企業ホームページ運営の心得

上司にみせたいミヤワキ流の育成論

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百十一

育てられた記憶がないのですが

新人教育のイメージ画像

会社員時代に立ち上げた新規事業が軌道に乗り社員を募集しました。即戦力となる経験者が欲しいという私の願いも虚しく、未経験者が採用され上司はいいました。

「ミヤワキくんの使いやすいように育てなよ」

聞こえはいいですが、手探りで新規事業に取り組む私に新人教育までやれということです。宮仕え(会社員)は与えられた環境に逆らえません。幸いにも新人は片腕に成長し事業は拡大しました。事業拡大と人材育成はクルマの両輪。するといよいよ「教育」から逃れられなくなります。

私も営業未経験で入社しました。営業の師匠から個人的に「現場のノウハウ」を教わりましたが、体系的な教育を受けた記憶はありません。この会社に人材育成という文化はなく「現場で覚えろ」が基本方針で、常に未経験者を採用するのは給料が安くすむからだと後に知りました。

ティーチングもメンターも役立たず

新人教育を拝命し、リーダー論に類する書物を読み漁りました。しかし、もっとも役だったのは後に紹介する、社会人デビューしたソフトハウス時代の師匠の教育論でした。独立後も教育に関する研究を続け「ティーチング」や「メンター」にまで範囲を広げるとある種の推論が浮かんできました。それはこうです。

「(書籍の内容を)そのまま使っても役に立たない」

人材育成というよりは「まず自分を鍛えよ」的な自己啓発に偏っているのです。先日、ある編集者が打ち合わせでいいました。「本にはエンタメの要素が必要」。つまり高揚感を与えモチベーションを高める「演出」を組み込み、「できる気分」にさせて売り上げにつなげるのだといいます。そのため「不完全」であることもしばしば。

本は商品。振り返れば当たり前のことです。

適性検査と十人十色

アルバイトリーダーとは新人のバイトを教育する係でパチンコ店アルバイト時代の私の肩書きです。会社員として社会復帰した1年後に新人教育に携わり、私が退社するまでに何人も育てました。その経験からの「人材育成論」を端的に述べます。

「ひとそれぞれ」

そして師匠の教えでもあります。師匠は「みんな違うからおもしろい」といい、好きなことしかやらない私を叱りませんでした。「好きなことだけでも自発的にやる奴は放っておいても勝手に学ぶ」という理由です。バブルの頃はまだどこかに牧歌的な空気が残っていた気がします。

巷に溢れるリーダー論、教育論には一長一短があり、部下が10人いれば10通りの育て方があります。大企業のように「大学のランク」「卒業時の成績」というふるいにかけることで同じレベルの社員を集めれば、ある種の「方程式」を採用することもできるのでしょうが、中途採用の多い中小企業では年齢も経歴もモチベーションも異なる人間が集まります。彼らに1つのやり方を押し付けても持ち味を殺すだけです。それはもったいないことです。

正道は常に遠回り

重視したのは「話し合い」です。彼らの「持ち味=性格」をつかむことに重点を置き、自分の仕事は残業に廻しても時間を作り話し合いました。特に次のことがあってからは、より大切にしました。

別の部署で評価が高い女性が移動してくることになりました。その噂に新規事業の戦力と期待をかけ、次々と高度な仕事を与えると困惑しています。作業を中断して話し合い驚きました。ミスなく仕上げる作業に悦びを感じるものの、それ以上は望んでいないといいます。つまり、上昇志向はないというのです。

金、自己実現、クルマが欲しい。仕事へのモチベーションは人それぞれで彼女にとっては「ミスをしない」だったのです。適材適所とはモチベーションも加味しなければならないと教えられました。ちなみに話し合いには副産物があります。ときに過去の恋愛話まで交える雑談という「話し合い」のなかで、自分の「性格」を部下に「学習」させることができることです。

期待しすぎると互いに辛い

モチベーションによって大きく2つに分類します。業務達成で満足する「そこそこ派」と出世や昇給を望む上昇志向の強い「やるやる派」です。前述の女性のような「そこそこ派」に自主性を求めても、プレッシャーとなり本来のポテンシャルを発揮できなくなります。男性にも多く、期待しすぎると互いに不幸です。彼らは単調で退屈な仕事でも愚痴をこぼさずに達成してくれる傾向があり、そうした仕事を割り振ればいいのです。得意分野を与え伸ばすのは手間のいらない「教育」です。

一方の「やるやる派」に単調な仕事を任せるとテンションが下がりミスを連発します。これが持ち味の妙で、四字熟語で言う適材適所です。そしてやるやる派には苦難を与えます。このタイプは苦難に立ち向かうことにエクスタシーを感じ、考える作業を楽しみます。そこで「考える余地」を与えつつイジメます。

部下に安心して仕事をさせるために

やるやる派を育てるときは心を鬼にします。その後採用した専門学校卒の新人は「やるやる派」。彼の描いたデザインの「ラフ」を何度ボツにしたことでしょうか。殴りかかられるのではないかというほど「イジメ」……苦難を与えました。ダメ出しに悩む彼の前ですばやくラフを仕上げて挑発したこともあります。そこそこ派も甘やかしはしません。単調な仕事の量を定期的に増やし続けました。言葉にすると「イヤな上司」です。しかし、どうにか私についてきてくれたのは「話し合い」とこの一点を保証したことではないでしょうか。

部下のミスは私のミス。

指示した仕事でミスがでれば私が関係各所に謝罪して廻りました。仕事を任せた責任は上司にあります。その安心感が部下を育て、クオリティを高めると考えます。これも師匠の教え。無限ループを作るたびに助けて貰いました。そして「ミス」をしないように「話し合い」で先回りしてサジェスチョンを与えることも大切です。新人がミスをするタイミングやポイントは自分の新人時代と同じですので。

退社後、イジメた彼が新規事業の「屋台骨」となったと風の噂で耳にし、密かに彼を自慢しています。

♪今回のポイント

部下は自分の作品。だから面倒で愛しい。

十人十色と適材適所は同じ意味。

※お知らせ

宮脇さんのコラムが前回紹介した通販支援ブログに続き、マイコミジャーナルでもスタートしました。さらりと毒も交えながら週間で社長を切る「エンタープライズ0.2 進化を邪魔する社長たち」。Web担とはまた違った視点で、中小企業の現場の姿を垣間見ることができます。

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