Web広告研究会セミナーレポート

お客様の立場に立つことこそがCX改善の最大の一手、ビービット武井氏が語るCX実践手法と事例

デジタル時代におけるCXの実践手法と事例を解説
Web広告研究会セミナーレポート

この記事は、公益社団法人 日本アドバタイザーズ協会 Web広告研究会が開催およびレポートしたセミナー記事を、クリエイティブ・コモンズライセンスのもと一部編集して転載したものです。オリジナルの記事はWeb広告研究会のサイトでご覧ください。

ビジネスにおいて顧客視点が重要だと長らく言われ続けているが、お客様第一だと言葉にしていても実際は企業視点だったということは少なくない。

Web広告研究会の4月月例セミナーはカスタマーエクスペリエンス(CX)がテーマ。第一部では、顧客志向の経営支援を行うビービット取締役の武井由紀子氏が「デジタル時代におけるCXの実践手法と事例」を語った。

CXで信頼を醸成

株式会社ビービット
取締役
武井 由紀子 氏

カスタマーエクスペリエンス(CX)とは、顧客が企業との一連のやりとりで感じる情緒的な価値のことだ。顧客経験価値や顧客体験価値とも呼ばれ、「企業視点」「満足水準」といった言葉を、「顧客視点」「感動・信頼水準」などに置き換えるとイメージしやすい。

CXの基本について触れた武井氏は、自信が体験した優れたCX事例として、ファミリーレストラン「びっくりドンキー」の体験を紹介する。

びっくりドンキーは、待ち時間に子供を飽きさせないため、店舗入り口の待合スペースに絵本コーナーを設けている。ファミリーレストランのなかには、おもちゃを置く店もあるが、絵本であれば、子供がはしゃいだり、おもちゃをねだられたりして困ることが少なく、親の視点で嬉しい気遣いだという。

また、子供に好き嫌いなく、自分から進んで食べてもらえるように「もぐチャレ」というお子様ランチのゲーム企画を用意し、完食した子供には名前入りの表彰状をプレゼント。あわせて完食スタンプカードを提供しており、子供が喜ぶ仕掛けだけでなく、リピートも促している。

これは、「店舗設計」「商品性」「接客」「キャンペーン」が一体となった事例であり、これまでにない体験をファミリーに提供しているという。

親と子供、双方に嬉しい仕組みが感動醸成につながっている

CXのカギとなる指標「NPS」

前述のびっくりドンキーのようなCX向上の取り組みは、顧客の期待以上の価値を提供して感動を呼び起こすことがカギになる。

このような感動水準の満足度を計測する有効な指標として、「NPS(ネットプロモータースコア)」を武井氏は紹介。従来からある顧客満足度(CS)調査よりも、NPS調査は収益との相関が高いと話す。

NPSは感動水準を計測するために有効な指標

たとえば、ある企業ではCS調査で顧客の91%が満足だと回答していたが、売上が減少傾向にあった。CS調査では満足度の高いサービスを提供しているように見えるが、NPS調査をすると、NPSがマイナス30ポイントであることがわかった。

実は、多くの顧客は想定通りのサービスだったと満足はしていたが、「次はもっと良いサービスがあるかもしれない」とも考えていた結果、「満足ですか?」と聴かれれば満点を回答するが、「他の人におすすめできますか?」と聞くと、「もっといいのがあるかも」と考えて低いスコアをつける傾向にあった。つまり、満足をしていてもロイヤルカスタマーとなるには至っていなかったのだ。

真のロイヤルカスタマーの条件とは、「好んで繰り返し購入し」「競合の誘いに乗らず」「第三者に推奨してくれる」大切なお客様だと武井氏は話す。ロイヤルカスタマーを生むためには、顧客の潜在ニーズに対応することが重要だ。

ロイヤルカスタマーを創出するためのCX活動の全体イメージ

CX改善の取り組みで重要な要素が、定量調査(NPS調査など)と定性調査(カスタマージャーニーワークショップや顧客調査)になる。

調査はCXを土台にして行うことがポイント

カスタマージャーニーワークショップやNPS調査を実施しても、次のアクションに落とし込めないのでは意味がない。実行可能なアクションとして改善施策を考えるためには、次の3つの要素を決めたうえで、Webやアプリなどの領域を限定せずにエクスペリエンスベースで調査し、課題を発見する必要があるという。

  1. 現状把握
  2. 改善方針
  3. 施策実行

1. 現状把握のポイント

現状把握の最大のポイントは「お客様の立場に立つこと」だ。顧客がどう思っているのかがわかれば、何を改善すべきかわかる。ただし、「お客様やユーザーの立場に立つことは、製品を熟知している立場だと難しい」と武井氏は話す。

お客様の立場に立とうとしたとき、頭に浮かぶのが「お客様の顔」ではなく、お客様から見た「自社の姿」であれば、お客様の気持ちになりきることができる。自分や自社のスタッフの顔が浮かぶようでは不十分だ。

定性調査では、仮説出しや改善意欲の醸成のためのカスタマージャーニーワークショップ、仮説の検証・把握のための顧客インタビューや社員インタビューが有効になる。

カスタマージャーニーワークショップでは、目的をしっかりと定めて、細かくジャーニーを描いてリアルさを出し、課題を構造化して捉えて対策を検討することが重要だ。

カスタマージャーニーワークショップのポイント

カスタマージャーニーワークショップを行うことで、課題の本質が見えてくるようになり、機会損失や離脱の理由がわかるようになると武井氏は話す。課題を把握し、根本的な原因を見える化することで、高効率かつ高効果の改善策に近づける。

カスタマージャーニーワークショップで仮説が見えてきたら、顧客インタビューを行い、「過去の行動」と「そのときの気持ち(NPSなど)」をひたすら聞いていく。また、現場の社員にも仮説をぶつけてインタビューをしたり、コールセンターの通話録音の聞き起こし、VOC調査、アンケート分析などで仮説を定量化していくことがベストだという。

NPSなどの定量調査を行う場合は、タッチポイントだけでなく、顧客体験を評価する項目を用意することが重要になる。また、カスタマージャーニーごとに評価できるように設計することも重要だ。

定量調査は、顧客に“体験”を評価してもらえるように設計する

2. 改善方針のポイント

CXの改善方針を策定するときは、カスタマージャーニーマップにおいて、顧客の満足度が低下するポイントから、注力すべきCX上の課題を見つけていく

満足度はNPSとの相関が高く、顧客が不満だと感じる点を重点的に改善することで成果を上げやすい。

カスタマージャーニーから注力すべきCX上の課題を特定する

3. 施策実行のポイント

現状把握からCX上の注力すべき課題を特定したら、改善施策を立案して実行していく。施策を実行する際は、プロトタイプを活用してPDCAを回し、顧客視点が抜け落ちないように、顧客を巻き込みながら改善していく必要がある。

プロトタイプとしては、サービス案内などのスクリーンプロトタイプ、電話対応などのトークスクリプト、スマホアプリ、製品プロトタイプなどが例として挙げられる。

プロトタイプを活用したPDCAサイクルをまわす

プロトタイプに対する顧客の反応を見るときは、意見を聞くことよりも、実際にプロトタイプを使って何をするか、「行動」に注目するのがポイントだ。

人は相手の期待に応える傾向があり、ニーズを明確に言語化できるとも限らない。行動という事実から、行動の裏に潜んだ顧客の心理を分析し、ホンネに迫ることが重要になる。

期待を超えたサービス提供でNPSが飛躍的に向上

講演の後半、武井氏はCX改善事例を紹介する。

ソニー損害保険は、節目の年齢になった自動車保険の顧客に対して、より有利な条件変更にともなう返金を案内。保険商品の複雑さから顧客自信が気づきにくいメリットを企業側から能動的に知らせることで、顧客の信頼を獲得している。

同様に、顧客が真に困ったときに役立つことが信頼を得るカギだという考えから、大雪が降った地域の顧客に対して、雪害でも車両保険適用の可能性があることを災害直後にメールでプッシュ通知。ほとんどの顧客はこの事実を知らないため、一通のメールがCX向上に大きく寄与した。

こうした取り組みは、短期的には収益の圧迫につながるように見えるが、結果としてNPSが向上し、収益面でのメリットにもつながっていくはずである。

購買完了から安定利用までの溝を埋める

ソニー損害保険は、保険の契約申し込みにおける一連のコミュニケーションフローも顧客視点で改善している。

保険の契約成立から保険証券が届くまでの時間は、「手続きは完了しているのか……」と、顧客にとって不安な時間だ。企業側のオペレーターにはあたりまえの事実でも、顧客は進捗状況がわからない。

そこで契約成立から書類発送までのメール案内に顧客ごとの進捗状況を確認できるリンクを設置、不安を解消して心理的な待ち時間を軽減することでCXを改善した。

デジタル技術を活用して多様なニーズに応える

米国のテスラモーターズは、納車時の顧客ニーズに応えるため、デジタル技術を活用してCXを高めている。

複雑な車の機能を使いこなすためには、納車前の事前説明などのサポートが必要になり、手続きが数時間にわたることがある。一方、顧客のなかには一度に説明されても理解しきれず、後で「なんて説明されたかな?」と疑問に思うこともあるだろう。

こうした課題を解決するため、テスラは新車を納車する日に顧客へウェルカムコールをかけ、新車の複雑な機能を説明する動画を紹介している。動画を使ってわかりにくい機能でも後から見返せるようにして、車を使いこなせるようサポートする。また「早く乗りたいから説明は手短に」という顧客のニーズにも対応している。

CX改善のサイロを乗り超えるコツ

最後に武井氏は、CX改善の最大のポイントとして、「部署ごとにサイロ化されてしまうことを避けなければならない」と説明する。

Web、営業、コールセンターなど、それぞれの部署が単独ではなく、一緒に顧客を見て改善施策を考えていく。互いに言いにくいこともあるだろうが、その多くは顧客の声として顕在化していることが多く、部門間で意見が食い違ったとしても、顧客の声であれば受け止めやすい。

CX改善の成果を共有することも重要だ。オンラインの見積もり機能を改善することでCVRが向上し、その結果コールセンターの問い合わせ対応も削減できたなど、成果をシェアすることで部署間の壁を超えやすくなる。

CX改善は、お客様の立場になりきって、定量調査などを使いながら課題を見つけ、顧客を巻き込んで改善していくことに尽きます。とっぴなことはないかもしれないが、1人ひとりのお客様の行動をつぶさに時系列で追うことで、お客様になりきりやすくなる(武井氏)

Web広告研究会サイト掲載のオリジナル版はこちら:「お客様の立場に立つことこそがCX改善の最大の一手、ビービット武井氏が語るCX実践手法と事例」2017年4月26日開催 月例セミナーレポート 第1部

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