今求められるSEOとは? 検索ユーザーの評価を高めるA/Bテストのススメ | MozCon2019レポート
小手先のSEOでどうにかなる時代は10年前に終わった。
現在の検索結果は、かつてのようなマークアップやキーワードなどの影響力は弱まり、「ユーザーによるページへの満足度」の影響力が強まっていると言われている。その変化に合わせたSEO施策の立案・実行プロセスはどうあるべきか。
ロンドン他に拠点を持つデジタルマーケティング支援会社「Distilled」のロブ・オースベイ(Rob Ousbey)氏は、米国シアトルで7/15~19に行われたMoz主催のカンファレンス「MozCon2019」に登壇し、今日のSEO環境を前提とした望ましいSEO施行ワークフローのあり方について語ってくれた。
ランキング要因: リバースエンジニアリングが可能だった時代
約10年前までは、サイト内外のどの要素がGoogleの検索順位に影響を与えるかを調査する「ランキングファクター調査」がしばしば行われていた。
たとえば、次のような項目だ。
- タイトルタグでのキーワードの使用
- リンクのアンカーテキスト
- リンクポピュラリティなど
前回、紹介したランド・フィッシュキン氏がランキングファクターを解説するWhiteBoard Firday(MozがSEOについてのアドバイスを行う動画)は人気のコンテンツだった。
要素と順位の相関データを調査して、相関性の高いものが有力なランキングファクターとされた。このようなリバースエンジニアリングが可能だったのは、なぜか――。
それは、かつての検索アルゴリズムは、Google内部の人間によって作られていたからである。Googleのアルゴリズム策定に関わるエンジニアや情報検索のスペシャリスト達が、一同に会議室に会して議論し、アルゴリズムの調整を常に行っていたのである。
人間が考えるものであれば、別の人間によってある程度の分析は可能でもあったということだ。
ユーザー行動データとAIを手に入れたGoogle
しかし、今日、すべては変わってしまった。
Googleに起こったこの10年で大きな変化は、以下の2つである。順に説明していく。
- 世界最大のオンラインユーザーの行動データを保有する企業となった
- 高度な機械学習を駆使する、AIファーストカンパニーへ変貌した
世界最大のユーザー行動データ保有企業としてのGoogle
今日、Googleは単に検索エンジン会社というだけでなく、世界で最も利用者数の多いウェブブラウザ(Google Chrome)やモバイルOS(Android)などのインターネットの入口となる基盤部分を提供する企業となった。
Googleは、ブラウザ上での閲覧行動データや、モバイルOS上でのアクティビティデータを(パーミッションを利用者から得た上で)利用可能な立場にある。
このようなデータは、外部リンクのように間接的にウェブサイトの価値を推し量る指標よりも、より直接的にユーザーの満足度を知るのに有益なデータソースとなるはずだ。
AIファーストカンパニーとしてのGoogle
ブラウザなどを通じて得られる大量のユーザーデータを分析する際に必要となるのが、機械学習だ。Googleはこの技術の研究開発に大規模投資し、さまざまなデータを機械学習で処理するようになってきている。
ユーザー体験の質が検知可能に
大量のユーザー行動データとそれを適切に分析する機械学習技術の活用により、悪いユーザー体験を検知することが可能になった。
たとえば、あるキーワードでの検索結果画面で最上位のウェブページをクリックしたが、意図する情報が得られないと感じ、すぐさま検索結果へ戻ってきてしまう現象(「ポゴスティッキング(Pogosticking)」とオースベイ氏は発言)、は最もわかりやすい例だろう。
検索クエリにもよるが、望ましくないユーザー体験のシグナルとなり得る。ポゴスティッキングが積み重なると、該当クエリでのそのページのランキングが下落することが知られている。
ユーザーエンゲージメントのランキング影響に関する様々なデータ
ユーザーエンゲージメント指標のSEOに対する影響については、さまざまなSEO専門家達による調査が行われてきた。
- Wordstream:検索結果上でのクリック率と順位に相関があることを示す調査
(2016年:https://moz.com/blog/does-organic-ctr-impact-seo-rankings-new-data) - Backlinko:直帰率と順位に相関があることを示す調査
(2016年:https://backlinko.com/search-engine-ranking) - Search Metrics:ページ滞在時間と順位に相関があることを示す調査
(2018年ホワイトペーパーのダウンロード:https://www.searchmetrics.com/knowledge-base/ranking-factors/)
また、CNBCの取材記事の中で、Googleエンジニアが、あるアルゴリズムの検証作業時に、「何%のユーザーが検索結果へクリックバックしていたか」を計測するシーンが記述されている。
アルゴリズムの「検証」には少なくとも、エンゲージメント指標が用いられているのである。
ユーザー行動データのランキング影響が強いケースは?
検索ユーザーの行動データがランキングに大きく影響を与えるケースは2つ考えられる。
検索結果の1ページ目
ユーザー行動は、そもそもトラフィックが発生することによって生まれる。
サーチコンソールのデータなどを確認すれば明らかだが、検索結果ページにおけるクリックの発生は1ページ目に集中するものだ。2ページ目でもクリック発生はあり得るが、1ページ目に比べれば、随分と少なくなる。
ということは、1ページ目に表示されているページに対するユーザー行動データは大量に蓄積されるが、2ページ目以降はそうではないということである。
Distilledでは、検索結果の1ページ目と2ページ目にランクインしているページの順位とリンクの相関について調査を行った。
その結果、以下の事柄が明らかとなった。
- 検索結果1ページ目の上部に掲載されているページの順位とリンク指標との間には相関性がほとんど見られなかった。
- 2ページ目に掲載されているページとの間には相関性が認められた。
- 1ページ目の下部に掲載されているページとの間でも若干の相関が確認された。
裏返せば、ユーザー行動データは、より上位ページ間のランキング競争において、重要なシグナルとしての役割を果たし、下位のページでは他の指標(リンクなど)の比重が高まる傾向にあるということだ。
検索数の多いクエリ
同様に、検索数の多いキーワードほどユーザー行動データは蓄積しやすく、ロングテールキーワードになればなるほど、その蓄積は少なくなる。
キーワードの検索市場別に同様の調査を行ったところ、以下の結果となった。
- 検索数の多いキーワード:リンクとの順位相関は弱い
- 検索数の少ないキーワード:リンクとの順位相関あり
悪いユーザー体験がSEOに与える影響
ここで、悪い検索体験がSEOに与える影響について少し見てみよう。事例としてForbesを取り上げたい。
Forbesのメインコンテンツは素晴らしいものだが、広告を始めたとしたさまざまな仕掛けが検索から訪れたユーザーにとって大変煩わしいものとなっており、Googleに対して残念なユーザー行動シグナルとして伝わっているようと考えられる。
- メインコンテンツと全く関連性の無い動画広告(サイドメニュー)
- 動画広告のプリロードの開始(ページ上部)
- ブラウザプッシュのオプトインダイアログ
- スクロールダウンすると再び関連性の無い動画広告
このような体験を提供するForbesサイトの自然検索トラフィックはどうなっているのだろうか。
サードバーティツールからの推計となるが、外部リンクは右肩上がりに上昇しているにも関わらず、自然検索トラフィックは前年対比で35%減少というデータとなっている。検索エンジン経由ユーザーに対するUXのSEO影響は、確かにあると考えることができるはずだ。
Mozのドクター・ピート氏(Dr.Pete)がシェアしてくれた経年でのMozcastデータを見れば明らかなように、3年ほど前から、常に暖色に染まっている。すなわち順位変動が常態という時代に突入している。
日々、大量に蓄積されていくユーザーの行動を素早く分析してランキングへ反映させていくAIファーストカンパニーとしてのGoogleの姿を感じさせるチャートである。
今の時代に即したSEOアプローチとは?
これまで見てきたように検索ユーザーからの直接評価(満足度)がランキングに反映される時代において、SEOの施行プロセスも大きく変わらなければいけないはずである。
SEO施策の効果検証の難しさ
まず、ユーザーが満足するUIには、たったひとつだけの正解というものは存在しない。したがって、必要になるのは、実験的アプローチである。
実験的アプローチで考えていくにあたって、あらかじめ解決しておかなければいけないことがある。
それはテスト条件を揃えることだ。
たとえば、施策前後での自然検索トラフィックの単純な変化による成果判定はミスリーディングにつながる場合がある。
- 強いシーズナリティが存在する業界の場合
- GoogleのSERPに大幅な変更が施された(ホテル検索のローカルパック等)場合
上記のようなケースでは注意が必要である。
このような前提条件の変化を吸収できるような設計が何よりもまず求められる。
その上で、ユーザー行動に対する最適化を意図して、さまざまなUX改善や内部施策を同時並行実装することになる。
仮に、7つの施策を同時に実施し、施策前後で14%の自然検索トラフィックの向上が見られたとする。トラフィックが伸びた事自体は大変喜ばしいことだが、少し立ち止まって考える必要がある。
本当に7つの施策は、均等に2%ずつ流入向上に貢献したのだろうか?
答えは、「ノー」だろう。
実際には、いくつかの施策は確かなプラス貢献があり、いくつかは貢献がなく、残りはむしろマイナス影響を与えた可能性がある。各施策の影響度合いを的確に把握することができれば、もしかするとトラフィックの増加率は14%ではなく、さらに向上させることが実現できるかもしれない。
そうなれば、SEOプロフェッショナルとしてのあなたへの信頼もより増すことになるだろう。
解決策:SEOのスプリットランテストの実施
これを実現するための手法が、SEO観点でのスプリットランテスト(A/Bテスト)である。
スプリットランテストの設計例としては、以下のようなものが考えられる。
例)あるペット関連ウェブサイトのカテゴリページ
A/Bテストを正確に行うためには、同じ条件下で、AとBを比較しなければならない。そのため、現行デザインとテストデザインを同じ条件下で比較し検討する。前者のことをコントロールグループ、後者をバリアントグループという。
- 現行デザイン(コントロールグループ):「ページ大見出し→導入文→画像」という構成
- テストデザイン(バリアントグループ):「ページ見出し→動画→リスティクル形式テキスト(箇条書きでまとめられた形式)」という構成
カテゴリページという「同じテンプレート」の枠組みの中で、2つのレイアウトパターンを用意することで、正しいテスト結果が得られるのだ。
コントロールグループとバリアントグループは施策前段階では、ほぼ同じ自然検索トラフィックである。
もし、バリアントグループのUIが良質なユーザー体験につながるものであれば、ローンチ後にバリアントグループのみ自然検索トラフィックは向上していくことにる。
A/Bテストを通じた学び
SEO観点でのA/Bテストは、単純なものから複雑なものまでさまざまなケースが考えられる。
Distilled社のテスト事例からいくつか紹介する。
ケース1: タイトル変更テスト
- 仮説:Eコマースサイトでは、通販(Online)であることは自明だから、カットしても問題ないのではないか?
- 実施内容:バリアントグループとして、Eコースサイトのタイトルタグから「Online」を削除してみる(例:「Buy Dresses Online」、「Buy Hats Online」、「Buy Belts Online」からOnlineをカット)
- 結果:変更実施後、すぐさま順位が下落。ただ、Online記述を復活させると、順位もすぐに復活
- 学び:タイトル変更による変化の影響を、元に戻すことは可能(Reversible)
ケース2: JS レンダリングテスト
- 仮説:Google公式ブログにて、Googlebotがモダンブラウザのように振る舞うようになり、JavaScriptも素敵にレンダリングしてくれているとの記事があった
- 実施内容:バリアントグループに、HTMLにコンテンツを直接出力するパターンを加えてテスト
- 結果:バリアントグループの自然検索トラフィックが、コントロールグループ(JSベース)に比べて、6.2パーセント上昇
- 学び:Googleは最も信頼できる情報ソースとは限らないときもある(会場内笑)
ケース3: 新鮮なコンテンツが評価されるかどうかのテスト
- 仮説:コンテンツの鮮度がランキングに影響があるかどうかを検証したい
- 実施内容:記事に関する構造化データマークアップの更新日時(dateModified)部分を、プレーンに日付を出力させず、Today関数を出力
- 結果:大変興味深いデータが出たが、内容は自粛(会場内再び笑)
どのテストにも言えることだが、あるテストで成果が出たとしても、同じ施策が別のサイトでは全く効果が出ない、あるいはマイナスにつながることがある。
ここで紹介する事例もすべてのサイトに当てはまるものではないと考えていただきたい(皆さんのサイトで独自にテストを是非実施して欲しい)。
検索ユーザーの満足度はA/Bテストで検証
最後に、オースベイ氏はSEOにおけるA/Bテストの重要性を次のように語りセッションを締めくくった。
- ユーザーの検索体験がランキングに直接反映されるようになってきている
- ピンタレスト(Piterest)、ジロー(Zillow)など開始する企業がどんどん出てきている
- 成果の出る施策を的確に識別できることで、SEOとしてのあなたへの信頼度の向上に資する
- 実行できるツールや環境が整ってきている
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