インタビュー

「ユーザーの声には価値がある」MAツールでアクティブ率を1.4倍に引き上げた担当者の熱い想い

MAツールでユーザーのアクティブ率を1.4倍に改善し、社内の理解を得て新規事業創出につなげたGMOリサーチの新谷氏に話を聞いた。

MA(マーケティングオートメーション)ツールを活用すれば、マーケティング担当者が少なくても効率良く成果を上げることが可能だ。しかし、ツールを使うには毎月のコストがかかるため、費用対効果を考え効果を検証しながら運用することが必要になる。

特に何十万人ものユーザーを抱えているBtoCのサイトでは、ユーザーの動きを把握する際に複数の要素が絡み合うため、効果検証につながるデータを見定めるのが難しいケースが多い。

そんな状況下で膨大なデータから必要なデータを見定め、MAツールで成果を挙げたのが、GMOリサーチの新谷氏。同社でも当初はMAツールの効果検証が不十分で、「効果が出ないならやめたほうがいいのでは」という声が社内で挙がった時期があったという。

新谷氏がどのように「MAツール」で成果を挙げ、継続して利用することになったのか。詳しく話を聞いた。

GMOリサーチ株式会社 メディア開発部 メディアプロデュース課 リーダー 新谷照信氏
GMOリサーチ株式会社 メディア開発部 メディアプロデュース課 リーダー 新谷照信氏

「ユーザーの声」に価値があることを証明したかった

同社が取り組むのはインターネットリサーチ事業。企業がリサーチしたい項目に対して同社の会員がアンケートに回答し、その調査結果を企業に納品するサービスを提供している。

私の役割は、ひとことで言うと「アンケートパネルの活性化」です。自社運営のパネルと他社運営のパネルがあり、全部含めると約1,000万人のユーザーがいます。そのなかに自社で運用している「infoQ」の活性化、つまり会員継続率やアンケート回答率の向上に取り組んでいます(新谷氏)

パネルによりユーザーに特徴がある。たとえば「化粧品の話題を扱うメディアのパネルは女性が多い」といった具合だ。新谷氏が担当する「infoQ」は、アンケートに答えることでinfoQポイントがたまり、現金やギフト券に交換できる。そのため「お小遣い稼ぎをしたい」という動機のユーザーが性別・年代の偏りがなく集まっていることが特徴だ。

私は「infoQ」の活性化に10年ほど取り組んでいます。ユーザー1人ひとりの発言や想いに常に向き合い仕事をするなかで、熱のある長文で要望を伝えるユーザーや、アンケートのフリーアンサー欄にその商品やサービスへの熱い想いを書きつづるユーザーなど、多くの意欲的なユーザーに出会ってきました。

「infoQユーザー=お小遣い稼ぎをしたい人」というざっくりとした大枠の理解ではなく、「infoQ」のユーザー1人ひとりには「ドラマ」があり「想い」がある。そのように理解していました(新谷氏)

新谷氏のミッションは「infoQ」の活性化だ。ユーザーにより長くサイトの利用を継続してもらうためには、ドラマや想いをもったユーザーが「声」を発言するだけでポイントがもらえる、というメニューをもっと増やしていきたいと考えた。

新谷氏は「価値のある『ユーザーの声』を何とかして企業の役に立つサービスにすることができないか」とずっと考え続けていた。そしてこれまでに以下のような「infoQユーザーの想いを活用し企業の活性化につなげるサービス」を企画し、会社に提案してきたが、「ユーザーの声の価値」について社内に共通の理解を醸成するまでには至らなかったという。

  • infoQにライティングメニューの導入
  • infoQのコミュニティサイトで話題になった内容を記事化してコンテンツとして販売

当時は「ユーザーの声に価値がある」ということに何も裏付けがなかったんです。「千里の道も一歩から」と、どうやって社内の理解を得て進めていくかを考えました(新谷氏)

「どうやって社内の理解を得て進めていくかを考えた」と新谷氏
「どうやって社内の理解を得て進めていくかを考えた」と新谷氏

「MAツール×ユーザーの声」でアクティブユーザー残存率を1.4倍に

一方「infoQ」ではMAツール「Probance」を導入して1年ほどが経過していた。これまでにアクティブユーザーを1.1倍に伸ばすという効果を証明していたが、「そこまで効果が出ていないなら継続しなくてもいいのでは」という周囲の発言もあった。

新谷氏は「MAツールはしっかり取り組めばもっと効果が出る」ことと、自身がこれまで思い続けてきた「ユーザーの声に価値がある」ことの2つを実証するため、MAツールで配信するメールクリエイティブの変更にチャレンジした。

2017年からチーム編成が変わり、人員も増え、他のメディア運営経験者も入ることで、できることやアイデアの幅も広がりました。会員へのメール本数を適正にして退会数を削減したり、会員の状態がわかるようにシステムを改善したりと、さまざまな改善を進められました。チームでアイデアを出し合いながら進めたからこそ、MAツールを活用した取り組みの改善にもチャレンジできました(新谷氏)

ユーザーに最適なタイミングで最適なメールを届けたいが、単純にメールを減らすとコミュニケーションの手数が減ってしまう。そこで新谷氏は「新規ユーザーが入会した直後に、先輩ユーザーのinfoQの体験談やエピソードなどの『ユーザーの声』をMAツール「Probance」のステップメール機能を生かして届ける」という施策を実施した。

送ったステップメールの内容は次のとおり。

infoQのユーザーの体験やエピソード(抜粋)
  • 遊び感覚でポイントを稼いでいる学生のエピソード
  • 「ディズニーランド」に行くことを目標にポイントをためている主婦のエピソード
  • 「年間で考えたらボーナスと同じくらいたまる」という会社員のエピソード
  • 「謝礼で息子と自分のグローブを買ったら息子とのコミュニケーションが広がった」という家族思いの父親のエピソード

これら複数の体験やエピソードを、新規登録したユーザーの流入元(検索経由、求人媒体経由、ポイント媒体経由など)ごと分類し、登録から4日間、異なるエピソードをメールで送信した。

この施策により、入会1か月後のアクティブユーザー残存率を1.4倍に引き上げることに成功し、金額に換算しても価値があることを実証しました。そして「MAツールに効果がある」ことと同時に「ユーザーの声には価値がある」ことを裏付け、社内で共通の理解を醸成することにつながりました(新谷氏)

infoQで集めた「ユーザーの声」を使って新規事業創出へ

新谷氏は、新たなチャレンジとして「ユーザーの声がもつ熱量を企業のマーケティングに生かす」ことを考えている。

それはさまざまな企業の商品やサービスに対し、「infoQ」で集めた「ユーザーの声」を活用してOne to Oneマーケティングを実現していくプログラムの提供だ。

「ユーザーの声」は、これまではユーザーがソーシャルメディアなどで自発的に発言したものを集めるしかありませんでした。弊社はinfoQだけなら60万人、すべてのパネルを合わせると約1,000万人のユーザーから「熱量の高い声」を集められます。

今One to Oneマーケティングを行いたいと思っても「コンテンツ不足やリソース不足で難しい」という企業は多いのではないでしょうか。One to Oneマーケティングのプログラム実現には、より顧客の気持ちに寄り添うアプローチと、コンテンツの中身が大切です。

「infoQ」ユーザーの課題に向き合い、入会1か月後のアクティブ率を1.4倍にしたプロセスと同じように、さまざまな商品やサービスの比較検討ステージにいる顧客の課題や問題に向き合い、マッチするコンテンツを作り続けていくことが必要だと考えています(新谷氏)

谷照信氏
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