各社の事例でわかるオウンドメディア運営の「企画」「構築」「成果」ノウハウ

サイボウズ式4年間500記事のオウンドメディア成果まとめ――売上を求めなければ売上につながる

オウンドメディアは売り上げに貢献するのか、約4年間続けてきたサイボウズ式の成果を紹介
藤村能光(サイボウズ) 2016/4/27(水) 7:00 |
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オウンドメディアは売り上げにつながるのか

「オウンドメディアの成果は長期的に見ていくべきだ」というのは、よく言われていることです。とはいえ、オウンドメディアが事業に貢献しているどうかが、重要な評価指標であることは間違いありません。

はたしてオウンドメディアは売り上げに貢献するのか、約4年間続けてきたサイボウズ式の成果を紹介します。

なぜサイボウズは「自社メディア」を選んだのか

オウンドメディア(自社メディア)の「サイボウズ式」は2012年5月、「グループウェア会社のサイボウズを知らない人に、サイボウズを知ってもらう」ことを目的として開始しました。なぜなら、サイボウズにとって「認知度の向上」が事業展開の生命線と考えていたからです。

サイボウズの売り上げの推移を見ると、創業からの約10年は成長、その後数年間は踊り場、2012年からは再び右肩上がり。第二成長期といえる現在をけん引したのは、社運を賭けて提供開始したクラウドサービス「cybozu.com」の存在です。パッケージソフト販売から、クラウドサービスの会社へと事業を転換したことが、売り上げ増に奏功しています。

サイボウズの売り上げの推移(単位:百万円)

製品PRも宣伝もしない

同時期に、マーケティング面でもこれまでと180度違う取り組みを進めました。その1つが自社メディア「サイボウズ式」です。「製品PRも宣伝もしない」という編集方針のもと、生活者にとって役立つコンテンツを編集で作る。そんなことを4年間愚直に続けてきました。

サイボウズは「グループウェアを開発するメーカー」から「(グループウェアを通じて)世界中のチームワークを支援する会社」にミッションを改めました。今サイボウズのユーザーは600万人超、裏を返せば1億人以上の人がまだサイボウズを使っていません。このかい離を徐々に埋めていく必要がありました。

これを達成するには、企業の情報システム部門だけでなく、世界中のチームにサイボウズを知ってもらう必要があります。だからこそ、雑誌やマス広告を使って、「企業の情報システム部門向けにグループウェアの機能的な価値を訴求する」という、これまでの手法とはまったく異なるコミュニケーションに挑戦したのです。

企業のコンテンツ生産工場に「編集部」を作った理由

新しいコミュニケーション施策の手段に選んだのが「自社メディア」でした。理由は2つあります。

1つはソーシャルメディアの台頭です。面白いコンテンツはFacebookやTwitter、はてなブックマークといったメディアを通じて、多くの人に届く実感がありました。企業発のコンテンツであっても、面白いものであれば読んでもらえる。コンテンツの力で勝負できる時代がようやく訪れたと感じていました。

もう1つは、マーケティング担当者のスキルアップです。組織で仕事をする上で、業務を通じて担当者にスキルを身につけてもらうことは不可欠です。「編集」というスキルを武器に、私たちが伝えたいことを伝えるのではなく、

生活者が知りたいことを起点に、その人たちにとって面白いと思ってもらえるようなコンテンツを作れるようになること。

すなわち「編集力」の強化は、企業のマーケティング担当者にも求められることだと考えました。

自分たちはさながら、「サイボウズのコンテンツ生産工場になること」を目指していました。サイボウズ式の立ち上げにあたり、チームを「編集部」と呼ぶようにしたのは、編集を通じて生活者が求めているコンテンツを作り、コミュニケーションし続けるという目的を見失わないようにするためです。組織内で役割を明示的にすることで、自分たちも意義を持ってメディア運営に取り組めるようになったと感じています。

社長にも「これまでとは異なるコミュニケーション施策が必要」という共通見解があり、この挑戦にGOを出してくれました。こうしてサイボウズ式はめでたく船出の日を迎えたわけです。

KPIは月間UU3万、PVは追わない

自社メディアにとって大切な目標について、開始1年間は「月間の新規訪問者数3万人」を掲げました。「サイボウズの他製品ブログ」よりも多い訪問者数をいったんの目標に置き、それ以外の数値は特に設定しませんでした。

これは、認知向上という目的達成のためには、「1万ページビュー(PV)で10件しかコメントが付かない記事よりも、1000PVで100のコメントが付く記事」が向いていると考えたからです。コンテンツを通じてメディアにアクセスしてくれる人、サイボウズを知ってもらえる人を1人でも増やすことを目指しました。

メディア運用の代表的な指標であるPVは、参考数値程度でしか見ていません。PVは麻薬です。数字に縛られ始めると「PVを取る」ための記事作りに目が行きがちになります。目標を「サイボウズを知らない人にサイボウズを知ってもらうこと」としたことで、良い意味でPV稼ぎに縛られることはありませんでした。

サイボウズ式が4年で作った記事はわずか500ですが、この1つひとつの記事をしっかりと作りこみました。生半可なコンテンツではダメという認識があり、結果として、月に1~2本しか記事が出せないこともありました。それでよかったです。無理せず自分たちのできる範囲でメディアを「継続すること」が何より大切だからです。

目標達成に向けて運用し続ける覚悟

最初の1年で、月間3万人の新規訪問者という目標は達成できました。この数字の是非はひとまず置いておいて、「メディア運営経験のない自分たちでも、ある程度の成果は残せる」という実感が得られたのが大きかったと思います。

1万PVを獲得した記事を勝手に「サイボウズ式の殿堂入り記事」と呼んでいますが、いずれも「サイボウズ式編集部にしか作れないもの」と自負しています。いくつか紹介します。

少子化が止まらない理由は「オッサン」にある?-「男性学」の視点から「働き方」を考える-

サイボウズ式のブレイクスルーになった記事です。少子化という社会課題に対して「男性学」の視点から、解決策を考えてみました。「オッサンにある?」というタイトルは少々刺激的かもしれませんが、こういった問題提起のタイトルを付けることで、多くの読者の方に読んでもらえたと実感します。

もしも年中スーツ姿の社長が、ZOZOTOWNで「ビフォーアフター」したら?

弊社の社長 青野慶久をZOZOTOWN運営のスタートトゥデイさんに連れて行き、ファッションコーディネートしてもらう企画です。左はiPhoneで、右はプロカメラマンによる撮影ということもあり、いい意味でコーディネート前後の変化が出ました。アパレル関係者にもこの記事が広く読まれ、B2Bの会社として新たな読者と接点が持てました。

子連れ出勤しています!――「小1の壁」に直面した社員発、新しいワークスタイルの試み

子どもの夏休み中に、一緒に職場で仕事をしながら過ごせるのだろうか。こんな社員の思いに対して、試験的に「子連れ出勤」を試してみました。この記事を出した後、マスメディアから「子連れ出勤」に関する取材の依頼をいただくなど、自社メディアが攻めの情報発信に転じることを実感した記事です。

目標を達成した後に、爆発的にメディアがスケールする。そんな夢物語はありませんでした。ヒットした記事の持続性も数日持てばいいほうで、その後は普通の数字に戻ります。

転機は3年目。一定数のコンテンツがたまり、ようやく数字の伸びが見えるようになってきました。自社メディアはつくづく即効性はなく、軌道に乗るまで運用し続ける覚悟が問われる施策だと感じます。

サイボウズ式開始から3年間のPV推移

4年間の地道な運用がもたらした4つの定性成果

こうして運営し続けたサイボウズ式の成果が、3年目を過ぎたころからようやく見えてきました。いくつかピックアップします。

1. 認知度向上――メディアとして知ってもらえる

まず、サイボウズのことを社外の人に知ってもらう機会が増えたことです。試行錯誤して生み出したコンテンツが大ヒットすることもあり、認知度が増えたと感じます。

NewsPicksの佐々木紀彦編集長など、メディア業界の名だたる方に「サイボウズ式のメディア編集力」を評価してもらうこともありました。Webでの「サイボウズ式」というブランド名の言及数の増加も見て取れます。

編集にこだわったコンテンツを出し続けたおかげで、ハフィントン・ポストやBLOGOSなど、影響力を持つメディアに記事が転載されるようになりました。ひとえに、記事数は追わずに、「編集力」を通じて質の高いコンテンツを出すことを考え続けてきたからこその結果だと思います。

2. インナーブランディング――力をくれる社内の仲間が増える

自社メディアの力は、マーケティング部門だけが注力していても発揮されません。応援してくれる社員の力があってこそ伸びるものだと感じます。サイボウズ式では「育自分休暇」を使ってボツワナの青年海外協力隊に行った社員や、2年半の育児休暇から帰ってきた社員など、多くの従業員を取材しています。

記事を公開すれば、当然社外から反響があります。この反響を通じて「自分たちの考えていることや実施していることは正しい」という認識が、社内で少しずつ醸成されていったと感じます。

その結果、社長をはじめ、副社長、執行役員、営業本部長など、要職を務めるスタッフが「サイボウズ式で記事にならないかな」と頼ってくれるようになりました。こういった1つひとつの声が企業の一体感を生み出し、自社メディアのさらなる成長力をもたらす原動力となっています。

3. 採用――採用サイトでは訴求できない優秀な人材が集まる

サイボウズは企業向けITを提供する企業で、特に文系学生の認知度はまだまだ低いと言わざるを得ません。優秀な文系学生(ビジネス職)の採用はずっと課題でした。

ここにも自社メディアが寄与しました。2015年新卒入社22人中3人が「サイボウズ式を見たことがある」と言ってくれたのです。ざっと、新卒採用の14%に貢献した形になります。

サイボウズでは、新卒採用の合格率が1%と狭き門になっています。そのなかで、サイボウズのビジョンや目指す方向性に共感して「一緒に働きたい」と覚悟を持ってくれた方が一定数出てきてくれたことは、自社メディアを始めた当時では予測できない成果でした。

4. マーケティングのR&D――自社メディアは「聞く場」である

オウンドメディアは「伝える場」であると同時に、生活者の声を「聞く場」でもあります。出した記事の反響を見ながら、生活者のニーズがどこにあるかを見bることができるからです。これは多くの自社メディア担当者がわかってはいても、なかなか実施できないことでしょう。

サイボウズ式でPTAに関する記事を出したところ、一定の反響が得られました。「PTAというチームの情報共有に課題を感じている人が多いのでは?」という仮説のもと、さらにPTAに関する記事を出したり、PTA勉強会を開催したりしました。するとここでも反響があったのです。

その声をもとに、無料グループウェア「サイボウズLive」のマーケティング施策を展開しました。「PTA、父母会、卒対で使える無料グループウェア」という広告施策を実施し、一定のユーザー数増加に貢献しました。専門の調査部門がなくても、自社メディアを通じて生活者の声や反応を追いかけることで、より精度の高い施策の立案にもつなげています。

PTAの反響をもとに作成したコンテンツ

売り上げを求めなければ、売り上げが増えた

4年経ってようやく定性的な成果が目に見えるようになってきましたが、それよりも前に出た明快な成果がありました。「売り上げへの貢献」です。

「cybozu.com」の購入者のうち、「4.4%」が、製品購入の最初の認知導線として「サイボウズ式」を挙げていました。クラウドサービスは、長期間契約いただくものだけに、売り上げへの貢献も大きいと思います。

詳しく調査をすると、4.4%の購入者の半数以上が、かつてのサイボウズのお客様でした。サイボウズ式を通じて、次のような流れが生まれていたのです。

  • 一度製品を解約したお客様がサイボウズ式を通じてサイボウズを思い出す
  • Webサイトを訪れて、新しいクラウドサービス「cybozu.com」の存在を知る
  • 30日間の試用を通じて、再びサービスを購入する

自社のことを知ってもらえなければ、製品を購入する土台にも上がりません。まずは「サイボウズを知ってもらうこと、再び思い出してもらうこと」を目的として徹底したことが奏功したと言えるでしょう。

自社メディアの枠内にとどまらないこと

サイボウズ式を4年運営した成果をまとめました。自社メディアはあくまで手段です。「サイボウズを知らない人にサイボウズを知ってもらう」ためには、自社メディアのみにとらわれる必要はないと考えます。

たとえば、他メディアとのコラボ企画です。サイボウズ式では、「DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー」や「現代ビジネス」といったメディアにサイボウズ式の出張所を作り、読者とコミュニケーションするような取り組みも続けています。

こうした取り組みを続けていると、自社メディアの運営で得られたスキルは、自社メディアを越えて通用すると実感します。

自社メディアは万能薬でもなければ、即効性があるわけでもありません。長く運用を続けなければ成果には直結しにくいですし、メディア運営の仕事の1つひとつは泥臭いです。企画を立て、外部のライターや写真家と協同し、ミクロな視点で記事を編集し、それを読み手に届ける、その繰り返しだからです。

ですが、こうやって作ったコンテンツの1つ1つは確かに生活者に届きます。その積み重ねが「認知度の向上」をもたらし、ひいては企業の価値を高めることにもつながってきます。自社メディア運営に王道はありません。

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