モノタロウが解説! 「売上につながるデータ分析」4つのポイント
データの重要性が高まる一方、「データ分析をしてもなかなか成果につながらない」「データ分析を基にした企画がうまく通らない」といった悩みを抱える方も多いのでは。「Web担当者Forumミーティング 2022 春」のセッションでは、1800万点もの商品を取り扱う「モノタロウ」の米島和広氏が登壇し、データ分析をするときの考え方について事例を交えて紹介した。
モノタロウが目指すのはデータを活用し、良い顧客体験を届け、サービスレベルを上げ続けること
米島氏はまずモノタロウの事業を紹介した。モノタロウは、法人向けに間接資材の在庫を持ち、販売するEC通販企業だ。商品数は1,800万点で、商品の種類も多岐にわたる。間接資材とは、製品の原材料以外のすべてのことを指す。たとえば、メガネを作る場合、ガラスやプラスチックは原材料、製造スタッフの制服や製造で使う工具やネジなどは、間接資材でモノタロウが取り扱っている商品だ。
利便性が高く、リピート率が高いのが特徴で、米島氏によると「一度使った人がずっと使い続けることを目指したサービス作りをしている」という。
モノタロウの提供する価値は『企業における間接資材の調達プロセスを圧倒的に簡単にする』こと。具体的には、さまざまな接点でデータを活用し、良い顧客体験を届けることを大切にしています。
目指しているサイクルは、ユーザーが増える→サイトの利用者数が増える→多くのデータを集められる→データから多くの知見が集められる→お客様の見つけやすさを改善したり、商品の品揃えを変えたりして、よいサービスレベルを継続して作りつづけることで、さらに支持され、ユーザーが増え続けることです(米島氏)
4つの演習とデータ分析の考え方のポイント
サービスレベルを上げ続けていくために、どのようにデータ分析を行い、改善をしているのか。米島氏は演習問題を使って、考え方のポイントを4つ紹介した。Webのサービスを担当している前提のもと、「ECサイトを運営し、売上・登録数を上げるための活動をしている」と想定し、以下の演習を考えてほしいと米島氏。
考え方のポイント①施策のゴールと制約を明確にして、チームで共通認識を揃える
【演習①】会員登録数を増やすために、施策A~Cのどれを強化しますか?
- Aの施策:3月と4月それぞれ1,000人の登録があった(合計2,000人)
- Bの施策:3月と4月それぞれ2,000人の登録があった(合計4,000人)
- Cの施策:3月と4月それぞれ3,000人の登録があった(合計6,000人)
データから判断して、どれかひとつを選ぶとしたら、会員登録数が最も多かったCを選ぶだろう。では、次にそれぞれの獲得コストが違うとしたらどうだろうか。
【演習①-2】一人当たりの獲得費用が条件に加わった場合、施策A~Cのどれを強化しますか?
- Aの施策:登録数1,000人で、獲得費用は10万円(CPA:100円)
- Bの施策:登録数2,000人で、獲得費用は100万円(CPA:500円)
- Cの施策:登録数3,000人で、獲得費用は500万円(CPA:1,667円)
それぞれの施策で広告費などの費用が異なる場合、一人当たりの獲得費用で判断するなら、選ぶのはAになるはずだ。さらに、別の指標もある。たとえば、施策によって一人当たりの売上が異なるというのが次の演習だ。
【演習①-3】一人当たりの売上が条件に加わった場合、施策A~Cのどれを強化しますか?
- Aの施策:登録数1,000人で、費用は10万円、売上は300万円(売上@3,000円)
- Bの施策:登録数2,000人で、費用は100万円、売上は450万円(売上@2,250円)
- Cの施策:登録数3,000人で、費用は500万円、売上は2,250万円(売上@7,500円)
一人当たりの売上を重視するなら、選ぶのはCになる。他にも、利益(売上-費用)がどのくらい増加したかという観点もあるだろう。
【演習①-4】増加売上が条件に加わった場合、施策A~Cのどれを強化しますか?
- Aの施策:登録数1,000人で、費用は10万円、売上は300万円(増加:290万円)
- Bの施策:登録数2,000人で、費用は100万円、売上は450万円(増加:350万円)
- Cの施策:登録数3,000人で、費用は500万円、売上は2,250万円(増加:1,750万円)
売上増加を重視するなら、選ぶのはCになるだろう。ただし、今まで演習として出題してきたものは、それぞれにアピールできる成果がある。
- ①:会員登録数を増やせた
- ①-2:一人当たり獲得単価を安く押さえて、登録数を増やせた
- ①-3:一人当たりの売上単価が高い登録者を増やせた
- ①-4:利益を伸ばせた
このように、施策によってそれぞれ異なるアピールポイントがある。施策を行う場合は、施策のゴールや制約条件が決まっていないと、どの施策を実施すべきか判断がつかないのです(米島氏)
データ分析の考え方のポイント①
「施策のゴール」と「制約」を明確にしなければ、施策の良し悪しが判断できない。データ分析する場合は、チームで目的と成約を共有し、運営することが大事。
考え方のポイント②原因を改善できる打ち手(アクション)まで分析する
【演習②】商品広告をWebで実施しています。費用を増やした当月は成果があったが、それ以後悪化しています。どうしますか?
上表からわかることは、次のようなことだろう。
- 8月と同様に9月・10月は、広告費を30万円使っているが、販売数は8月の1,500に比べて、9月は1,000、10月は800と月を追うごとに減少している
ただし、このデータだけでは、具体的にどうすればいいか思いつくのは難しいだろう。この場合、「データを細かく見ていく必要がある」と米島氏。
実は、商品広告は2つの商品をPRしており、商品別の数値に分解したのが下図だ。
商品別の販売数を見ると、下記がわかる。
- 商品①の販売数は安定しているが、商品②の販売数が9月以降減少している
悪化の原因は商品②であることがわかったが、「具体的な打開策まで分析できておらず、不十分である」と米島氏。
重要なことはデータ分析の結果を受けて、最終的なアクション(改善策)までフォーカスすることです。たとえば、商品①が電動工具、商品②がTシャツだったとしたら、Tシャツは夏から冬にかけて売上が減っていくのは当然。
その場合、商品②への広告費を減らす、という打ち手を実施すると思います。打ち手を考えるときに、分析を行うが、アクションに紐づくところ、私たちが変えられるところまで分解すると効果が出ると思います(米島氏)
データ分析の考え方のポイント②
減少した原因を突き止めるだけにとどまらず、その原因を改善する打ち手(アクション)を考えられるまでデータ分析をすることが大事。
考え方のポイント③過去のデータから確実に成果につながる状況を細かく分析する
【演習③】割引コードをお客様にお伝えすることにより、10%引きで購入することができます。実施しますか?
演習③からは中級編として、分析をしながら効果をアップさせる事例を紹介していく。演習③の前提とゴールは下記だ。
- 当月の購入見込み数は1,000、利益額は1,000万円
- ゴールは当月利益を最大化すること
10%の割引を実施しなければ、当然ながら購入数と利益額は見込み通りの結果となる。一方、10%の割引を全購入者に対して実施した場合、もしかすると次のような結果になってしまうことも想定される。
- 10%割引を実施しなかった場合:購入数は1,000、利益額は1,000万円
- 10%割引を実施した場合:購入数は1,100、利益は900万円
10%割引を実施したことで購入数は増えたが、利益が減ることもある。このように先が見通せない状況にもかかわらず、10%割引を実施する/しないの判断を迫られることもあるだろう。こういった状況の場合、データ分析者としてどのように判断すればよいだろうか。
米島氏は「成果が見込める状況を分析で見つけ出せば良い」と言う。
たとえば今回の施策の場合、全員に対して割引を実施するのではなく、10%割引が購入の後押しになる人にだけ割引コードを配布できれば、当月の売上を最大化することができるだろう。
施策を実施する対象者の絞り込みは、販促(割引)ありで購入する/しない、販促なしで購入する/しないの、4象限に分けて考えよう。
- A:販促(割引)を実施してもしなくても、いつも「買う」
- B:販促(割引)ありのみ「買う」
- C:販促(割引)なしのみ「買う」
- D:販促(割引)を実施してもしなくても、いつも「買わない」
当月の売上を最大化するには、Bの「販促(割引)ありのみ『買う』」に対して割引コードを配布できればよいだろう。販促が購入の後押しとなるようなユーザー行動を分析できれば、確度高く当月の売上を最大化していくことが可能だ。
- 購入数は1050、利益は1020万円
やってみないとわからないという状況から、成果が見込める状況をデータ分析を通じて見つけ出せれば、安定して利益が保てるようになります。その利益を、価格以外の納期など別のサービスレベルアップにつなげて追加で効果を上げていきます。ユーザー行動など過去の実績から学んで効果を予想し、効果がある範囲で細かく施策を実施できるようにすると、効果は上がります(米島氏)
データ分析の考え方のポイント③
過去のデータから確実に成果につながる状況を細かく分析することが大事。
考え方のポイント④チ ームを超えて施策を行う場合、データを現場でみて、一緒に腹落ちして改善を進めていく
【演習④】検索ページ(サイト内検索)利用者経由の購入者数を上げてください
条件は次の通り。
- 検索利用者は1,000人、商品ページ閲覧者は800人、購入者は100人
- ゴール:購入者数を上げること
- できること:検索キーワードごとに、検索結果の商品の並び順を変えること(購入されやすい商品を上に表示するなど)
- わかっていること:キーワードごとの商品の購入率
このような条件の場合、以下のような施策が考えられるだろう。
- キーワードごとに購入率が高い商品を上位にする
米島氏によると、「並び順を変える施策である程度改善するが、実は購入数にはさほど影響がないだろう」という。
表示順を変えることは購入数の増加につながる可能性もあるが、そもそも商品が購入されない大きな原因として「商品自体が魅力的でない」「商品の魅力を十分に伝えきれていない」場合が多い。よく購入される商品ページに共通していることは、次のようなことだ。
- 詳しい商品説明がある
- 商品画像や利用シーンが想像できる画像がある
そういった場合、サイト全体でできることを考え、商品ページの担当者に詳しい商品説明や写真を付けてほしいと依頼をするのがいいだろうと米島氏。
ただし、依頼先が依頼されて困るケースも多い。たとえば「大量の商品ページをすべて変更するのは無理。そもそもどうしてほしいのか分からない」といった場合だ。こういった状況にならないように、「数字やポイントだけを伝えるのではなく、現状を一緒に確認しましょう」と米島氏は提案する。
悪いページ・良いページの数値を担当者と一緒に見ていきます。そうすると、差異を理解でき、売上伸ばしたり、悪いページの改善が進んだりすることもあります(米島氏)
データ分析の考え方のポイント④
同じゴールに向けて活動していても、他チームの人にはうまく進められないボトルネックがあるかもしれない。その場合は何がボトルネックなのかを確認し、データを現場でみて、一緒に腹落ちして改善を進めていくことが大事だ。
継続的に効果を上げるにはサービス自体をよくしていくことが必要
最後に米島氏は、セッションの内容を以下のようにまとめた。
データ活用で効率的に効果を上げることはできますが、効果は短期的で、限界があることが多いです。継続的に効果を上げるにはサービス自体をよくしていくことが必要です。1人や1部門での改善では限界があるので、複数の人やチームでサービスを改善していきましょう(米島氏)
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