【レポート】Web担当者Forumミーティング 2015 Autumn

マーケと情シスは敵か味方か? ガートナー川辺氏の語る連携のコツ

味方にして目的を達成するコミュニケーション術
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Webを顧客に向けて公開している企業のマーケティング部門は、デジタルマーケティングが進展するにつれ、Web部門と情報システム部門との連携がより重要になっていくものだ。しかし、お互いの専門分野の違いや、就業スタイルの違いなどから、話がうまく噛み合わないことも多い。どうすれば、情シスの人たちをうまく味方にできるのだろうか?

氏
ガートナー ジャパン株式会社
リサーチ
主席アナリスト 川辺 謙介氏

テクノロジーに関する調査会社のガートナーは、ベンダー中立の立場から企業にアドバイスを行う。CRMやマーケティングなどを担当する主席アナリストの川辺 謙介氏は、「Web担当者Forum ミーティング2015 秋」の「情報システム部門は敵か? 味方か?」と銘打ったセッションにおいて、現状と解決策について解説した。

情報システム部門(情シス)とはどういう人たちか

情報システム部門は、経理や人事、販売、製造、マーケティングなどさまざまな部門(ユーザー部門と呼ぶ)からの要望に応じてシステムを提供するのが役割である。業務の効率化を図ることがミッションのひとつで、そのためには情報やシステムを一元管理することが望ましいので、標準化が推奨される

また、基本的にはユーザー部門の要望に応じたシステムを提供するのが無難であり、受け身体質になりやすい。とくに、大規模な企業ほど、組織とシステムが複雑化するため、情シス部門からの提案は難しくなりがちだ。

情シス部門にとって、最大の敵はシステム障害である。システムを滞りなく稼働させ続けることが最も重視されるため、軽微な変更でも他に影響が及ばないかテストを繰り返して安全性を確認する。このため時間がかかるし、そもそも変更自体を好まない

この、慎重で動きが重いという点が、マーケティング部門との衝突を産むことになるが、実は情シス部門内部でも、摩擦が起きることがある。情シス部門の主な業務として、企画、開発、保守、運用があるが、「企画・開発」と「運用・保守」で性格がかなり異なるためだ。

前者は新規ビジネスニーズへの対応を担うため、どちらかといえばマーケティング担当者の意識に近い。一方、稼働システムの信頼性と安定性を担う後者は、確実さが最重要で情シスの一般的なイメージのとおりだ。つまり、どんどん進もうとする力と、しっかり地に足をつけようとする力が摩擦を起こすことで、「企画・開発」と「運用・保守」の対立構造を産むのである。

また、基幹系、基盤系、情報系、顧客系という分け方をすることもある。この時も、基幹系や基盤系は堅牢さや可用性が重視され、情報系や顧客系はスピードも必要など、性格が違う。

基幹系: ミッションクリティカルで更新処理の制御が必要

基盤系: 各業務に共通なので、トラブルが発生すると多くのシステムに影響する

情報系: 出力がメインだが、大量データを扱うので高速処理が必要

顧客系: 顧客接点なので、基幹系とは別の意味でクリティカル

この複雑な状況で、情シス部門は常に人的リソースの不足に苦しんでいる。新しいテクノロジーへの知識やイノベーティブなセンスを持つ人材の確保は難しく、システム保守のノウハウが豊富なベテランは高齢化している。

一方で、「今後5年以内に情シス部門が強化すべきと考えるもの」を日本企業の情シス部門に問うと、情シス部門がビジネスを創出する内容を挙げる人も、多数派ではないがある程度はいる。情シス部門とうまく仕事をするためには、彼らの置かれた状況を理解し、誰と組めばうまく進むかを見極めることが重要になるだろう。

情シスの内部および周辺で起きている変化

ガートナーの調査では、IT予算をすべて情シス部門で管理している(事業部門で管理するIT予算はない)という企業は、2012年には63.5%だったが、年々減って2014年には56.8%になっている。つまり、IT予算の一部を、事業部門が管理しているというケースが増えつつあるということだ。

また、マーケティングの専門組織があるという企業は増加傾向にある。つまり、マーケティング部門が独自のIT予算を持ち、システムを管理するケースが増えているのだ。これを放置すると、マーケティング部門のシステムと情シス部門との連携がとれなくなることが懸念される。

調査でも、顧客関連業務を遂行するうえでの最重要課題として最も多く挙げられたのは、「マーケティング部門、IT部門、顧客サービス部門間の連携」だった。

川辺氏は、デジタルマーケティングの組織は、変化しつつあるという。

進展するデジタル・マーケティング組織 デジタル重視のマーケティング業務とIT要件の関係 「デジタル」部門を設置した場合のマーケティング業務とIT要件の関係 従来のマーケティング業務とIT要件の関係 「デジタル」と「リアル」が連携したマーケティング業務とIT要件の関係 「デジタル」に特化した業務 「デジタル」マーケティングシステム 従来の業務 従来型マーケティングシステム 『デジタル・マーケティング』に取り組むITリーダーの心得
[出典:ガートナー]
進展するデジタルマーケティング組織

従来は、マーケティング部門から依頼されて、IT部門がマーケティングシステムを管理していた。それが最近は、マーケティングの組織内にデジタルマーケティングに特化したチームができている。これが進展すると、デジタルマーケティングのチームが直接デジタルマーケティングのシステムを管理・運用するようになる。現在は、ここまで来ているという企業が多い。

最終的には、「マーケティング部門が、デジタルとリアルの両方を担うようになり、情シス部門もデジタルマーケティングのシステムと従来のマーケティングに関わるシステムの両方を管理・運用するようになるだろう」というのが川辺氏の考えだ。この時、マーケティングに必要な顧客データや商品データを利用できるように、マーケティングシステムと基幹システムを連携させることが、情シス部門の重要な仕事になる。つまり、マーケティング部門と情シス部門は、強固な関係を築く必要がある

しかし、以下にまとめてあるとおり、マーケティング部門と情シス部門では考え方がまったく異なる。

決定的に異なる情報システム部門とマーケティング部門の考え方 情報システム部門の見解 マーケティング部門の見解 アプローチ マーケティング部門は、代理店やマーケティング・サービス・プロバイダーが提供する非標準の代替ITを多用しすぎる。 情報システム部門は現在取引のあるベンダーの利用を求めるだけで、ビジネスのために代替策を検討しようとしない。 統制 マーケティング部門は、情報システム部門のポリシーや標準を尊重せず、絶えず抜け道を見つけようとするか、単にそれらを無視する。 情報システム部門は厳格すぎて、マーケティング部門がテクノロジからビジネス価値を得る上で、妨げになるポリシーが多すぎる。 速度 マーケティング部門は、何でも「今すぐ欲しい」と言い、優先順位付けについて考える時間を与えない。 情報システム部門の対応は遅すぎるため、代替策を求めざるを得ない。 出典:IT部門とマーケティング部門が連携するためのベスト・プラクティス:ガートナーのワークショップにおける所見
[出典:ガートナー]
決定的に異なる情報システム部門とマーケティング部門の考え方

そこで、ガートナーでは「バイモーダルIT」を推奨している。バイモーダルとは、従来の信頼性や安定稼働を重視したITと、信頼性よりも俊敏性を重視したITの、2つのモードを同時に持つという意味だ。

モード1は従来型のITで、信頼性が重視される。長距離を着実に走るマラソンランナー型のITで、開発はウォーターフォール型、承認ベースのガバナンスなど従来型のプロジェクトに適している。サイクルタイムは長く、顧客からは遠い。

モード2はデジタルビジネス的なITで、俊敏性が重視される。短距離のスプリンター型のITで、アジャイルやカンバン方式など新たな不確実なプロジェクトに適している。サイクルタイムは短く、ビジネス中心で顧客に近い。

要するに、ミッションクリティカルな従来の業務に影響を及ぼさずに、新しい動きに迅速に追従できるITの資産や組織を両立させよということである。ただし、まだ実現している企業は少ない。従来からの業務で求められる品質・コスト・納期の他にビジネスへの貢献のための俊敏性が必要になったが、予算は限られているし既存システムの保守・運用が減るわけでもない。情シス部門も岐路に立たされている状況だ。

情シスの人たちとうまく仕事を進めるために必要なこと

情シス部門とマーケティング部門では、付き合う会社が違うというのも問題になる。

情シス部門はソフトウェアベンダーやSIer、コンサルティングファームと付き合うことが多く、彼らの意見に影響されがちだ。一方、マーケティング部門と付き合いがあるのは広告代理店やWeb制作会社で、見ている方向がまったく違う。お互いに共通言語がない状態だ。

社内での組織規模は、おそらく情シス部門の方が大きいという企業が多いだろう。ところがマーケティングにテクノロジを活用させようという関心度合いとなるとマーケティング部門の方が圧倒的に高い。そこで、マーケティング部門の方から積極的に、情シス部門にアプローチしてほしいと川辺氏は言う。働きかける際に重要なのは、以下のようなポイントだ。

  • 手段だけでなく業務の目的をはっきり伝える
    氏
    情シス部門とマーケティング部門では考え方が違う

    情シスは、たとえば経理や人事からの依頼には慣れている。経理であれば、データの参照元、出力形式やタイミングをIT要件として出されれば、これはバランスシートを作成するのだなとすぐに了解できる。

    しかし、彼らはマーケティング部門からの依頼にはまだ慣れていない。直接のIT要件を伝えても、その目先の要件を実現するだけでマーケティングの目的を達成できるとは限らない。マーケティング業務の目的を理解することなしに、目的にかなうシステムを構築することはできないのだ。

  • サンドボックスを作ってもらう

    バイモーダルITがまだ普及していないため、革新的なアプリケーションの実験環境として、非常時には遮断できるような環境をサンドボックス(実験用の砂場)として作ってもらおう。そこで実験した結果、本格導入が妥当だとわかったら、本番環境に展開してもらう。そうすることで、マーケティング部門が求めるアプリケーションを情シス部門が許容できるテクノロジを用いて実現することができる。

[出典:ガートナー]
革新的アプリケーションと既存アプリケーションの共存

川辺氏は、情シス部門とのコミュニケーションで注意すべき点を、以下のようにまとめた。

  • 情シスの立場・役割を理解したうえで、自身にとってのカウンターパートとなる重要な個人を特定する。できるだけ全方位的な情報収集に努める。
  • 情シス部門も変化の途上にあるため、長期的な視点で変化に対応する。特に日本企業は息が長い点に留意する。
  • 要件提示の際は業務目的と関連づけ、プライオリティを合わせて明示して説明する。
  • 情シスが提供するサンドボックス環境を活用するといった、両部門共通の資産や目標を持つ。
  • 「システムは全部おまかせ!」や「やりっぱなし」は禁物。特に、情シスに依頼したものは、いらなくなったらすぐに伝える。基本的にまじめな情シスは、頼まれたものはいつまでもやり続けてくれている可能性が高い。
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