プロ野球も導入した「ダイナミックプライシング」をECに活用したらどうなる? 利益増を達成したECサイト事例
この記事は、姉妹サイトネットショップ担当者フォーラムで公開された記事をWeb担当者Forumに転載したものです。
消費者の購入意欲に合わせて商品の販売価格をリアルタイムで自動変更できれば、体力勝負に陥りがちな価格競争から脱却し、利益を最大化することができる――航空業界やホテル業界に代表されるこの販売方法「ダイナミックプライシング」を取り入れたECサイトがある。化粧品ECやシステム開発などを手がける日光企画だ。
消費者に適切なタイミングで適切な価格を提示し、利益を最大化することに成功した日光企画は、自社で企画・開発したEC向けシステム「ダイナミックプライシング」の外部提供を始めている。「ダイナミックプライシング」はECサイトの新たなマーケティングツールになり得るのか? マーケティング事業部・中村嘉孝部長が自社の事例を交えて解説した。 写真◎Lab
値上げ・値下げを繰り返し、利益を最大化するロジックを考案
ECの価格戦略は非常に重要だが先行事例が少なく、他社の取り組みを知る機会は少ない。そのため、値決めで悩むことが多いと思う。需要と供給に合わせて販売価格をリアルタイムに自動調整し、利益を最大化する方法について、弊社の事例を踏まえて解説したい。
中村氏は講演の趣旨を説明し、「ダイナミックプライシング」を自社のECサイトで活用した事例を解説した。
日光企画はブランド化粧品のECサイト「コスメパンプキン」を運営しており、自社サイトやECモールなど計6店舗を展開している。EC事業の収益改善を図るため、さまざまな施策を試す過程で「ダイナミックプライシング」の導入にたどり着いたという。
「ダイナミックプライシング」とは、ITを活用し、需要と供給に合わせて商品の適正価格を導き出す手法。航空会社のチケット、ホテルの宿泊予約といったサービスで導入されている手法で、需給バランスによって価格が変動する仕組みと言えばわかりやすいだろう。
EC業界でも競合店の販売価格を調査し、自社のECサイトでの価格を調整する企業は多いが、大きな労力と手間がかかる。それを、自社在庫の需給バランスに応じてリアルタイムに把握し、販売価格に自動反映する仕組みがITを駆使した「ダイナミックプライシング」だ。
日光企画は当初、需給バランスに基づく価格調整を手動で行っていたが、人力では効率が悪いため、「ダイナミックプライシング」をリアルタイムに自動で行うシステム「throough(スルー)」を独自に開発した。
現在は自社ECサイトや一部のECモールで、商品の値上げや値下げ、価格のABテストなどを行っているという。日光企画が実践している「ダイナミックプライシング」の取り組みを紹介しよう。
【事例1】 在庫残数が2個になったら値上げ。希少価値を訴求する
「ECサイトで、ある商品の在庫が残り2個以下になると販売価格を2%値上げする」。このルールを設定した理由は、「在庫が残りわずかになると商品の希少性が上がるため、需要と供給の関係で販売価格は上がるはず」(中村氏)と考えたからだ。
値上げを行う在庫残数や値上げ幅を試行錯誤し、売り上げを落とすことなく利益が増える着地点を発見した。値上げを成功させるには次の2点が重要になることもわかった。
- 値上げ幅が適正範囲内であること
- 商品の希少性をECサイトでしっかりアピールすること
値上げによる収益改善の例として、売価5000円、仕入れ価格3500円、販売コスト1000円の商品を2%値上げした場合の収支計算を説明した。
わずか2%の値上げでも利益へのインパクトは大きい。売上高は100円増えるだけだが、利益は500円から600円に20%も増加する。1商品あたりの利益額は小さくても、取扱商品全体で見たときの利益への貢献度は無視できない。(中村氏)
【事例2】 販売件数が急増したら即座に値上げ
「コスメパンプキン」では、取扱商品がテレビなどで紹介され販売件数が急増した場合、リアルタイムで販売価格を上げている。コンバージョン件数を常時監視し、通常ではありえないほどの注文が殺到したときに自動で値上げするという。
一般的に需要が増えれば、商品やサービスの販売価格は上がる。「ダイナミックプライシング」を取り入れていたホテル業界を例にあげると、大型連休や年末年始などのハイシーズンにホテルの値段が上がるのは、需要の増加によって空いている客室が減少、1室あたりの価値が急増しているため販売価格をそれに見合ったものに調整する仕組みになる。日光企画は「throough」を活用し、こうした価格調整を自動で行っているのだ。
【事例3】 売れ残った商品は段階的に値下げし、不良在庫を減らす
不良在庫を減らすため、商品価値と連動したプライシングも行っている。たとえば、化粧品は使用期限が定められているため、発売から日数が経つほど価値は下がると考えられる。また、シーズンごとの新商品が発売されると、旧シーズンの商品価値や人気は落ちる場合が多い。
商品価値が目減りしたら、その下落に合わせて販売価格も段階的に引き下げることで、商品の価値と販売価格の乖離を少なくした。こうすることで、発売から時間が経った商品も定期的に売れるようになり、不良在庫率が41%から18%に下がったという。
かつては、年2回の大型セールで在庫処分を行っていたが、その場合、セール以外の時期は売れにくく、不良在庫が積み上がりやすい状況に陥った。「throough」を使って「ダイナミックプライシング」を自動化し、在庫の課題を解消することに成功した。
適正価格を導く「売価のA/Bテスト」
「コスメパンプキン」では「販売価格のA/Bテスト」も行っている。「顧客のニーズや競合ショップは常に変化しているのに、自社の販売価格がずっと変わらないのはおかしい」(中村氏)と考えたためだ。
たとえば、A/Bテストでは2種類の価格を設定し、どちらの価格で販売すれば利益が多いかを調査。一般的に販売価格を上げると販売数量は減るが、利益率は上がるため、「利益を増やすことを重視するのか、それとも販売個数を優先するのか、経営方針を踏まえてA/Bテストを行い、適正価格を判断する」(同)と言う。
競合の販売価格は意識しすぎない
自社の取り組みを説明し終えた中村氏は、一般的に行われている競合企業の価格調査について疑問を投げかけた。
競合企業の価格を意識することは、本当に必要だろうか。競合の価格を意識して値下げ競争に陥ることは多い。値下げは売るための手段であるにもかかわらず、競合の価格を意識しすぎるあまり、値下げを目的化してはいけない。競合の情報は結果的に自社のコンバージョンが教えてくれる。(中村氏)
また、現在は中古品ECやフリマアプリの台頭、さらにはシェアリングエコノミーの拡大に伴い、適正な販売価格を見極めることが難しくなっていると指摘する。
「ダイナミックプライシング」はすでに大手ECモールや野球のチケット販売会社、電力会社、ガス会社などが導入していることを説明。また、政府の産業政策に「ダイナミックプライシング」の推進が盛り込まれていることにも触れ、「ECにもダイナミックプライシングが求められている」と強調した。
ちなみに、経済産業省の「消費者理解に基づく消費経済市場の活性化」研究会(消費インテリジェンス研究会)は次のように、2030年代の消費経済市場について予測を報告している。
確実に起こると想定される未来等として、AI、生体認証、自動運転等の技術発展や、働き方の多様化、シェアリングエコノミーの更なる普及、CtoCの増加などの社会変化等により、消費の価値観の多様化、個人のものづくりの進展、ダイナミックプライシング、個人向けレコメンドの発達といった変化が生じ得る。
政府が創設した人工知能技術戦略会議が2017年3月に公表した「人工知能の研究開発目標と産業化のロードマップ」にも「ダイナミックプライシングの実現」が組み込まれている。
AI(人工知能)を活用して、最適なプライシングを自動化するシステム「throough」
日光企画が開発している「throough」は、AI(人工知能)を活用して商品1つひとつの需給バランスに応じて、プライシングを適切なタイミングで自動的に行う。「楽天市場」とAPI連携済み。今後、「Amazon.co.jp」「Yahoo!ショッピング」など主要モールやASPサービス、カートシステムに順次対応する計画だ。
クラウド型サービスとして外部企業に提供しており、利用料金は今後テストユーザーにヒアリングしながら決定していく。現在、東京・大阪の企業限定で、無料のテストユーザーを募集しているという。
今後は人工知能を活用し、さまざまなマーケットデータに基づいて適正価格を導く仕組みも導入するとしている。
今回のセミナーで中村氏が自社の価格戦略を公開することを決めた理由について、「価格戦略で悩むEC企業が多いと感じていた。これまでの主なキャリアはEC企業が多く、利益を確保できていないEC企業さんの収益改善をサポートして少しでもEC業界に恩返ししたいと思い、このような機会をいただいた」と参加者に訴えかけ、セミナーを締めくくった。
オリジナル記事はこちら:プロ野球も導入した「ダイナミックプライシング」をECに活用したらどうなる? 利益増を達成したECサイト事例(2018/02/08)
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