マーケティングの勉強になる「社内マーケティング」のすすめ
花王株式会社の辻本です。
マーケターの皆さんは、日々、どのようにマーケティングの理解を深めていますか?
本を読む、講座を受講する、ウェビナーやセミナーを視聴するなど、いろいろな方法がありますが、私が入社してからずっと意識しているのは、「社内マーケティング」です。
私は初期配属の事業企画部で、当時の部長に「社内の悩みを見つけて解決することは、マーケティングの勉強になる。信頼にもつながる」と教わりました。以来、社内の人の悩みを聞き、解決する「社内マーケティング」に、業務時間の10%を使う精神で取り組んでいます。
今回は、私が「My10%ルール」のもと、個人的に行っている「社内マーケティング」についてご紹介します。
社内マーケティングとは
マーケティングの定義は、人によっていろいろですが、私個人は、「ニーズとシーズをマッチさせ、新たな価値を提供すること」と捉えています。
一般的に、ニーズは消費者(生活者、需要者)の求めている必要性、抱えている課題・問題のこと。シーズはメーカー(供給者)の持っている特別な技術や材料、ノウハウのことです。
こうした視点で社内を眺めてみると、社内にもたくさんのニーズやシーズがあることに気づきます。
私が対象としている社内ニーズは「顕在的な悩み・業務プロセスのボトルネック」、社内シーズは「社員のスキル・知見」です。
社内マーケティングによってこれらをマッチさせることで、「業務プロセスの改善策」や「アウトプット向上策」といった新たな価値を創出することができます。
なぜMy10%ルールが必要か?
私は社内マーケティングを「My10%ルール」にのっとって行うと決めています。
- 使う時間は業務全体の10%程度
- 部門間の悩みを解決する
- 新たなツールを積極的に活用する
- 実施結果をフィードバックして、自分の業務に活かす
- 制約条件:所属部署(メディア企画部)の知見につながる事案に限る
制約条件を課しているのは、ただの便利屋にならないようにするためです。業務時間の10%もの時間を所属部署とまったく関係のないことに使っていては、“無駄な時間”と上司に判断されても仕方ないからです。
社内マーケティングで生まれたPDCAサイクル
私がこれまでに行った社内マーケティング活動のうち、「ECの広告投資効果を関係者で確認し、広告のアロケーションやキーワード選定につなげる活動」をプロセス化した事例を紹介します。
この活動をはじめたきっかけは、コロナ禍により、EC全般の利用が増加したことです。
花王の社内を見ると、事業部とEC部には、広告を使ってさらに商品の販促をしたい、広告投資効果を最適化したいという意向(ニーズ)がありました。
一方で、データサイエンス部はBIツールの活用知見を持っていて(シーズ)、BIツールの有用性を確認するために、事業部に使ってもらいたいという意向(ニーズ)がありました。
これらのニーズとシーズをマッチングさせ、新たな価値を生み出せないか、と考えたのです。
【社内のニーズ(悩み)】
- ECを利用する生活者に、広告を使って商品の購入を促したいが、どのようにECに広告投資したらいいのかわからない
- BIツールの有用性を確認するために、事業部に使ってもらいたいが、事業部にどう活用を勧めればよいかわからない
- コロナ禍以前からECへの広告投資は実施しているが、投資を最適化できているか不安がある
【社内のシーズ】
- 事業部とEC部の目指す方向性をすり合わせて、ECへの広告投資の方針を定める知見がある
- BIツールで、ECの広告投資効果を可視化するダッシュボードが存在している
私は「My10%ルール」に従って、主業務に影響を及ぼさない範囲で、各部署の悩みをヒアリングしながら解決策を練りました。そして後日、解決策を関係者に紹介して賛同を得たため、実行に移りました。
【解決策】
- 事業部、データサイエンス部、EC部、メディア企画部が集まる会議を設定
- BIツールのEC広告投資効果のダッシュボードを全員で確認し、広告のアロケーションやキーワード選定を検討
- 広告の効果を見てPDCAサイクルを回し、広告投資効果を最適化する
複数部門で新しいことに取り組むときには、「対話」「相互理解」「共通目標の設定」が不可欠です。
まずは、関係者全員が出席する打ち合わせを設定。私がファシリテーションして、各部門の悩みを発表し合い、お互いの部署の目標や、ECに関する質疑応答などをしました。そうした情報共有の中で、生まれた共通点をもとに全員の共通目標を設定し、実際に広告投資を行いました。
何を目標にEC広告投資するか方針を立てて、PDCAサイクルを回すことで、関係者内のBIツール活用が進みました。今では、私やデータサイエンス部がいなくとも、事業部とEC部だけでEC広告投資を検討できています。
また、関係者の悩みを解消するだけではなく、業務プロセスを資料化して、メディア企画部のチーム内に共有しました。BIツールを使ったことがないメディア企画部のメンバーからは、「ECの広告投資効果が見られるとは知らなかった」という反応があったため、部内の知見が1つ増えたと考えます。
社内マーケティングに必要なこと
社内マーケティングを実施するには、3つの行動が必要です。
- 自分と社内他部署の知見・スキルを把握する
- 常に人の悩みに関心を持ち、傾聴する
- 互いに話しやすい人間関係を構築し、定期的に連絡をとる
コロナ以前であれば、立ち話が上記3つを実現しやすいコミュニケーションでした。しかし今はリモートワークの人も多いため、チャットなどで対応するしかありません。
なにげない立ち話の機会が減っているコロナ禍の状況下だからこそ、とにかくこまめに連絡をとることが大事です。
「相手の時間を奪って申し訳ない」という気持ちで動きにくい方は、「10~15分、相手の時間をとるが、相手が得る便益は大きいか、直接相手に確認する」という意味で、まずは動き出してみませんか。
たとえば、会議が予定より10~15分早く終わったときに、その後の時間を使って相手と軽く話をするだけでも十分です。話した相手も時間を奪われた気はしないはずです。
終わりに
新入社員の頃、私はスキルも知見も経験も何もなかったため、「社内の悩みを見つけて解決することは、マーケティングの勉強になる。信頼にもつながる」という言葉を部長から聞いたとき、自分に何ができるかわかりませんでした。
しかし、社内のプリンターや、会議室の設備に不具合が起きて対応したとき、先輩方に名前を覚えていただいた経験をきっかけに、「小さなことでも良いからまずは誰かの役に立ち、自分から動き出す」大切さを実感しました。
「信頼関係は日々の積み重ねで成り立つ」。ありふれた言葉ですが、本当に大切です。社内マーケティングを繰り返して、他の部署と密に連携できるようになったいま、部長から教わった言葉の意味を実感しています。
入社早々リモートワークを余儀なくされ、自分に何ができるか不安を感じる新入社員、そして、入社2年目の皆さん。何か気になることあれば、ぜひ近くの先輩方に相談してみてください。きっと力になってくれるはずです。
私もまだまだ学ぶべきことが多いので、社内で知見を共有しながら信頼と実績を積み重ねられるようにがんばります。
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