目次
「越える・超える」「挙げる・上げる」「抑える・押さえる」「計る・測る」「答える・応える」「勧める・薦める」……どんな意味のときに、どの漢字を使うのが正しいのでしょうか。
こうした使い分けの難しい「異字同訓」(訓読みが同じの違う文字)漢字を、どう使うのかの例をいくつか紹介しましょう。
この記事で紹介している漢字の使い分け:
あげる(上げる・挙げる) |
あく(空く・開く) |
あてる(当てる・充てる) |
あわせる(合わせて・併せて) |
おさえる(押さえる・抑える) |
かたい(堅い・固い・硬い) |
こえる(超える・越える) |
こたえる(答える・応える) |
すすめる(勧める・薦める) |
つとめる(勤める・務める・努める) |
のぼる(上る・登る・昇る) |
はえる(映える・栄える) |
はかる(図る・計る・測る) |
もと(下・元・本) |
わく(沸く・湧く) |
あやしい(怪しい・妖しい) |
かた(形・型) |
こう(請う・乞う) |
たま(玉・球・弾) |
つくる(作る・造る・創る) |
その他の使い分け
あげる(上げる・挙げる)
-
上げる ―― 位置・程度などが高い方に動く。与える。声や音を出す。終わる。
例二階に上がる。地位が上がる。料金を引き上げる。成果が上がる。腕前を上げる。お祝いの品物を上げる。歓声が上がる。雨が上がる。
-
挙げる ―― はっきりと示す。結果を残す。執り行う。こぞってする。捕らえる。
例例を挙げる。手が挙がる。勝ち星を挙げる。式を挙げる。国を挙げて取り組む。全力を挙げる。犯人を挙げる。
あく(空く・開く)
-
空く ―― からになる。
例席が空く。空き箱。家を空ける。時間を空ける。
-
開く ―― ひらく。
例幕が開く。ドアが開かない。店を開ける。窓を開ける。そっと目を開ける。
あてる(当てる・充てる)
-
当てる ―― 触れる。的中する。対応させる。
例胸に手を当てる。ボールを当てる。くじを当てる。仮名に漢字を当てる。
-
充てる ―― ある目的や用途に振り向ける。
例建築費に充てる。後任に充てる。地下室を倉庫に充てる。
あわせる(合わせて・併せて)
-
合わせて ―― 一つにする。一致させる。合算する。
例手を合わせて拝む。力を合わせる。合わせみそ。時計を合わせる。調子を合わせる。二人の所持金を合わせる。
-
併せて ―― 別のものを並べて一緒に行う。
例両者を併せ考える。交通費を併せて支給する。併せて健康を祈る。清濁併せのむ。
おさえる(押さえる・抑える)
-
押さえる ―― 力を加えて動かないようにする。確保する。つかむ。手などで覆う。
例紙の端を押さえる。証拠を押さえる。差し押さえる。要点を押さえる。耳を押さえる。
-
抑える ―― 勢いを止める。こらえる。
例物価の上昇を抑える。反撃を抑える。要求を抑える。怒りを抑える。
かたい(堅い・固い・硬い)
-
堅い ―― 中身が詰まっていて強い。確かである。
例堅い材木。堅い守り。手堅い商売。合格は堅い。口が堅い。堅苦しい。
-
固い ―― 結び付きが強い。揺るがない。
例団結が固い。固い友情。固い決意。固く信じる。頭が固い。
-
硬い ―― 外力に強い。こわばっている。
例硬い石。硬い殻を割る。硬い表現。表情が硬い。選手が緊張で硬くなっている。
こえる(超える・越える)
-
越える ―― ある場所・地点・時を過ぎて,その先に進む。
例県境を越える。峠を越す。選手としてのピークを越える。年を越す。度を越す。困難を乗り越える。勝ち越す。
-
超える ―― ある基準・範囲・程度を上回る。
例現代の技術水準を超える建築物。人間の能力を超える。想定を超える大きな災害。10万円を超える額。1億人を超す人口。
こたえる(答える・応える)
-
答える ―― 解答する。返事をする。
例設問に答える。質問に対して的確に答える。名前を呼ばれて答える。
-
応える ―― 応じる。報いる。
例時代の要請に応える。期待に応える。声援に応える。恩顧に応える。
すすめる(勧める・薦める)
-
勧める ―― そうするように働き掛ける。
例入会を勧める。転地を勧める。読書を勧める。辞任を勧める。
※行為を促す -
薦める ―― 推薦する。
例候補者として薦める。良書を薦める。お薦めの銘柄を尋ねる。
※人や物がふさわしい・望ましいと推薦する
つとめる(勤める・務める・努める)
-
勤める ―― 給料をもらって仕事をする。仏事を行う。
例この会社は私には勤まらない。銀行に勤める。永年勤め上げた人。勤め人。本堂でお勤めをする。法事を勤める。
-
務める ―― 役目や任務を果たす。
例彼には主役は務まらない。会長が務まるかどうか不安だ。議長を務める。親の務めを果たす。
-
努める ―― 力を尽くす。努力する。
例完成に努める。解決に努める。努めて早起きする。
のぼる(上る・登る・昇る)
-
上る ―― 上方に向かう。達する。取り上げられる。
例階段を上る。坂を上る。川を上る。出世コースを上る。上り列車。損害が1億円に上る。話題に上る。うわさに上る。食卓に上る。
-
登る ―― 自らの力で高い所へと移動する。
例山に登る。木に登る。演壇に登る。崖をよじ登る。富士山の登り口。
-
昇る ―― 一気に高く上がる。
例エレベーターで昇る。日が昇(上)る。天に昇(上)る。高い位に昇る。
はえる(映える・栄える)
-
映える ―― 光を受けて照り輝く。引き立って見える。
例夕映え。紅葉が夕日に映える。紺のスーツに赤のネクタイが映える。
-
栄える ―― 立派に感じられる。目立つ。
例栄えある勝利。見事な出来栄え。見栄えがする。栄えない役回り。
はかる(図る・計る・測る・量る)
-
図る ―― あることが実現するように企てる。
例合理化を図る。解決を図る。身の安全を図る。再起を図る。局面の打開を図る。便宜を図る。
-
計る ―― 時間や数などを数える。考える。
例時間を計る。計り知れない恩恵。タイミングを計る。頃合いを計って発言する。
-
測る ―― 長さ・高さ・深さ・広さ・程度を調べる。推測する。
例距離を測る。標高を測る。身長を測る。水深を測る。面積を測る。血圧を測る。温度を測る。運動能力を測る。測定器で測る。真意を測りかねる。
-
量る ―― 重さ・容積を調べる。推量する。
例重さを量る。体重を量る。立体の体積を量る。容量を量る。心中を推し量る。
もと(下・元・本)
-
下 ―― 影響力や支配力の及ぶ範囲。…という状態・状況で。物の下の辺り。
例法の下に平等。ある条件の下で成立する。一撃の下に倒した。花の下で遊ぶ。真実を白日の下にさらす。灯台下暗し。足下(元)が悪い。
-
元 ―― 物事が生じる始まり。以前。近くの場所。もとで。
例口は災いの元。過労が元で入院する。火の元。家元。出版元。元の住所。元首相。親元に帰る。手元に置く。お膝元。元が掛かる。
-
本 ―― 物事の根幹となる部分。
例生活の本を正す。本を絶つ必要がある。本を尋ねる。
-
基 ―― 基礎・土台・根拠。
例資料を基にする。詳細なデータを基に判断する。これまでの経験に基づく。
わく(沸く・湧く)
-
沸く ―― 水が熱くなったり沸騰したりする。興奮・熱狂する。
例風呂が沸く。湯が沸く。すばらしい演技に場内が沸く。熱戦に観客が沸きに沸いた。
-
湧く ―― 地中から噴き出る。感情や考えなどが生じる。次々と起こる。
例温泉が湧く。石油が湧き出る。勇気が湧く。疑問が湧く。アイデアが湧く。興味が湧かない。雲が湧く。拍手や歓声が湧く。
いかがでしょうか。ほかにも、知ると「へー」となる使い分けの基準もあるので、それを以下に示します。
あやしい(怪しい・妖しい)
-
怪しい ―― 疑わしい。普通でない。はっきりしない。
例挙動が怪しい。怪しい人影を見る。怪しい声がする。約束が守られるか怪しい。空模様が怪しい。
-
妖しい ―― なまめかしい。神秘的な感じがする。
例妖しい魅力。妖しく輝く瞳。宝石が妖しく光る。
かた(形・型)
-
形 ―― 目に見える形状。フォーム。
例ピラミッド形の建物。扇形の土地。跡形もない。柔道の形を習う。水泳の自由形。
-
型 ―― 決まった形式。タイプ。
例型にはまる。型破りな青年。大型の台風。2014年型の自動車。血液型。鋳型。
こう(請う・乞う)
-
請う ―― そうするように相手に求める。
例認可を請う。案内を請(乞)う。紹介を請(乞)う。
-
乞う ―― そうするように強く願い求める。
例乞う御期待。命乞いをする。雨乞いの儀式。慈悲を乞う。
たま(玉・球・弾)
-
玉 ―― 宝石。円形や球体のもの。
例玉を磨く。玉にきず。運動会の玉入れ。シャボン玉。玉砂利。善玉悪玉。
-
球 ―― 球技に使うボール。電球。
例速い球を投げる。決め球を持っている。ピンポン球。電気の球。
-
弾 ―― 弾丸。
例拳銃の弾。大砲に弾を込める。流れ弾に当たって大けがをする。
つくる(作る・造る・創る)
-
作る ―― こしらえる。
例米を作る。規則を作る。新記録を作る。計画を作る。詩を作る。笑顔を作る。会社を作る。機会を作る。組織を作る。
-
造る ―― 大きなものをこしらえる。醸造する。
例船を造る。庭園を造る。宅地を造る。道路を造る。数寄屋造りの家。酒を造る。
-
創る ―― 独創性のあるものを生み出す。
例新しい文化を創(作)る。画期的な商品を創(作)り出す。
その他の使い分け
―― 文化庁の「『異字同訓』の漢字の使い分け例」には133例が
ここに示した使い分けのは、文化庁の文化審議会国語分科会が公開した「『異字同訓』の漢字の使い分け例(報告)」から紹介したものです。
資料では、ここで示したものを含め全部で133の用例が、わかりやすく示されていますので、日本語を扱う方は、ぜひダウンロードして、いつでも参照できるように手元に置いておくといいでしょう。
この資料は、同音で意味の近い語が、漢字で書かれる場合、その慣用上の使い分けの大体を、用例で示したもので、昭和47年に「『異字同訓』の漢字の用法」として作成し、「『異字同訓』の漢字の用法例」として平成22年に追加したものを、改めて整理したもの(資料内には、昭和47年版と平成22年版の情報も、併せて記載されています)。
ただし、「これが正しい」「こうでない用法は間違い」というものではなく、あくまでも「1つの参考として提示」されたものであることに注意してください。
言葉というものは時間とともに使われ方が変わるものですし、分野によっては違った使い方がされるということもあるものです。
また、この資料は「常用漢字に関する使い分け」を記載したものですので、それ以外の漢字については触れていませんし、「漢字で書くか、かなで書くか」といった点についても触れていません。
それでも、参考として手元に置いておく価値があると思います。
文化庁は、日本語に関してほかにも次のような資料を公開していますので、言葉を扱う方はチェックしてみるといいでしょう。
- この記事のキーワード