ビジネスシーンで発生する“日程調整”の課題を解決したミクステンドの「TimeRex」
ビジネスにおける会議や打ち合わせで欠かせない日程調整だが、関係者全員のめまぐるしく移り変わる予定をおさえることは、簡単ではない。ときには、二度三度と調整を繰り返して、ようやく日程が決まることも…。そのような日程調整の負荷を少しでも軽くすべく、さまざまなツールが開発されてきた。
今回は、ビジネスに特化した日程調整ツール「TimeRex」を2020年にリリースしたミクステンドの代表である北野智大氏にインタビュー。2020年のリリースから約2年半で100万回分の調整を達成するなど、多くの人に利用されている。「TimeRex」を立ち上げた背景や改善の取り組み、利用のメリットなどを聞いた。
ビジネスシーンの日程調整“実はタスクが多い”を解決する「TimeRex」
ミクステンドでは2006年にリクルートホールディングスからリリースされた日程調整ツールの草分け的存在、「調整さん」も運営しているが、実は北野氏は2014年から「調整さん」の企画やシステム開発担当として携わっていた。そこから2018年に「調整さん」に関する事業を譲渡してもらう形でミクステンドを設立し、2020年にビジネス向けの日程調整ツールとして「TimeRex」をリリースした。
リリースの背景には、ユーザーからのこんな声があった。
「プライベートの日程調整は『調整さん』で便利になったけど、ビジネスの日程調整ももっと便利にできないか?」
『調整さん』はサイトデザインやUIが、楽しむイベントに特化したものになっています。ビジネスの日程調整ではプライベートと根本的な要素が異なるため、ユーザーの声に応えるべくビジネスに特化したデザインやニーズに合わせた要素を取り入れるツールを開発することにしたのです(北野氏)
では、日程調整において、ビジネスとプライベートの大きな違いは何だろうか。プライベートでの日程調整は、「大人数でいつ出席できて、いつできないか」をカジュアルに尋ねられて、簡潔にまとめることが求められる。しかし、ビジネスはより複雑だ。
たとえば、打ち合わせの日程を決めるとしよう。行程を紐解くと、以下のようなタスクが発生するのだ。
- いくつか候補日をあげて相手に提案する
- 自分が提案したすべての日程で打ち合わせに出席できる状態をキープする
- 相手から返信がきたら、仮押さえを解除し、決まった日程をカレンダーに登録する
- Web会議の場合、日程が決まったらURLを送る
- 営業担当の場合、Salesforceなど外部ツールにアポイントの情報を登録する
このように、ビジネスのシーンではプライベートより複雑な日程調整が求められる。
プライベートに比べて、考慮すべきことや手間が格段に多いのです。この手間をなんとか減らせないかと考えて、『TimeRex』を開発しました(北野氏)
具体的には、TimeRexでは以下のようなことが可能だ。
- カレンダーから空いている時間を候補として自動で提案
- 所要時間と前後の空き時間を自由に設定
- ZoomやGoogle MeetなどWeb会議のツールと連携し、URLを自動的に発行
- 曜日ごとに候補として提示する時間帯を設定
- サービス連携による顧客システムへの顧客情報や商談情報の登録
マーケティングや営業での「TimeRex」活用法
現在「TimeRex」は、営業や採用、カスタマーサクセスといった分野で特に多く使われているという。一体どんなシーンで活用しているのだろうか。
たとえば、営業の場合だ。1つ1つメールに転記していた日程候補の代わりに、「TimeRex」で発行したURLを送る。そして相手がURLを開けば、自分のスケジュールと同期した最新のスケジュールを閲覧して、日程を選んでもらって調整が完結する。これまで行っていた、候補の日程をおさえておくという無駄を省くことができるのだ。
常に最新の日程候補が表示されるため、便利に使って頂けているようです(北野氏)
また、Salesforceなどの顧客管理システムとの連携機能を活用すれば、マーケティング+営業という使い方もできる。たとえば、GoogleやFacebookなどの広告やLPに、「営業に相談する」といったボタンを置き、そのリンク先を「TimeRex」にする。そこで打ち合わせの日程調整が完了したとき、Salesforceのリード情報にお客様情報や商談情報が自動で登録されるというものだ。
さらに、Google 広告と連携すれば、LPの最終的なコンバージョンとして、「TimeRex」の日程調整数と紐付けて管理もできる。
資料請求では最終的なインサイドセールスの部分で数字が落ちることもあると思います。『TimeRex』を使えば、商談日程まで決めることができ、さらにコンバージョンがいくらだったかも見えてくる点がポイントです(北野氏)
営業メールに対して「逆営業」。TimeRexを使ってもらうことでユーザーを拡大
どんなに便利なツールでも認知されなければ、利用が拡大しない。どのような方法で「TimeRex」を広げていったのだろうか。認知拡大の営業といえば、広告を打ったり、営業しに出向いたりといったことを想像しがちだが、最初のフェーズでは、コストをかけない方法で認知を拡大していったという。
『調整さん』という存在もあり、『TimeRex』をリリースした時点である程度の会社規模があったため、日々、打ち合わせ日程がずらっと書かれた営業メールを多く頂いていました。それらに対して、『TimeRexから日程調整いただければ、お受けできます』という形で返信していました(北野氏)
営業にきた相手に対して、URLを送ることで逆営業的に、利便性を伝えていった。その結果、しばらくすると営業メールに「TimeRex」のURLが貼られることが増えていった。同じ手法で地道にアプローチし、1人1人に体感してもらうことで、日程調整方法のリプレイスを促していった。この手法は「かなり効果があった」と北野氏は振り返る。
ある程度ユーザーに使ってもらうことに成功した結果、今は最初のフェーズで北野氏が行っていた「TimeRexのURLを送る」という行動をユーザーが自然と行い、認知が拡大していっている状態だ。そのため、今注力しているのは、URLを受け取った側へのアプローチだ。
受け取り側を究極シンプルにして、調整後に『今度はあなたがこのツールを使って日程調整を効率化していきませんか』と訴求し、ユーザーを増やしていくことを考えています(北野氏)
目指したのは「文字を読まなくても操作できる」シンプルな操作性
2020年に「TimeRex」をリリースして約4年。その間に競合が増えたことにより、ビジネスにおける日程調整ツールの市場は拡大している。この状況について北野氏は、脅威を感じながらも、「URLを送って日程調整する」という概念から説明していた時代に比べて「市場環境は良くなっているし、私たちにとって追い風になっている」と話す。
市場が広がる中、他社との差別化を図るためにも、ミクステンドがこだわっているのは日程調整を仕掛ける側ではなく、仕掛けられる側(URLを受け取る側)にとっての使いやすさだ。なぜなら、日程調整ツールは他のツールを導入する際と違い、事前に受け取り側がサービスを調べることなく、ある日突然URLが送られてくるからだ。受け取り側が、ツールについて知っているとは限らない。
日程調整を仕掛けられる側の画面を徹底的にシンプルにしました。文字を読まなくてもなんとなく操作すれば、完了できるという状態を目指したのが、私たちのサービスの大きなポイントだと思います(北野氏)
ミクステンドでは社風としてユーザーの声を社内全員で把握したうえで、さらに追加でアンケートを行うなど、ユーザーの声から社内全体で製品をプラスにしていくという社風が根付いている。
たとえば、「調整さん」のケースでは、文字をピクセル単位で変えたり、同じ黒でも濃い黒と薄い黒で比較したりするなど、かなり細かなA/Bテストを繰り返した結果、現在のデザインへと至っている。
そして「TimeRex」では、北野氏が自ら基本的な操作性や画面構成について落とし込んだものに対して、UI/UXデザイナーがレビューを行い、最終的なUIを決定したという。シンプルかつ文字を読まなくても使える操作性にするために、心がけていることはあるのだろうか。
基本中の基本ですが、そのページで一番大事なボタンを目立たせること。そして、ユーザーの中にある『このボタンを押したらこうなるのではないか』という期待を裏切らずに、なんとなく操作したらできることを意識しています(北野氏)
さまざまなサービス連携が可能だからこそ、サービス連携に関しては別ページに遷移するように設定した。実は最初は日程調整カレンダー作成画面上にサービス連携の画面も入れていたが、連携可能なサービスが多いため情報量が増え、さらに連携を望まないユーザーにとっては不要な情報が目に入っていたことで、日程調整カレンダーの作成完了率が下がってしまっていた。
そこで、ユーザーがサービスを使い慣れてきて「もっと便利に使う方法が知りたい」と思ったときに、より活用できるデザインを意識して、現在のように基本の設定だけを表示した結果、日程調整ページの作成率が8%アップしたそうだ。
「ユーザーがもっと便利に使いたいと思ったタイミングでカスタムできるように」という思いは、日程調整の詳細な設定のデザインにも表れており、全体を通して、必要なものを最小限に絞りつつ、アクセスしやすいルートを確保することも大切にした設計となっている。
日程調整ツールの原点、「調整さん」はブラウザからアプリへ
「TimeRex」のもととなった「調整さん」は、2006年から一貫してウェブブラウザでの展開を行ってきた。毎月600万アクティブユーザーを獲得してもなお、今後の伸びが期待できることから、リソースをアプリに割くことにしたという。2023年に入ってからアプリ開発に着手し、10月にリリースされた。
現在は「調整さん」で行った調整結果をアプリの通知で受け取ることができたり、履歴を確認できたりするといった基本的な機能が中心だが、今後については「もっと1人1人に寄り添ったサービス展開を考えている」と話す。
これまでログインなしで使えることを売りにしてきた反面、1人1人に対して施策を打つことが難しい状態でした。アプリならユーザー属性の登録がなくとも、ある程度ユーザーを判別できるので、今後は1人1人に最適な機能提供をしていきたいと考えています(北野氏)
ブラウザとの連携をはじめる前から多くインストールされており、手応えを感じていると北野氏。ブラウザとアプリの住み分けについては、頻繁に使う場合はアプリでの利用を想定し、しっかりとした機能を提供していきたいと考えているようだ。
ちなみにビジネス向けの「TimeRex」については、アプリの想定はされていないとのこと。今後の展開については、スケジュールまわりの困りごとを、シンプルさを大切にしながら、どんどんなくしていきたいそうだ。
『TimeRex』では、さらなるシステム連携の強化を考えています。また『調整さん』では、日程調整後のどこにいくかなど、たくさんある困りごとをワンストップで解決できるようにしていきたいです(北野氏)
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