この記事は、マルケトが2018年に発行予定の書籍『ENGAGE TO WIN』のダイジェスト版をWeb担で編集を加えて特別にオンラインで公開しているものです。
『ENGAGE TO WIN』エンゲージメント・エコノミー時代を勝ち抜くには by Marketo(全8回)「今日はマーケティングされたい気分だ」なんて思う人はいません。これを意識して施策を考えてる?
変化はすでに始まっているマーケティングされたい人などいません。あなたはどうでしょうか?
誰もがこのことに気付いているわけではありません。話を先に進める前に、どうして私がこんなことを考えたのか、ご説明しましょう。
マーケターにとって、需要と供給の法則は絶対である――かつてこのように教え込まれた私たちは、需要を意のままに操れると考えがちです。しかし時代が進むにつれ、私たちがアプローチできる顧客は1対1から1対多に増え、ついには10年前には予想もできなかったデジタルの規模に達しました。
たとえば、今の私たちは何十億人もの意見を一気に知ることができます。そこから個人の行動や好みに基づいた、消費パターンや購買パターンのプロファイルさえ作成可能です。
私たちは、テクノロジーの進化によって、かつては想像もつかなかったレベルまで需要と供給の範囲は広がり、規模も拡大していきました。
18億人ものユーザーが使うSNSが存在し、たった1つのeコマースベンダーが1日に160万もの注文をさばき、ソーシャルメディアのプラットフォームを通じて、140文字のつぶやきが毎秒6,000件もやりとりされる時代になっています。
しかし、供給される「アテンション(関心)」には限りがあります。需要と供給の法則は、人の関心が持続する期間にも当てはまります。つまり、人間の脳にも、時間にも、必ず限界があるため、ある一定の期間しか関心は継続しないということです。したがって今の消費者は、自分の時間や関心をどこに向けるべきかを慎重に考えるようになっています。
その結果、マーケティングの世界では生存競争が始まりました。皆こぞって、これまで効果を上げてきたデジタル戦術にさらなる投資を行います。ここで登場するのが、私たちのあらゆる行動に影響を及ぼす第2の法則――収穫逓減の法則です。
私たちは今、微妙な状況に立たされています。顧客の関心を集めるために、さまざまな広告・さまざまなマーケティングで大声をあげることに投資をして、ノイズを増やしていますが、思うように関心を集めることができずにいます。企業を育てて、収益を上げることに苦戦しているのです。
マーケターは、さまざまなテクノロジーを使って、一方的にEメール、ダイレクトメール、広告、ツイートを大量にまきちらしているだけではダメなのです。
企業にとって都合のよい情報ばかりを送り続けても、顧客の限られた関心を向けることはできません。なぜなら、大量のメッセージ、タッチポイント、コンテンツ、アプリ、オファーを押し付けるほど、顧客は企業への不快感が増し、企業の価値を下げる結果となってしまうのです。重視するべきは「価値」なのです。
ここで、私が前述した「マーケティングされたい人はいない」という話に戻りましょう。
マーケティングに付加価値がないと言っているわけではありません。しかし前に述べた通り、収穫逓減の法則は、デジタルマーケティングにも確かに当てはまるのです。
- どこかのウェブサイトを開いたとき、ポップアップ広告や勧誘が出てきてうれしいと思いますか?
- インターネット上でつきまとうあの広告は、以前にGoogleで検索をした履歴が影響しているでしょうか?
- おもしろそうなウェブページに、自分の好みとは関係のない広告が現れて、読みたいコンテンツを隠されたらどんな気分ですか?
- メールボックスにスパムメールがあふれかえっていてほしいと思いますか?(この1年間にたくさんの差出人をブロックしているのに、少しも効き目がないのではありませんか?)
- 数か月前(あるいは数年前)に買い物をした店からしつこくメッセージが送られてきたらどうしますか?
- 土曜の朝に、テレマーケティングだと言って電話がかかってきたらどうしますか?
これが、誰もが求めるマーケティングだと言えるでしょうか。
あなたも私も「違う」と言うでしょう。そして、将来の顧客も今の顧客も、「違う」と答えるでしょう。
しかし、どのマーケターも、この恐ろしい真実にあえて向き合おうとはしません。
マーケティングされたい人などいない。
そう、一人もいないのです。少なくとも、私がここまで説明した形では存在しません。つまり、そのマーケティングが、顧客にとって少しもおもしろそうに思えないということです。朝起きて一番に、「今日はマーケティングされたい気分だ」なんて言う人がいるでしょうか?
単純だけれども、とても重要な質問を1つあなたにします。
あなたはマーケティングされたいですか、それとも大切にされたいですか?
(ヒント:顧客も、きっとあなたと同じ答えを選ぶでしょう)
もし私があなたに、「大切にされたいですか?」とたずねたならば、あなたはきっと「もちろん。ぜひ大切にされたいです。私の話を誰かに聞いてもらいたい。私の考えは重要だと言ってほしい。必要だと思われたい。私に対する扱いだけではなく、私が買った製品やサービスからも、自分が重要な人物なのだと実感させてほしい」と答えると思います。
これは決して私個人の印象ではなく、れっきとしたデータの裏付けがあるのです。
顧客の10人に7人は「自分を理解し、気にかけてくれる企業を選びたい」
ワンダーマンという大手デジタル・エージェンシーがあります。世界的な通信会社のWPPのグループ会社ですが、最近、米国と英国の消費者を対象に、大規模な調査を実施しました。そして、とても重要な結果が得られたのです。
それは、「企業は、カスタマージャーニーのあらゆる段階において、顧客が何を求め、何を必要としているかを理解しておく必要がある」ということです。米国では79%、英国では72%の消費者が、自分のことを理解し気にかけてくれる企業を選びたいと回答しています。
この結果には驚かされます。この調査では、10人のうち7人以上が「自分のことを理解し、気にかけてくれる企業だけを検討対象としたい」と言っているのです。
このインサイトは、消費者や企業の購入データによって裏付けられています。ワンダーマンの調査では、米国では89%、英国では84%の消費者が、「価値観を共有できる企業にこだわる」ということがわかりました。エンゲージメントの必要性を語るには、これだけの証拠があれば十分でしょう。
ワンダーマンの調査結果で注目すべきポイントがあと二つあります。
一つ目は、「新たな基準を定めている企業と関わりたい」と考える消費者が米国では88%、英国では90%いるということです。となればマーケターは、今の栄光(今までのマーケティング手法)に満足しているわけにはいきません。
二つ目のポイントは、特に重要です。米国では87%、英国では85%の消費者が、企業を評価する際には、同レベルの企業ではなく、Amazon、Netflix、スターバックスといった超大手と比較しているのです。
ワンダーマンはこのように指摘しています。
手近な競合他社と比較される時代は終わった。今、あらゆる業界で、トップ企業との競争が始まっている。
エンゲージメント・エコノミーとは?
ワンダーマンのデータについては、後でまた話すことにして、今度は、重要なポイントと私が強く伝えたいことをお話しします。
私たちは、「エンゲージメント・エコノミー」という新しい時代を生きています。「エンゲージメント・エコノミー」とは私が考えた言葉で、買い手と企業との関係が一変してしまった時代のことです。
エンゲージメント・エコノミーとは?
「エンゲージメント・エコノミー」の背景にある考え方は、単純ながらも深いものです。私たちは新しい時代、あらゆる人とあらゆるモノがつながるデジタルの世界で生きています。
この世界では買い手の感情は、刻一刻と変化していきます。そのため、買い手と売り手との間の関係だけではなく、組織全体についても根本的な変化が生じました。顧客、見込み客、従業員、パートナーまでもが影響を受けるのです。
エンゲージメント・エコノミーが重要なのはなぜでしょうか? 答えは簡単です。
この新しい時代を生きるマーケターは、顧客だけではなく、ビジネスに関わるすべての関係者(ステークホルダー)を大切にして、心に響くような体験を提供しなければならないのです。
このようなことを実践している組織は勝ち残るでしょう。そして、エンゲージメント・エコノミーへの変化を受け入れられない組織は、この新しい世界では長続きしません。
ご存知のとおり、今の新しい世界では、あらゆる人やモノが、デジタルやモバイル、ソーシャルなどの方法でつながっています。そして、感情や好みの変化がリアルタイムで反映されていきます。リアルタイムとは言い換えるなら、顧客の好みが理解できたと思っても、それが5分後も同じとは限らないということです。
マーケターである私たちが現在直面していることを考えてみましょう。グローバリゼーションとナショナリゼーションは、両立すべきテーマです。新たな企業責任を定める必要性が叫ばれ、新たな「トライバリズム」が出現してきています。
そして、バーチャルリアリティ、自動運転車両、新興のソーシャルネットワークなどが新たに出現して、デジタル世界の様相を日々変化させています。その他にも、フェイクニュースがもたらす混乱や、ライフスタイルやメディアの変革などといったことも話題になっています。
私たちの新しい世界は、困難でもやりがいがあり、エキサイティングで、チャンスにあふれています。そこで勝利を収めるための結論はたった一つ、「エンゲージして勝つ(We must engage to win)」ということです。
私たちのように、マーケティングやセールスの世界を10年以上も経験いる人、言い換えれば、ソーシャルメディアよりも長い経験を持つ人たちは、企業によって顧客との関係が支配されていた時代のことを記憶しています。つまり、製品やサービスなどでどんな情報を顧客に与えるかを、企業がコントロールできた時代です。
しかし時間は過ぎ去り、今の時代の顧客は変化しました。
買い手、特に、従来の消費者とB2Bの消費者は、検索、ソーシャルメディア、ブログ、動画など数多くのデジタルタッチポイントを通じて、これまで以上に、あなたの企業の情報を集めています。そのような買い手は、あなたが「売り込もう」とするよりずっと早く、意見を持ち、結論を下し、他の人に対して影響を与えているのです。
これが今の時代のあり方なのです。そして、あらゆることがものすごい勢いで前進しています。この新しい世界で、買い手の心をつかむにはどうすればいいのでしょうか? それがエンゲージメントなのです。
私の考えるエンゲージメントとは、あなたの企業を買い手が体験するあらゆるチャネルを通じて、意味のある方法で、顧客、見込み客、従業員、パートナーと一貫したつながりを持つということです。
3つのエンゲージメント成功例
私たちの周りでの成功例を取り上げましょう。理解を深めるための例を3つお話しします。
TOMS(トムス):靴のオンラインショップの事例
TOMSが成功を収めたのは、この会社が支持している考え方によるところが大きいでしょう。TOMSの靴を一足買うと、恵まれない子どものために募金をしたことになります。
TOMSの靴を履いている人は、皆このことを知っています。TOMSは自らムーブメントを起こし、顧客に対して、仲間になるようにと誘いかけているのです。
某医療保険の事例
ほとんどの人は、医療保険会社なんてどこでも同じだと考えています。しかしここで、エンゲージメントと差別化について考えてみましょう。
たとえば、あなたが加入している保険会社から、「娘さんはもうすぐ27歳になりますね。そろそろご自分で保険に加入なさった方がいいでしょう。娘さんへの補償が続くオプションをいくつかご用意しています」というお知らせが届いたとしましょう。
「家族みんなをサポートしていきたい」といったコミュニケーションをしておけば、売り込みと取られることはないでしょう。むしろ、感謝されるかもしれません。
Lyft(リフト):配車サービスアプリ
Lyftは、Uberとのさらなる差別化を図ろうとするでしょう。最近Lyftはユーザーに対して、「差額を募金する(Round Up and Donate)」というサービスを始めると発表しました。
Lyftによれば、「オプトインすることで、自動的に料金の端数を切り上げた金額が請求され、差額は全世界のあらゆる人に影響する問題の解決のために使用される」というものです。
3つの事例からもわかるように、私たちは顧客に売り込むのではなく、顧客とのエンゲージメントを構築しなければなりません。いち早く、さまざまな場面で、常に意味のある方法でエンゲージメントの機会を持たなければならないのです。
答えは二つに一つです。
- エンゲージメントを重視し、相手の価値観を理解していることを示して、顧客になってもらいたいことを知らせるか。
- 一生無関係のままで終わってしまうか。
どちらが良いかは明白でしょう――Engage to win!
次回は、エンゲージしないリスク顧客とエンゲージメントが築けているかについて解説します。
マルケトが2018年に発行予定の書籍『ENGAGE TO WIN』のダイジェスト版
マルケトについて
2006年に米国カリフォルニアで創業したマルケトは、あらゆる規模、業種の企業に向けて、デジタルからアナログまで、適切なタイミングで適切なメッセージをそれぞれに合ったチャネルを通して届けるマーケティングプラットフォームを提供します。業界唯一のマーケティング専業ベンダーとしてイノベーターであり続け、その柔軟性、信頼性、開放性によって世界中のCMOから信頼をいただいています。マルケトは世界中に拠点を構え、グローバルに展開する大企業から中小企業まで、業種・業態、BtoB・BtoCにかかわらず、さまざまな企業の成長をサポートしています。
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