企業ホームページ運営の心得

小さな約束プログラム。仲間教育で創る信頼

Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の百十

ともに歩き、ともに探し

10年以上前の会社員時代のことです。後に新規事業となるプロジェクト受注に多忙を極め新婚生活は破綻寸前でした。とはいえ納期に間に合わなければ職も失います。苦肉の策として、妻を会社に呼び手伝わせました。妻は実家の八百屋で一日働いた後で疲れていたのですが「一緒にいるだけで幸せ」という蜜月期間だから可能となった奇策です。

教育シリーズ第2弾は「仲間編」。同僚は手伝わず、上司も役員も見て見ぬふりです。人という漢字は支え合ってできていると武田鉄矢さん演じる国語教師の金八先生は説きました。立っている人を横から見た姿の象形文字が「人」ですから支え合いとは無関係で、職場の仲間達も支えてくれませんでした。そしてその理由が私を「教育」に向かわせます。

新規事業を教育が支える

これも「内助」というかはわかりませんが、プロジェクトは無事納期に間に合いました。妻に一銭の支払いも労いもなく、逆に部外者を社内にいれたことを問題にする動きもあったといいます。支えてくれなかった理由を仲間達はこう述べました。

手伝っていいのかわからなかった

上司もひっくるめた「仲間」が傍観していた理由を要約するとこうなります。つまり、いままで見たこともなかった「新規事業」に戸惑っていたのです。

ならばと「仲間」への教育プログラムに着手します。「新規事業」の重要性を教えるために、業界の暗い展望、新規事業の利益率、潜在需要と発展性などをまとめた資料を作りレクチャーします。教育の成果が異例の昇進と新規事業として花開きます。独立後、ホームページ制作業に進出するためにリサーチをしたときに「なんだ」と呟きました。「商売用コンテンツ」とは仲間への教育プログラムと同じ「メリットを理解させる」ものだったからです。

社長にも教育を

組織とは「適材適所」が理想なのですが、「仲間」が仕事の中身を理解してくれているとは限りません。「新妻動員事件」は極端な例ですが、となりのデスクに座る同僚が何をしているか知らないことは珍しくなく、上司や社長も部下の一挙手一投足を把握していません。世知辛い世の中で、上司も社長も目の前の作業に追われているからです。教育対象には上司や社長まで含めます。仕事が理解されにくいWeb担当者にこそ「仲間教育」は必要です。

そんなことは言えばすむことだろう。教育なんて大袈裟な

ごもっともな意見ですが、多くの現場を見ていると「他人にそれほど興味がない」という事実に直面します。そこで「教え育む」というアプローチを提唱するのです。次の「教育プログラム」はその過程で発見しました。

ハンムラビ法典の応用

コンテンツ制作のために「仲間」へ依頼した執筆は「大先生」なみに締め切りが守られず、「間に合わない」ではなく1行も書いていない場面に遭遇します。いまだにWeb担当者以外にとって、ホームページの優先順位は低いことから後回しにされ、最悪の場合「逆ギレ」されます。

原稿を依頼し「締め切り」を1か月後に設定します。その際に毎週月曜日の朝10時(定時)に近況確認の電話を入れるという約束をして100%実行します。たったこれだけで驚くほど締め切りは守られるようになります。毎週の確認電話を前に、一般常識をもつ社会人ならサボり続けるのは難しいのです。これは「返報性」という性質を利用するもので、愛情には好意を覚え、敵意には憎しみで不信には裏切りを用います。そして信頼には誠意で応えようとします。「毎週月曜日に電話をかける」という小さな約束の履行が信頼となり、締め切りを守ることで誠意を示したくなるのです。それが勝手に設定された約束であっても。

「小さな約束」を意識的に重ねるのがポイントです。

原稿授受は誠意大将軍で

ただし電話口で「原稿どうですか?」はダメです。主従の主が「原稿」で従が「人」とおざなりにされては誠意が霞みます。相手を気遣い、世間話をして原稿の相談に乗り、締め切りを告げ「よろしく」と頭を下げます。ときには原稿や締め切りにはふれずに受話器を置いてもいいでしょう。意識と記憶に刷り込み、なにより「誠意」に訴えかけるのが一番の狙いですので、会話の内容は重要ではありません。

接触頻度を高めるとさらに教育効果を高めます。ランチを一緒にし、こまめに足を運び、些細な情報でもメールを送ります。逆の立場で考えればわかることですが、締め切りになってから急かすだけの人間と、日頃からこまめに気遣ってくれる人なら後者を大切に思うものです。しかしこの「小さな約束プログラム」は誠意が通じない人には効果はありません。「誠意」を理解する感性は家庭の「躾」や「価値観」に由来するもので「教育」の仕事ではないのです。残念ですが見捨ててください。

教育プログラムの真の狙い

ホームページから遠い人ほど思いつきをアイデアと主張し、日常的に文章を書かないものは誤字脱字を厳しく指弾します。他人ならばまだしも、仲間からの攻撃は背中に銃弾を撃ち込まれるようなもので、会社にも個人にもメリットはありません。原稿(コンテンツ)の執筆を通じて参加させることで批判のための批判の虚しさを知り、執筆期間に積み重ねた「小さな約束」がWeb担当者との間に「信頼関係」を醸成します。この教育プログラムのもう1つの狙いはここにあります。妻に仕事を手伝わせる前にお試しください。

理想論を述べれば阿吽の呼吸で支え合うのが「仲間」です。しかし現実は理想に追いつきません。そこで教育をします。同僚、上司、社長を「仲間」とするために。

「大きな=重要な約束」は誰でも守り、小さな約束は軽んじられます。それではどちらが「遵守」しやすいかといえば、圧倒的に「小さな約束」です。大きな約束は会社の思惑や社会情勢という個人の力ではどうにもならない理由で反故となることもありますが、小さい約束なら自分で全部を管理できます。つまり「信頼」は簡単に作れます。

♪今回のポイント

教育しないと「仲間」は理解しない。

信頼関係を深めることで締め切りは遵守される。

※お知らせ

以前に紹介した、宮脇さんが執筆する通販事業者向け情報サイト「通販支援ブログ」の連載の第2回が掲載されています。「社長の裏マニュアル」として「経営」に軸足を置いて伝える連載。第2回は制作業者の選び方について書かれています。

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