「結局マーケティングって何?」 マーケターが“迷路”に迷いこんでしまう3つの理由と、その抜け出し方
読者から寄せられた仕事の悩みをウェブパンが代わって解決するパン! 今回は「結局マーケティングってなに?」という悩みを解決するパン!
読者からのお悩みを解決するパン!
読者のお悩み
現在、新規事業プロジェクトを進めています。いろいろな戦略を参考にしながらビジネスモデルやプロモーションなどを考えているのですが、だんだんマーケティングがわからなくなりました。「ビジネスと同義では?」「マーケティングという言葉を使うから余計ややこしいのでは?」という状態に陥っています。マーケティングとは何かを教えてください。
(ペンネーム: くたくた)
お便りありがとうパン!
『マーケティングを学んだけれど、どう使えばいいかわらかない人へ』(日本実業出版社)の著者であり、マーケティングの専門家・西口一希さんに相談してみるパン!
ウェブパン、いらっしゃい! 私がそのお悩みを解決しましょう!
「マーケティングの樹海」に迷いこんでしまう3つの理由
マーケティングについて勉強すればするほど、わからなくなるパン。結局、マーケティングって何なのパン?
数々の企業のマーケティングやブランドマネジメントに30年以上携わってきて、質問者の方のように悩んでいる人がたくさんいることを実感しています。
事業を成長させるために、さまざまなマーケティングの理論やテクノロジーを勉強し、さまざまな施策を試みても思ったような成果が出ず、労力や時間だけを消費し疲弊していく……。そんな姿はさながら「樹海」に迷い込んだ旅人のようです。
「マーケティングって、なんだかわかるようでよくわからない」という状況を、私は「マーケティングの樹海」と呼んでいます。
とても恐ろしいパン……。どうしてマーケティングの樹海に迷いこんでしまうんパン?
理由は大きく3つあります。
理由1
「マーケティング」という言葉が指す意味が複数あり、解釈は人によってさまざまだから
たとえば「マーケティング」は、次のような意味で使用されています:
- 販売促進活動
- デジタルマーケティング
- 広告宣伝
- 集客施策
- リサーチ
- 商品開発
- データ分析 など
つまり、言葉の定義があいまいで、人によって異なるということです。
理由2
マーケティングの方法論や手法が増え続けている
マーケティングの方法論や手法とは、たとえば次の4つです:
- 「マーケティングの4P」
- 「STP」
- 「3C分析」
- 「SWOT分析」
試しにネットで検索してみると、もっとたくさん出てきます。しかも、時間の経過とともに社会環境や時代が変化していくと、方法論や手法はさらに増えていきます。
たとえば、1990年代は店舗だけでモノを売っていましたが、今やEコマースの併用は多くの企業や組織で当たり前になりました。今後はさらに新たな販売手法や取引形態も増え、それらに対応するように、マーケティングの方法論や手法も増えていくでしょう。
理由3
マーケティングに関する用語が常に増え続けている
ネット上には「マーケティング用語集」や「覚えなければいけないマーケティング用語」といったページがあふれています。
日本でつくられたページ以外にも、海外でつくられているページもありますから、その数は膨大です。私も半分程度の用語しか把握できていません。
西口さんレベルでも全部把握しきれないんパン!?
それほど巷ではマーケティングに関するたくさんの用語があふれているのです。これも「マーケティングって、わけがわからない」と混乱してしまう大きな原因でしょう。
その状況を端的に表すのが、「マーケティングテクノロジーランドスケープ」のカオスマップです。マーケティングの分野で提供されているテクノロジーツールをマッピングした図のことです。
次の2枚の画像を見比べてください。
2011年に150程度だったものが、2022年5月に発表された最新版では9,932に増えています。11年間に、なんと6,521%も増加しているということです。
まさにカオスだパン!
2011年のカオスマップにはツールの名称も入っているけど、最近のはロゴマークだけ。それもたくさんありすぎて、1つひとつがよく見えないパン。
こういう図を見るだけでも、まさしく「マーケティングを取り巻く世界は樹海のごとし」ということがよくわかりますよね。
マーケティングで大事なことは「WHOとWHATの組み合わせ」
マーケティングが樹海なのはよくわかったパン……。どうやったら樹海をさまよわなくて済むパン?
質問者の方の「(マーケティングとは)ビジネスと同義では」というのは、とても勘が鋭い推察です。マーケティングを理解するためには、まず「ビジネスがどう成り立っているのか」ということから考えるのがじつは近道だからです。
そもそも私たちは仕事の報酬としての対価をいただくために働いていますが、この対価をいただくには、お金を払ってくれる人が必要です。つまり「お客さま」がいてこそ、です。
お客さまに「お金を払ってもいい」と思っていただける何かをつくり出す必要があります。お客さまに価値を見いだしてもらえるようなプロダクト(商品やサービス、体験)をつくる、ということです。そのために必要なことをすべてやるのがマーケティングなのです。
そこで、私の考えるマーケティングの定義をまとめると、次のようになります。
マーケティングの定義:
お客さまのニーズを洞察し、お客さまが価値を見いだすプロダクトを生みだすこと。さらに、その価値を高め続けて継続的な収益を生みだし、その収益を再投資して新たな価値をつくり続けること。
う~ん、なんだかわかるようでよくわからないパン……。まずは、プロダクトが大事ってことパン?
大事なことは、「WHOとWHATの組み合わせ」です。
- どんなお客さま(WHO)に、
- どんなプロダクト(WHAT)を届けて
- 価値をつくるのか
ということです。いわゆる「マーケティング4つのP」でプロダクトを除いた3つのP:
- プロモーション(メディアや広告、クリエイティブ手法)
- プレイス(販売チャネルや販売方法)
- プライス(価格決定)
これらをめぐる話は、WHOとWHATの組み合わせを実現するためのHOW(手段や方法)にすぎません。その手段は時代とともに変わり、廃れてしまうこともあります。
ですから、まずやるべきことは目先の手法に踊らされず、WHOとWHATをしっかりとらえ、「価値とは何か」を理解することです。きちんととらえれば、やること(HOW)も自然に見えてきます。
「便益」と「独自性」をあわせ持つものが「価値」となる
う~ん、まだ難しいパン。「価値」という言葉も日常的に使われているけど、意外とよくわかっていないパン……。
「価値」も、じつはきちんと定義されていません。私は、次のように定義しています。
価値の定義:
価値とは、「便益」と「独自性」の両方をあわせ持つもの。
便益と独自性……? もっと詳しく教えてパン!
「便益」は、英語では「ベネフィット」や「メリット」とも表現されます。それを利用することによって、お客さまに具体的な利益や利便性、快楽などを与えるものです。有形無形問わず、たとえば次のようなことも便益です:
- 楽しいと感じる
- おいしいと感じる
- 悩みが解決する
- 事態がよくなる
- 効率がよくなる
- 不快がなくなる など
とにかく今よりプラスになること、マイナスがなくなることが便益です。
たとえば、いくら「おいしい低脂肪牛乳」という特徴を持つ新製品ができたとしても、牛乳アレルギーのある人には便益にはなりませんよね。
ところが、牛乳は好きだけれど今はダイエットしている人に、「おいしい低脂肪牛乳」という提案をすれば、便益を感じてもらえる可能性があります。
ですから、「便益」をシンプルにいえば「選ぶ理由、買う理由」です。
また、“低脂肪牛乳は味が薄いもの”と思い込んでいる人に「こんなに味が濃くておいしいのに、低脂肪」という新商品ができれば、強い独自性になりますよね。すると、その商品は高い値段で売れる可能性が出てきます。
つまり「独自性」とは唯一無二で、シンプルにいえば「ほかの選択肢、競合、代替品を選ばない、買わない理由」です。
だんだんわかってきたパン。
- 特定の誰か(WHO)に対して、
- 便益(選ぶ理由)と独自性(ほかを選ばない理由)を提供し得る
- プロダクト(WHAT)を考えること
が大事パンね?
そうなんです。ただ、自分たちがお客さまに価値を提供していると考えるのではなく、「お客さまは何に価値を見いだすのか」を起点にする必要があります。これは、どんなビジネスであっても忘れてはならない重要なポイントです。
そしてWHOとWHATをとらえたら、「『おいしい低脂肪牛乳』を買いたい人たちが買えるような仕組みや販売チャネルはどんなものか」というHOWを考えればいいのです。
ひょっとすると牛乳におけるHOWは、昔ながらの牛乳配達がいいかもしれませんし、近所のスーパーだけでなくコンビニでも提供したほうがいいのかもしれません。
あるいは、価格帯はどれくらいがいいか。1人だけで飲むのか、家族で飲むのかによってサイズも検討する必要があります。
このようにHOWは、WHOとWHATの組み合わせによって変わってきます。
マーケティングとは、いわば「価値づくり」
なるほど。でも、すでにある自社のプロダクトに価値を見いだしてもらうためには、どうしたらいいパン?
まずは、そのプロダクトを買ってくれている、もしくは利用してくれているお客さまが、そのプロダクトにどんな便益と独自性を見いだしているのかを知ることです。
それがわかったら、同様にその価値を感じてくれそうな潜在的なお客さまを探しだし、便益と独自性を伝えます。また、お客さまがほかのプロダクトに心変わりしないよう、便益と独自性を高め続けることも忘れてはいけません。
お客さまに便益と独自性を伝え、プロダクトの便益と独自性を高め続ける。それらをひと言で表すと「価値づくり」です。
つまりマーケティングとは、お客さま(WHO)とプロダクト(WHAT)の間の「価値づくり」ともいえるのです。そして、HOWは「WHOとWHATの組み合わせ」の実現手段・方法です。
ついに「結局マーケティングとは何か?」の答えが導き出されたパン! じつはシンプルなものなんだパン!
「お客さま(WHO)」と「見いだした価値(WHAT)」がしっかりと把握できていれば、HOWを導くことは難しくありません。しかし、HOWから入ると、本来届けるべきお客さまは目に入りません。
たとえば、とりあえずTikTokで話題づくりをしようとしても、届けるべきお客さまがTikTokを見ていなかったら効果がないのは当然です。
まずWHOとWHATを考えたうえで、それに見合ったHOWを決めていけば、「マーケティングの樹海」でさまようこともないでしょう!
西口さん、ありがとうございました!
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