なぜ御社のPDCAは回らないのか? 小川卓氏が解説「組織体制と情報共有がポイント」
Webサイト改善やあらゆるマーケティング施策を進めるためには、PDCAサイクルをうまく回すことが必要だ。しかし、実際には「うまく回っていない」PDCAサイクルが非常に多い。
4月末、UNCOVER TRUTHが主催するデジタルマーケティングセミナーが開催された。ここでは、同社CAOの小川 卓 氏が講演した「なぜPDCAサイクルが回らないのか」というテーマについてお伝えする。
PDCAサイクルが回らない主な理由は、次の2つだ。
- 正しいゴールとKPIが設定されていない
- データドリブンな組織体制になっていない
本記事では、PDCAサイクルを止める原因と、うまく回していくためのポイントを紹介する。
PDCAを回すのは打率を上げるため。
「なぜやるのか」がチームで腹落ちしていることが重要
そもそも、なぜPDCAサイクルを回すのか? 小川氏は次のように説明する。
PDCAはすぐに業績を上げるものではありません。打席数を稼いで、打率を上げるものです。成功や失敗の知見を溜めながら何度も回していくことで、次の成功確率を上げていく取り組みです。
ビジネスにとっては「イチかバチか」ではなく、成功率を上げることが大切だ。「そのためにPDCAサイクルを回している(すべてが成功する前提ではない)」ということを上長と現場、社外の協力会社と共有できていないと、PDCAサイクルが途中で止まる原因になる。
PDCAサイクルは、個人の努力でどうにかなるものではなく、組織で回していくものだ。そのためにも「何のためにやるのか」という目的をチームに周知・共有して、それを評価する仕組みまで整える必要がある。
PDCAのどこで止まっているのか? ボトルネックを解決する
それでは、PDCAの具体的な内容を見ていこう。「Webサイトの改善」に絞ると、PDCAはとてもシンプルだ。
- Plan: 施策を考える
- Do: 施策を実施する
- Check: 施策を評価する
- Action: 原因分析を行う
PDCAサイクルが回らない場合は、PlanからDo、あるいはDoからCheckなど、どこかのフェーズに断絶があるということだ。一体、どこで止まっているのだろうか? ここからは、1つずつその原因と対応策を探っていく。
PlanからDoで止まる場合
PlanからDoで止まるのは「施策を考えたが、実行されない」ことを表している。これを解決するには、次の点をチェックする。
特に重要なのは「Actionable(実現可能)なKPIを設定しているか?」という点だ。小川氏は、KPIを設定するときの手法として「SMART」という考え方を紹介した。
- Specific: 目標があいまいではないか?
- Measurable: 数値で安定して計測が可能か?
- Actionable: 施策を思いつき、それは実行できるのか?
- Realistic: 現実的な目標数値になるのか?
- Time-bound: 期限やスケジュールを設定できるか?
たとえKPIを決めても、それを改善するための施策が現実的でないと、その施策を実行できずDoにはつながらない。そのためにも、上記の点を踏まえながら必ずKPIと改善施策をセットで考えることが大切だ。
また「効果が予測できない」というのもよくつまずくポイントだ。そもそも、これから行う施策について正確な予測を立てることは不可能だといえる。その場合は、たとえば「集客を10%改善する」のような最低改善ラインを設定することで先に進むことができる。
Planの段階で求められているのは、精度ではないんです。たとえば「10%コンバージョンが改善します」と言っておいて、実際に50%改善したからといって怒られはしないですよね。成果の予測はあくまで判断材料にすぎないので、そこで手間取らずにロジックを組んで先に進めることが大切です。
DoからCheckで止まる場合
DoからPlanで止まるのは「施策を実行したが、評価していない」ということだ。次の点をチェックしよう。
「レポートを作る時間がない」という理由で、十分な確認をせずに次の施策に進んでしまうことも多い。その場合はツールを使ってレポートを半自動化するのがおすすめだ。Analytics Edge、Google Spreadsheet、Google データスタジオ、Tableauなどのツールを使い、重要なKPIのレポートが自動的に作られるようにしておけば手間を省略できる。
さらに小川氏は「使われないレポートには価値がない」という。日時配信レポートがちゃんと見られているか、使われているかもチェックして、必要であればレポートの見方を学ぶ社内勉強会も開催する。チームが日常的にデータに触れる環境を作ることが目的だ。
以前ある企業で「サクセスセンター」という社内向けのポータルサイトを作ったことがあります。データに関するFAQなどの情報を集めて、全部まとめて見られるようにしたものです。
「ツールの使い方がわからないから、やらない」というのはもったいない。全員がデータを見て話ができるように、その部分をできるだけケアしました。
CheckからActionで止まる場合
CheckからActionで止まるのは「レポートは評価したが、それに対して改善施策をしていない」ということを表す。小川氏は「ここが一番難しいところ」だと説明する。なぜならWebサイトにはさまざまな要素があるので、「なぜ変化したのか(しなかったのか)」という分析は難しいからだ。
数値の変化から「気付き」や「原因」を発見するためには、アクセス解析ツールだけを見るのではなく、3つのツールを効率的に利用することが必要だ。
- アクセス解析(Googleアナリティクスなど)
- ヒートマップ(小川氏はUSERDIVEを使用)
- A/Bテスト(Googleオプティマイズなど)
アクセス解析で「気付き」があるページを発見したら、ヒートマップでそのページの「原因」を探る。そこから考えた仮説をA/Bテストで検証して、するべき施策を決定していくという具合だ。テスト環境があるとないとでは、施策を実行するスピードとその成功確率に差が出てくる。
分析は外部パートナーに依頼するのも手です。その場合は、先述したようにPDCAサイクルを回す目的をきちんと共有しておく必要があります。
ActionからPlanで止まる場合
最後に、Actionから次のPlanにつながらず、サイクルが1回きりで止まってしまうケースだ。これは「次の施策・アイデアが出てこずに継続しない」ことを表している。
PDCAサイクルがActionまで回ったら、「KPT」を使って振り返りを行うのが効果的だ。KPTとは、施策について次の3つに分けて話し合う手法のこと。この振り返りはマーケターだけでなく、エンジニアやデザイナーも含めて関係者全員が参加するのがおすすめだ。
- Keep: 良かったので継続すること
- Problem: 問題があるので改善すること
- Try: 次に試すこと
施策のストックを作っておくのも効果があります。過去に行った施策や検討した施策を1回切りで終わらせずにストックしておくことで、次のPlanにつなげるスピードが上がります。
PDCAをまとめる中心となるレポートを定めておく
小川氏はもう1点、「PDCAの中心となり、全員が閲覧できるレポートを定めておく」ことも重要だと説明する。「どんな施策をして、どうだったのか」という全体図を関係者間で共有することが目的だ。レポートのポイントは、行った施策とデータがセットになっていること。資料を1枚でシンプルにまとめると関係者に共有・配布しやすい。
「重要なポイントを大勢で共有し、認識違いをなくす」という目的が達成できるならば、資料の形式に制約はない。
たとえばある大規模EC企業では、文章で書かれた何十ページにもわたる詳細なレポートを事前に関係者全員でじっくり読み込んでから振り返りのミーティングを行っているという。負荷は高いが、PDCAを回すことにチームで本気で取り組んでいるからこその手法だといえる。
PDCAサイクルを回すためには、明確なゴール・KPIが設定されていることはもちろん、「PDCAサイクルが回るような組織体制」になっていることが重要だ。そこでポイントになるのは、関係者全員が共通認識を持つこと。自社のチームがどうなっているか、関係者が共有しているレポートはあるのかなど、見直してみるといいだろう。
- PDCAを回る理由とプロセスを可視化して、腹落ちさせる
- PDCAが止まる箇所を特定して障害を取り除く
- PDCAを振り返るためのレポートを関係者全員の中心に据える
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