Web担当者はサイト運営だけしてればいいのか? スターバックス長見氏の信じるWeb担当者の力
Web担当者は未来永劫、Webサイト運営だけを追求していけばいいのだろうか。もはや企業のWebサイトはあってあたりまえ。企業Webサイトに求められるのは、広報的機能だけではない。Web担当者には、ビジネスイノベーターとしての役割が求められている。
スターバックス コーヒー ジャパン株式会社の長見 明氏は、Webを含めたデジタルでビジネスに貢献するために、トータルな力を磨くことが、次の時代を生き抜く力になると、「Web担当者Forum ミーティング2015 秋」において語った。
2008~2010年のKPIはアクセス数、ビジュアル向上
元は広告業界人だったという長見氏の、Web担当者としてのキャリアは2008年に始まった。最初は、サイト制作とメルマガ配信を担当する、2人のチームだった。「全社のメディア投資効率を向上させる」ことがチームの目標で、そのためにはサイトアクセス数の増大を目指していた。というのも、スターバックスに興味があるお客様がWebサイトに見に来ているので、アクセス数を増やすことが、そのままターゲット顧客へのリーチ増加につながり、マス媒体での露出はリーチ獲得よりもっと戦略的な方面に振り向けて全体の最適化を図れるからだ。
KPIは何かと聞かれたらアクセス数と答えていた。聞いた人はもっと小難しい回答を期待してようだが、それが最も重要だという考えは、今も変わらない(長見氏)
具体的には、季節ごとにサイト全体のスキンを変更可能にしたり、楽しめるようなキャンペーンサイトといった取り組みを行った。
Experience Conceptという取り組みもあった。これは、リアルの店舗での体験をサイトに埋め込もうとするものだ。
お店でいいなと思うものを見つけるような目を引くビジュアル、店員が説明してくれるような説明、洋服なら色違いを比べるような選択肢の提示、もう一度来店して別のものを見つけるような楽しめるコンテンツなどを作った。
Webで大事なことは<a>タグをステキにすることだ(長見氏)
なぜなら、クリックする場所を指定する<a>タグは、お客さんが意思表示する場所だからだ。本当の顧客接点である<a>タグと、そこに至るシナリオの部分をどれくらいステキに演出できるかで、サイトの善し悪しが決まる。スマホやアプリになっても、お客さんが意思表示できるのはクリック(タップ)だということは変わらない。
2010年頃まで、長見氏はそんなことを考えてWebを運営していたのだという。
差別化のためのサービスを作るように進化
長見氏は、2008年冬にプリペイドカードの「スターバックスカード」も担当することになった。リーマンショック後で積極的な投資が難しいなか、デザインを工夫することで、ダウントレンドのビジネスを成長路線に乗せることに成功した。同時に、Webの取り組みでアクセス数は順調に伸びていた。
しかし、同じことの継続だけでは限界があるので何か新しいことをしたいと考えていた。長見氏は、次のようなことを思いついた。
オンラインサービス + CRMをやろう!
結果として、3年間で6つのサービスを構築した。
これだけのことをやり遂げるには、もちろん苦労もあった。最初に経営層にこういうことをやりたいと話した2009年には、相手にされなかったという。
成功事例はないのか?
費用対効果が不透明だ!
スモールスタートはできないのか?
運用コストを圧縮できないのか?
といったことは、当然言われる。経営層を説得するのは時間がかかるものだ。最終的に殺し文句となったのは
これ、やったら儲かります!
で、会員数やカード発行数、売上げ創出額などのKPIを提示した。2010年に7~8人でスタートしたが、サービス開発とスマホ最適化が奏功し、アクセス数が5倍になるなど、確かな成果を上げている。
その後、ソーシャルメディアの取り組みなども行い、現在のデジタル戦略部の仕事は、以下の4つだ。
- オウンドメディア
- ソーシャルメディア
- スターバックスカード
- オンラインサービス
組織も、18人に増えた。Webとメルマガの担当として2人で始まったチームが最終的に18人にまで拡大したわけだが、ひとつの仕事の量が増えたための増員ではなく、仕事の幅、種類が広がっている。
長見氏は、「アクセスを増やし、そこからレベニューを生み出し、データを再活用するという動きは、ポータルに似てきた」
と感じている。「デジタル戦略部は、Webのチームとかデジタルのチームではなく、デジタルでビジネスをやろうとしているチームだ」
(長見氏)という。
これから求められる人材
「今、リアルの会社のWebビジネスがオモシロイ」
――長見氏はそう考えている。リアルの世界ですでにビジネスを広げているからこそ、Webの力をそこに加えることで、可能性がはるかに広がるからだ。
その実例といえるのが「Starbucks eGift」だ。好きなコーヒーを飲めるデジタルギフトで、メッセージを添えることができる。スターバックスHPの他にLINE、Giftee、Cotoco、Yahoo! などで販売しているが、売上比率はスターバックスHPが7割を占めている。かなり人気が高く、デジタルギフトではプラットフォーマーと肩を並べて市場を牽引するポジションにある。このようなサービスをどんどん生み出していくためにも、リアルの会社においてWebサービスを展開できる人材、特に差別化されたサービスを創れる人材のニーズが今後さらに高まっていくし、それはスターバックスに限った話ではないと長見氏は考えている。
そこで、Web担当者のキャリアを考えてみよう。とりまく環境として、Web制作自体が高付加価値だった時代が終わり、差別化が難しくなっている。単にサイトを制作することは、
昔のカタログを作っていたデザイン事務所と印刷会社を一緒にしたようなもの(長見氏)
という表現をする。そして、かつては高かったシステム開発費は、ハードウェアやインフラが安くなると同時に開発費自体も安くなっている。また、これまではリアルのビジネスのネットへの移管が大きなボリュームを占めていたが、それは出尽くした感もある。
つまり、オリジナルなサービスが望まれているし、サービスから生まれる売上げの方が収益性が高い。ということは、Web担当者も今のままの延長線で考えてはいけないのではないだろうかというのが、長見氏の考えだ。
スターバックスでどういう人材を採用したいかといえば、WebのUI/UXやシステムの知識だけでなく、マーケティングやビジネスの力、さらには時代を読む力を持つ人が望ましい。とはいえ、これらすべてについて100%の力を持つ人は存在しない。そこで、
スタートはどこからでもいろんなことに貢献できるようになろうとする姿勢が欲しい(長見氏)
という。これからは、そういう人が生きやすい時代になるのだろう。
ソーシャルもやってます!