Web担 オススメの課題図書

マーケターが組織の中で「戦略的」に「仕事を進める」のに役立つ8冊!

今回のWeb担 オススメの課題図書のテーマは「マーケティング」。花王の辻本さんがマーケターとして活躍するために読み込んできた書籍を紹介する。

業界で活躍するマーケターから書籍をオススメしてもらう本連載。今回は、花王の辻本 光貴さんにお話をうかがった。

辻本さんは、2015年に新卒で花王に入社。事業企画部、デジタルマーケティングセンター、DX戦略推進センターなどを経て、2023年1月よりブランドマネジメント開発部に所属し、国内外のブランド調査や分析、新しいマーケティング手法の提案を行っている。そんな辻本さんご自身が、マーケティングを学ぶために読まれてきた書籍を紹介してくれた。

花王株式会社 ブランドマネジメント開発部 辻本光貴さん

マーケの基礎知識を定着させ、業務全般に取り組む姿勢を固める3冊

1冊目
『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』(安宅 和人:著 英治出版:刊)

マーケターはあらゆる情報から本質を見極めて、マーケティングの目的、戦略、戦術を立案して仕事を進めていくことが大切になると話す辻本さん。1冊目に紹介してくれたのは、重要な問題を見極める方法を伝授する本だ。

大学時代に本書を読んで以来、本当に解くべきイシューは何かを考えるようになりました。順を追って、論理立てて解説されているのでわかりやすいです。普段の業務ではさまざまな仕事を割り当てられますが、何が問題なのかを考えてから対応するようにしています。問題を見極める力は、今の社会人に求められるスキルだと思います(辻本さん)

1冊目は『イシューからはじめよ――知的生産の「シンプルな本質」』

2冊目
『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』(森岡 毅:著 KADOKAWA:刊)

2冊目は、P&G出身者でUSJのV字回復を達成させたことで有名な森岡 毅さんの著作だ。森岡さんの著作は複数あるが、この1冊は初心者に最初に読んでほしいと辻本さん。

マーケターの思考法として、目的に沿った戦略、戦術立案をしていくことが大切になります。それが学べる1冊なので、学生にもオススメです。マーケティングの目的がぼやけていたら、その後の戦略の組み立てがうまくいかないので、『イシューからはじめよ』と併せて読んでほしいですね(辻本さん)

2冊目は『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』

3冊目
『マーケティング論 改訂版』(恩蔵 直人:著 放送大学教育振興会:刊)

実は、辻本さんは新入社員時代、『コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント』を意気込んで購入したものの、内容が難しくて頭に入らず、途中で挫折してしまったことがあるそう。しかし、入社して数年後に本書を知り、こちらを先に読めばよかったなと思ったという。

マーケティングに関する広範な基本知識がまとまっていて、わかりやすいので、後輩にも薦めています。この本を読んでから、コトラー本にチャレンジしてほしいですね(辻本さん)

3冊目は『マーケティング論 改訂版』

マーケ業務の実践の場で、戦略的に活用できる5冊

これまでにあげた3冊は、まずはマーケティングの基礎知識を定着させ、業務全般に取り組む姿勢を固めるために、マーケ担当初心者に読んでほしいという本だ。4冊目からは、マーケ業務実践の場で活用してほしい本になる。

4冊目
『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』(西口 一希:著 翔泳社:刊)

P&G出身の西口 一希さんが書いた書籍。本書では、顧客をロイヤル顧客、一般顧客、離反顧客、認知・未購買顧客、未認知顧客の5つに分ける「顧客ピラミッド」、これにブランド選好の軸を加えて、顧客を9つのセグメントに分ける「9セグマップ」を紹介している。さらに行動データと心理データからN1分析を行い、マーケティング施策のアイデアを考えることを提唱している。

誰が顧客なのか、まだ顧客になっていないのは誰なのか、頭を整理するために役に立ちます。顧客と未顧客を分けることで、それぞれどうすれば購入してくれるのかを考えられるようになります。顧客を知り、調査と施策を連動させてPDCAを回せるように、データ基盤を整える重要性も感じました(辻本さん)

4冊目は『たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング』

5冊目
『アフターデジタル2 UXと自由』(藤井 保文:著 日経BP:刊)

アフターデジタルシリーズは何冊かあるが、マーケティング初心者は『アフターデジタル2』をしっかり理解できると、4冊目の『顧客起点マーケティング』で述べられている「調査と施策を連動させたPDCAの重要性」がより実感できると辻本さん。

アフターデジタルシリーズは、DX関係の人に人気だがマーケターにも役立つという。特に、デジタルがどういう文脈で使われれば無理のない設計になるのか、より良い顧客体験にしていくために蓄積したユーザーのデータをどう活用するかを考えられるようになる。

辻本さんは、『顧客起点マーケティング』と本書をふまえて、実務に活かした経験を次のように振り返る。

ヘルシアの事業部から、「“モニタリングヘルスというサービスを開発したので、広告配信をしてユーザーを獲得してほしい」という依頼がありました。事業部は、サービス利用がヘルシア購入のきっかけになるという戦略を立てていたのです。

しかし、この2冊(『顧客起点マーケティング』と『アフターデジタル2』)をふまえて利用者のセグメント分析をしてみたところ、当初は「モニタリングヘルスの利用が、ヘルシアの購入につながる」と仮説を立てましたが、実際は因果関係が逆だとわかりました。

当初想定していた施策の順番を逆にした方がよいとわかったことで、改めてイシューに対して解決法が正しいのかを見直し、施策の方針変更が行えました。
ハードルが高いID登録を乗り越えてまでそのサービスを使いたいのかどうか、生活者の視点に立って考えなければ、使ってもらえない意味のないサービスになってしまいますから(辻本さん)

辻本さんの「モニタリングヘルス」の取り組みついては、コラム記事「花王ヘルシア 戦略の再考につながったID活用とその準備」で詳細を紹介している。

5冊目は『アフターデジタル2 UXと自由』

6冊目
『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(森岡 毅、今西 聖貴:著 KADOKAWA:刊)

6冊目は、戦略と戦術の精度を上げるための確率思考について解説した書籍だ。本書では、生活者の購買行動は、認知率、配荷率、プレファレンス(好意度)の3要素に左右されると整理されている。

大学は経済学部で数学好きの辻本さんは、本書で紹介される計算式にも興味があるというが、数学が苦手な人は数式部分を読み飛ばしても大丈夫とのこと。先に紹介した『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方』よりも難易度が高くなるが、ぜひ挑戦してみてほしい。

購入率を高めるにはプレファレンスが重要ですが、市場全体における自社ブランドのプレファレンスを拡大する考え方と、正しい意思決定のための確率思考が紹介されています。

デジタルマーケティングの部署にいたときには、認知率とプレファレンスを上げることを意識して施策を行っていました。施策の事前事後に、認知率、購入意向、商品のイメージなどを調査して、ブランドの課題を特定。その課題に対するアクションが正しいのか、PDCAを回して精度を上げていく意識付けができた一冊です(辻本さん)

6冊目は『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』

7冊目
『新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書 良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品・サービスで勝ち続ける』(栗原 康太:著 翔泳社:刊)

7冊目は、B2Bマーケティングの書籍だが、B2Cマーケティングにも共通する点が多数あると、取り上げてくれた本になる。本書では、フィットジャーニーという6段階※のフレームワークを紹介しており、それぞれの段階で検討すべき目標、指標、主な活動を整理している。

※CPF(Customer Problem Fit)、PSF(Problem Solution Fit)、SPF(Solution Product Fit)、PMF(Product Market Fit)、GTM(Go-to-Market)、Growthの6段階

この『PMFの教科書』には、バリュープロポジション(顧客に提供する独自の価値)を明確にする重要性が述べられています。これは、私がB2Cマーケターとして常に考えていることです。大企業であっても、特に新規プロジェクトではスタートアップのように、試して検証してという繰り返しが必要になります。

スタートアップのマーケター、新規プロジェクトの担当者の人にもぜひ読んでもらいたいです(辻本さん)

なお、本書は辻本さんがB2Bで働く友人から紹介してもらったそうで、読んでみて、重要なポイントはB2BもB2Cも同じだなと感じたと話す。

7冊目は『新規事業を成功させる PMF(プロダクトマーケットフィット)の教科書 良い市場を見つけ、ニーズを満たす製品・サービスで勝ち続ける』

8冊目
『ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』(Ed Catmull、Amy Wallace:著 石原 薫:翻訳 ダイヤモンド社:刊)

仕事で最良の結果を出すために、仲間とアイデアのどちらが大事か?

辻本さんは、この問いに対して、自信をもって「仲間」と答える。本書のテーマは、組織の心理的安全性だ。

会社では、マーケティングに限らず、チームで動くことが多いと思います。チームでは、考え方の異なる人の思考を理解してより良い戦術にたどり着くことが大事です。アイデアは、仲間で話し合うことでより良くすることができます。

特にマーケターは、社内外を含めてコミュニケーションする相手が多い職種です。心理的安全性が担保されていないとアイデアを出し合えないので、チーム作りでは常にその点を意識しています。

職位が上がれば人からの見られ方も変わるので、言葉の使い方も変わります。レベルアップのために必要な観点が学べる書籍です(辻本さん)

本書にはピクサー作品の制作ストーリーも出てくるので、ピクサー好きの人にもオススメだ。

8冊目は『ピクサー流 創造するちから――小さな可能性から、大きな価値を生み出す方法』

番外編 気分転換としてもマーケターにオススメのマンガ

番外編ということで紹介してくれたのがマンガ『ブルーピリオド』。東京藝術大学に通う主人公が与えられた作品のテーマに対して、自分の内面を深掘りしながら製作をしていく過程が描かれている。

クリエイティブを決めるにあたって、見た人にどう思われるかという視点がマーケターには必要です。自社ブランドのプレファレンスを高めるために、何をどう伝えると生活者の心に響くのか、メッセージや表現方法を考えなければなりません。そこは本マンガの主人公の苦悩とも合致するかもしれません。気分転換に読んでみると発見があると思います(辻本さん)

番外編として、マンガ『ブルーピリオド』も紹介してくれた

アップデートし続けていくために

辻本さんは、セレンディピティの情報取得として、雑誌やテレビのニュース番組から情報を得るようにして他業界の動向にも注目していると話す。つい、自分の会社や業界のことばかりに意識を向けてしまいがちだが、他業界の話題の中にも気づきや学びがあり、仕事に活かせることもあるという。

雑誌の『Forbes Japan』を定期購読しています。新しいマーケティングを考えるには、他の業界の動きが参考になるからです。いろいろな業界の創業者のインタビューなどから、経営の考え方を知ることができますし、読んでいて楽しいです(辻本さん)

雑誌『Forbes Japan』を定期購読して情報を得ている辻本さん

また、アップデートするために重要なことは、情報を得るだけでなく、自分で手を動かしてみること。辻本さんは、書籍で覚えただけの情報では忘れてしまうので、できる限り実践してみているそうだ。

ショッピングサイトのBASE(ベイス)で自分のお店を作る、広告を配信して集客する、開発エンジンのUnity(ユニティ)でゲームを開発してみる、といったことをやっています。十数年前までは自分で実践するのは大変でしたが、今はいろいろなサービスが登場しているので、トライするハードルが下がっています。ぜひ、挑戦してみてください(辻本さん)

なお、こうした取り組みは会社のコンプライアンスにも関わるので、辻本さんは必ず事前に申請を出して許可を得てから実施しているという。

辻本さんは、終始にこやかに、付箋をいっぱい貼った書籍を次々と紹介してくださった
◇◇◇

紹介してくれたどの書籍も読み込んだあとがあり、辻本さんが日頃から繰り返し手にとっていることがうかがえた。読みやすい書籍が多く、楽しみながら学んでいけるラインナップとなっているので、ぜひ参考にしてほしい。

辻本 光貴(つじもと こうき)
花王株式会社 ブランドマネジメント開発部
ITストラテジスト、応用情報技術者 資格取得
2015年4月 花王株式会社入社。
ファブリック&ホームケア事業企画部にてシンジケートデータなどをもとに各ブランドの事業概況をレポーティングする傍ら、オウンドメディアの運営・分析を担当。
2017年1月よりデジタルマーケティングセンター/コミュニケーション企画室に配属。2019年1月の組織改編に伴い、マーケティング創発部門/メディア企画部3室(デジタルメディア)へ。ヒューマンヘルスケア事業各ブランドのメディアバイイング及びデジタルコミュニケーション戦略策定に携わる。ヘルシアtwitter公式アカウントでは、中の人として企画、運営、分析を担当。
2021年1月 DX戦略推進センター カスタマーサクセス部を兼務。
2022年1月 スキンケア・ヘアケア領域のデジタル施策を担当。
2023年1月 ブランドマネジメント開発部へ異動。国内と海外のブランド調査に加え、新たなマーケティングの型を作る役割を担う。

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