日本の国・省庁のモバイル対応をチェックしてみた――スマホ対応済みはわずか9サイトのみ
国民に広く行政情報を電子的提供するべき国や省庁のサイトに関して、モバイル対応状況を調べてみました。グーグルのモバイルフレンドリー・アップデートを機会に、「モバイルフレンドリー」とは何か、行政情報の電子的提供に関して見直すべき点はないか、考えてみたいと思います。
日本の国・省庁のサイト、スマホ対応ラベルはわずか9サイトのみ
国や省庁のサイトの前に、まず日本の上場企業1873社の公式サイトを調べてみたところ、モバイル対応済みはわずか510社。残る72.8%はモバイル対応がされておらず、グーグルのモバイル検索でも「スマホ対応」ラベルが表示されない状態でした※1。
では、日本を代表する国や省庁はどうでしょうか? 国のポータルとなっている首相官邸のホームページから、主要省庁33サイトを調べてみたところ、驚くべき実態がわかりました。
スマホ対応ラベル | コメント | |
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首相官邸 | ○ | レスポンシブウエブデザインで構築 |
内閣官房 | 未対応 | |
人事院 | 未対応 | |
内閣府 | ○ | レスポンシブウエブデザインで構築 |
宮内庁 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
金融庁 | 未対応 | 音声読み上げ、文字サイズ調整あり |
消費者庁 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
警察庁 | 未対応 | 音声読み上げ、文字サイズ調整あり |
復興庁 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
総務省 | ○ | レスポンシブウエブデザインで構築 |
消防庁 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
法務省 | 未対応 | 音声読み上げ、文字サイズ調整あり |
公安調査庁 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
外務省 | ○ | 部分的な対応のみ |
財務省 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
国税庁 | ラベルなし | スマホ専用サイトはあり |
文部科学省 | ○ | レスポンシブウエブデザインで構築 |
文化庁 | 未対応 | |
厚生労働省 | ラベルなし | スマホ専用サイトはあり |
農林水産省 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
林野庁 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
水産庁 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
経済産業省 | ○ | レスポンシブウエブデザインで構築。ただし、上位層のみ |
資源エネルギー庁 | 未対応 | |
特許庁 | ○ | レスポンシブウエブデザインで構築 |
中小企業庁 | ○ | レスポンシブウエブデザインで構築 |
国土交通省 | 未対応 | 音声読み上げ、文字サイズ調整あり |
海上保安庁 | 未対応 | 文字サイズ調整あり |
気象庁 | ラベルなし | 主要ページで動的切り替えされているがViewport指定が非モバイル向け |
観光庁 | 未対応 | 音声読み上げ、文字サイズ調整あり |
環境省 | ラベルなし | レスポンシブウエブデザインだが、Viewportが非モバイル向け |
防衛省 | 未対応 | 音声読み上げあり |
e-Gov | ○ | スマホ専用サイトで対応 |
首相官邸サイトの「政策情報ポータル」ページをもとに全33サイトを選定し、モバイル対応状況を調べたところ、グーグルのモバイル検索で「スマホ対応」ラベルが表示されたのは、わずか9サイトでした。PCサイトしか用意していないサイトも20ありました。
一般の人にも関係のありそうな警察庁や消費者庁、復興庁などのサイトが、モバイル対応がまったくなしとは、どうしたものでしょうか。
特に、東京オリンピックに向けて「おもてなし」を謳う観光庁のサイト自体が、今のネットユーザーに向けたおもてなしができていないのは、残念なことです。
同じく宮内庁のWebサイトも、開かれた皇室としては「今の国民フレンドリー」ではありませんでした。
少し残念なのが、国税庁と厚生労働省でした。どちらもスマホ専用サイトを用意していますが、グーグルが推奨する「アノテーション設定」やしっかりとした設定ができていません。そのためモバイルでの検索結果ページには「スマホ対応」ラベルが表示されていませんでした。
環境省のサイトは、レスポンシブウェブデザインで作られていて、スマートフォンでも比較的見やすいのですが、Viewportの設定がモバイル端末向けではないため、「スマホ対応」ラベルは表示されず、グーグルのモバイルフレンドリーテストでもNGでした。
スマホ対応ラベルがある9つのサイト。しかし、その内容や対応策の実態は?
では、「スマホ対応」ラベルが表示されている9サイトはどうでしょうか?
外務省サイトは、かなり対応が進んでいましたが、一部のコンテンツページでPCサイトが表示されていました。まだすべてのページがスマートフォン対応されてはいないようです。
もちろん、全コンテンツを一気にスマートフォン対応できるわけではないこともあるでしょうから、徐々に対応が進むことでしょう。対応への意識が感じられました。
経済産業省のサイトは、トップページと主要ページの一部だけがスマートフォン対応でした。
グーグルの「スマホ対応」判定は、サイト単位ではなくページ単位ですから、トップページだけでも対応すればグーグルから「対応済み」とみなされるページが増えますが、ユーザー行動を考えれば、本来の目的である各情報ページがスマートフォン対応されていないのは、よろしくないでしょう。
内閣府のサイトは、「スマホ対応」ラベルは出ているものの、デザインと文字サイズのバランスが崩れている部分があることや、本来の目的である各情報ページがPDFで置かれている点などで、モバイル端末で閲覧しやすいとは言いづらい状態でした。
結局、スマートフォン対応がしっかり成されていて、グーグルのモバイル検索で「スマホ対応」ラベルが表示されていたのは、次の6サイトだけでした。
- 首相官邸
- 総務省
- 特許庁
- 文部科学省
- 中小企業庁
- e-GOV
「モバイルフレンドリー」の意味をもう一度考える
米国時間4月21日、「モバイルゲドン」(mobilegeddon、アルマゲドンをもじった言葉)とも言われたグーグルのアルゴリズム変更が開始されました。
「アルゴリズム自体はアップデートされたものの、ページの再インデックスは完了していない」とグーグルのゲイリー・イリス氏が発言(5月1日)しているように、検索結果に本格的な影響が出始めるのは、これからが本番なのかもしれません。
官公庁のサイトがモバイル対応してないとはいえ、サイト名を明示した検索(ナビゲーショナルクエリ)では、モバイル対応状況は関係なく、適切なサイトが検索結果に表示されるとグーグルは述べています。そもそも、SEO的な順位だけを気にするのは、正しい考え方だとは言えないでしょう。
そこで、モバイルフレンドリーの本質とは何かをもう一度考えてみましょう。それは、次のようなものではないでしょうか。
モバイルフレンドリーとは、PCとは表示サイズや利用インターフェイスが異なり、また、PCとは異なる状況や意図で利用されることが多いモバイルデバイスにおいて、利用ユーザーが目的としていることを、障害なくスムーズに達成できるようになっているかどうか。
2014年11月時点で、PCからのインターネット利用者数は5,118万人、それに対してスマートフォンからのインターネット利用者数は増加を続けており4,549万人でした※2。
この状況でサイトをモバイルに最適化しないということは、半分弱の利用者に対して不親切な情報提供しかできていない、つまりユーザビリティが低いということを意味します。
電子政府の推進においては、デバイスの多様化にも適切に対応すべし
各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議が定める「電子政府ユーザビリティガイドライン」では、現時点では官公庁ホームページにおけるユーザビリティは対象範囲に含まれていませんが、今後の改定では「ホームページによる一般的な情報提供も対象とするなど
」を検討するよう明記しています。
また、同じく各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議が定める「行政情報の電子的提供に関する基本的考え方(指針)」では、「提供情報のわかりやすさと利便性の向上等
」として、日本工業規格(JIS X 8341-3)を踏まえるよう明記しています。JIS X 8341-3はアクセシビリティの規格ですから、そこにモバイル最適化に関連する項目は定められていません。しかし、「提供情報のわかりやすさと利便性の向上」という目的を考えれば、モバイルで表示がわかりづらかったり利便性が低かったりするのは、適切ではないと考えられるでしょう。
そのため、現時点では法令による強制力はないにしても、
- PC向けサイトしか用意しておらず、国民の半数弱が利用しているスマートフォンで閲覧しにくかったり、利用しにくかったりする
- スマートフォン向けサイトを用意していしても、実際にはスマートフォンで閲覧しにくかったり、利用しにくかったりする
のは、行政情報の電子的提供としては、望ましい状態ではないと言えるでしょう。
政府は、2000年代の初頭から、インターネットを通じた行政情報の提供に関する枠組みを定めてきました。
しかし、スマートフォンが普及してインターネットへのアクセス状況は大きく変わってきています。20年間続いた「PCサイトの時代」が終わり、デバイスの中心はスマートフォンへと移ってきているのです。
オフィスや霞ヶ関でデスクワークをしているビジネスパーソンならば、仕事ではPCを中心に使っているため、PC向けサイトが不要になるわけではありません。
しかし、いまや若年層や、オフィスワーク以外の仕事をしている人(主婦を含む)は、PCではなくスマートフォンを中心に使う時代になっているのです。
改めて、電子政府の推進においては、行政手続きのオンライン化やオープンデータに加えて、国民のインターネット利用環境の変化に対応するための枠組みを設けていただきたいものですね。
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