インタビュー

マネックス証券のサイト改善を推進した、24歳Web担当者の「できることからやる」精神

システム変更が容易ではない、そんな環境でどうやってサイト改善を推進したのか?

マネックス証券」は、証券、株、投資信託など幅広い金融商品を扱い、他社に先駆けてネット証券専業としてスタートし、Web活用に強みを持っていることが特徴だ。

しかし、「システムの変更が容易ではない」という環境のため、「PDCAサイクルを回してサイト改善のノウハウをためるのが難しい」という問題があった。

そんななかでサイト改善に取り組んで口座開設完了率を1.2倍に向上させたのは、入社2年目の田中佑典氏。「システムを変える大きなPDCAを回すのが難しいなら、できるところからやれば良い」という考えだった。

マネックス証券 営業企画部 田中佑典氏。入社2年目の24歳
マネックス証券 営業企画部 田中佑典氏。入社2年目の24歳

「証券サイト」改善にあたり感じた2つの課題

「もともと金融商品については詳しいわけではなかった」という田中氏。だからこそ見えてくる課題があった。それは次の2つだ。

  • “証券の玄人向けサイト”に近くなっていたこと
  • 改善のためにノウハウを蓄積するメソッドがなかったこと

創業当時のマネックス証券は、「対面の証券会社で投資を行っていたお客様が移ってくる」というパターンが基本だった。そのため、Webサービスには詳しくなくても、証券については玄人という顧客が多い。玄人の顧客がメインだと、どうしてもサイトの作りもそちらに寄っていく。

「投資を始めたい、マネックス証券で最初の口座を開きたい」という初めてのお客様が取り付きにくいサイトになっているのではないか、ハードルの高いサイトになっているのではないか。個人的にそう感じていました。

私たちは、お客様にお金を預けていただいて長く付き合っていくサービスを提供しているので、お客様が毎日見たくなり、接触頻度も高くするためには、「お客様に選ばれるサービスを提供し続け、サイト内の改善ノウハウをためる」というのが重要になるな、と感じました(田中氏)

この課題が、田中氏を動かす原動力になっている。

「もともと証券にくわしいわけではなかった」からこそ課題が見えたという
「もともと証券にくわしいわけではなかった」からこそ課題が見えたという

マネックス証券では、「やりたい」と言ったことに、納得できる理由と説得できるデータがあって、「それをやりきったら事業はこうスケールアップします」ということを説明できるのであれば、たいていのことはやらせてもらえます(田中氏)

「商品軸」ではなく「お客様軸」で見る

従来は商品ごとに担当が分かれており、商品カテゴリを横断して見る仕組みが欠けていた。田中氏はまず「お客様がどうサイト内を遷移しているか」を「お客様軸」で追っていく必要があると考えた。

しかし証券会社は非常にシビアな個人情報を扱っているため、サイト内の遷移と顧客の取引は簡単にはひもづけられないという難しさがある。それでも、田中氏は「(サイト内遷移とお客様の取引が完全にひもづいていない状態であっても)お客様軸でサイトを見ることは重要」だと考えた。

「商品軸でなく、お客様軸でサイトを見ることが重要だと考えた」と田中氏
「商品軸でなく、お客様軸でサイトを見ることが重要だと考えた」と田中氏

証券会社特有の事情として、たとえば「株価が下がったから」といった外部の要因により顧客が取引を離脱してしまう可能性が高い。たとえサイト自体は改善して良くなっていても、マーケットの影響で改善の成果が出ていないように見えてしまうこともあるという。

内部要因と外部要因をあわせた検証は本来なら絶対にやるべきなんですが、変動要素が多すぎて、検証することがすごく難しい。サイト改善にかかわらず、ボーナスシーズンはほかの月よりも口座開設数が増えるという年間トレンドもあります。

それに対して、口座開設前の資料請求や書類をやりとりするステップはWebサイトにしか依存しません。だから、まずはここからしっかり分析して「口座開設完了率」の改善に取り組むことにしました(田中氏)

証券会社に限らず、システムが深くかかわる領域や変動要素が多い領域では簡単にシステム改修のPDCAを回せないケースが多い。田中氏は「できないから」とあきらめるのではなく、「できるところから手を付けて小さな成功の実績を積み上げていく」方法を選んだ。

システムに大きな影響を与えない「口座開設前」の改善から着手

マネックス証券の最終的な目標は「取引を増やす」ことだが、ネット証券のシステムは取引に直結しており、いきなりシステム改修に着手することは難しい。

そこで田中氏は、システムに大きな手を加えず、「取引を増やす」ことが見込める「口座開設前」(ログイン前)の改善に焦点を絞った。口座開設完了率を改善するために、まずランディングページ(LP)を改善し、あわせてトップページも改善することにした。

口座を開設する前は、お客様の属性を一切考えず「どのフェーズにいて、そのとき何に困っているか」だけを見ました。投資の初心者かベテランか、年齢や性別、年収はどうかといった軸はいったん外して、最初は「何に困っているのか」という軸で分析を行っています(田中氏)

「見られていない」コンテンツをばっさりカット。口座開設完了率が1.2倍に

ランディングページは広告からの誘導があり獲得コストが高いページだ。最適化をシビアに行うため、ページ内にある1つひとつのコンテンツを分析する方法を選んだ。

とはいえ、田中氏はそうした分析のプロではない。改善にはUNCOVER TRUTHに協力を依頼し、Googleアナリティクスに加えて、同社が提供するヒートマップ解析ツール「USERDIVE」を用いてページ内で口座開設に貢献している要素とそうでない要素を洗い出した。

ランディングページの改善から始めて、次の大きな改善へ進むことを念頭に置いていたので「どれだけ短いスパンで成果を出せるか」が最重要事項でした。そのためツールやベンダー様を選ぶのに長い時間はかけられませんでした。私自身にサイト改善のスキルがなかったので、Googleアナリティクスのデータ分析からページ内にあるコンテンツの分析、改善施策の実行、そして振り返りまでの全工程をお任せできるのはUNCOVER TRUTHさんでした(田中氏)

スクロール、ルッキング、クリック3種のヒートマップで要素を分析した
スクロール、ルッキング、クリック3種のヒートマップで要素を分析した

広告から誘導するランディングページには、「口座開設の流れを説明する動画」や「おすすめの商品」などが掲載されていた。おすすめの商品は9つのボタンが並んでいたが、ヒートマップ分析により「上の3つしか見られていない」ということが明らかになった。

改善に協力したUNCOVER TRUTHの小畑氏はこう語る。

ランディングページを見たときのスクロール・ルッキング・タップ操作など、コンバージョンした人と、してない人でフィルタをかけて、動きの違いを見たんです。すると、コンバージョンしている人はかなりページ上部のほうでスパッと意思決定が終わっていることがわかりました。一方で、他社比較の一覧表という要素は、ページ下部にあるにもかかわらずコンバージョンするしないに関係なく注目されていることがわかりました(小畑氏)

サイト改善を支援したUNCOVER TRUTHの小畑陽一氏
サイト改善を支援したUNCOVER TRUTHの小畑陽一氏

こうした分析結果を受けて、従来9つ表示されていたボタンのなかでよく使われているボタンを強調し、使われていないボタンを削除。また、あまり見られていない動画も削除して、口座開設までのモチベーションを保てるようユーザーに提示する情報を取捨選択していった。

ランディングページの改善前(左)と改善後(右)。コンバージョンしたユーザーに使われている要素を強調し、使われていない要素を削除した
ランディングページの改善前(左)と改善後(右)。コンバージョンしたユーザーに使われている要素を強調し、使われていない要素を削除した

動画はUXデザイン部門が手間をかけて制作したものなので、見てもらえる場所に置きたいという気持ちがありました。でも「お客さまが何を見たいか」「何を見て口座開設を決めているか」というお客様軸で分析すると、削除するという判断が必要だったんです。ヒートマップ分析は気づきを得るのにぴったりでした(田中氏)

ランディングページの改善は、1~2か月という短期間で完了した。もともとアクセス数が多いためA/Bテストも1~2週間で十分なデータが取れたからだ。テスト期間を含めて、だいたい4~8週間という単位で各ページを改善していった。

今回のランディングページ改善では、口座開設完了率が1.2倍に増加するという成果が出た。もちろんまだ改善活動は続いている。田中氏は、「口座開設後(ログイン後)の改善も視野に入れている」という。実際の取引にかかわるログイン後の改善が行えれば、お客様満足度の大幅な向上となる。

できるところから手を付けて、小さな成功を積み重ねて本命への道筋を作る

最初からシステムにかかわる大きな改修を行うのは難しい。田中氏は「今回の改修で成果が出たので、次はこれに取り組んでみましょう」と、改善の実績とノウハウをためながら本丸までの道筋を作っていく方法を選んだ。これは施策の成果だけでなく、冒頭の「社内にサイト改善のノウハウをためる」という課題を達成するものだ。

本命の目標は先にあるのですが、着手するためには、その前から成果を出さなければならない。加えて、本命に着手する前に多くの時間をかけられないので、改善のスパンをどれだけ短くできるか、かつ、きちんと成果を出すことが今の重要課題ですね(田中氏)

部門の権限やシステムの制約で、本命の改善がなかなか行えないというケースは少なくない。そんなときに「できるところからやり、小さな成功を積み重ねる」という方法は有効だ。長期的な視点があるからこそ、小さな改善に取りかかる意味があるのだ。

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