カレイにサケたいゾウ!「疲れちゃう」発言――ユーザーの疲労を呼ぶ3つの原因(第3回)
磯野さん(仮名)の嘆き
こんにちは! 象好きのかたわら、パソコン教室を運営し、通っている方の操作を観察して、お困りごとを発見する仕事をしているモリマミコと申します。ゾウがとても好きなんだゾウ(ただしアジアゾウに限る)。
新しいパソコンを買ったら、ワードが『SM明朝』じゃなくなったわ!
という60歳代女性の言葉に、どこからどう突っ込めばいいのかわからず、とっさに「困ったゾウ」と呟いてしまうほどの象好きです。お年を召されると声が大きくなるんですよね……。
SM明朝! 私あれ好きなのよ、SM。ほら、あなた、エスエムわかるでしょ!
と、周りの人にも聞こえるボリュームで同意を求められても、イエスですともエムですとも反応できず、「ホエェ」などと間抜けな声を出しながらドキドキしてしまう。あぁ、土器があったら入りたい。
そういえば以前、大きな声で「パソコンのメールの受信トイレ!」と言う方がいらっしゃいました。小さな声で「ト、トイレじゃありません、トレイです」とお伝えしても、「ん? 受信トイレでしょ!」と大きな声で返されました。
さらにお客様に沖縄銘菓「ちんすこう」を言い間違えられたときは、一瞬何が起きたかわかりませんでした。
言い間違い、読み間違い、怖い。
ということで、前置きが長くなりましたが、第3回は「人は疲れるんだゾウ」というお話です。
「疲れちゃう」をカレイに避けられない磯野さん
インターネットって、疲れちゃうんだよね
と、パソコン教室の生徒である磯野さん(67歳男性・仮名)が言った。ゴルフをこよなく愛するイケてるシニアである。お持ちになったのはiPhone、iPad、Surfaceのデジタル三兄弟。
メールくらいはiPhoneで足りるかなと思っていたんだけど、画面が小さすぎて疲れちゃったんだよね
ということで、Surfaceも購入。
でも、Surfaceのメールアプリも、疲れちゃうんだよね。なんかゴチャゴチャしているし
ということで、さらにiPadも購入。
iPadに変えたんだ。これでもう大丈夫かなと思うけど、どうでしょうね?
磯野さんは決して、iPhoneを使いながらスクワットをしていたわけでも、Surfaceを持ちながら腹筋をしていたわけでもない。それにもかかわらず、この発言に2回出てきた「疲れちゃう」。この言葉に着目しよう。
疲れちゃう原因は?
では、なぜ磯野さんは疲れてしまうのだろうか。主な原因は以下の3つだ。
(1)加齢による「目の変化」
左ヒラメに右カレイ。高齢化社会じゃ左も右もみな加齢。そう、いくら若く見られていても、若いと思っていても、人は加齢する。ヒトはカレイをサケられない。
年をとると、毛様体筋の力が弱くなり、目の焦点がすぐに定められなくなる(私のギャグは若いころから笑点が定まらない。エッヘン)。視野も「見えてはいるが注意が向かない=実用視野が狭い=認識力が衰えた」状態になる。
つまり、目の力が弱くなることによって、文字を読むのに焦点を合わせられなかったり、エラーに気づかず操作できなくなったり、「“ゴチャゴチャ”に見えて、操作が面倒くさい」と思い、疲れてしまうのだ。
しかしこれは、インターフェイスの問題ではなく、加齢そのものが問題なのである。もし仮に、アプリが老眼に対応していて、そうした設定が選択できるなら、それだけで解決する。しかしそういうアプリは少なく、乗り換えれば解決するかも、と思い込んでしまうから、話がややこしくなる。こうなってしまうと、どんな些細なギャグでも拾ってくださる磯野さんのような紳士であっても、画面の隅々までメッセージを拾うことができなくなる。
(2)「考えなくてはいけない」という思い込み
加齢は、思考力にも影響する。Web担当者や上級者にとっては常識でも、シニアが知らないカタカナ横文字、よくわからない単語はたくさんある。サイト内にも溢れている。こうした言葉に出会うと、シニアは意味を理解しようと「考えて」疲れてしまう。知らない土地に行くと疲れやすくなるように、人は知らないことに触れると少しずつストレスを感じるのだ。
文字がたくさんある場合も、読んで理解するために「考えなくてはいけない」というプレッシャーを感じて疲れてしまう。できればタイトルくらいで、本文をなんとなく理解できるようにしタイ。エビのような細いタイトルで本文を読ませタイのだ。
(3)自分自身の「思いもよらない行動」
そして加齢は、身体の操作能力にも影響する。指先が思うように動かなければ、思いも寄らない現象が起きることもある。それがスマホやパソコンの世界だ。「何もしていないのに変な画面になった!」というときは、だいたい、何かをしている。
- スワイプしているときに指を離すタイミングが遅れて、思いもよらない画面まで飛んで行く
- 画面をスクロールしたくてスワイプしたつもりが、通知領域に触れてしまい、思いもよらない画面が出る
- 右手の人差し指でスワイプしようとしたら、支えている左の親指でタップしてしまい、思いもよらない広告が表示される
などなど、意識しない行動によって「想像がつかなかった」画面が表示され、「訳がわからなくて」疲れてしまうということも多い。
“疲れちゃう”と何が起きるのか
こうして、疲れが貯まり、面倒くさくなってくる。そうすると何が起こるのか?
疲れたユーザーは、スワイプの力の入れ加減、画面の読み飛ばし方がどんどん雑になっていく。そしてイラっとした表情で「あれ~? なんかわからないなぁ」と言い、途中で操作を止めてしまうのだ。
「疲れちゃう」と、読み間違いや読み飛ばしが増え、果てには操作を止めてしまう。つまり、「疲れちゃった」の言葉を残してサイトやサービスからサヨナラをしてしまうのだ(涙で前が見えないよぅ)。
余談だが、「サヨナラ」が曲タイトルに含まれている楽曲を調べたら、なんと259曲だった(うたまっぷによる)。サヨナラ、結構多い。どのサヨナラの歌を思い出すかで年代がわかりそうである。これぞサヨナラ年輪。ちなみに、私がサヨナラで真っ先に思い出すのは、「さよなら人類」である。ロマンティックとは縁がない。
疲れさせないためにどうするの?
ではこうしたユーザーの「疲れ」を避け、それに対応するにはどうすればいいのだろうか? 3つの原因ごとに考えると、以下のような対処方法があげられる。
- (1)加齢による「目の変化」
- 行間を大きくし、見た目をスッキリさせる。ゴチャゴチャしているように感じさせない
- 読むべき場所がわかりやすいデザインにする
- 視線を大きく動かさないでも見える・気づけるようにする(特にエラー画面など)
- (2)「考えなくてはいけない」という思い込み
- カタカナ言葉や業界用語を使わない
- 文章は、平易に、短く、わかりやすくする
- 「ユーザーが気づくこと」を期待したインターフェイスにしない
- (3)自分自身の「思いもよらない行動」
- 独自のUIを使うときには、細心の注意を払う
- スマートフォン向けサイトで、省略形のメニューを多用しない
- リンクや広告は、それだとわかりやすい体裁にする
人は加齢していく。それでも、パソコンやスマホ、タブレットを使って便利を享受したがっている。そんな気持ちに応えるべく、目指そう!加齢の問題を華麗にスルーできるサイト! カレイは煮付けがサイコー!
ユーザー行動まとめだゾウ
40歳ごろから始まる「老眼」。そういえば小さな頃は、30歳を過ぎたら化石だと思っていた。しかし、30歳をはるかに越した今、自分自身の老化を認めずにいる自分に、たまに気づいて笑ってしまう。
人は自分の老化を認めない。だから、加齢対応に華麗に取り組み、シニアにとっても疲れないサイトにすることで、サイトを見てもらえない悲しみにさよならしたいものである。
- ユーザーは加齢(老化現象)を避けられない
- 加齢により「見ること」「考えること」「思いもよらないこと」に、若い頃よりいっそう疲れる
- 疲れてしまうと、サイトを読み飛ばし、間違えて操作し、途中であきらめてしまう
「シニア層も使えるサイト」は、シニア層のためだけではなく、これからの高齢化社会で必要な考えだ。しかし、人は年をとったことを認めないから、あからさまに「シニア向け」をイメージすると避けられてしまう。「誰にとっても、さりげなく読みやすい、理解されやすい」というスタンスで、施策を打つべきだろう。
なお、本日ご登場いただいた磯野さん。お名前の由来、もうお気づきかと思いますが、加齢をカレイにサケ・タイつながりからの、「磯野さん」でした!。
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