明日値上げします。若手Web担当者の知らない“インフレ”時代の対応
コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の388
選挙結果はともかく
本稿公開時は選挙戦のまっただ中ですが、どんな選挙結果になろうとも変わらないのが「インフレ路線」です。その理由はおいおい触れるとして、消費税が5%となった1997年を始まりとすれば、17年もの長きに渡り「デフレ」が続きました。すると、これからの企業Webを担うだろう、20代~30代のWeb担当者は「モノやサービスの値段は下がる(あるいは変わらない)世界」しか知らないということです。
デフレ下において、モノやサービスの値段は下がり、安くなった価格に文句を言う客はいません。だから「価格差し替え」の対応だけで十分でした。
しかし、インフレとは「値上げ」が常態化する世界です。突然、値上げをすれば、客の不信を買うことは確実です。つまり「デフレ」とは違った対応が求められます。
昭和時代のインフレ
まず、インフレとはどういうものか、「昭和時代」から見てみます。
都内環状鉄道「JR山手線」の1区間の料金は1974年(昭和49年)には30円でした。これが10年後の1984年(昭和59年)には130円となります。複利計算から逆算したインフレ率は14%を超えます。
当時のJRは「国鉄」で、値上げは毎年の恒例行事。ついでにストによる運休も日常茶飯事でした。その後の分割民営化による経営努力と、なにより「デフレ」によって、価格はこの30年ほぼ据え置きとなり、現在は140円(ICカード利用で133円)。昭和時代のインフレを当てはめると、来年は159.964円、再来年は182.774円となり、東京五輪が開催される2020年には、渋谷から原宿までの運賃が311.525円となってしまいます。
現政権と日銀が目標とするインフレ率は2%で、ここまで極端な状態にはならないでしょうが、「昭和時代」にはそれほど珍しい光景ではなく、同じ1974年に60円だった「都バス」の料金は、10年後には2.3倍の140円。銭湯の入浴料は75円が250円と3.3倍、官製はがきは10円から40円と4倍になっています。
円安という要因
平成の現在も、着々とインフレの足音が近づいてきています。Web担当者になじみ深く「インフレ」を体感するのは、「iPhoneの値上げ」でしょうか。Apple Storeでは「iPhone 6」「iPhone 6 Plus」「iPhone 5s」のSIMフリー版各モデルを約1割も値上げしました。
直接的な理由は「円安」です。輸入品は、円が安くなれば、売価が上がります。1ドル85円で100ドルの商品は8,500円となり、それが119円になれば1万1,900円です。バターや小麦の価格が上がっている理由の1つです。
2年前には85円だった対米ドルのレートが、本稿執筆時は119円に突入しました。仮にAppleが春頃のレートである1ドル=103円を想定していれば、1割値上げしても利益は減少しており、更なる値上げがあるかもしれません。
教育という対策方法
円安とインフレはイコールではありませんが、日本は資源に乏しく、食物自給率も低く、エネルギーも含めて輸入に頼っており、円安はインフレ要因となります。長々と「経済講義」をしてきましたが、これが「対策」につながります。
さて、具体策です。
値上げも「やむなし」と頭で理解しながらも、本当に値上げされると舌打ちする気持ちを、この春の増税時に体感した人は多いことでしょう。お客の苛立ちを軽減させる妙手は「教育」です。値上げする理由、しなければならない理由を、値上げ前から繰り返し告知し「教育」しておくのです。たとえばこんな感じです。
円安により仕入れ値が高騰するなか、お値段据え置き!
実際には価格変更していないだけなのですが、現在の状況を説明し、値上げへの「伏線」を張っておきます。
料金見直しを予告
現状説明には、いくつもの表現があります。
世界的な資源争奪戦により原材料費が高騰しております。予告なく価格が変更されることがあります
「資源」を巡る世界情勢が激化しているのは、新興国の旺盛な需要によります。また、バターや小麦価格の上昇も新興国、とりわけ中国の引き合いが強く……と、こうした「説明」のためのトリビアを仕入れておくのがインフレ対策の1つです。
単なる「値上げ」ではなく、説明を尽くしたという「努力」のあとを示したうえで、「値上げ」は苦渋の決断であると理解を促す狙いです。
より具体的に値上げが近づいているなら、
急激な円安により料金の見直しを予定しております
としておくとよいでしょう。
株式格言の教え
こうした「教育」を始めるのに年末は最適です。消費者心理として、年末は「買いだめ」をしたくなる季節、そのとき「値上げするかも」という告知を見れば「買いだめ欲求」が刺激されます。これは理屈ではなく感情で、増税前の「駆け込み需要」と同じです。さらに、「値上げ」を気にする訪問者の、来訪頻度の増加も期待できます。
長々と紹介した「インフレ」や「経済」についてのトリビアなどを駆使して、「値上げするかもしれない理由」の詳述(コンテンツ)を試みるのもよいでしょう。審議過程をオープンにして信頼感を得るとは、すなわち「情報公開」です。
「政策に売りナシ」とは株式格言で、政府が進める事業に関連する企業の株価は堅調に推移するという経験則です。実際、公共事業には巨費が投じられるので、確実に利益が見込めます。そして、政府はインフレへと舵を切っています。ならば「インフレ対策は待ったなし」です。
そもそも「デフレ」を放置しつづけてきたことが「論外」で、デフレ経済とは、すでに資産を持っていたり、高給が保証されていたりする、いわば「勝ち組」を有利にする仕組み。すなわち「格差」は拡大します。対するインフレによる貨幣価値の減少は、借金の相対的な減額へとつながり、リスクを負いやすくなります。
また、物価に賃金はつられ、先の山手線運賃を比較した同時期でみれば、最低賃金(日給)は1,450円から3,564円へと2.45倍上昇して、というのもトリビア。インフレ経済を知るたよりになれば幸いです。
今回のポイント
デフレ時代とは異なる発想が求められる
情報公開による不信感の回避
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