコマーシャルライセンスのもとでブログを展開するサービスを提供しているが、コンテンツの二次利用を支援するサービスも行っている。たとえば『ニューヨークタイムズ』がアップロードされたコンテンツを商業利用したいと考えた場合には、Scooptがユーザーに代わってライセンス交渉を行ってくれるわけだ。オンラインの動画編集サービスを提供する「eyespot」でも、クリエイティブ・コモンズに基づいたクレジットの入力に対応しており、コンテンツの配布や共有が容易に行えるよう配慮されている。音楽業界では、ノンコマーシャルでの楽曲提供を行っているマグナチューンを忘れるわけにいかないだろう。

いずれにせよ共有型経済においては、それぞれの道徳観を崩壊させることなく、どう統合するかが重要である。しかし、じつのところ誰もまだその方法論をものにしていない。いずれにせよ、ハリウッドやレコーディングスタジオがコントロールしていない部分で、自分のコンピュータを使って創作活動をしている人がいる……という側面を尊重しない限り、この2つのエコノミーの価値を最大化することはできないだろう。

著作権法が、こういった共有型経済を犯罪行為にすることはできるかもしれないが、新しい創造性を抹殺することはできない。果たして、これらのクリエイターをいわゆる海賊版の作者にしてしまっていいのだろうか? アメリカには、ふたたび禁酒法時代が訪れようとしている。現在のアメリカが推進する政策により、クリエイターのポテンシャルが失われる危険を考慮する必要があるだろう。そもそも今の若者は、納得のいかない規則を無視する傾向があることを重視すべきだ。

我々の使命は、政策に携わっている人をうまく教育し、成長と自由が経済に対してどういう価値を生み出すかを教えることではないかと思う。


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