『リッチコンテンツ・マーケティングの時代―動画、音声、Flashがネットマーケの常識を変える
BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『リッチコンテンツ・マーケティングの時代―動画、音声、Flashがネットマーケの常識を変える』
神野 恵美(編集者、ライター)
日米最新のネットマーケティング事例のレポートで考える
“大衆日本人”へのネットマーケティング方法とは何か?
- 織田 浩一、須藤 慎一、橋本 雄一 著
- nikkei BPnet 編
- ISBN:978-4-8222-2067-9
- 定価:本体1,500円+税
- 日経BP社
『テレビCM崩壊』を監修した織田 浩一氏による、米国のマーケティング事情の最新レポートに加え、日本におけるネット動画コンテンツの最新導入事例を中心にまとめた一冊。
本書ではまず、米国の最新事例が紹介され、次に日本の事例が取り上げられる。この構成は、一見すると“米国で起きているトレンドは、いずれ日本にも波及する”というような、これまでの他のネットの潮流と同じように気軽に構えて読むこともできるのだが、日米の違いを探しながら読み進めていくと発見があっておもしろい。
私自身が個人的に印象に残ったのは、ネットの動画コンテンツを企業のイメージブランディング戦略に利用している米国の事例と、動画メディアを“百聞は一見に如かず”とばかりに、消費者目線でより細かい商品紹介や企業紹介という実用的な使い方でマーケティングに役立てている例が多い日本との違いだ。もちろん、これは今回引き合いに出された例にたまたま偏りがあったとも言えなくはないが、個人的には両者の根底にある、文化や国民性の差にまで踏み込んだ角度から、さらに分析したいという気持ちに駆り立てられた。
ネットで動画を見るという行為では、日本は明らかに後進国だ。その理由は、もちろん、コンテンツの二次使用が法律で厳しく取り締まられ、見るべきコンテンツが根元から制限されてしまうというのも1つかもしれない。しかし、実際、日米の間には、元来、映像メディアとの接触の仕方に違いがあることに、私は注目したい。
ネットの媒体特性を語るとき、必ずと言っていいくらいに引き合いに出されるテレビだが、CATV、多チャンネルが一般家庭にも普及している米国では、“ニッチ”な文化としてのテレビが早くから受け入れられているように思う。つまり、米国人にとっては映像コンテンツに対して、“選んで見る”というスタイルが以前から定着しているのだ。YouTubeが米国で早くから人気を集めたのも、映像メディアに対する能動的な接触の仕方に慣れているという背景があるからではないだろうか。一方、日本においては、テレビの主流は地上波で、より大衆的で、見る側にとっては受身的なメディアだ。そういう意味では、あくまで“ニッチ”なネットのリッチコンテンツのトレンドが今後、日本で米国と同じように展開していくのは難しい、あるいは少し時間がかかると考えられ、本書で書かれている米国における最新事例は、一歩引いた目線で眺めておいたほうがよいのではないかと思う。
しかしながら、次に取り上げられる、食品メーカーからネット証券会社まで幅広い業界・業種14社の担当者へ直接取材した日本の導入事例は、より身近なものとしてどれも参考にしたい話ばかりだ。特に、各社が自社の企業的価値や特性をいかに見極めることを第一に考え、なぜリッチコンテンツでなければならないかの戦略を考え抜いた上で、計画を成功に導いていることがよく理解できる。
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