ECで売り上げを伸ばすために必要な7つの視点~グローバル最新トレンドから学ぶ次の“打ち手”
世界のインターネットユーザーの増加に伴い、右肩上がりで成長を続けているのがECである。人々の移動が制限されたコロナ禍の昨今においてその重要度はより増しており、2021年にはグローバルEC市場は4.9兆ドルの規模に達すると予想されている。この成長の背景には何があるのか、また世界の企業はこの成長にどう対応し続けているのだろうか。
Webサイト・アプリ多言語化ソリューションを提供するWovn Technologiesの小林弘佑氏が、「Web担当者Forum ミーティング 2020 秋」のセッションに登壇し、グローバルEC市場で売り上げを伸ばすために必要な7つの視点について解説した。
グローバルECをめぐる世界の動向7つのトレンド
15,000以上のWebサイト・アプリが利用する多言語化ソリューション「WOVN.io」「WOVN.app」を提供するWovn Technologies。訪日外国人や外国人従業員の増加などにより、ECサイトやコーポレートサイトだけでなく、イントラネットなどにおいても多言語対応ニーズは急速に高まり、WOVNのソリューションの導入も急速に広がっている。
小林氏は、その知見を活かし、国内にいるとなかなか得られないグローバルECをめぐる世界の動向について、7つのトレンドを紹介した。
トレンド ① モバイルのさらなる台頭
「このウェビナーをお手持ちのスマートフォンで視聴しているかたも多いのではないでしょうか」――小林氏はこう切り出した。
もはやインターネット全体においてモバイルの台頭は言うまでもないトレンドだが、独Statistaの調査によると、グローバルECにおいて、モバイルからの購入が2020年の時点で全体の7割近くを占めているという。さらに、モバイルECの売上総額は2020年の2兆9100億ドル(約300兆円)から、2021年にはさらに15%増加して、3兆5600億ドル(約370兆円)まで増加する見込みだ。
この増加の理由として小林氏は、Googleなどのプラットフォームがモバイルの台頭に応じてモバイルフレンドリーなサービスを上位に表示させる傾向があること、また、モバイルフレンドリーでない場合に、ユーザーが買い物の途中でカートを放棄してしまう可能性が高くなるということを紹介し、「自社のサイトがモバイルフレンドリーになっているかどうかをチェックしてほしい」と強く推奨した。
また、その次に目を向けるべきは「モバイル体験の向上」だとして、新たなモバイルの手法である「AMP」と「PWA」の対応サービスが増加していることを紹介した。
AMP(アンプ/Accelerated Mobile Pages)
AMPとは、Googleが推奨するモバイルの表示速度を高速化させるプロダクトである。AMP対応自体が検索エンジンでの上昇に繋がる訳ではないが、モバイルフレンドリー度合いが高まるため、検索上位になる期待がある。
データ転送時に負担が少ないことは、ユーザーにとっても発信者にとってもメリットがある。表示速度の速さがユーザーの離脱を防ぐという考えもあり、海外ではECでもAMP対応している企業が増えてきている。
PWA(Progressive Web Apps)
PWAとは、モバイル向けWebサイトのUIにおいて、まるでネイティブアプリのような動作を可能にする仕組みである。
“完全に新規”のユーザーが、アプリストアでふらりとアプリをダウンロードするのはハードルが高く、まだまだ検索エンジンに頼るケースが多い。だが、PWAはネイティブアプリのようにアプリをインストールをする必要がないので、ユーザーにストレスがかからない。
事業者側から見ても、ログイン外のユーザーの情報蓄積ができる上に、高速化が実現でき、オフライン対応もできる。Webアプリケーションとネイティブアプリの“いいとこ取り”をしたハイブリッドと言える。
検索結果からの流入が見込める点や、デバイスやOSごとに設計する必要がないことも特筆すべき点です。まだまだ対応していないOSやデバイスもありますが、メリットが多く、今後重要なファクターになるでしょう(小林氏)
iOS14から登場した「App Clip」
小林氏は「新たなモバイル体験が登場した」と、iOS14から登場した「App Clip(アップクリップ)」についても触れた。これは、アプリをダウンロードせずにオンラインサービスを利用できる機能だ。必要な時に必要な機能のみをダウンロードする――つまり、決済時に決済するための機能のみをダウンロードさせる、といったようなことが可能になる。
このように、モバイルとモバイルでないものや、アプリとアプリでないもの間で体験の垣根がなくなっていくなかで、EC戦略においては「モバイル体験を高める」ことがとても重要であると小林氏は重ねて強調した。
トレンド ② AIとAR・VRが新たな顧客体験を生む
AI、仮想アシスタントの活用
今まではメールや電話で行っていた顧客対応を、AIが仮想アシスタントとして対応する流れが加速しており、すでに日本のECサイトでも導入されはじめている。
顧客が企業に問い合わせをした際に、回答が遅れてしまうと、その事実によってユーザーの顧客満足は低下し、販売の機会損失につながるかもしれない。しかし、AIを活用すれば、ユーザーの知りたい情報をその場で提供することができる。また、優れたパーソナライゼーションは顧客満足度を向上させるが、AIの技術はそれも可能にする。
ARとVRの活用
コロナ禍により、実際に店舗に出向くことが難しくなった昨今、海外では、ARやVRを活用した「新しい顧客体験の創出」への取り組みが非常に盛り上がっている。
例えば、オンライン試着サービスだ。ユーザーが自分の写真を撮ってネット上にアップすると、気になる洋服を試着させた画像が見られる。その際に、自分の体形を登録することで、体型にマッチした試着もできる。
買ったことのないブランドであっても、試着の体験を提供できれば、購入へのハードルが下がるのは想像に難くない。“実際に試着した自分”の背景を変えて、どのようなシチュエーションにあう服なのか試しつつ、ちょっとしたランウェイ気分すら味わえる。
また、例えば、オンラインでは試着だけして実際に買う場合は店舗へ、あるいは逆に店舗で試着だけして、購入はオンラインで行うなど、双方向の取り組みも進められているという。
日本でも、楽天がFits.me社を買収してバーチャル試着サービスを実施したところ、コンバージョン率が3倍以上、非ユーザーに限定すれば4倍以上になったというデータもあります(小林氏)
トレンド ③ サステナブルな取り組みが評価される時代へ
サステナブル(Sustainable)、あるいは、サステナビリティ(Sustainability)とは、「人間・社会・地球環境の持続可能な発展」という意味であり、サステナブルな社会を実現するための取り組みへの気運が世界的に高まってきている。ECにおいても例外ではない。
アパレル企業にとっては今までの大量生産・大量販売のスタイルが否定され、頭を悩まされるところだったが、サステナブルな取り組みに購入の判断を委ねる消費者も出てきている。企業としては取り組まなければいけない要素の一つとなってきている。
さらに、最近ではこれらの流れから、新しいビジネススタイルが生まれつつある。例えば、裁断の工夫により廃棄する布を削減(リデュース)したと発信する例や、自分たちのブランド内に自社ブランド専用の中古買取販売サービス(リユース、リコマース)をたちあげる例やレンタルサービスを立ち上げる例などがある。こういったサービスは、自社での対応が難しい場合、外部プラットフォームと連携して立ち上げることも考えられる。
日本ではいまだサステナブルというワードは「ちょっとCMなどで見るようになってきたな」というくらいの実感かもしれませんが、検索トレンドでは毎年確実に上位にあがってきています。まだまだ関係ないと思っている企業さんには、「それはちょっと乗り遅れていますよ」とお伝えしたい。
「Webサイト上の過剰演出も不要だ、電気消費を減らすべきだ」と言って、データ消費を抑える努力を行うブランドも出始めています(小林氏)
トレンド ④ ボイスコマースの時代が近づいている
ボイスコマースとは、Amazon Alexa(アレクサ)やGoogleアシスタントなどの音声アシスタントを介した購入のことだ。
米Voicebot.ai社は、米国では2025年までに75%の世帯がスマートスピーカーを所有すると予想している。また、Statista社の調査では、米国ではすでに3人に1人が音声アシスタントを通じての購入を体験済みで、2022年にはボイスコマースは米英で400億ドル(約4兆1600億円)以上の売り上げに達すると推定している。
ボイスコマースは、何かを初めて購入する時よりも、定期購入やリピート購入に向いているという傾向はあるものの、日本人が感じている以上に“声だけで購入する”未来はすぐそこにきている。すでに外部のプラットフォームになにかを出品しているのであれば、ボイスコマースを検討してみるのもよいかもしれない。新たな売り上げの機軸を作る可能性が生まれるだろう。
トレンド ⑤ ソーシャルショッピングの準備
小林氏は「皆さんはSNSを何のために使用していますか?」と問いかけた。
もともとSNSの企業利用は、広報や宣伝などを行ってブランド認知を上げるためのものであった。その後は消費者をファン化させるツールとして使われるようになり、最近では、購買行動に直接つながるツールへとシフトし始めている。
Statista社によると、グローバルではすでに、10%以上の人が購買を主たる目的としてInstagramやFacebookを使用している。日本ではあまりなじみがないが、写真共有サービスのPinterestに至ってはその47%が購入を目的として利用しているという。
グローバルに向けての販促を行う場合、Pinterestを使ってマーケティングを行うことは効果的だと思われる。もちろん、Pinterestより利用者が格段に多いInstagramやFacebookも販売機能が向上しつつあり、これらを介して購入するということへのハードルは年々下がってきている状況である。
来年にかけてソーシャルショッピングへの準備を始めることは、マーケターにとって重要なことだと思います(小林氏)
トレンド ⑥ ダイナミックプライシングの採用
ダイナミックプライシングとは、季節や時間帯によって価格が動的に変わることである。例えばホテル代が、土日や行楽シーズンには高く、平日やオフシーズンには安く設定されるなど、旅行業界や航空会社などではかなり昔からある一般的な技術だ。
最適なタイミングで価値提供を行うことで競争力が維持される、という考え方から、ECにおいてもこのダイナミックプライシングを採用する企業が国内外で増加傾向にある。季節や時間だけでなく、販売する国によって価格を変えたり、在庫の少ないものの価格を上げたりすることは、いまやその商品の価値を高めるための方策となりえる。
シンプルな例として、外部プラットフォームで販売している商品を、そのプラットフォーム内の競合と比べて有利になるよう価格を変動させるという例がある。自社サービスにそれらを組み込むためのツールもさまざまに登場してきている。
日本では「相手によって価格を変えるのはどうか」という考え方が根強いかもしれませんが、挑戦する価値はあるでしょう(小林氏)
トレンド ⑦ 増加する対応言語
毎年、優れた世界のグローバルWebサイトがピックアップされる「Web Globalization Report Card」において、2020年の上位150サイトの平均対応言語は、なんと平均33言語に達した(出典:The 2020 Web Globalization Report Card)。
例えば、Airbnbは、2018年から2019年にかけてサポート言語を31言語から62言語と倍増させ、Mastercardは同じく2018年から2019年にかけて34言語から43言語まで拡大させるなど、グローバル企業のWebサイトの対応言語数はここ数年で一気に増加している。
その背景には、アクセスできるエリアの拡大に付随して、人々が「母国語で情報を得たい」と思っていることがあるだろう。EUの大手調査会社Eurobarometer社によると、EUは日本よりマルチリンガルな環境下にあると言えるが、それでも20%近い人は「外国語でWeb閲覧をしたことがない」と答えている。購買活動においてはさらにこの傾向は強まり、4割以上の人が「母国語以外のWebサイトでは購入をしたことがない」という。
これに対して、日本は多言語対応に関しては後進国であると言われている。しかし、世界中のインターネットユーザーの中で、日本語を使用している割合はわずか3%である。インターネットユーザーの利用言語割合をみると、日本での外国語対応において筆頭にあがる英語の利用者ですら全体の約25%にすぎず、非英語圏の主要7言語で全体の46%を占める。
これだけではない。2020年時点では約40億人と言われているインターネットユーザーは、2030年には60億人に達すると見込まれている。そして、その増加分の20億人はほぼ非英語圏のユーザーであると予想されているのだ。多言語への対応の重要性が理解できるだろう。
日本は今後人口が減少し、マーケットは縮小していきます。デジタルシフトを進め、購買市場を広げていくために、多言語対応はポテンシャルの高い投資になりうるでしょう(小林氏)
新たな価値を創造できないと売り上げは伸びない
小林氏がここまで紹介した7つのトレンドはすべて、「新たな価値創造」のためのものだ。
デジタルシフトとサービスの国際化が進む中では、新たな価値を創造できなければ売り上げが伸びないのが世界の情勢だと言えます。この新たな価値とは、単純に「Webサイトの充実」のことだけではありません。「戦略」「マーケティング」「仕組み」などそれぞれの面において言えることです(小林氏)
国内でも、業種業態や企業規模に関わらず、外国市場や外国人対応に舵を切る先進企業は増え続けている。新たな価値を強化すべく取り組みを行っている企業の事例を見てみよう。
事例 ① オルビス
オルビスは、グローバル市場でのブランド認知向上を目指し、海外ユーザーへの情報発信を強化した。
オルビスはもとより国内ではEC利用率も高く、顧客満足度が高い。そこで、そのEC部分を多言語化し、海外ユーザーとの接点とした上で、サステナブルな取り組みやメッセージの発信を行うことで、グローバル市場での認知向上に結び付けた。
国内店舗での売り上げ増加の見通しが厳しいなかで、いずれ世界的にコロナが収束した際には、来日した顧客にインバウンドで店舗を訪れてもらえるように先を見据えて取り組んでいるという。
事例 ② 資生堂ジャパン
資生堂ジャパンは、銀座に“ヒューマンタッチ”と“最新テクノロジー”を融合させたブランド体験を多言語で提供する実店舗「SHISEIDO GINZA TOKYO」をオープンした。
コロナ禍で実店舗を訪れることがためらわれる現状のなかで、AR/VRを用いたデジタルテスターの活用や、疑問点や商品情報を店員に聞くかわりにデジタルで多言語対応して提供するなどの方法によって、実店舗でありながら、トライアルから購買までをすべて非接触で可能にしている。
また、この店舗に興味を持った在留外国人がSNSで発信し、興味を持ってサイトを訪問した人がいた場合も、多言語で情報が得られるようにするなど、バイラル(口コミ)マーケティングを目指して、ソーシャルで種まきをしている状況だという。
オンライン、オフライン両方で新たな価値を創造している事例と言えるだろう。
今回紹介された事例は時間の関係で2社に留まったが、海外を含め、先進企業の取り組みについては、「WOVN.io」のe-Bookやウェビナーでも紹介されている。
小林氏は最後に、「WOVNでは、『世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする』というミッションを掲げています。今回の講演で、WOVNに興味を持っていただき、多言語対応や新たな価値の創造などについて話す機会になれば幸いです」と述べて、講演を締めくくった。
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