ビジネス貢献につなげる顧客に響くサービスを計画するヒント〜CXを軸にコミュニケーションをデザインするとは〜

顧客にブランドに対してよい印象や「また使いたい」という想いを生み、共感や拡散の好循環へとつなげるために、企業にとって不可欠な「顧客の一連の体験」を軸としたコミュニケーション設計の方法とそのポイントについてご紹介します。
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1. はじめに

企業と顧客の間には、製品やサービス、イベントをはじめとしたプロモーション媒体、Webサイト、広告、店頭など、さまざまな接点(タッチポイント)が存在する。多くの日本企業では一連の接点をつなげる施策を起案し実施しようとする際には、部署ごとの優先事項が加味された判断がなされ、なかなかうまく進まないといった問題がよく聞かれる。

一方、インターネットをはじめとした技術向上と普及により、顧客一人ひとりが自分の文脈やニーズに合った製品やサービスの情報を得られると同時に、SNSなど個人が簡単に情報を発信できるようになった。そうした情報は企業がコントロールできないところで広がっていくため、企業が製品やサービスを顧客に届けようとするとき、「顧客の一連の体験」を考え、コミュニケーション戦略を立てることが望まれる。なぜならば、企業やブランドに対してよい印象やまた使いたいという想いをつくることが、共感・拡散の好循環につながり、結果的に利用者拡大や継続利用、売上増など、ビジネスに貢献することとなるからだ。

本稿では、「顧客の一連の体験」を軸としたコミュニケーション設計の方法とそのポイントについて考察する。

2. 顧客体験(CX)とは

顧客体験はCXとも呼ばれるが、Customer Experience(カスタマーエクスペリエンス)の略である。顧客体験(以下CX)は、企業やブランドに対して顧客が接点をもつ一連の流れを示す。類似した言葉にUXというものがあるが、UXはUser Experience(ユーザーエクスペリエンス)の略であり、「Use=使う」ことを中心とした体験を示す。

企業やブランドがもつ製品やサービス、PR情報などに対し、例えば認知から購入までのさまざまな媒体・情報を経る一連の流れをCX、このうちサービスやWebなどの単体の施策や媒体の中で顧客が経る体験がUXである。同じ「体験」を示していても、その視点や捉えるべき広さが異なる。

CXをきちんと把握して計画をすることで個別の施策が意味をもち、はじめてそれぞれがUXを検討できるようになる。このように俯瞰視点をもちながら概要を設計し、さらに個別の設計に落としていくことができれば、より顧客に高い期待値や満足度を与えることができるようになる。

では具体的にCXをどのように把握・計画していくのかをこの後の章で紹介していこう。

CXとUXの違いを説明するイメージイラスト

3. 対象を明確にすることが最重要

CXを把握するためにはまず、対象を定めることが最重要となる。

製品のマーケティングターゲットがすでに定められているようであれば、まずはそれを活用するのが効率的であり、前提情報がない場合には、「届けたい人は誰か」を考えるのが近道だ。研究中の要素技術が活躍している社会を想像し、その状況を喜ぶ企業から発想するといった方法も考えられる。企業やブランドが描くビジョン、差別化ポイントなどをあらためて整理すると、大まかな対象属性が見えてくる。その時点で「対象属性に向けてすでに提供されている他社製品や競合サービスが多すぎないか」を一度確認する。対象属性に対して他社製品や競合サービスが多く見えてくる場合には、競合他社との差別優位性を活かす、もしくは差別優位性を見出すためにも、もう一段対象を絞り込むことをお勧めする。ここからの絞り方はさまざまな軸があるが、接点頻度や興味関心度などで絞ることが多い。

なお世の中すべての人が製品・PRの対象顧客であるという場合にも、基本的には対象を絞ってみることをお勧めする。なぜなら対象が不明確であればあるほど届けるものの設計難易度は高くなり、結果的に誰にも響かないものになりがちだからだ。

最初に対象を定めることがその後の個別の計画に活き、さらに最後まで視点をぶらさずに進めていくための判断材料にもなる。

対象の明確化についてのイメージイラスト

4. 対象の顧客像と顧客体験を明らかにする

対象が明確になったら、対象顧客がどのような人物で、どのような行動を経てどのような体験をするのか、どのようなニーズが潜んでいるのかなどを明らかにしていく。そのためには、実際の顧客に調査・分析を行って材料を集められるとよいだろう。

4-1. 調査を行う

調査方法は、傾向を知りたければ定量的なアンケート、理解を深めたければ対面で行うインタビューなど、さまざまな方法があるので目的に合わせて選択する。予算やスケジュールの都合で実施が難しい場合には社内や身近な人の中で顧客像に近しい属性の人に話を聞くことでカバーしてもよい。どうしても調査が実施できない場合には、まずは仮説を設定してから調査を行い、その後ブラッシュアップする方法もあるが、この場合、強度の低い顧客像のまま計画の一部が進行してしまうため、なるべく事前に調査を実施し、その情報を元に進めることが望ましい。

4-2. 顧客像の具体化

調査結果から見えてきた情報を元に、まずは顧客像をモデル化して具体的な情報をまとめる。顧客像の具体化は主に「ペルソナ」と呼ばれる手法で実施することが多い。

顧客像の具体化は内容のイメージがつきやすいため簡易に扱われることも多く、会話のみで済まされてしまうケースなどもあるが、必ずドキュメントとして明示化しておくことが重要である。ドキュメントに明示化しておくことでプロジェクト関係者間での認識にズレがなくなり、部署を横断した施策などが実施される場合にも事前情報として共有しやすくなるメリットがある。さらに、計画を進めていく先で振り返り確認しやすくなることや、足りない観点が見えたときにも個々人が自由に設定するのではなく、関係者全員での設定と共有が必要だという共通認識が得られる。

4-3. 顧客体験の可視化

続いて、具体化した顧客像を踏まえて、その顧客は製品やサービスなどにどのような接点をもつのかについて、一連の行動とそこから得る体験をそれらの順序に沿って可視化していく。この手法は一般的に「カスタマージャーニーマップ」とも呼ばれ、ここでも調査結果の情報を元に作成していく。

この顧客体験の可視化では、さまざまな軸で可視化が可能となるため、まずはどのような軸にすべきかを設定することが重要である。必要な検討軸は、可視化の目的に応じて設定すべきであるが、何を設定すべきかわからない場合は以下の3点をベースにしてみるとよいだろう。

 1. 時間軸 2. 可視化する行動と体験の対象範囲(主には始点と終点) 3. 可視化する項目

それぞれの軸についてのイメージを以下に簡単にまとめる。

  1. 時間軸
    時間軸が「現在の顧客体験」なのか、「製品やサービスに実際の顧客が触れた後の未来の顧客体験」なのかで、可視化する内容は大きく異なる。
  2. 可視化する対象範囲
    可視化する対象範囲というのは、対象顧客の体験のどこからどこまでを可視化するかを定めることである。例えば、「認知した時点を始点とし、製品であれば購入することを終点とする」や、「その先の再購入をしてもらうところまでを見据える」などの定義である。まずは思いついたところから始めてみて、後から見直しを行ってもよい。
  3. 可視化する項目
    行動や体験の他に何を可視化するかは、ここから得た示唆をその後何に活かすかで変わってくる。例えば製品やサービスを開発することが目的であれば、行動と合わせて顧客の気持ちを可視化していくと顧客ニーズが明らかになり、それぞれに必要な機能や情報、施策などの打ち手の計画立案に役立つ。どこから手をつけたらよいかわからない場合にも、行動と合わせて顧客心理を可視化するのがよいだろう。
    顧客体験の可視化も、顧客像の具体化同様、関係者間で共通認識をつくるために非常に有用な情報であるため、ぜひ各種検討時に役立つようドキュメント化してほしい。

こうして顧客体験が可視化できると、どのタイミングでどのようなサービス・媒体に接点があるかが明らかになる。「まずは交通広告で広く認知をさせるために製品特性と名前だけを覚えてもらい、そこから興味をもってWebサイトに訪れてきた顧客には詳細な情報を伝えることで購入の判断をできるようにしよう」など、顧客の接点ごとの役割や伝えるべき情報が見えてくる。

ただし、調査から顧客像の具体化、顧客体験の可視化までを実施するにはまとまった時間やコストが必要になることも事実である。そのために、これらを実施する・完成させることが目的となってしまうケースがやや見受けられる。これらはあくまで、その先にある製品やサービス、PRなどの各種計画・成果物の検討に利用するものであるということを忘れずに、常に俯瞰した視点で情報を捉え、柔軟にアップデートを行っていくことが重要である。

顧客体験の可視化を表すイメージイラスト

5. 顧客の理解を踏まえてコミュニケーションをデザインする

顧客やその体験を明らかにしたことにより、顧客に対して過度であったり重複となる情報提供を避けられたり、同一企業・ブランドとして一貫したコミュニケーションが可能になり、結果的に企業・ブランドに対してよい印象を生むきっかけにつなげられる。これら一連の設計を筆者が在籍するコンセントでは「コミュニケーションのデザイン」と呼んでいる。

このように顧客を理解した上で各種計画に活かせると、適切なコミュニケーションが行えるようになる。そうするとブランドや企業に対して顧客が自然とポジティブな印象をもてるようになり、結果的にビジネスに寄与することは1章で述べた通りである。短期的に成果に直結するような手法では決してないが、顧客とどういう関係を築きたいかを一度土台としてしっかり考えて据えることで、長期的に活かせる視点となり、結果的に企業やブランドへの愛着につながる。

顧客との関係構築を示すイメージイラスト

6. 部署や担当者を横断して実施していくには

現状の日本企業では1章で触れたようなサイロ化が進み、施策レベルや提供媒体ごとに部署や担当が分かれている構造となっているため、これまで述べてきた内容が理想論として語られてしまうことも多い。実際はこれらを解決するために組織構造からテコ入れをするのは難易度が高く、時間もかかるため、着手が難しい場合も多いだろう。

しかし、顧客体験の可視化などを行ってあらためてわかることは、顧客からは企業内で部署や担当が分かれているかどうかという事情は見えていないということだ。顧客はあくまで、ひとつの製品・サービス・ブランドとして対峙しているのである。それであれば、いくつもの接点を横断する顧客にも、ある1点のみでしか接点をもたない顧客にも、体験や価値は同じであるほうが製品・サービス・ブランドの一貫性がもて、与える印象にもブレが出ないだろう。

部署や担当者を横断して情報や計画を共有し、連携していく。そのためにできる短期的な解決方法としては、各部署・担当者を巻き込んだ会議体を設計することや、まずは数時間一緒に検討してみる時間を設けることが有効になる。それらも難しいような組織構造である場合は、まずはどこかの部署が旗を振り、顧客体験を可視化してみたものを関連部署・担当に啓蒙しながら進めていったり、小さな規模でもまずは試して成功事例をつくり横展開していくやり方がよいだろう。

7.おわりに

ここで述べたやり方は、対象や施策がどのようなものであっても、適応可能な考え方である。これまで顧客像を想定した計画を実施したことがない場合は、今回ご紹介した内容を一部でも良いので実施してみてほしい。まずは顧客を想定するという意識を持つことが重要であり、その意識が根付くと様々な計画にも活かせる。これを繰り返すことで俯瞰したコミュニケーション設計が可能となる。最終的には顧客に響く製品・サービスに育ち、ビジネスに良い結果をもたらすはずだ。

 

※本コラムは、株式会社技術情報協会発行の月刊誌『研究開発リーダー』2020年2月号への、笹原舞による寄稿原稿のオリジナルです。

執筆者プロフィール

本記事執筆者の笹原舞のプロフィール写真

 

 

 

 

笹原 舞(ささはら まい)
株式会社コンセント プロジェクトマネージャー
特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)認定 人間中心設計専門家
コーポレートサイトや複数のブランドサイトの構築・運用、社内の管理ツールなどの構築・運用に携わり、Web活用におけるアドバイザーも務める。また、Web戦略立案なども行い、Webガバナンス戦略の立案や、中長期Web戦略立案を踏まえた企業内組織の立ち上げ支援など、Webサイトを取り巻く環境や組織の体制づくりを含む様々な支援実績がある。近年ではWebサイト構築に関わらず、企業やブランドが描くビジョンを踏まえて各種媒体を設計するようなコミュニケーション全体の戦略支援にも携わる。

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