マーケターは課題に対してHowやWhatを考えるより、Whyを考えるべし

顧客に製品を売って終わりではなく、顧客に成果を売ることが重要だという。「ガートナー カスタマー 360 サミット 2017」の基調講演をレポートする。

「製品を売る」のではなく、「成果を売る」とは、どういうことだろうか。成果を売るとは、お客様の目標を達成させることを意味する。

多くの企業は、顧客の課題を聞き、それを解決する製品を売るだろう。この思考回路は、「どう解決するか(How)」を考えた結果だ。しかし、成果を売るためには、「なぜその課題が起きたのか(Why)」から考え、顧客のゴールを定め、それを解決する糸口を見つけなければならないという。

一体どういうことだろうか。ガートナー ジャパン主催「ガートナー カスタマー 360 サミット 2017」の基調講演、飯室 淳史 氏による「これからはお客様に成果を売れ!」から具体例を交え、レポートする。

飯室 淳史
薬学部を卒業後1985年より外資系のバイオテクノロジー支援会社に入社。その後、会社の買収により社名が複数回変わり、2004年にGEヘルスケアに統合された。その後2016年9月にGEヘルスケアを退職。現在は「B2Bハッカー」としてグローバルでのリーダーシップ経験を基にしたコンサルティング活動を行っている。

成果を売るとは、お客様の成功を担保すること

本セッションのテーマである「成果を売れ」とはどういうことか。飯室氏は、成果を売るとは「お客様の成果を最大化し、お客様を成功させ、お客様の目標を達成させること」だと定義する。これまでの製品やサービス、ソリューションの場合は「売って終わり」だった。しかし、成果を売るということは「お客様の課題が解決するまでを担保すること」だという。

本レポートにおいては、成果を売るということをより明確にイメージしてもらうために、基調講演で最後に紹介された「成果を売る成功事例」についてまず紹介したい。この事例は飯室氏がGEヘルスケア時代に日本のある製薬会社に対して手掛けたプロジェクトである。

事例:「製品を売る会社」から「成果を売る会社」への変換点とは

もともとGEヘルスケアはその製薬会社に対して、研究装置や試薬、医薬品製造装置などを提供する「製品を売る会社」だった。それがどのように「成果を売る」ことにチェンジしたのか。

目をつけたのは、製薬会社のゴールとペインポイント(痛み、経営課題)である。

まず、製薬会社のゴールは「どこよりも早く新薬を開発し、市場に導入し、一人でも多くの患者様の命を救うことで、利益を上げること」である。しかし、そのゴールと現状には、大きなギャップがあったのだ。

その製薬会社には研究者が500人いたが、業務の実態をヒアリングしてみると、実質的に研究者の時間の20%が装置のメンテナンスなど研究以外の雑事に追われていることがわかった。

20%といえば、500人のうち100人がまったく研究していないのと同じこと。1日でも早く新薬を開発することを目指す企業にとっては大きな損失だ。これがまさにこの会社にとってのペインポイントだった(飯室氏)。

なぜ20%もの時間が雑務に費やされていたのか。それはこの会社の装置管理に問題があった。その製薬会社で使われている装置の台数、種類、メーカーなどを飯室氏が所属するチームが調査したところ、3500種類、5000台の装置があることがわかった。

装置が壊れたら、メーカーに電話し、見積もりをとり、社内稟議を回し、修理を依頼する。手続きを含めて修理が完了するまで1か月以上かかることもざらだった。この手続きを研究者が行っていたという。これは一人の研究者が、10台の装置をメンテナンスをしているようなものだ。

「研究所内に装置のメンテナンス事務所を構える」という奇策

どうすれば研究者が100%の労力を研究に費やせるようになるのか。

ここで思いついたのが、まさに新薬開発を加速させる「成果を売る」ビジネスだった。具体的には、研究所内に事務所を構え、5000台の機械のすべてのメンテナンスを一括して引き受けることを提案したのだ。

この提案を実施した結果、研究者の時間的な節約だけでなく、機械の個数、購入/メンテ費用なども一括管理することでコストを節約できた。そして、GEヘルスケアでは削減できたコストと捻出した時間で、利益をもらうビジネスモデルが成立したのだ。

顧客からは、故障による研究の機会損失を防ぐことが評価され、クチコミで他の製薬会社にも導入が進んだ。最終的に、トップ製薬会社の半分にこのサービスを提供するようになったという。

「製品」から「成果」を売るビジネスモデルに変化するためには、それまでの常識を自ら破壊し、文化を変える必要があった。成果を売るビジネスを牽引するリーダーシップやマーケティングも必要だった。また最初から完了形を目指すのではなく、プロトタイプのアイデアを出して、顧客からフィードバックを受け改善していく「アジャイル」による進め方を実施した。

さて、この事例にこそ、飯室氏が今回の基調講演で訴える成果を売るためのフレームワークが隠れている。そのフレームワークについて、講演の流れに沿って紹介していきたい。

成果を売るためのフレームワーク

課題が見つかったときに多くの会社は「どう解決するか(How)」ばかりを考えてしまう。先程の製薬会社の事例では、GEヘルスケアにもともと機械の販売台数の頭打ちという課題があった。この時、飯室氏は「どうやって販売台数を増やすか(How)」を考えるのではなく、「顧客のゴール」からWhyを考えた。「なぜ自分たちがここにいるのか(Why)」を考えることが本質だという。

「Why」をまず考え、それから成果を売るためのフレームワークにのっとって考えていく。成果を売るためのフレームワークは次の3つから構成される。

  • 何を変革するのか?
    文化>戦略>ツール
  • 成果を売るために、必要な能力は何か?
    リーダーシップ>マーケティング>自らを破壊する
  • 成果を売るために、何をデザインするのか?
    お客様の成功の定義、どんな体験を事前に期待しているのかの定義、成果が出たときの利益とその分配
図1:成果のためのフレームワーク

上記を解説していこう。

何を変革するのか?
文化>戦略>ツール

文化の変革にはアジャイルが必要

文化の変革では、「一言で言えば、アジャイルが根底に必要」だと飯室氏は言う。「アジャイル」とは、ソフトウェア開発手法の1つだが、営業やマーケティング、サービス、物流、管理部門などすべてにおいてアジャイルが適用できるという。

「アジャイルとは、失敗から学ぶ文化」と飯室氏は考える。しかし、「失敗から学ぶ」と口で言うのは簡単だが、実現するのは難しい。飯室氏は、以下のように自分の経験を語る。

「失敗しないように教える」と言ったら、失敗はダメだと言っているようなもの。自分の場合は「私が一番がっかりする話をしてくれた人に、今晩飯をおごるよ」と伝えた。失敗しないことではなくて、失敗を褒めて成功するまでやり遂げられるように勇気づけることが上司の役割だ。

アジャイルで一番大切なことは、ゴール設定だ。目指す先を決めたら、次にそのための課題を探る。そして仮説をもとに試作品を作っていく。

GEヘルスケアでは以前プロトタイプを作るのに3~5年かけ、その改良に2年かけていたという。

しかし、開発のやり方をアジャイルに変革した。試作品をダンボールや紙などで短期間で作り、顧客からのフィードバックをもらい、改良しさらにフィードバックをもらう。これを2週間で5~10回繰り返す。フィードバックで開発を加速するやり方が定着したのだ。

新規顧客から既存顧客重視に戦略を変える

文化を変えたら、次は戦略を変える。以前は飯室氏自身、既存顧客よりも新規顧客を重視していた。しかし一般的なB2B企業の場合、売上構成比を見ると新規顧客よりも既存顧客からの売上のほうが多い

実際、飯室氏の会社の場合でも既存顧客からの売上が85%、残りの15%は新規顧客だった。しかも新規顧客の問い合わせの経緯を調べると、既存顧客からのクチコミや、購入はなくても使用経験があるといった指名買いによるものだとわかった。

この事実に気づいた飯室氏は「既存顧客(お客様)の声を聞き、真のニーズをつかみ、生涯顧客価値を最大化する」と戦略の変更に踏み切った。

なお、お客様の声を聞くということは「値段を安くしろ」といった「要求事項」を聞くのではなく、満たされていないニーズを聞くことだ。そしてそのニーズに対するソリューションを提供する。

ニーズを満たすソリューションが提供されれば、お客様が満足しNPS(ネットプロモータースコア、顧客ロイヤリティ指標)が上がり、新規顧客に自社を推奨してくれるようになる。冒頭の製薬会社の事例もこの流れが当てはまる。

図2:生涯顧客価値の高い顧客から新規顧客を推薦してもらう

戦略に合わせたツールを導入する

顧客が「ツールを導入したい」とベンダーにコンタクトしてきたときには、ツールについてよく調べていて、RFP(Request For Proposal、提案依頼書)まで用意されていることがある。しかし、そのRFPを鵜呑みにし、回答するようなやりかたでは成果を売ることはできないという。

そもそも、そのツールを導入することがお客様にとっての「成果を売る」ことにつながるのかを見極める必要がある。そのためには、課題をお客様に聞くのではなく、お客様はどんなゴールを達成したいのかを聞き、現状を知る必要がある。ゴールから現状を引き算すれば課題が見える(飯室氏)。

先の製薬会社の事例に当てはめれば、ゴールは新薬の開発に研究員が100%取り組むこと、そして現状は研究員は80%しか取り組めていないこと。よって、20%の時間が課題だと言える。

定義した顧客のゴール、分析した現状とゴールとのギャップ、課題を踏まえて、全社でシェアできアイデアを交換できるようなツールが選ばれることになる。

「文化を変え、戦略を変え、それに合わせてツールを選定する。そのためにはビジョンを示し、一緒に働く人の動機づけをするリーダシップが大事になる」と飯室氏は説明する。

成果を売るために、必要な能力は何か?
リーダーシップ>マーケティング>自らを破壊する

変革を可能にする強いリーダーシップ

変革を推し進めるには、リーダーシップが必要になる。本来リーダーとは、役職が上になるほど、リーダーにしかできない決断をするものだ。

GEは、インダストリアル・カンパニーから、売上構成の比重をデジタル領域に置く「デジタル・インダストリアル・カンパニー」として生まれ変わった。創業当初からの本社の所在地も変えた。求める従業員の必須スキルにプログラミングを入れるようになった。

ここまでの大きな変革を可能にしたのは、強いリーダーシップがあったからだと飯室氏は語る。

成果を売るためのマーケティング

そして次に必要な能力が、「製品を売る」から「成果を売る」ためのマーケティングだ。

売るものが変わるので、マーケティングも変わらなければならない。これまでのマーケティングの常識だったマーケティングの4P(Product、Price、Place、Promotion)は成果を売るためのマーケティングには機能しないと飯室氏は言う。

成果を売るためには、売り手の目線を捨ててお客様目線にシフトしなければいけない。

たとえば、住宅展示場で販売員は「どんな家がほしいか」と聞くが、顧客は「週末に孫が泊まりに来てくれるような部屋がほしい」と考えてリフォームを検討しているだけかもしれない。売り手はお客様のインサイトを理解し、顧客体験を設計する必要がある。

自らを破壊する

そして3つ目の求められる能力が自らを破壊する力だ。「大きなシェアと既得権を持つ自らを破壊する」というリスクのある決断をリーダーができるか、ということだ。変化の激しい現在のような時代では、自らを破壊せずに、既存のビジネスを守る方向に動くほうが、会社がつぶれるリスクが高いと飯室氏は警鐘を鳴らす。

飯室 淳史さん

成果を売るために、何をデザインするのか?

利益を配分する

フレームワークの3つ目の利益の配分を考える上で、GEのジェットエンジンの新しいビジネスモデルが紹介された。これまで、GEはジェットエンジンの販売で利益を上げてきたが、自らそのモデルを破壊し変革したのだ。

GEのジェットエンジンには、5000個のセンサーがついており、飛行中のデータを常時取得している。そのデータを活用し、燃費のよい飛行ルート、離陸/着陸方法を提示し、パイロットの操縦の癖などを分析する。

これにより、年間のジェット燃料費の1~2%を削減に成功した。1~2%といってもその金額は50~60億円の節約になる。そしてその節約された金額を顧客とGEが折半するのだ。成果が半分になっても、顧客は確実に利益を手にできる。利益配分の考えを理解しやすい事例だろう。

これからはお客様に成果を売れ

「お客様に成果を売れ!」の講演を通して飯室氏は、強いリーダシップのもと、これまでの製品販売による体制を文化、戦略から変えていく必要性を訴えた。

「成果を売る」ようになるためには相応の時間と努力が必要であることも感じられた、しかし、これからの変化の時代を生き残るためには、本質に目を向けなければならず、その上で紹介されたフレームワークの考え方は大いに参考になるだろう。

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