インタビュー

NPSとは? NPSを向上させる「ロイヤルティドライバー」とは?

NPSを向上させるロイヤルティドライバーの考え方と、それを発見しアクションにつなげる独自メソッドをIMJに聞いた(前編)。

顧客ロイヤルティを計測する経営指標「NPS」(ネット・プロモーター・スコア)が米国で開発されて13年、日本で注目されるようになって5~6年が経つ。

「NPS」とは顧客ロイヤルティ(企業やブランドに対する愛着・信頼の度合い)を数値化する指標で、「〇〇を友人や同僚などにお勧めしますか?」という問に対して、0~10点の11段階で回答してもらい、「その理由」を自由回答で聞くもの。

0~6点は「批判者」、7~8点は「中立者」、9~10点は「推奨者」としてカウントし、図の右側「計算例」のようにNPSを算出する。推奨者が多ければNPSはプラスとなるが、批判者が多い場合、NPSはマイナスとなる。NPSは100~-100で表記される(図: IMJ提供)。

NPSの特徴は、推奨者や中立者などのセグメントごとに顧客ロイヤルティに影響を与える要因を分析し、手を打つことができる点だ。批判者の不満を解消することで、企業全体の顧客ロイヤルティを向上させることもできる。

アイ・エム・ジェイ(以下、IMJ)では、その顧客ロイヤルティに影響を与える要因(=ロイヤルティドライバー)を同社の独自メソッドにより分析しているのだという。一体どんなものなのか、話を聞いてきた(以下、発話は敬称略)。

取材に応じてくれた、IMJのMarketing Analytics & Science 本部 Customer Insight Lead 事業部の(左上)吉岡英理子事業部長、栗原路子チーフコンサルタント(右上)松永来美NPSコンサルタント(左下)嶋田優子チーフコンサルタント(右下)

※本稿では、IMJがNPS活用のための支援を行う顧客を「クライアント」、そのクライアントが商品やサービスを提供する対象者を「お客さま」と記述する。

IMJにおけるNPSへの取り組みの歴史

――「NPS」が開発されて13年ですが、日本でも浸透してきたと思いますか?

松永: 数年前に比べると、「NPSを取りたいんです」というように「NPS」という言葉を挙げて依頼されることが増えてきました。検索ボリュームとしても「NPS」という言葉が増えていますし、クライアントに「NPSとは」から説明することは減ったと感じています。

その背景として、新規顧客を獲得していくことに加えて、既存のお客さまを大事にしようという考え方や、顧客ロイヤルティを高めようという意識が企業やマーケティング担当者に根付いてきたからだと思います。

また、NPSを調べられるツールが出てきた影響もあると思います。気軽に、かつ継続的にNPSを取れる環境が整ってきたのは大きいかな、と。

松永来美氏

――NPS関係で支援しているクライアントさんはどんなところが多いのでしょう?

嶋田: 金融などが多いですが、大きな偏りはないですね。BtoC(個人向け)とBtoB(法人向け)で言えばBtoCが多いですね。BtoCでも、BtoBtoCと言われるようなところは、消費者が購入する前に流通(スーパーなどの販売店)が入っていて直接(エンドの)お客さまの声が聞けないことがあります。そういう場合に「調査をしてください」と依頼されます。

一方、BtoBは個々のお客さまとしっかり向き合うというスタンスが強く、NPSのニーズは現状それほどでもありません。

嶋田優子氏

つい語りたくなるフリーアンサーの設計と、その分析手法

――NPSの一般的な調査票ってどんなものですか?

吉岡英理子氏

吉岡: まず、調査対象となるサービスやブランドそのものについて、その利用者に設問1で「〇〇というサービスやブランドを人にお勧めしますか?」と聞き、0~10点の11段階で回答してもらいます。

次の設問2で、「お勧めする(しない)理由」を自由回答で記述してもらいます。

設問3以降は、サービスやブランドをお勧めする(しない)理由を深掘りする設問や回答者属性を聞く設問をいくつか設けるのが一般的な調査票です。

調査票

設問1 「Web担当者Forum(以下、Web担)という媒体を人にお勧めしますか?」(0~10点で回答)
設問2 「その理由はなんですか?」(自由回答)
設問3 「Web担の記事はわかりやすいですか」(0~10点で回答)
設問4 「Web担は仕事に役立ちますか」(0~10点で回答)
設問5 「普段、Web担を見るきっかけはなんですか?」(複数回答)
設問6 「普段、どのくらいの頻度でWeb担を見ていますか?」(単一回答)
設問7 「Web担に記事化してもらいたいネタがあれば挙げてください」(自由回答)

NPSの調査票のイメージ(※Web担当者Forumをもとにして作成)

――アンケート回収後はどのように分析していくのでしょう?

吉岡: NPSの値を計算式に当てはめて算出します。

(再掲)0~6点は「批判者」、7~8点は「中立者」、9~10点は「推奨者」としてカウントし、図の右側「計算例」のようにNPSを算出する

その後に自由回答を分析していき、顧客ロイヤルティに影響を与える要因(=ロイヤルティドライバー)を明らかにしていきます。

――自由回答の分析はどのように行うのでしょうか。

松永: 一般的には、ユーザーが発した語句をテキストマイニングでカテゴリー分けします。多いカテゴリーは「重要」と判断して、推奨/中立/批判に分けて詳細分析して、ロイヤルティドライバーを明らかにしていくのが一般的に行われている方法です。

ですがこのやり方では、「ユーザーが発している言葉の分析」なので、既存の課題抽出しかできないんです。既存の課題を解決することは大事なことですが、不満が解決されるだけで、それ以上の愛情や感動は生まれないのではないかと考えています。

ですから、私たちが自由回答の分析をするときは、テキストマイニングツールなどはあまり使いません

――では、目検ですべてを分析するのですか?

松永: 基本的には、目検を心がけています。しかし、数万件といったようにあまりに件数が多い場合に「目星をつける」ためにいったんツールにデータを入れることはあります。そこである程度の仮説を立てて、それを立証するためのものを探してくるという、逆のアプローチはあります。

ただ、数万件あったとしても、きちんと書かれているものはそんなになかったり、あるいは推奨意向ごとに分割して読み込むのであればそれほどの件数にはならなかったりします。

栗原: ツールを使って単語ベースで解析してしまうと、そのエピソードのなかに流れている文脈や一連の体験みたいなものがぶつ切りになってしまって、体験をとらえきれないということがあります。

また、既存の課題解決だけにとどまらず、お客さまをより満足させ、感動させてロイヤルティを上げていくためには、お客さま自身ですらまだ気づいていなことや、言葉にできていない思いや欲求をイチから見つけてあげて、先回りして提示してあげることが必要ではないかと思っています。そのためには、目検で確認してその回答の裏側を読み解くことが大切です。

栗原路子氏

――フリーアンサーで回答欄を埋めてもらうって回答者からすると大変だと感じるんですが、回答者が書きやすくなるコツとかありますか?

嶋田: 一般的なNPSのフリーアンサーは、推奨度を聞いた後に「その点数をつけた理由をお答えください」などと聞きます。

私たちは、後工程での分析の際にネタになるような言葉を引き出すために、「理由」や「改善要望」だけではない、人が情緒的に書けるもの、語り出すきっかけになるようなことを意識して、引き出せるように設問を工夫しています。たとえば、次の通り。

  • 「人に話したくなったエピソードは?」
  • 「使ってみて、よいと思ったエピソードはどんなことでしょうか?」

あるいは、「思い出はありますか?」といった深層心理がうかがえるような聞き方をすることもあります。

――推奨度とフリーアンサー回答欄だけではなくて、調査票全体でこの人はどういう体験をしたんだろう、というところを大事にしているということですね。たしかに、調査票の他の項目にも関係する内容が書かれているかもしれませんし。実務で多くのプロジェクトを走らせている貴社ならではですね。

ずばり、ロイヤルティドライバーとは

――「ロイヤルティドライバー」という言葉について、あらためて皆さんからご説明いただけますか?

松永: 一言でいうと「ロイヤルティを上下させるもの」です。でも定義はすごく難しくて、たとえば、ある記事によれば、コンビニを選ぶ理由として「近いから」という要素が非常に強いとされています。

――レポートでは、ロイヤルティドライバーには「業界に共通なもの」と「企業個別のもの」があり、「機能的なもの」と「情緒的なもの」があると書かれていますが、これはNPSに関係する人たちの共通認識なのでしょうか、それとも貴社の解釈でしょうか?

感情的・情緒的なロイヤルティドライバーが示された図(図: IMJ提供)
NPS®を活用したロイヤルティドライバー競合調査 第1回 百貨店編

松永: 弊社の解釈だと思います。先ほどのコンビニの例でいえば「近い」「品揃えが良い」な機能面で選ばれることもあれば、そこにいる「店員のあいさつが良い」からという理由で選ばれることもあります。

このように、ロイヤルティドライバーにも2種類あって、「機能的なこと」と「情緒的なこと」が絡み合っているということが、いろんなクライアントとNPSの取り組みを進めるなかで見えてきました。

嶋田: 先のコンビニの例を続けると、「近い」という理由だけで選ばれているのであれば、もっと近いところにコンビニができたら、そちらに行っちゃいますよね。でも「近い」以外の情緒的なものが何かあれば、もっと近くにできたコンビニではなく、もともと通っていたコンビニに通い続けますよね。

機能的なものだけを重視して改善しつづけても、他社が真似できるものであれば、お客さまは離れてしまうかもしれないわけです。

それは本当の「ロイヤルティ」なんでしょうか。そういった点に疑問があり、情緒的なロイヤルティドライバーも大事にしています。

――だから感情的・情緒的なロイヤルティドライバーを出しているのですね。

松永: はい。何をロイヤルティドライバーととらえるかで、アクションが変わったり、事業の方向性が変わったり、戦略の打ち方が変わったりします。なので、できるだけ多くのロイヤルティドライバーを出しながら、どれがほんとに適切なのかということを、仮説を立てたうえで検証して確かめていくことが重要だと考えています。

――ちなみに、なぜピラミッド構造になっているのでしょう?

嶋田: 機能の部分がピラミッドを支える土台となっているからです。

松永: 日本で提供されている商品・サービスは本当にレベルが高いので、ちょっとでも土台の部分が欠けていると、それが不満となり、批判者が増えることにつながります。なのでこの部分のロイヤルティドライバーは批判者を増やさないために重要なロイヤルティドライバーと言えるでしょう。

一方で、サービスレベルの高さゆえ、機能の部分が満たされても中立者止まりになる場合もあります。中立者や推奨者には、機能だけでなく心の満足も提供してよりロイヤルティを高めていくために、感情的・情緒的にロイヤルティドライバーを捉えた施策を検討することが必要だと考えています。

取材に応じてくれた、IMJの吉岡英理子氏、嶋田優子氏、松永来美氏、栗原路子氏
◇◇◇

IMJでは、ロイヤルティドライバーを見つけるにはワークショップをしながら進めていくという。ロイヤルティドライバーを見つけて、それを施策に落とし込むインタビューに関しては、後編で詳しく解説する。

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