IBMが提唱するすばらしいデジタル・エクスペリエンスを実現するために大切なこと
すばらしい「デジタル・エクスペリエンス」とは、ユーザー中心であり、直感的・感情的で、多様性に富んだ体験を、適切な人が適時に、柔軟性・俊敏性をともなって得られることである。さて、それを実現するためのしくみは、どんなものなのだろうか。
日本アイ・ビー・エム株式会社の石原 栄治氏は、デジタル・エクスペリエンスの意味と可能性を日本に浸透させるべく活動中だという。「Web担当者Forum ミーティング2015 秋」において「海外企業に遅れるな、デジタル・エクスペリエンスに取り組もう!」と題し、IBMのコンテンツ管理システム(CMS)を使ったサイトリニューアルの事例を紹介し、ツールとコンテンツ管理について解説した。
海外のサイトと日本のサイトはこんなに違う
石原氏のセッションは、以下の2つの課題の話からスタートした。
1分間で花瓶をデザインしなさい
あなたの家で花の楽しみ方を1分間でデザインしなさい
これは、エクスペリエンスという概念を確認するものだった。つまり、花瓶はツールで楽しみ方はエクスペリエンスというわけだ。実現したいエクスペリエンスによって適したツールも変わってくる、ツールの比較に偏らないことも重要だ。昨今、ユーザー・エクスペリエンスやカスタマー・エクスペリエンスという言葉が聞かれるが、単にエクスペリエンスと言う場合は、リアルの世界での体験も含む。しかしここで取り上げるのは、デジタル世界での体験、デジタル・エクスペリエンスに限定する。
IBMは、デジタル・エクスペリエンスを、
いつでも、どこからでも
ユーザーが人、コンテンツ、アプリケーションと対話できる
パーソナライズされた体験
と定義している。
デジタル・エクスペリエンスを理解するために、石原氏はまず、IBMのツールでサイトリニューアルをした事例を紹介した。一つ目は米国の農水省に当たるUSDAのサイトだ。省庁の堅いイメージとは異なり、グラフィカルで親しみやすい印象を与える。
次に紹介したのは、米国の自治体のサイトだ。これもIBMのCMSを使ってリニューアルされたが、その時のポイントは以下の3つである。
- 担当部門ごとに掲載されていた情報を、市民サービス単位に変更
- ページ数は13000ページから400ページへ削減
- 各部門が直接コンテンツを作成
結果として、市民向けのセルフサービスを提供するサイトへと変貌した。ユーザーは、自分のタイミングで課題解決が可能なセルフサービスを好む傾向にあるという。
さらに自治体以外のものとして、石原氏は以下のような事例を紹介した。
- スマホやPCなどのマルチデバイス間でブランドイメージを統一(金融機関)
- 200以上の記事と400以上のビデオによるLearning Centerを開設し、自社のブランドを確立するとともにEコマースを促進(自転車メーカー)
- ストーリーあるコンテンツにより顧客エンゲージメントの実現(コーヒーメーカー)
- スマホによるイントラネット構築(運送会社)
最後の事例は、顧客体験ではなく、従業員体験の事例である。常にオフィス内にいる社員向けイントラネットは、外で仕事をするドライバーには利用できない。そこで、スマホで利用できる社員向けポータルを構築し、社員からも発信したり情報共有できるサービスを作った事例だ。個人のスマホによる日常体験を企業のシステムに取り入れた、非常に柔軟な発想が優れたデジタル・エクスペリエンスを生み出した興味深い事例である。これで、離職率の抑制、乗車率の向上を実現している。
では、「すばらしいデジタル・エクスペリエンス」を実現するのに必要な要素とは何か。石原氏は次のようにまとめた。
デジタル・エクスペリエンスのためのテンプレート型管理
ここまで紹介された事例は、どれもIBMが提供するCMS製品「IBM Web Content Manager」でサイトを作成している。この製品は、CMSだけでなくさまざまな機能と連携できる仕組みになっている。ポイントは、図の中心付近にある「Content Template Catalog」だ。IBM Web Content Managerはテンプレート型のサイトを構築するCMSだが、ゼロの状態からサイトを作るのは時間と工数がかかるため、IBMがテンプレートを用意している。
テンプレート型に対抗する概念がファイル管理型だ。サイトはツリー構造になっており、それぞれのHTMLファイルを管理する、従来型の管理方法である。この場合、共通の変更でも個別のファイルに作業が必要で、リンク関係の管理も大変という欠点がある。このため、専門家であるWeb制作会社に任せなければ、運用は難しい。
一方、テンプレート型は、コンテンツを構成する画像やテキストなどのコンポーネントと、デザインテンプレートに分けて管理する。コンポーネントの変更は、それを使うすべてのページに自動的に適用されるし、デザイン変更はテンプレートを変更すれば個々のページは変更する必要がない。また、PC用、タブレット用、スマホ用などのテンプレートを作ればそれぞれのデバイス対応が可能になるため、モバイル対応が容易という特長がある。
テンプレート型のコンテンツ管理のメリットとして、以下のような点が挙げられる。
- Webの専門家でなくても簡単に使えるリッチテキストエディタでコンテンツを入力、作成
- メールなどと連動したワークフローで、承認・公開などが可能
- 動的なWebサイトを提供(コンテンツ登録やサイト構造の変更を自動反映)
- コンテンツの公開開始日時・終了日時を自動的に反映
デモでは、スマホで撮影した動画をコンテンツの中に貼り込んだり、編集モードで担当者が直接テキストを変更したりできることが紹介された。前半の事例紹介でもあったように、コンテンツを作成するのは、できるだけ現場に近い担当者の方がいい。より的確に、適切なタイミングで魅力的なメッセージを発信できるためだ。また、ユーザーの要望に応えるためには、たくさんのコンテンツが必要になる。それをサポートするのがIBM Web Content Managerのようなツールだ。
しかし、もしかしたら
ちょっと面倒
担当者が文章を考えるだろうか
今のままの方が楽だ
と感じるかもしれない。しかし、それは誰にとって面倒なのだろうか。IT担当者視点ではなく、ユーザー視点で考えることが、エクスペリエンスの本質であることを忘れてはいけない。ツールをツールとして評価するのではなく、それによって実現されるエクスペリエンスを考える必要がある。
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