目に留まらなければ意味がない。当たり前だからこそ難しい販促の基本
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の389
テレビで思い起こす当たり前
科学の力で売上が1.85倍
何かと言えば日本テレビ系「所さんの目がテン!」の話。「科学の力で困った人を助けたい」と、三軒茶屋のレストランの「繁盛」を目指した取り組みの結果です(2014年12月7日放送)。
番組は関東地方では日曜日の朝7時からの放送で、起床したばかりの寝ぼけた頭でボンヤリと見ながら、その「科学」とやらの紹介する方法が「当たり前」過ぎて舌打ちすること数度。当たり前のことを大仰に「科学」と掲げたことへの苛立ちでしたが、目が醒めてくるにつれ、舌打ちした傲慢さに気がつきます。これは先輩経営者からの教訓。
当たり前こそ難しい
うまくいっても慢心せず、停滞しても奇手に走らず、「当たり前」を実行し続けること。自戒の念を込めて、売上を1.85倍へと導いた科学のコピペ……ではなく、その背景となった販促の「当たり前」を紹介します。もちろん、Webに通じます。
チラシに通じるWeb
閑古鳥が鳴くレストランの起死回生の切り札は「チラシ」でした。最初の舌打ちはここです。「SNSの活用だろ!」といったWeb業界人的な発想ではありません。売上が低迷していながら、行動を起こしていなかったことへの不快感です。これはWebでもまったく同じ。
売上が伸びない企業やサイトは「販促」に予算を費やしていません。これはチラシや広告に限った話ではありません。
SNSの活用にしても、アカウントを取得しただけでは「無意味」に近く、担当者を配置しただけでは「願望」に過ぎません。担当者に「時間」を与える、すなわち「人件費」を投じるのは最低条件です。そのうえで売上が伸びないなら、担当者の人選や取り組みへの課題といった技術論になりますが、番組で紹介されたレストランはスタートラインにすら立っていなかったのです。
そして、最初の不快感の正体は、レストランのオーナーを「販促を提案しても聞き流すばかりで予算を割かず、上がらぬ売上はこちらの責任となじったかつての勤務先」と重ねていたからだと、しばらくしてから気がつきます。
すべての下品へ
番組は、経済学者の野口智雄早稲田大学教授が監修し、「チラシ」にも以下3点の科学的なアドバイスが与えられます。
- 目立つこと
- 顔写真で安心感
- 特典をつける
ここでも舌打ちをしたのは、あまりにも「当たり前」すぎたからです。
販促効果を阻害するのが「下品の壁」です。チラシを含め、広告は目立たなければ意味がありません。客の目に留まり、はじめて命が与えられるのが広告であって、チラシで「金赤(印刷用語:赤のこと)」が多用される理由です。ところがそれを「下品」と嫌う人が少なくありません。
また、日本人らしい「奥ゆかしさ」から控えめな表現を好む人もいます。正直者の私は「効果が下がる」と主張を下げず、ときに仕事を失います。Webでもまったく同じです。「目立つ」という「当たり前」ですら、実現困難なミッションなのかもしれません。
楽天市場の残像
顔写真を掲載することで安心感を演出する
これはWeb担当者にもなじみ深いアドバイスでしょう。楽天市場にアクセスすれば、イヤというほど「店長」の写真が掲載されているのも同じ理由です。番組では、「生産者の顔写真付きの野菜の安心感と同じ」と紹介していますが、当たり前のテクニックです(第138回でも指摘)。
チラシへの最後のアドバイスとなる「特典」を見たときに出た舌打ちは、自戒の念を含んだものでした。特典がマーケティングで「オファー」と呼ばれるのは、お客が得する提案をするからです。レストランのチラシにはデザートの無料券がついており、それを目的としたお客も多数確認されました。
当たり前といえば、当たり前のことながら、監修するメルマガやTwitterなどにおいて、ともすればそのアドバイスを忘れることもあった自分を戒めます。
Zの法則
メニューの並びについても「科学」からのアドバイスがありました。自作のメニューは、一覧表のように左上(左肩)から下に向かい、右上に戻ってから再び下にたどり着いて終わります。前菜から並んでおり、順を追えば一括注文できるための配置だというのが店主の説明です。これに舌打ちすら忘れてしまったのは、看板メニューが右下にあったからです。看板メニューは左肩に配置するのもまた「当たり前」です。
番組では視線をトレースするツールを使って実証していましたが、何のことはない文章における「縦書き」と「横書き」の起点を探す、識字率の高い日本人の習慣を利用してのことです。だから「縦書き」のレイアウトでは「右肩」に看板メニューを配置します。
紙面と画面幅の違いを除けばWebでも同じです。具体的な割り付け方法としては、本稿の「第162回 電卓式レイアウト法」が参考になることでしょう。
店の思いこみと売りのギャップ
すべての科学的なアドバイスは、次のワンフレーズに換言できます。
客の気持ちになる
メニューのレイアウトにしても、看板メニューの左肩配置は店の都合だけではありません。看板メニューを見逃して食べ逃し、食事が終わった後に気がついたときの満腹感は、カロリー摂取の虚しさに置換されます。そして自社の商品やサービスに自信があるなら、目立たった広告で自身の存在を知らせることは、お客に特典(オファー)を伝える取り組みと同義です。
科学の力で売上が1.85倍。この数字を科学的に分析するなら基準となる売上が低すぎたから。別の言い方をするなら、つまり「客の気持ちになる」という当たり前は、やっぱり当たり前に重要だということです。
最後に最も舌打ちした「科学」を紹介します。繁盛店を目指したレストランは、スペイン料理店ながら、店名とそのロゴが「インド風(に見える)」でした。これは人間の「認知」のメカニズムによるもので、平易な言葉では「印象」や「連想」に当たります。サイトのタイトルや、見出しに通じ、明快さこそが正解なのです。そして我が社名「アズモード」と、何屋かわからぬ商号をつけた自分自身に舌打ちしきりです。
今回のポイント
客の気持ちになる。は売上の基本
「当たり前」は簡単で徹底が難しい
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