ウェブの企画と制作にかかわる3人に聞いた
現場から見た『ウェブ進化論』の存在
アンケート2 「特定少数」編
ネット業界で働く者にとっての必読書として、雑誌やブログなどで取り上げられた『ウェブ進化論』。ウェブサイトの企画制作にかかわる人々の間ではどうとらえられたのだろうか。
中野 宗/HAJIME NAKANO
『ウェブ進化論』は、現在まさに進行中のネット社会の質的変化をテーマにした大局論であり、「あちら側」から「こちら側」への優れた媒介者だった。
硬派なテーマでありながら新書という手に取りやすい体裁であり、ベストセラーとなった。結果として多くのトップマネジメント層を啓蒙したことの意味は大きかったと思う。2005年のティム・オライリーの論考「What Is Web 2.0」以降、「Web 2.0」というキーワードは、ウェブ界隈に横溢する気分と質的変化を裏打ちするものとして注目を浴びたが、とくに日本では一過性のバズワードとして立ち消えてしまう恐れもあったからだ。が、この本が経営層にまでウェブの大変化についての啓蒙をしてくれたことは、企業のWeb担当者にとっては幸福なことだったと思う。
変化のまっただなかにあるネットユーザーは、企業サイトを待ってはくれない。更新情報をRSSでチェックできないサイトには見切りをつけるし、求められるまでもなく企業の商品やサービスについてウェブでおしゃべりをしている。
ユーザーと向き合うためには、トップマネジメントの理解のもと、さまざまな施策を打ち出すべきなのだ。
棚橋 弘季/HIROKI TANAHASHI
『ウェブ進化論』で重要なのは、実は「ウェブ」よりも「進化論」のほうかなって思います。情報とヒトのかかわりに関する大きな歴史=進化論のなかで、最近の事例として「ウェブ」を取り上げた本として読むのが正解かなと。
進化論って、それぞれの生物種がそれぞれの棲息環境で生きていくなかで、自然淘汰を通じ身体のデザインを変更することでニッチ(生態的地位)を確立していくという考え方です。この環境適応って考え方は、僕の専門のマーケティングでも有効です。たとえばブランドは、情報過多のカオスのなかでいかにユーザーの選択可能性を上げるかという問題にかかわる情報デザインの1つです。ブランドもウェブと同じく情報化する社会環境の中で進化してるわけです。
「あちら側」の話も市場環境全体の変化に一部として、「あちら側」に人も増えて生活習慣も変わりましたねと捉えるのがマーケティング的には良いと思います。市場環境の変化で生まれた「あちら側」にどう自分たちのニッチを確立するか? それが個々の企業の課題でしょう。いかに「あちら側」とのインターフェイスとなる製品なりビジネスを進化させるかが個々の企業がそれぞれ描くべき進化論なんでしょうね。
紺野 俊介/SHUNSUKE KONNO
ウェブマーケティング業界で、「『ウェブ進化論』は読んだ?」は、一時挨拶代わりに話されていた。昨今注目されている「Web 2.0」「ロングテール」「RSS」といったモノをわかりやすく『今』という時間に合わせて書かれた秀作と思う。あえて「『今』に合わせて」と書いたように、これは1年後、3年後に読めば、『過去』の本となるか、『現実』の本となるかの推測は難しい。ただ、業界に生きる者として知る情報技術とそれにともなう社会の進化は、『ウェブ進化論』の内容を凌駕するのではないかと個人的には考えている。
「サーチ/サーチエンジン」を専門としてマーケティングを提供する者としての実感としても、グーグルを中心としたサーチエンジンの「情報マッチング技術」の進化は、情報流通を最適化し適切な情報の適切なユーザーへの伝達を可能にしてる。私たちが扱うSEM(検索エンジンマーケティング)のニーズが非常に高まっており、実際の金額投下量も膨大に増加しているのもその1つの変化の証明であろう。
※この記事は、『Web担当者 現場のノウハウVol.3』 掲載の記事です。
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