企業ホームページ運営の心得

「仕事」と「労働」の違い、働き方を変えて生産性・効率を上げる

春から新社会人という人のために、筆者の働き方にも影響を与えたアドバイスをお届け
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の497

遠い将来と近未来

amanaimagesRF/Thinkstock

年度末がやってきました。新年度を前に、自分の将来についてふと考えてしまうこともあるのではないでしょうか。

遠い将来についての結論をいえば、若くして旅立たれたキャスター黒木奈々さんの著書『未来のことは未来の私にまかせよう』のタイトル通り、時に委ねることが正解だと考えます。なぜなら、学生時代に「反省文」しか書いたことがない私が、本サイトはもちろん、論壇誌などに連載を持っているのですから。

一方、近未来の準備として伝えておきたいのが、いまこの時の「働き方」にあります。会社員時代、ある社長のアドバイスが私の「働き方」を変えました。そしてこのアドバイスは、10年後も通じるものだと約束できるのは、アドバイスからまもなく20年を数える現在も役立っているからです。年度末スペシャルはビジネスパーソンのための仕事術、「働き方、心得」です。

目から鱗のアドバイス

フリーターから一念発起して入社した広告代理店。新規事業を立ち上げ、多忙を極めていた頃、お世話になっていた社長に「手間のかかる仕事が嫌い」と愚痴をこぼします。依頼主に言うことではありませんが、ここがフリーター上がりの馬脚でしょう。

もっとも、土日も公私の区別もなく働いていたのは社長も知るところで、私の言う「手間」とは「工数」ではありません。社長は発言の甘えを見逃したうえで、アドバイスをくれました。

ミヤワキくんは、仕事は好きだけど労働が嫌いなんだよ

意味がわかりませんでしたが、説明を聞き目から鱗が落ちます。

仕事と労働の違い

本稿では、「仕事」とは創造性を擁する「クリエイティブ」なこと、「労働」とは創造性をあまり必要としない作業と区分します。また、前者は余人をもって代えがたく、後者は代替可能という意味も含まれるとのこと。ただし、それぞれ仕事の軽重ではなく、

労働が好きだという人もいるから、会社はなり立っている

と結びます。初めて「分業」の本当の意味を知った気がします。

確かに、自分ごとに置きかえてみると、朝4時から日付が変わるまで、「ブラック企業レベル」に働いても苦ではないのに、定時退社でもロゴのトレースや写真を切り抜く、あるいは文字入力といった作業で日が暮れると、どんよりとした疲労感が残っていました。

当時のDTPでは、トレースや切り抜きをするためにベジェ曲線を自在に扱えなければならず、その技術を習得するまでは楽しかったのですが、身につけてからは苦痛となり、これは今に至ります。

手放した先にあるもの

当時、自分が「嫌な仕事(労働)」は、誰もが嫌いだと勝手に決めつけ、部下にあたるDTP専門職と、制作実務における「嫌な仕事」を折半していました。嫌なことを押しつけるのはアンフェアだと考えていたからです。

社長の話を聞いてから、DTP専門職の仕事ぶりに気づきます。彼は「嫌な仕事」がくると黙々と作業にあたり、どちらかといえば楽しそうでしたが、ロゴ作成などのクリエイティブな案件を任せると、頭を抱えだして吐き気を訴えます。大袈裟ではなく事実です。

新規事業立ち上げのために採用した専門職であり、10歳上の年長者。そこからの遠慮もあったのですが、「嫌な仕事」の割合を増やすと告げると、彼から笑みがこぼれます。

ひとことで言えば「適材適所」ですが、私的体験として得た教訓は「業務を手放す大切さ」です。「嫌な仕事」だから自分が(自分も)やらなければならない、というのは思い込みに過ぎず、手放すことで「Win=Win」の関係になることがあるという発見です。

テクニカルとメンタル

以来、どちらかといえば苦手という仕事を切り出して、部下なり同僚との「分業」を試みることにしました。ギブアンドテイクであることは言うまでもありません。こちらの苦手を得意とし、こちらの得意を苦手とする相手と作業を交換する「コラボ」です。

これを試すと、互いがそれぞれ得意分野にリソース(時間)を振り分けることができるようになります。その結果、より高いステージにチャレンジできる好循環が生まれました。当初は個人間の口約束レベルで始めましたが、需要と供給がマッチし、両者にメリットがあることが理解されていくと、「営業部」という組織レベルに波及して拡大し、退社直前には好きな「仕事」しかしない状態になります。

この社長の「仕事と労働」論を整理すれば、「能力」には技能という「テクニカル」な要素だけではなく、個人の性格や性質、性向といった「メンタル」要素もあるということです。

かつてのフリーター時代、パートさんを管理する職に就いたことがあるのですが、私が見ていたのは「技能」だけでした。だから「仕事ができる」と思ったパートさんには、より難易度の高い仕事を次々と与え、その結果嫌われ、最終的に職場を追われます。あのとき「仕事と労働」という視点があれば、うまく立ち回れたのでしょうが、そうしていたら今の自分は存在しないので、人生とは面白いものです。

労働だって楽しめる

ここから組織論へとつなげたいところですが、すべての職場、環境で、ましてや現場の判断で「分業」ができるとは限りません。現実的には「労働」から逃れられないことの方が多いでしょう。そこで、すぐに個人レベルで使える「クリエイティブな人が単純作業を楽しむ方法」という現場の心得で結びます。

労働には「最強のマニュアル」を作る心得で取り組みます。

どんなアルバイトでも新卒でも、翌日にはエキスパートになれるマニュアルを作る!

このように心がけて挑むのです。目的意識をもって手順に接すると、非論理的、非合理的な箇所に気づきやすく、これを脳内で文書化しつつ作業します。つまり、ただの「労働」を「マニュアル作成」という「仕事」に変換するのです。

これは一例ですが、本質的にクリエイティブな人、今風に言うなら「シン・クリエイター」は、つまらない状況すら楽しくクリエイトします。つまり、社長に愚痴をこぼしていたとき、私はまだまだ半人前だったのです。

今回のポイント

仕事と労働という区分け

手放すことで得られることがある

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