ワークマン、需要予測で前年比売上平均3%増。足掛け5年の「データ経営」を語る
データ経営は、物流、新規事業立案、人材確保、広告・広報などのあらゆる面で重要。全社員がデータに苦手意識を持たないようにしっかりとデータ教育を行い、データ分析力を上げることによって、業績向上を図ることができた(土屋氏)
個人向け作業服小売業のトップランナーであるワークマンは、新規事業としてアウトドアウェアの新業態店舗「WORKMAN Plus」の展開を開始。世間の注目を集めると共に、業績も堅調に推移している。この背景には、5年前から取り組み始めた「データ経営とデータ教育」、需要予測による店舗の「完全自動発注システム」がある。
アナリティクス アソシエーション(a2i)主催で4月9日に開催された「アナリティクス サミット 2019」にワークマンで常務取締役を務める土屋哲雄氏が登壇。同社のデータ活用の実際を紹介した。
ブルーオーシャンを狙った「WORKMAN Plus」
ワークウェアの市場がある程度飽和状態となり、団塊世代の建設技能労働者が引退していくなかで、新規事業の開発が急務となってきた(土屋氏)
「これまで他社と競争したことがない」というほど、個人向けの作業服小売業で圧倒的なシェアを持つワークマンが、「アウトドア」という新たな領域に踏み出した理由を上記のように明かす。
もっとも、「熾烈な競争下に身を置いたことのない企業に勝ち目があるのか」という問題意識もあり、失敗しない第二のブルーオーシャンを見つける必要があった。
そこで、矛先を向けたの「アウトドア・スポーツ市場」。アウトドアウェアの新業態店舗「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」は、大きな話題を生むこととなり、日経トレンディ2019年のヒット予想ランキングで1位を受賞した。
ワークウェア業界全体が「スタイリッシュな作業服」へと変わりゆく動きを追い風に受け、もともと得意としていた耐久性や機能性をアウトドアシーンで活かす戦略をとり、新たな客層の獲得に結び付けることに成功したのである。
また、アウトドア系のアパレル市場には競合が多数あるが、「WORKMAN Plus」は高い機能性を持ちながら、手頃な価格で販売しており、他スポーツメーカーの1/4以下、アウトドアメーカーの1/3以下の価格帯を実現している。
事実上の空白市場を狙うことができたと土屋氏は説明する。
データ教育の徹底とデータ経営の推進
4年前から勘と経験がない新業態への進出に備え、BI(Business Intelligence)を導入し活用してきたワークマン。データ経営に向けた社内の足並みを揃えるために、Excelやデータ分析の教育を始めたのはさらに、その2年前からのことだ。その際、土屋氏が気を付けたポイントとしては以下がある。
- 出題者の自己満足で難しい問題を出すのではなく、回答者が自信を失ったり、苦手意識を持ったりしないように「平均が90点になる」ように出題を工夫した。
- 上級者向けの教育では、需要予測のアルゴリズムを自分で作って、過去1年のデータを使ってシミュレーションと検証ができる環境を整えた。
こうしてデータを扱える人員を増やしていった同社は、BI導入の3か月後に「ツールの使用頻度と、仕入れ提案などにおける行動パターン」についての検証を試みた。その結果、興味深いことが判明した。
- 多い従業員:データに基づいて自信をもって提案している
- 少ない従業員:店長との信頼関係に基づいて提案している
経験には個人的な思い込みなどが紛れ込みやすく業務品質が一定しにくい。データを起点に議論できる人をひとりでも増やす必要があることから同社は、各部署に分析チームを作り、年数回の分析発表会を行うなどの努力を積み重ねてきた。
こうした取り組みが奏功して、品揃えやサイズ展開、店舗在庫などを最適化する上でさまざまな気付きを得ると共に、データを重視する風土が醸成できてきたと土屋氏は説明する。
データ経営を5年近くやってきた結果、「増収増益が続き、上位下達型の企業文化から脱して若手がデータを基に議論できるようになった」と土屋氏。また、部長クラスの任用条件に改革意欲とデータ分析力が加わり、スーパーバイザーが実績データから導き出した売場作りや品揃えなどの提案を店長が聞き入れるようになった変化も見逃せない。
そのほか、在庫回転日数と欠品率の大幅改善、適正な入荷量のコントロール、WORKMAN Plusに改装すべき既存店の選出と適正家賃の算出なども大きな効果だ。
一方で、苦労した点として同氏は「直感でわかる相関関係と、実験でしか検証できない因果関係を混同しやすく、因果関係を見ずに相関関係だけで判断することもあった」と明かす。
このような過ちや思い込みがあったとしても、頭ごなしに否定することは本人のやる気の低減、換言すれば全社一丸となったデータ経営の芽を摘んでしまうことになるので、「まずは褒めてから、別のやり方もあると示すことが重要だ」とアドバイスする。
需要予測に基づく善意型サプライチェーン
需要予測システムに話題を移した土屋氏は、「需要予測やサプライチェーンは、十数年前にはやりとなったが次第に熱が冷めていった。しかし、地道にサプライチェーンを作ってきた会社が業績がよいと思っている」と話す。
100坪の標準店舗を構え、97%が共通という全国一律の品揃えとなっているワークマンは、値引きやチラシ特売がほとんどないことで“ゴミ”の少ない標準化されたデータを持っており、そのことが需要予測やサプライチェーンの礎になっているという。
ワークマンでは、需要予測値を渡した上で主要国内ベンダーの“善意に任せたサプライチェーン”を実践しており、納入数は上流の情報優位者が決定する。
「加盟店側よりも本部のほうが各店舗のことがわかっているため、本部が納品数を決定する。納品数が多過ぎるとお客様の邪魔になり、少なすぎるとせっかく買いに来てもらったのに欠品ということになるため、加盟店は、本部の納品数に従って一括承認してもらっている。違う納品数で個別に発注した場合は奨励金などがなくなると伝えることで、ほとんどの店舗が一括承認してくれている」と土屋氏は話す。
需要予測については、タイプの異なる複数のモデル(アルゴリズム)を用いて予測値を算出。直近の予測誤差率を比較して、最も優秀なモデルによる予測値を採用することを繰り返すことで精度を上げているという。これらのアルゴリズムは市販のパッケージに内包されているものがベースだ。
この需要予測を発注システムに組み込むことで、商品ごとの現在の在庫数、予算シミュレーション補正値(補正後推奨発注数)などをはじき出す。さらには、発注間隔や調達リードタイムの間に欠品が発生しないように、安全在庫を加味して算出するといったキメ細かい措置を講じている。
ベンダーから善意型で自主納品された製品の在庫回転日数とサービス率を毎週チェックし、数値が悪化しているとわかった場合には「抗議するのではなく、改善のために一緒に考えるようにしている。そうして培うノウハウこそが強みになるはず」と土屋氏は来場者に訴えた。
需要予測発注の効果として「需要予測店舗の売上は未導入店舗より平均で3%上回って伸びている」と話す同氏は、最後に、需要予測発注が好調である理由を次のように示して講演を締めくくった。
直近の販売数から需要を予測して在庫を増減させることができる。
- 人の感覚や固定概念に囚われず、月販に応じて発注するため、本当に必要な商品を入荷できる。
- 陳列台帳の定数にこだわらず、必要な数量を入荷させるため、店頭欠品を防止できる。
- 未来の需要を予め予測して発注するので、機会損失が起こりにくい(店頭欠品4%)。
専任チームが発注状況を確認
- 自動発注設定チームが、発注状況や在庫内容を分析して対策を立てる。
- 分析結果から、最適な発注が出るようにロジックの設定を変更している。
- 毎週会議を行い、問題点を数値で分析し、対策を行っている。
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