[若手マーケターコラム] Half Empty? Half Full?

体験型コンテンツは本当に機能しているか? いまだに「広告」から抜け出せない私たちのジレンマ

体験型コンテンツの課題について、反省もかねて振り返ってみました
ライオン株式会社 コミュニケーションデザイン部 CXプランニング室 内田佳奈氏

こんにちは、LIONでコミュニケーション・デザインに携わる内田です。

突然ですが、近年、みなさんの会社では体験型コンテンツに積極的に取り組んでいませんか?

モノ消費からコト消費への移り変わり、コンテンツマーケティング、シェアラブルエクスペリエンス、SNSの成長、ARやVRといった新しい動画体験や画像解析などのテクノロジー進化。そういったここ数年の大きなうねりが、マーケターである私たちを「従来のプッシュ型の宣伝ではなく、体験型のコンテンツを作ってバズらねばならない!」と急かしているように感じます。

しかし、そんな今だからこそ言いたい。体験型コンテンツって、そんなに簡単なものじゃない。

もっと言うと、私たちが必死に伝えた一瞬の「体験」は、スマホの小さな画面を通すことでグンと曇ってしまう可能性さえあると思います。

今回は、実際に私が体験型コンテンツを施策として動かしたときに感じた課題について、反省もかねて振り返ってみたいと思います。

そもそも体験型コンテンツとは

体験型コンテンツとは、従来の「見てもらう」広告ではなく、インタラクティブなアクションや世界観への没入を通して「体験してもらう」ブランディング活動の1つだと捉えています。

少し前のものですが、私がとっても好きな2つの事例をご紹介します。

体験型コンテンツ事例① CINRA×LINE MOBILE 「SNS展」

「SNS展」は、カルチャー系のWebメディアを運営するCINRAが主催し、LINE MOBILEが協賛したアート展で、2018年5月19日~29日に実施されました。

「#もしもSNSがなかったら」というテーマで、SNS上で一般生活者から作品を公募。キュレーターが審査して展覧会で発表されるというもの。テーマ設定が絶妙に心を射抜き、ミレニアル世代たちの投稿が止まりませんでした。

展覧会に参加した人の感想を見てみましょう。「#もしもSNSがなかったら」(クリックすると別タブで検索結果が表示されます)というハッシュタグでTwitter検索してみてください。

どうですか。イベントを運営して、こんなに考え込ませる体験をつくれたことありますか? 私はTwitterで自然に流れてきた投稿を目にしたのですが、思わず「SNSがなかった世界」を想像して真剣に考え込んでしまいました。

そして、LINE MOBILEといえば、「主要SNSの通信費用が無料」という特徴があります。つまり、SNSが大事な存在である人々にとってはピッタリの通信サービスなんです。

彼らは、データフリーであることをただただ機能訴求的に伝えるだけではなく、今回の体験施策を通して、悪いところも良いところも含めて「SNSを見つめ直してもらう」という行為自体に変換しました。

この変換は、ミレニアル世代と通じ合うことができる、1つの“エモい共通言語”だったと思います。私たちにとってSNSはやっぱり必要なものだから、だからLINE MOBILEがいいよね、となる。

企業が声高に言うより、生活者自身がそのことを自然に認識してくれる。ここが、LINE MOBILEにとって最も有意義なポイントだったのではないでしょうか。

体験型コンテンツ事例② ハフポスト日本版「アタラシイ時間」

続いてこちら、私がめちゃめちゃ羨んだ企画。2018年5月21日~25日に、ニュースメディアのハフポスト日本版が実施したイベントで、決められた日時にブルーボトルコーヒー 六本木カフェに行き、合言葉(「アタラシイ時間」)を言うと、ハフポスさんがコーヒーをおごってくれるというシンプルすぎる企画。

5日間実施され、日を追うにつれてだんだんと人が集まってきたようです。要因は参加者によるSNSシェアですが、なぜシェアしてくれたのかというと、おそらくその会場で体感した会話体験が“シェアしたくなるほど楽しかったから”だと思うんですよね。

コーヒーをもらった後、あなたならどうしますか? 私なら、集まってきた物好きな人たちと会話をすると思うんです。それがハフポスト日本版というメディアを通して集まってきた人たちだから、思考や価値観が自然と似ていた。そうすると盛り上がるのは当然です。

でも今は、そんな風に、気の合う人と偶然出会って顔を見ながら会話する機会は減少傾向にあるのかもしれません。だからこそ、人にシェアしたくなるほどの特別な体験になったのではないでしょうか。

記事の中でこのイベントを企画した南麻理江さんはこう語っています。

“派手なCMでは、もう人が動かない。プレスリリースをつくって、企業の商品がメディアに取り上げられても、誰の行動も変えていない。ネットで、ハッピーな世界が来ると思っていたのに、みんな背中を曲げて、いつもスマホに目を向け生きている。”

“もう一度、発信することの価値を考えたくて、ニュースメディアに来た。そして「発信すること」を根本的に考えるために「コーヒー」を用意した。”

この記事を読んでくださっている方々も、南さんの課題に共感できる部分が多いのではないでしょうか? というか、コーヒー1杯で会話を生むなんて、最高に“メディア”を体現しているじゃないですか。かっこいい。

LIONの体験型コンテンツ「Sense Your Aroma」

LIONも、これまでのプッシュ型広告に偏重した状況から成長するため、体験型コンテンツにチャレンジしています。

たとえばこちら。2018年8月4日~7日に表参道のギャラリーで、柔軟剤アロマリッチが行った「Sense Your Aroma produced by AromaRich」というイベントです。

アロマリッチは、「モテるため」とか「周りに誇示するため」ではなく、「自分らしくいられる」香りを大切にしている柔軟剤ブランドです。

その人らしい香りが常にさりげなく生活の中にあることで、忙しい毎日も、自分らしさ・自分のこだわりを大事にしていけるように。

そんな想いと最先端の画像解析テクノロジーを融合したメッセージの発信を目的に、イベント来場者が撮影した写真を1枚ずつ解析して、オリジナルの扇子とアロマミストをその場で作り、プレゼントしました。

画像解析で写真を作る様子
扇子が作られている様子
出来上がった扇子

ミストを扇子にかけて扇げば、自分だけの香りがふわっと届いて癒してくれる。その場限りではなく、帰宅後も心に残る体験を目指しました。

4日間で来場者は約2,000人。扇子制作はつねに1時間待ちで、イベント開場前から行列ができていました。

扇子制作はつねに1時間待ち

おかげさまでたくさんの方に楽しんでいただきましたし、この仕掛け自体は面白いと思っていましたが、マーケターとしては反省点が多く残ったイベントとなりました。

反省点① ブランド体験を人に伝えたくなるコミュニケーション設計の不足

「Sense Your Aroma」の肝は「自分だけのオリジナル」が作れるところ。そこに対しての驚きが大きすぎて、香りに関する感想やアロマリッチへの共感を参加者に発信してもらうUXが足りていなかったんです。

ということは、イベントに来た2000人にしかブランド体験を届けられていないのでは?! いや、数の話はこの際置いておくとしても、こんなにブランドの世界観に入ってきてもらう体験なのだから、このチャンスに1人ひとりとお話ししてでもブランドの存在意義を伝えるべきだったのではないでしょうか。ファンになってもらう大事な接点だったかもしれないのに……。

誤解のないように補足しておくと、このイベントのコアを作ってくださったクリエイターやテクノロジストはすごく優秀で、仕事は本当に楽しかったです。だからこそ、この方々の能力を最大限にしてブランドに還元するコミュニケーション設計を、もっともっと考えぬくべきだったなと思います。

反省点② 自分事ではなく、「他人の体験」を広める結果になってしまった

多くの企業が設計するように、私たちはイベント来場者以外にも情報を届けようとしました。インフルエンサーをお招きする、動画を制作する、レポートとして記事広告をつくる……など。インフルエンサーに関しては、数字上は非常にうまく機能してくれました。通常のPR投稿の数倍のエンゲージメント率を叩き出したものもありました。

ただ、SNS投稿や事後レポート記事を客観的に読んでみると、内容がまったく自分事化できないことに気付いたのです。

Web上で物事が広まる条件の1つとして、「真似ができる」という要素があります。真似ができる内容であれば、「誰かが体験している様子」が描かれた記事や動画コンテンツでも、自然と自分事化されるのです。

しかし、今回のように真似できないテクノロジーコンテンツや、期間限定イベントの「事後レポート」としてのコンテンツは、真似することも参加することもできません。たとえ「いいね!」してもらえたとしても心の中では「へー可愛いね」とか「羨ましいね」で終わってしまう可能性が非常に高いと考えられます。

これは自戒を込めて繰り返しますが、レポート的に作った動画の再生数やSNS投稿の「いいね!」数などは、あんまり意味がないと思います。スマホ越しに見た他人の経験は、結局のところ自分事化できないんですから。それよりも、目指すべきは「人の心を動かす」ことではないでしょうか。

帰宅したとき、思わず家族に「今日こんなイベントに行ってきたよ! そこで嗅いだ香りはこんなだったよ! あの商品がやってたんだよ! なんでかっていうとね」、そんな会話が口をついて出てくるような体験であれば、参加者本人だけでなく、伝えられた人の心も動くはず。

そんなゴールから導いて工夫を加えていれば、もう少し自分事化しやすい体験型コンテンツにすることができたのかもしれません。

私の心に刺さるコンテンツの共通点

いろいろ反省はつきませんし、どんな体験型コンテンツが理想なのか、それもまだわかりません。

でも、私の心に刺さるコンテンツにはいくつか共通点があります。

それは、語らずにはいられない要素を持っていること。そしてもう1つは、真似されることです。

私自身、「#もしもSNSがなかったら」 の続きを考えて友達に話してしまったし、「アタラシイ時間」イベントは、そのまんま真似した学生さんがいたそうです。思わず真似したくなっちゃうほどの衝撃って、すごいですよね。

体験型コンテンツは、驚きとともにブランドのことを深く知ってもらう機会を生むという意味で、うまく機能すればブランディングにとても有効な手段だと言えます。

だからこそ、ブランドや商品について語らずにはいられない・真似したくなるUXを、マーケターが先導して設計図に加えなければならないのです。それらすべての要素が融合した先に、最強の体験が生まれるのではないでしょうか。

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