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住民参加のミステリードラマで町おこし、地域のラジオ局「FMだいご」のチャレンジ

28人もの住民が声優として参加したミステリードラマで町おこしに挑戦しました

この記事は、D2Cスマイルで公開された記事を、許諾を得てWeb担当者Forum向けに特別公開したものです。

大子町殺人事件

こんにちは。D2Cスマイル編集部です。今回は、地方の町がラジオとインターネットを活用して、町おこしに挑戦したお話をご紹介します(番組概要は記事の最後を参照)。

町おこしに、町民が出演するラジオドラマでチャレンジ

「NPO法人まちの研究室」が運営する「FMだいご」は、茨城県久慈郡大子町にあるコミュニティ放送局です。大子町は、茨城県の中で最初に65歳以上の人口が全体の40%を超えました。今では2300世帯ほどがこの町を支えています。

FMだいごの発端は、2011年の東日本大震災を受けて全世帯に配られた防災ラジオ。防災インフラとして始まり、緊急時に警報が鳴ると、自動的に立ち上がる仕組みとなっています。住民のためのラジオなのでFM波の到達範囲は狭いですが、インターネットを介して全国で聴くことができます。

そんな町の小さなFM局が仕掛けたラジオドラマが、話題となっているのをご存じでしょうか?

それは、28人もの住民が声優として参加したミステリードラマ、題して『大子町殺人事件』。今年1月11日からオンエアが開始され、毎週月曜日の14時から、毎回5分(最終話のみ10分)の番組です。企画・制作は電通が担当し、アーカイブとして聴き逃した放送を聴くことができるWEBサイトの制作をD2C、D2Cソリューションズが担当しています。

プロデューサーはFMだいごの浅野 修治郎氏。

FMだいご プロデューサー
浅野 修治郎 氏

町おこしのために、何かがしたかったのです。コミュニティ放送局に何ができるだろうか。そんなことを悩んでいた時に、ある人物の顔が浮かびました……(浅野氏)

制作側は、志を同じくするメンバーでチーム編成をした

その人物とは、電通の第2CRプランニング局に所属するコミュニケーション・プランナー、加我 俊介氏です。

浅野氏が東京で働いていたときからのプライベートなつながりで、最初はお互いの仕事のことも知らず、音楽の話ばかりしていたそうです。加えて、自分で大子町の観光大使を自認していた浅野氏が、事あるごとに大子町の良さを説き、皆を誘っていたといいます。

その後、浅野氏は大子町に戻りFMだいごに就職し、町おこしをしたいという話を加我氏に相談することになります。

電通 第2CRプランニング局 コミュニケーション・プランナー
加我 俊介 氏

コミュニティFMとして、何ができるだろうかといった相談を受けました。それでスタッフを集めて考え始めたのです。私たちの会社も、最近では地方行政のお仕事をお手伝いさせていただく機会が多いのですが、今回は、もっと小さな町の単位の話ですし、予算もない。そこで何ができるか、これまでとは違うアプローチを考える必要がありました。

また内容も、県などの単位の場合はストレートにPRという仕事が多く、県などの良さをアピールして、産業振興に役立てたり、観光客などを誘致したりするのが目的です。しかし、今回の目的はそういうことではないね、という話になりました(加我氏)

大子町は小さな町。町の人の多くは顔見知りで、全員友達のような環境です。

そんな高齢化の進んだ町の活性化が目的です。井戸端の賑わいがほしかったのです。いくら町の外の人たちが盛り上がったとしても、町自体が盛り上がっていなかったら、それは意味がないし、おもしろくない。だからまずは町民自らが盛り上がる。その次に大子町の持つ魅力の素晴らしい自然をフックに、少しでも町の外の人にアピールできれば嬉しいと思いました(浅野氏)

通常の地方行政の仕事とは逆のプロセスといえるでしょう。

たとえば県をアピールするために話題となるような動画を作る。それをメディアに取り上げてもらって、うまく行けば全国で話題になる。県内の人は、その話題でそうした動画があることを知る。これがこれまでのアプローチ方法です。

しかし、今回はそういうニーズではありませんでした。町の人たちに楽しんでもらうことが第一。その結果、その楽しさが外部に染み出せばいいといった感じなわけです。では何ができるか。僕たちのほうもボランティア的に関わって、町の人たちのリアクションが返ってきたら、やりがいはある。そう感じられる志を共にできるメンバーでチーム編成をしました(加我氏)

なぜ、住民参加型のミステリードラマを作ったのか

企画を考える上で、実現性がまず重要です。予算面からも、コミュニティ放送局がやるという意味からも、町の人たちの参加をマストとしました。次に、コンテンツはエンターテインメントの収録番組としてラジオドラマで、しかも帯番組にしようという話まで決まりました。

とえば私が議員の役をするとすれば、私は議員の演技をしなければいけません。それは素人には難しい。だから、ドラマの配役に近い職業や年齢層の人を声優として選んでほしいと浅野さんにお願いしたのです。その上で考えたのがミステリードラマというものです。住民の方々は、自分の職業、あるいはそれに近い職業役で、住民役として登場いただけばいい。そうすれば、無理が少なくなるというわけです(加我氏)

ミステリードラマならば、続きが気になるから次週も聴きたくなる。その上、知り合いが声優になっていれば、まず住民の間で話題になると考えたのです。

役柄に合った配役を探すというのは簡単ではないですが、浅野プロデューサーはその話に乗りました。

大子町の住民の性格から、そういう話には乗りやすいだろうと思いました。その上で、最終的には本当に大人数の方に、ほとんど手弁当で一所懸命にやっていただいています(浅野氏)

苦労のかいあって声優は揃い、ほどなくして、電通のコピーライター島津 裕介氏の手によるシナリオも出来上がりました。

大子町殺人事件」。センセーショナルなタイトルですが、ストーリー展開が二転三転して、続きが気になるようなラジオドラマとなっています。まだ継続中なのでネタバレはできませんが、単なるミステリーの枠には収まらない展開になるとか(※編注 3月末に最終話が公開された)。

町以外の人たちの話題にもなってほしいので、WEBサイトを設け番組のアーカイブを作りました。大子町の名所や旧跡を舞台にしていますが、それらはWEBサイトでは観光協会のサイトとリンクしていて、観光情報を見ることができます。『これって、あの滝だよね? 今、ライトアップされているのか、行ってみようか?』といった動機になるよう、動線設計をしています(加我氏)

大子町殺人事件 WEBサイト
http://www.fmdaigo.jp

ドラマが話題になれば、「観光振興」も期待できるというわけです。

地産地消で制作された番組の充実度はいかに

まだ始まって日は浅いですが、反響はどうでしょう?

おかげさまで、いいスタートが切れました。町の声を拾ってみると、思った以上に話題になっています。『あなた出ていたよね?』『結構うまいよね』などと盛り上がればいいなと思っていたのですが、そんな感じになっています。

町中だけでなくて、WEBの効果も表れていて、東京の知り合いも聴いてくれていまして、いろいろなところで声を掛けてもらえます。両方の目的に叶った効果を実感しているところです(浅野氏)

実は、BGMも町民がそれぞれ自慢の楽器を持って集まって、町の音楽堂で録音されたものです。効果音ももちろん、町の中ですべて収録されています。関係者は、このプロジェクトを「地産地消のプロジェクト」と呼んでいるそうです。

町人が得意な楽器を持ち寄ってBGMを収録
町のなかで効果音を収録

制作中は、町の方々からねぎらいの言葉を多くもらいましたし、差し入れもいろいろといただきました。和気あいあいとした雰囲気で、皆がそれこそご縁を感じて頑張っているという感じです。そんなこともモチベーションとなって僕たちは頑張れたという気がしています

と加我氏はいいます。地方創生の時代、社会資本の時代、営利だけでなく、いかに非営利活動を充実させていくかが問われる昨今、こうしたコラボレーションは、今後に生きるモデルケースであると感じます。

「町民も、最初は『できません、できません』と逃げ腰だったのですが、いざ収録が終わると、胸を張ってスタジオを出てきて、『あそこがもう一つだったな』などと、もはやプロっぽいのですね。そういう姿を見て、放送前から、すでにこのプロジェクトは成功だと確信しました。しまいには『私は誘われてない』と言い出す人もたくさんいて、次回誘うからと言ってなだめたりしています(笑)」と浅野氏はいいます。

スタジオのマイクに向かって収録する様子
スタジオの収録風景

実際、FMだいごには、住民をディスクジョッキーにしていこうという計画もあります。今回のプロジェクトは、そのためのとてもいい先行事例にもなったようです。

「こうした事例の真似をして、他の町や村で、自分たちでやってみる。そんな波が広がることも期待しています。半ば社会貢献として、私たち企業人であるクリエーターが、今後地域の問題にどんな関わり方ができるのか。これからも模索は続くと思いますが、今回はそうした機会を与えていただいた浅野さんとFMだいごに感謝しています」と加我氏は締めくくってくれました。

番組概要

  • タイトル:住民参加型ミステリードラマ『大子町殺人事件』
  • 放送期間:1月11日(月)より毎週月曜12週連続
  • 放送時間:14:00~/18:30~(再放送)※1~11話は約5分・最終12話は約10分尺を予定。
  • WEBサイトhttp://www.fmdaigo.jp ※左記の番組特設サイトでもご視聴頂けます。
  • 番組内容:大子町で起こる不可思議な事件を中心に、大子町の町民のみなさまが声優として登場しストーリーが進行していく住民参加型の連続ミステリードラマ。

オリジナル記事:コミュニティFMならではの町おこしの手法―― 「FMだいご」が仕掛けた住民参加の連続ミステリードラマ(2016/03/07)

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