アジャイルマーケティング ―― 顧客に価値をもたらすための“完璧を求めない”考え方
この記事の内容はすべて筆者自身の見解であり(ありそうもないことだが、筆者が催眠状態にある場合を除く)、SEOmozの見解を反映しているとは限らない。
やあ、SEOmozファンのみんな。今日の動画では、「アジャイル(機敏な)マーケティング」という小粋でイカした世界を見ていく。以前にMozConというイベントでも話したトピックだ(イベントの動画はこちら)。
今日は、アジャイルマーケティングの4つの基本原則を紹介したうえで、進歩を阻む壁を崩し障害を取り除いて顧客により多くの価値を届ける機会を増やすために、この基本原則をどのように使って組織を変えていくかについて話そう。
アジャイルマーケティングの特長は以下のようなものだ。
- 顧客を念頭に置いてマーケティングと開発に取り組むことを心がける。
- 部署の垣根を越えたクロスファンクショナルチーム構築による社員間の相互作用を重視する。
- スタッフは常に動き続ける(何をさておいてもユーザーや顧客への提供を最優先するためだ)。
- 力強い「構築→計測→学習」というサイクルを何度も繰り返す(エリック・リース氏が著書『リーン・スタートアップ』で述べているように)。
ご存知のように、SEOやインバウンドマーケティングの世界は、変化が非常に速い。グーグルは4月にはアルゴリズムに52件の変更を実施し、5月にはさらに39件の変更を加えた。アジャイルマーケティングの方法論を使えば、こうした変化に対応して新たな機会を真っ先に活かすことが可能になる。
※Web担編注 上記の動画でアジャイルマーケティングが解説されているのだが、動画の内容を書き起こして補足を加えた日本語の解説を以下に示しておくので、英語が苦手な人はこちらを参照してほしい。
アジャイルマーケティングが大切な2つの理由
やあ、SEOmozファンのみんな。僕はアウトドア/スポーツ用品の小売企業REI(Recreational Equipment, Inc.)のジョナソン・コールマンだ。今日はアジャイルマーケティングについて話をする。これは、ソフトウェア開発者たちから学んだやり方で、彼らは何十年も「アジャイル」を実践してきた。これをマーケティングに応用していこう。それには、2つの十分な理由がある。
第1に、アジャイルマーケティングによって、ユーザーに意識を集中し、ユーザーのためにより多くの価値を理に適った方法で創造する機会を増やすことが可能となり、また組織としても変化に適応できるようになる。
君たち自身が誰よりもよくわかっているとおり、この業界は変化が激しい。グーグルはアルゴリズム・アップデートを連発し、2012年5月には52件、その直後には39件を実施した。パンダ・アップデートがあり、ペンギン・アップデートがあり、そうしたさまざまなニュース、ヒントや小技がInbound.orgに掲載されている。
僕らは新しい情報を絶えず組織に取り込む。だが往々にして、組織はその情報に対応できない。それはなぜだろう? 理由は、組織がこのような構造になっているからだ。
ユーザーを中心に置かない大きな階層構造になっているからだ。そのせいで、新しい情報を取り込んでも、最も重視すべき人々、つまり顧客に直接適用することができない。
第2に、僕らはこのようなウォーターフォール型開発モデルで仕事を進める傾向がある。最初に要件を設定し、それから仕事の塊を1つ、また1つ、また1つと処理していく。モデルだ。
しかし、作業を進める途中で変化があると、たとえばウォーターフォールの第3段階でペンギン・アップデートのようなものが起こると、「スタートから半年が経っているから」という理由でこれに対応できない。
そして、ご存じのように、SEOやインバウンドマーケティング、それにソーシャルメディアは、半年や1年の周期どころか、時間単位で刻々と変化している。だから僕らは、もっと上手く変化に対応する必要があり、それを実現するのにアジャイルマーケティングが役立つわけだ。
ではここで、アジャイルの4つの基本原則を紹介し、組織を変えるために使える2つのハックについて話そう。
アジャイルマーケティング4つの基本原則
顧客が第一: CUSTOMERS FIRST
何はさておき顧客が第一だ。顧客は最も大切な人たちであり、われわれが企業として存在する理由だ。だから僕らは、「ユーザーが1番だ」「そうそう、僕らユーザーが1番だ!」などと言ったりする。
ということは、やるべきことは、ユーザーを中心として自らの仕事と組織を構築することだ。
それを実行する1つの妙手、利用できる武器は、「ユーザーストーリー」を作ることだ。ユーザーに協力してもらって調査を行うときや、ユーザーが目標を達成するために必要なことを見つけ出すときに、「ストーリー」を作ることから始めるんだ。
ユーザーストーリーはごくシンプルな形式をしている。次のような形だ。
「●●として」の部分には、ユーザーの種類(セグメント)を表す言葉が入る。「ユーザーとして」「購入者として」「買い物客として」、あるいは、当社であれば「バックパッカーとして」のようになる。
「■■のために」の部分には、理由やメリット(~するために、~できるように)が入る。「アウトドアの冒険、アディロンダック山地のハイキングで素晴らしいひとときを過ごすため」といったところだ。
「私は★★したい」のところには、目標や希望(~をしたい、~が欲しい)が入る。たとえば「いちばん軽いバックパッキング用品を見つけたい」のような言葉が来るだろう。
ユーザーストーリーが特に有効なのは、顧客が目標を達成するために必要な多くの仕事に僕らを集中させてくれるという点だ。だからユーザーストーリーは、ユーザーの求めるものを簡単にすばやく言葉にし、その目標を達成するのに役立つすばらしい方法なんだ。
クロスファンクショナルチーム: Cross-Functional Teams
次に取り上げる原則は「クロスファンクショナルチーム」で、これは旧式のビジネスで使われていた階層構造をぶっ壊すものだ。
何をどうするのかと言うと、縦割りのサイロ型構造を取り壊し、クロスファンクショナルチームを形成するんだ。
クロスファンクショナルチームでは、コンテンツ、デザイン、コード、インバウンドマーケティング、データや分析、プロジェクト管理などの担当者が一堂に集まり、同じことについて同じ場所で同じ時に作業する。誰も欠けることはない。何かを説明するために、別の建物に出向いたり長い電子メールを送ったりする必要はない。書類や面倒な電子メールやインスタントメッセージを減らし、顔をつきあわせて話し合う。これこそアジャイルマーケティングの強みだ。
これに役立つツールを2つ紹介しよう。まずは立ち会議だ。アジャイルマーケティングで開く数少ない会議の1つだが、10分以上かかるようなら、何かが間違った方向に進んでいる。たった10分の会議を1日に1回しかやらないと想像してほしい。1日1回、10分間だけだ、そうすれば、ユーザーのために価値を生み出す本当の仕事に注力できるようになる。すばらしいことだ。
立ち会議は、みんなが集まって立ったまま行う。おかげで会議が短く済ませられるんだ。話す内容は、次のとおりだ。
- 今までにしたことについて(What you DID)
- 今やっていることについて(What you're DOING)
- 進行を妨げているかもしれないことについて(What's STOPPING you)
そして、そうした問題にどう対処するかを短い時間で話し合う。
Trelloのサイトを見てみると、そういう場合に役立ちそうなツールがいくつかある。オンライン・コラボレーションツールだ。DistilledはDistilledUを制作するのにTrelloのツールを使った。DistilledUもまたすばらしいツールだ。そしてもう1つ、「Meeting Cost Calculator」も紹介しておこう。URLはbit.ly/meetcostだ。
行動する癖: Bias Toward Action
さて、次に挙げる原則は、行動する癖をつけるというもので、これはごく単純だ。「行動すること」は「行動しないこと」より常にすぐれている。
分析の行き詰まりといった問題に対処するときや、決定権が政治力を持つ人に握られているといった問題を抱えているとき、さらに、僕のお気に入りの例でいうと、誰かが寄ってきて「いいアイデアみたいだけど、われわれはそんな方法じゃやらないよ
」などと言うとき、アジャイルマーケティングはそういった障害を乗り越えるのに役立つ。なぜなら、僕らは常にユーザーストーリーに立ち返り、こんな風に言えるからだ。
でも、これが顧客の必要としていることなんだ。
だから僕らが行うのは、「イエス」に向けて交渉すること、そして、仕事を前に進めるための土台を見つけることだ。
実際、アジャイルマーケティングには、仕事の障害を取り除くだけという役割がある。だから、「行動すること」は「行動しないこと」より常にすぐれている。
そして、使える武器をもう1つ挙げると、顧客に価値を生み出さない仕事に対しては「ノー」と言うことだ。
誰かが来て別の仕事を指示したとき(それがボスであっても)、言われた仕事が顧客のためにすぐに価値を生み出すわけではないことは、しばしばある。
しかし、やらなきゃいけないのは、ユーザーストーリーを最優先でさっさと進めることだし、いったんユーザーストーリーができたら、顧客のために価値を生み出す仕事と、そうではない仕事を明確にできる。だからこそ、僕らはただ「ノー」と言って、不要な仕事を極力減らすんだ。
嫌がらずに反復せよ: Don't Hate, Iterate!
最後となる第4の原則は「嫌がらずに反復せよ」だ。このフレーズはREIの同僚から拝借した。すばらしい言葉だ。
リリースのサイクルを、半年や1年ではなく、2週間や4週間にすると、エリック・リース氏の「構築→計測→学習」モデルに合致する。
僕らは、製品を開発したりマーケティングキャンペーンを実施したりして(構築)、それから顧客の反応を調べる(計測)。パフォーマンスを調べて、たとえ好調でなかったとしても、問題はない。僕らはここから学ぶのだから(学習)。そして、2週間後に修正版を出す。反復することで前より出来がよくなり、顧客もそれに反応してくれる。それもうまく行かなかったとしても大丈夫。このサイクルを繰り返せば、顧客が目的を達成するのに必要なところまで少しずつ近づいていける。
そして、その先には最後の原則がある。「人は完璧ではない」というものだ。僕は完璧ではない。ランド・フィッシュキンも完璧ではない。ランドは実に優秀だけど、完璧ではない。でも、それでいい。僕らは完璧でありたいとは思わない。完璧な仕事を求めると、どこかのタイミングで仕事を切り上げて顧客に届けることができなくなるからだ。それは望むところではない。
常に、できるだけ迅速に顧客へ成果を届けたい。だから、最高点を追求すべきではない。求めるべきはユーザーに有益なものだ。ユーザーストーリーに立ち返ろう。それこそが達成すべきものだ。うまく行かなくても大丈夫、だって2週間後にまたチャンスがあるんだから。
MozConでも話をしたので、その時のプレゼン資料はbit.ly/agilewinsでダウンロードできる。記事へのコメントをよろしく。チェックして質問に答えるし、リソースをさらに紹介していこう。
それではここまで。みんなありがとう。また来週の金曜に。
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