「複数ソーシャルメディア統合運用」が必要とされる歴史と背景
日本におけるソーシャルメディアの現状
国内のソーシャルメディア普及のきっかけは?
はじめまして。メンバーズの小野寺翼と申します。ソーシャルメディアマーケティングを専門に研究するエンゲージメント・ラボという自社機関に所属し、ソーシャルメディアに関する研究や調査、先進事例の創出に取り組んでいます。
今回より、企業のソーシャルメディア運用を担当されている方を対象に、企業の複数ソーシャルメディアのマーケティング活用、名付けて「複数ソーシャルメディアの統合運用」をテーマに連載いたします。
まずは、日本国内でのソーシャルメディアの普及にいたる経緯を振り返ってみましょう。
日本では2005年頃からmixiが盛り上がっていましたが、今のようなソーシャルメディアの普及に火がついたのは、2011年ごろです。FacebookやTwitterのユーザー利用が増え始めていた当時、Facebookの創設をテーマにした映画『ソーシャルネットワーク』が日本でも公開。Facebookへの注目が一気に高まりました。
一方、同年3月に東日本大震災が発生。携帯電話をはじめとした通信網がダウンしているなか、情報インフラとして震災直後より活躍したのが、当時のソーシャルメディアでした。家族や友人同士の安否確認、混乱していた交通情報に関するやり取りに活用されていたことを鮮明に思い出します。
これらをきっかけに、ソーシャルメディアに対する国内での注目度が、一気に高まりました。
「ソーシャルメディア運用=Facebookページ運用」の時代が到来、そして……
Facebookの普及に合わせ、多くの企業がFacebookページの開設・運用に積極的に取り組むようになりました。「ソーシャルメディア運用=Facebookページ運用」の時代の始まりです。
企業は、Facebookという「生活者との接点になる」「無料で情報を届ける(リーチ)ことができる」新しいメディアを獲得しました。
当初は、より多くの生活者とのつながり(ファン獲得)に重きがおかれ、ファン獲得を目的としたキャンペーンや診断アプリも登場しました。
しかし、時が経ち2014年に入ると、Facebookはインセンティブをともなうファン獲得を禁止しました。また、Facebookページやユーザー増加にともない、無料の情報のリーチ(オーガニックリーチ)が減少し、広告を使ってのリーチ獲得(ペイドリーチ)が重要な場へと移り変わるなど、2011年当初と比べると状況が大きく変わってきました。
さらに、ユーザー側のネット閲覧環境も変化しています。以下は、博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所が行った、「端末別のメディア接触時間の変化」の調査結果です。スマートフォンやタブレットによるメディア接触時間が年々増加しており、2014年にPCを追い抜いています。
送り手側も受け手側も変化し、「140文字で手軽に情報を発信できるTwitter」「スマートフォンで撮影をした写真を軸にコミュニケーションを生みだすInstagram」「スマートフォンでのコミュニケーションや情報発信を前提としたLINE」など、新しいソーシャルメディアが登場し注目を集めるようになりました。
こうした現状を踏まえると、Facebookページだけではなく、Twitter、Instagram、LINEをふくめた「複数ソーシャルメディアの統合運用」が必要だと考えます。
データからみるソーシャルメディアの現状
では、Facebook以外のソーシャルメディアは、現在どのような状況にあるのでしょうか? 主要なソーシャルメディアの国内・グローバルのユーザー数(月間アクティブユーザー数)を見てみましょう。国内ではLINE、グローバルではFacebookがもっとも多く利用されています。
ソーシャルメディア | ユーザー数(国内) | ユーザー数(グローバル) |
---|---|---|
2400万人 | 15億9000万人 | |
3500万人 | 3億2000万人 | |
LINE | 5800万人以上 | 2億1000万人以上 |
810万人以上 | 4億人以上 | |
YouTube | 5000万人以上 | 10億人以上 |
続いて、国内のソーシャルメディア全体の利用者数、ソーシャルメディアの利用率をみていきましょう。ここでは、2015年7月にICT総研が発表した「SNS(ソーシャルメディア)利用動向」に関する調査結果を参考にします。
国内のソーシャルメディア普及が始まった2011年以降、利用者数(割合)は年々増加しており、2015年末には6451万人(64.6%)、2017年末には7000万人弱に到達見込み(予測値)とあります。従来は、10~20代の若年層を中心にソーシャルメディアが利用されていましたが、普及にともない幅広い世代の利用が拡大していると想像できます。
つづいてソーシャルメディア別の利用率です。こちらの調査結果でも「LINE」(57.5%)がもっとも利用されているとの調査結果が出ています。スマートフォンの普及とともに新しく台頭したLINEへの注目が高まっているのでしょう。なお同調査によると、アンケート対象者のうち72.9%が「人とのコミュニケーション」を行う目的で、SNS・通話・メールアプリを利用していると回答しており、“コミュニケーションインフラとしての利用”も高まっていると推測されます。
次いで、利用されているのは「Twitter」(36.6%)。画像ベースのソーシャルメディア「Instagram」も利用が進んでいます。
これらのデータから、生活者のソーシャルメディア利用について、以下の2つの動向が見えてきます。
- 生活者は、LINEやTwitterをはじめFacebook以外のソーシャルメディアを多く利用している
- 今後も生活者のソーシャルメディア利用は、伸びが予想される
複数メディアがあれば、その数だけ特性がある
生活者が複数のソーシャルメディアを利用しているのは、機能面やサービス内容など、それぞれ使い分けているからです。一方で、企業側から見ると、各ソーシャルメディアは異なる特性を持っており、マーケティング面での得意不得意があります。各ソーシャルメディアの「得意なこと」を整理してみましょう。
Facebookはファンとの密な関係構築が得意ですし、Twitterは即時性の高い発信と伝播力に優れています。LINEであれば、国内最大ユーザー数という強みを活かした大規模なリーチを、素材軸のメディアであるInstagramやYouTubeでは感性訴求を強みとしたコミュニケーションを、実現できます。
ソーシャルメディア | 得意なこと |
---|---|
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LINE |
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| |
YouTube |
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先進企業は、すでに「複数ソーシャルメディア統合運用」に取り組み中
各ソーシャルメディアの特性を踏まえ、「複数ソーシャルメディア統合運用」に取り組んでいる企業は、すでに日本国内にも多数登場しています。今回は、例として「コカ・コーラ」と「ローソン」の2社を紹介します。
事例1. コカ・コーラ
ソーシャルメディア運用の目的を「商品訴求」に特化。各ソーシャルメディアごとに、商品をベースとしたコンテンツを作り発信しています。Twitterでは即時性を活かし、商品と季節や時事ネタ(8月時点では高校野球や残暑お見舞い)を絡めてツイートする、Instagramでは画像訴求の強い商品イメージを選定し配信するといった使い方をしています。YouTubeは、テレビCMやプロモーション動画をストックする場として活用しています。各メディアの特性を踏まえてマーケティングに活用していると言えるでしょう。
コカ・コーラ (Coca-Cola) | いいね!数:106万8207人(2015年10月17日時点) | |
コカ・コーラ@CocaColaJapan | フォロワー数:47万7904人 | |
LINE | コカ・コーラ | 友だち数:1636万5958人 |
cocacola_japan | フォロワー数:1204人 | |
YouTube | コカ・コーラ / Coca-Cola | チャンネル登録者数: 1万7126人 |
事例2. ローソン
“オリジナルのキャラクター「ローソンクルーのあきこちゃん」が情報を発信する”という方針で統一。商品紹介やクーポン情報をメインに発信していることから、目的は実店舗への来店促進(O2O)においているのでしょう。とくに店舗誘導を強みとするLINEでは、商品紹介やおトク情報をメッセージで積極的に配信しています。Instagramでは画像訴求の強い商品画像に限定して配信するなど、こちらも各メディアの特性を踏まえて活用しています。
ローソン(LAWSON) | いいね!数:55万0182人(2015年10月17日時点) | |
ローソン@akiko_lawson | フォロワー数:93万3851人 | |
LINE | ローソン | 友だち数:1785万0043人 |
akiko_lawson | フォロワー数:9502人 | |
YouTube | ローソン(LAWSON) | チャンネル登録者数:6149人 |
単体運用から複数ソーシャルメディア統合運用の時代に
今回見てきたとおり、生活者のソーシャルメディア利用、企業のマーケティング活用には、以下の動向が見えます。
- 生活者は、複数のソーシャルメディアを利用している
- 今後も生活者のソーシャルメディア利用は、伸びが予想される
- ソーシャルメディア毎に特性があり、それぞれの特性を活かすことでマーケティング成果向上につながる
- 国内でも先進的な企業は、それぞれの特性に合わせ、複数のソーシャルメディアを運用している
上記を踏まえ、今後の企業のソーシャルメディア運用は、「Facebook単体運用」から「複数ソーシャルメディア統合運用」にシフトしていくべきでしょう。
次回以降は各ソーシャルメディアの詳しい運用テクニックや、効果測定についてなどさまざまな切り口でご紹介していきます。第2回は、Instagramの運用にフォーカスした記事を公開予定です。
参考:各ソーシャルメディアのつながり数(ファン数、フォロワー数、チャンネル登録者数)の算出方法について
- Facebook
- グローバル ―― Facebook Reports Fourth Quarter and Full Year 2015 Results
- 国内 ―― 広告管理画面、日本国内想定オーディエンス数より算出
- Twitter
- グローバル ―― Quarterly results | About 2015 Third quarter 2015
- 国内 ―― 公表値 Twitter Japan記者説明会(2016年2月18日)より
- LINE
- グローバル・国内 ―― ともに最新の媒体資料を参考
- Instagram
- グローバル・国内 ―― Facebookによる発表
- YouTube
- グローバル ―― 統計情報 - YouTube
- 国内 ―― 日本の動画サイト利用動向の2015年10月データ(comScore, Incの調査データ)
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