B2B企業でデータ分析チームを作るには?
データ活用について問題意識や意欲がある人がまずはリーダーシップを発揮し、社内横断的に構成メンバーを集め、少人数のチームを作る。批評するだけでなく、ビジネス改善プランを出せる「頼れる組織」へと強化することを意識し、さらにアグレッシブな提案ができる組織へと段階的に成長させていくことが重要だ
アナリティクス アソシエーション(a2i)主催で4月9日に開催された「アナリティクス サミット 2019」に登壇したアビームコンサルティングの本間充氏は、自身の経験も踏まえて、企業内におけるデータ分析チームの強化方法について講演した。データサイエンティストが慢性的に不足していると言われている中で、どのように人材を見つけ、どのようにチームを組み、実効性を伴う組織として育てていけばよいのだろうか──。以下に同氏が語った内容を紹介しよう。
データサイエンティストを強化するには
Googleトレンドのデータを見ると、「データサイエンティスト」という言葉が盛り上がり始めたのは、ハーバード・ビジネス・レビューの日本語版でデータサイエンティスト特集が組まれた2013年2月頃からだ。
その半年後の2013年7月には、データサイエンティスト協会が発足している。「データサイエンティストという言葉が注目されてからまだ6年しか経っていない中で、どの会社もどうやって専門家チームを作るかに悩んでいる。この分野で遅れを取っていると思っている企業も多々あると思うが、リードタイムがまだ短いので今からでも十分に追い付ける可能性がある」と本間氏は強調する。
多くの企業がデータサイエンスに関わる部署を立ち上げ始めているのは周知の通り。もっとも、メンバーを評価する上司がデータサイエンティストでなかったり、組織(チーム)として成熟していないことから複数の役割を1人でこなしたり、社内に相談相手がいなかったりといった課題も多い。また、B2B企業においては、他の業務との兼業でデータ分析にあたっているケースも少なくないという。
データサイエンティストは、その名が示すデータサイエンスだけでなく、3つのスキルセットを備えなければならないと説明する本間氏は、データサイエンティスト協会のスキルチェックリストを示す。
- ビジネス力
- データサイエンス
- データエンジニアリング
データを分析するだけでなく、自社のビジネス課題を明確にし、分析結果をシステムなどに組み込んで誰もが活用できるようにする力も必要なのだ。
データサイエンティストチームを組むにあたっての一つの理想として、本間氏はこう話す。「最上位のシニア・データサイエンティストは必ずしもすべての企業に必要ではないが、フル・データサイエンティストはいることが望ましい。具体的には、経営層や現場からの要望を理解してチームとの間の通訳者になりながら、どんな手法でどんな分析をすべきか的確に指示できる人材だ」。
シニア/フル/アソシエート/アシスタントといった、上図に示すような層の厚いチームを組める企業はまだ稀だろう。その背景について本間氏は、「アメリカでは、データサイエンスの学位の取得数が2015年に20~30だったのが2016年には500に増えている。しかし、日本では横ばいでありデータサイエンティストそのものの絶対数が潤沢ではない」と分析する。
一方で、ジョブディスクリプション(職務記述書:企業が求める担当職務の内容やスキルなどを明記したもの)があいまいな日系企業では、本来の業務以外の領域にも手を出しやすく、データ分析に興味を覚える人、換言すればデータサイエンティストの予備軍を拡げることにもなり得るという。
本間氏自身も、前職では商品開発に携わりながら、隙間時間にWebサーバーを立ち上げたり、HTMLを書いてコンテンツを公開したりといったことを通してスキルを磨き、デジタルマーケターになったエピソードを明かした。
データとビジネスの関係に興味を覚えた社内の“同志”が顔を合わせ、議論や協力を積み重ねることでデータサイエンティストを育んでいくのが今の日本の現実解とする本間氏はこう続けた。
データサイエンティストに向いた人材は社内の様々な部門にいる可能性がある。このセミナーに足を運んでいる方々には、社に戻ったらリーダーシップを発揮して、周りを巻き込む努力をしてほしい(本間氏)
実行力のあるデータ分析チームを作っていくには
データで証明すればすぐにわかることを延々と議論しているような場面が間々ある。日本の人口が減少している客観事実をさしおいて、生活用品の売上が頭打ちになるのを何とかしようと声高に叫んでも解決の糸口は見えてこない。
生活用品をどこで買い求めるかの日常習慣を考慮せずに、Webサイトの強化が売上増につながると短絡的に考えているようなケースもある。もっと卑近な例では、酒を飲むから体重が増える/酒を飲むとストレスが減るといった俗説も、データで証明されぬまま独り歩きしているのが一般的だ。
今こそ徹底すべきは、あやふやな話に対してデータ分析に基づいた説明を加えることだ。経営者や上司にビジネスに関わる実状や背景、解決策や期待できる効果などをデータに裏打ちされたストーリーで語ることを続ければ、データサイエンティストのチームを作る重要性を理解してもらえるし、データ分析に興味を持つ仲間を見つけることにもつながってくる。
「ただし、データを眺めて、ただ分析するだけでは、ビジネスでの価値は少ない」と本間氏は強調する。降水確率を見て、「何%で傘を持って行くか」を判断するのは人によって異なる。データ分析に加えて、その使い方を判断することが重要だ。つまりデータ分析と行動をセットで考えることを常に意識しなければならない。
先ほど社に戻ったら周りを巻き込む努力をと言ったが、仲間を見つけたら仮想の分析チームを作り、分析後の行動をも考えて示唆や提案をするようなリーダーシップを発揮してほしい(本間氏)
データ分析には様々な役割があるため、役割分担をしっかりとやっていく必要がある。これから分析チームを作るなら、初期は少人数で組織し、4~5人か、多くても10人以下にすること本間氏は勧める。
統計やプログラミングに強い人、プレゼンに長けた人、経営陣とのパイプが太い人…。核となる人が、これぞというメンバーを社内横断的に集めて構成するにしても、最初の段階では共通言語がないため、少人数でなければ意思疎通がうまくいかないことが背景にある。
データ分析チームの組織強化に向けては、分析もさることながらプレゼンのスキルがカギを握るという。経営に資するという文脈において、分析のモデルやアルゴリズムは過程にすぎず、目下の問題として浮上している事象の背景なり改善策なりについて「科学的に証明されたことを論理的にきちんと伝える」ことが肝となるからだ。
プロの分析チームとして、プレゼン相手の分析も欠かせないとする本間氏は、その相手を整理するためのチェックシートを示した。
さらに、プレゼン前後に利害関係をコントロールすることも重要だとアドバイスを加える。
データドリブンになっていない状態の分析チームは、無理難題を押し付けられることが多く、大きな期待に疲弊してしまうことも少なくない。しっかりと利害関係をコントロールし、今回はここまでをやって、後々にデータが蓄積されたらここまでを行うといったことを説明しておく必要があるのだ。
頼れる組織から提案できる組織へ段階的に強化していく
1人のデータサイエンティストがリーダーシップを発揮して組織を作ったら、「批評するだけの組織からビジネス改善プランを出せる頼れる組織」へと強化し、さらに「アグレッシブな提案ができる組織」へと段階的に発展させていくことを目指す。もちろん、一足飛びにはいかないことを心しておかなければならない。
データ分析チームは、国家プロジェクトや医療チームのように常にクリティカルな状況に立たされているわけではないので、「大胆な仮説を立て、データを使いながら検証し実行できることが強みでもあり醍醐味でもある」と本間氏。
Eメールよりも郵便の方が開封率が高いことが判明しEメールをやめた例や、失注データを活用して顧客にアプローチするチャネルやタイミングを可視化した例などを紹介した。その上で、「何よりも大事なのは、皆さんの目の前で日々繰り広げられている業務を変革したいという熱意を持ち続けること」と会場に訴えかけ、講演を終えた。
ソーシャルもやってます!