成功に導くプロジェクトマネジメントのコツとは? ぶち当たる3つの悩みとその解決方法を解説
Webマスター(Web担当者)とは、文字通りWebサイトのあらゆるプロセスに携わる仕事だ。サイト構築から日々の運用に至るまで、その職務内容は幅広い。理系の技術職というイメージを持つ方もいるかも知れないが、PCの前に座ったまま全てを完結させられる仕事ではない。社内の別部署や外部企業と共同プロジェクトを立ち上げ、その進捗管理や推進──いわゆる「プロジェクトマネジメント」をWebマスターが担うケースは多い。
Webマスターが、上手にプロジェクトマネジメントを行うためにはどうすればいいのか? 「デジタルマーケターズサミット 2020 Summer」のセッションでは、株式会社大広の平野陽子氏(事業開発本部ビジネスインキュベーション局 兼第1事業開発局)が自身の経験を踏まえて実践論を解説した。
Webマスターがプロジェクトマネジメント、その3つの悩みを解説
株式会社大広は広告会社だが、広告そのものを取り扱うだけでなく、平野氏が所属するビジネスインキュベーション局や兼任する第1事業開発局のように、顧客となる企業の事業戦略立案、ビジネスモデル設計など、コンサルティング的な業務を手がける部門もある。
平野氏自身は2019年9月に株式会社大広に入社。それまでの約16年の社会人キャリアにおいては、メディア企業の営業職、玩具メーカーECサイトのWebマスター、社内広報部門のWebマスターなどを歴任。プロジェクトマネージャーとして活動する機会も多かったという。
自身の広告会社と事業会社の両方の経験を踏まえ、今回は事業会社のWebマスターの視点から成功に導くプロジェクトマネジメントのコツを伝える。Webマスターがプロジェクトマネジメントを行う際にぶつかる3つの悩みがあるという。その悩みと解決法を平野氏は順に解説していった。
1. 委託先との意思疎通の悩み
Webサイトの大規模改修などを行う際に、外部企業に委託する例はごく一般的だ。しかし、委託先はあくまで外部企業。会社やサイトの方針、サイトの仕様や運用手順など、社内であれば前提となる情報が共有されているため、“あ・うん”の呼吸で進められる。しかし、委託先には前提となる情報がなく、同じ用語でも定義が異なるという場合もあり得る。「一言で言うなら、言語の違うチームメイトと一緒に、どうサッカーで得点するか? ハーフタイムに指示を伝えるか? というところです」と平野氏。
平野氏が一番のポイントとアドバイスするのは、前提条件となる情報はやり取りできる形にしておくことだ。既存サイトの仕様書・運用手順書を委託先企業に開示するのはもちろん、制作するファイルのネーミングルール・バージョン管理ルールもあらかじめ整えておく。発注の指示書においては、実装期限、実装の意図などを明視すべきだ。
また、体制図や、責任者、不在時の対応者などを明らかにしておき、責任の所在をはっきりさせておくと、判断のブレ防止などに効果的だとした。
委託先と紹介してきたコミュニケーションをとれると、結果として工数感覚や知識を体得できるようになると平野氏。委託先からスケジュールが提示されたとき、わからない用語や、工数のイメージができなければその理由を直接聞いてみよう。そうしていくと、「テキスト修正であれば、文字数が少ない場合0.5日」「サイトの全体レイアウト修正は2.5~3日」「CMSに機能追加するための要件定義には4日」といった今の座組上の工数感を掴んでいけるようになるという。
2. 社内からの協力獲得の悩み
プロジェクトの現場では物事が上手く進んでいても、社内承認の段階になると途端に滞ってしまう……というのは、Webマスターに限らずあらゆる会社員の悩みといってよいだろう。平野氏も「役員から現場まで、異なるレイヤーに説得をしていく必要がある」と述べている。
この問題の解決策としては、やはり「徹底した説明」が挙げられる。トップダウン型で発足するプロジェクトであれば、委員会などを即座に立ち上げ、責任幹部としっかりコミュニケーションをとる。現場への説明会・ヒアリングの重要性もまた、言うまでもない。
ECサイトを新規開設するケースなどでは、インターネット経由での売上が増えることにより、営業部門が既存チャネルとの関係値が壊れることを警戒するといった声も聞かれる。そういった場合には、ECと既存チャネルの棲み分け策を複数用意したり、データの可視化によるメリットを提示したりするといった対応が必要だという。データが可視化されるメリットを伝えると、「こういうデータは使えませんか?」と、営業担当者から新しいアイデアを教えてくれることもあったという。
3. 業務への理解促進の悩み
Web部門は社外委託先との業務が多いため、相対的に社内部署との連携性が薄く、浮いた存在・孤立した存在になりやすい。プロジェクトに直接関係ない部門とも良好な関係を気付いておかないと、いざというときに社内協力を得られない懸念もある。
たとえば、Web関連のプロジェクトは、横文字の専門用語が乱発されがちで、ともすれば別部門からは“宇宙人”扱いされてしまう。「チャーンレート」を「解約率」と言い換えるなど、極力一般的な言葉に置き換えて話すべきだという。
またSNSを運用していても、そのSNSの人気度や施策による効果といった情報をWeb部門内でとどめておくのはもったいない。これらの情報を“社内セールストーク”として、他部署にも積極的に開示すべきだ。
社外や他部署と“ONE TEAM”になるためのコツ
プロジェクトを淀みなく進められるよう、立場の異なる者同士が集まって“ONE TEAM”と言えるまでに関係を昇華させるには何が必要なのだろうか?
平野氏がまず提示するのは、プロジェクトの中での自分の役割を咀嚼して、広く遠い視点で捉えなおしてみることだという。
経営陣にはビジョンはあるが、Webへの理解が浅い方が多い。WebマスターはWebの将来性へ理解があり、顧客データから読み取れる傾向を知っている。また、経営者のビジョンを汲むこともできる。Webへのナレッジとビジョンをかけ合わせて、そのプロジェクトで自分がどのような役割を果たせるのかを、まずは1人で手書きしてみるのがいい(平野氏)
経営ビジョン以外にも、会社の中期経営企画、社長メッセージ、全社会議の資料など、会社の方向性を指し示す文書は数多くある。これらを十分読み込み、自分のWebマスター業務と照らし合わせ、言語化しておくと、業務判断の高速化、意思決定のブレなさに繋がるというのが平野氏の主張だ。
こうして作った“指針”は、誰もが目標とすべき正統性に沿いつつも、あくまで個人で考え出したもののため、独善的で抜け漏れが発生する懸念もある。そこで平野氏からは2つのフレームワークの紹介があった。「紙1枚に書くだけでうまくいく プロジェクト進行の技術が身につく本」(翔泳社)で紹介されている“プ譜”、「リーン・スタートアップ」(日経BP)の“リーンキャンバス”が役立つという。
より具体的に、委託先と“ONE TEAM”になるための基本所作として平野氏が挙げたのは「褒める」「要求は正確に」「理由を聞く」「相手の努力に誠実に対応する」の4つ。会食の額と機会をお互いイーブンにしたり、価格交渉したいときは断られることも念頭において正直に言ったりするなど、発注側の仕事の仕方も見られているという意識を持っておくこと。
一方、社内の他部署との“ONE TEAM”化には、「持ちつ持たれつの関係」が理想だ。「(人の顔を)覚える」「(自分の顔を)覚えてもらう」「深く知り合う」「プロとして頼る」の4原則を基本に、普段から話す回数を増やすというような、地道な努力が欠かせないという。
「ニューノーマル」時代のWebマスター論
デジタルマーケティングの勢いはとどまるところを知らないが、新型コロナウイルスを契機とした人々の生活スタイル変容、いわゆる「ニューノーマル」の足音も聞こえている。
今後は、人々が商品・サービスを選択(購入)するにあたって、より「個のニーズ」が求められるだろうと平野氏は予測する。「顧客接点がWebだと、入手可能で受け止めるべき情報も多い。顧客の課題や、商品やサービスへのニーズは多様化してきている。D2C(Direct to Consumer)ブランドの人気は、この傾向を先取りしたものだと考えられるが、これからは企業の規模にかかわらず、個人個人のニーズを意識したサイト改修などが必要になってくるのではないか。サイトや商品、サービスは、可変性・カスタマイズ性が求められる余地を念頭において、計画や設計をしていくべきだろう」。
講演の最後、平野氏が取り上げたのがWebマスターのキャリアについてのアドバイスだ。
平野氏がすすめるのは、似た仕事で価値観の近い社外の友人と定期的に情報交換すること。建前ではない本音の意見交換という意味でも重要という。
また中間評価・期末評価のタイミングで、職務経歴書とポートフォリオ集もつくってみるのも良い方法だという。業務の評価と一口にいっても、その評価はあくまで相対的で、上司との相性もあるなど、変動要因は多い。この手法であれば、自身のスキルを客観的に分析することが可能だとした。
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