企業ホームページ運営の心得

若者はいつの時代もPCが苦手、「若者は○○論」が春に登場する理由

春になると「若者は○○論」が必ず登場します。なぜでしょうか
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の498

いまの若者は○○

liza5450/Thinkstock

大学生の7割はPC操作に自信がない

スマホの普及でPCを使いこなせない学生が増加しているといいます。就活生を含めても大学生の半数近くはPCを持ち歩くことがなく、「マウスの操作方法すらわからない」「画面をタッチするとカーソルが動くと思いこんでいる」など、NECの独自調査をメディアが報告します。

確かにこの数年、PC離れが各所で叫ばれていますし、スマホがあればこと足りるのも事実でしょう。ただし、各紙のニュースには重大な瑕疵があります。また、こうした「いまの若者は○○」という記事は春の風物詩。ここに先輩社員たちの本音が見え隠れします。

新年度、第1号は若者とPCをめぐるトリビアと「新しい職場(環境)」の心得、そしてビジネスシーンの現実を紹介します。

間違った下敷き

まず、このニュースは議論の前提が間違っています。

PCを得意とする学生が存在した時代があり、そこを基準として比較し、現代の若者を「使えない」とするのなら論として成立しますが、私の知る限り、そんな時代は、かつても今も、この日本に訪れたことはありません。

私の知る限りとは、社会人として世に出た平成元年(1989年)からですが、PCを得意とする学生はいつの時代も少数派、PC操作に自信がない学生こそが20世紀からの多数派でした。つまり、スマホが普及したからPCが苦手とは、事実誤認を下敷きとした錯覚に過ぎません。

それでは若者とPCの関係を、時代を追って見ていきます。

PCしかなかった時代

今年の大卒社員が乳児だった1995年、Windows 95の発売をきっかけにPCが爆発的に普及します。ただし、当時のPCは一式揃えるために数十万円は必要で、学生が気軽に手を出せる代物ではありませんでした。

初代「iMac」や「SOTEC」といった廉価なオールインワンPCの登場した1998年以降、PCは一気にコモディティ化しましたが、家庭レベルでの利用はインターネット閲覧と年賀状作成ぐらい。「使いこなす」レベルではありませんでした。

一方、Windows 95が登場する前から、若者はすでに「ポケベル」によるモバイルコミュニケーションを実現していました。ポケベルを知らない世代も多いでしょうが、電話回線を利用したメッセージ受信専用機のようなものです。

ポケベルを鳴らすのは主に勤務先からの呼び出しだったので、当時は街中に溢れていた「公衆電話」から、折り返し電話をかけて「情報伝達」を実現しました。

コミュニケーションツールの変遷

初期のポケベルはブザー音のみでしたが、数桁の数字を送信できるよう進化します。

  • 4649=よろしく
  • 0840=おはよう

といったように、語呂合わせでメッセージがやり取りされるようになります。

さらに若者は仲間内でしか通じない「暗号」を発明し、コミュニケーションを深めます。今の若者が「りょ=了解」と短縮語でやり取りするのと感覚的には同じです。

若者のコミュニケーションツールとしてのポケベルは、携帯電話、PHSに主役の座を譲りますが、そこにPCが割り込むことはありませんでした。ネット利用も「iモード」が実現し、PCの必然性を遠ざけます。

この頃、故小渕恵三首相の肝いりで、公立学校でのIT教育が導入されましたが、授業で習ったぐらいでPC操作は身につきません。そもそもPCを教える教師のスキルが低かったという報告もあります。

新人とオジサンの不安

21世紀になっても状況は変わりません。PCでの営業日報の作成指示に、「(携帯の)メールでいいすっか?」と要求してきた新入社員のエピソードは、当時の大人を震撼させたものです。やがてスマホの普及が始まり今に至ります。

もちろん、PCが存在すらしなかった世代と比較すれば、操作方法を知っている学生の絶対数は増えましたが、学生全体へとは波及せず、知り合いの現役女子大生はワープロソフトすら使えません。ただし、これまで見てきたように20世紀から変わらぬ風景です。それが「ニュース」になるのは、読者の需要があるから。

新社会人にとっての職場は、未知の世界で不安を抱えることでしょうが、実は受け入れるオジサン達も不安を抱えています。新たな部下や仲間がどんな人物か、どういった属性なのか、つまりオジサン達にとって新社会人もまた未知の存在なのです。

「○○論」という毎年の恒例行事

人は未知に対する不安を抱えると、もっともらしい理屈を鵜呑みにする傾向があります。スマホの普及を理由とした「若者はPC操作に自信がない」もその1つ。繰り返しになりますが、スマホが普及する前から、PC操作の得意な学生は少数派なのにです。

ニュースといえども人気商売。反響の高かった記事の切り口は継承されます。そして、春になるたび「若者は○○論」は繰り返されオジサンらが飛びつきます。

毎年、新社会人を類型化して名前を付ける「今年の新入社員」を公益財団「日本生産性本部」が発表しています。これが話題になるのも同じ理由です。今年は「キャラクター捕獲ゲーム型」。いわずと知れた「ポケモンGO」ですが、毎年無理のある理屈とともに発表されています。

オジサン達も新人への不安を抱えているというのが、新社会人の現場の心得。そして「PCが使える」は、21世紀になった今も、ビジネスシーンのアドバンテージである現実も覚えておいてください。スマホ全盛の現代は、「スマホが使える」も同様です。

今回のポイント

若者論は現実を反映していないことが多い

諸先輩にとっての新人は未知で不安

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