“餅は餅屋に任せよう”外部パートナーの活用3つのパターン
“餅は餅屋に任せよう”外部パートナーの活用3つのパターン
Web担当者は、Web資産価値の向上にコミットすべきで、デザインや開発、広告代理店のようなプロになるべきでない。たとえば、前回解説したハブスポークモデルは、システム開発の知見が必要ではあるが、Web担当者がコードを書くべきではない。どういう戦略で進めば自社に最適かを考え判断するのも、Web担当者や社内にノウハウがなければ最悪の事態を招きかねない。
“餅は餅屋に任せる”を肝に銘じてほしい。これを踏まえ、自社の状況によって最適なアウトソーシングを活用するパターンを3つ紹介する。次の3つだ。
- 迅速なコスト削減型「戦術的アウトソーシング」
- 生産性向上型「戦略的アウトソーシング」
- 付加価値向上型「ビジネス的アウトソーシング」
それぞれについて具体的に説明していく。
(1)迅速なコスト削減型「戦術的アウトソーシング」
「戦術的アウトソーシング」は、迅速なコスト削減を目的とした、すぐに活用できるアウトソーシング手法である。サイトの制作や広告出稿などで、ほぼすべてのWeb担当者はこのアウトソソーシングを活用しているだろう。適正に活用するには、Web担当者が正しい提案依頼書(RFP:Request For Proposal)を提示し、コンペを開催すれば、正当なコストでプロジェクトを動かすことができる。
一方で、戦術的アウトソーシングの問題点として、生産性が悪くなる点がある。Web担当者はいろんなベンダーとのコミュニケーションに時間を割く必要が出てしまい、今まで以上に業務量が増えてしまい、生産性が最悪になりがちである。さらに、ベンダーからは言われたものしか出してこない。これはベンダーの問題ではなく、コスト削減を目的としている以上、構造的な問題である。まれにベンダーからプラスαの提案もあるかもしれないが、「参考にはなる」というレベルだろう。
(2)生産性向上型「戦略的アウトソーシング」
戦術的アウトソーシングから一歩進化した手法が、生産性向上につながる「戦略的アウトソーシング」である。
社内のWeb決裁者・担当者が、外部のプロジェクトマネージャー(PM)やテクニカルディレクター(TD)と直接コミュニケーションを取り、このPMやTDがRFPの作成からコンペの実施、運用管理を行い、さらに社内の各部署間の社内調整も行うやり方だ。
戦略的アウトソーシングを活用するメリットは、スピードアップとプロジェクト成功の精度アップである。また、専門家としてのノウハウと最新情報をもとに、適宜材料が上がってくるのでWeb決裁者・担当者は判断しやすい。たとえば、重要なベンダーとの打ち合わせもPMやTDが代理で出席し、その打ち合わせ内容をPMが分析しコメントを加えくれるようなケースもある。
一方で、戦略的アウトソーシングの問題点として、短期的には生産性が上がるが、中長期的な視点がないことがある。プロジェクトの実施においてはサポートできても、プロジェクト自体をいっしょに練り上げるということはできないし、それを期待するのは酷である。
(3)付加価値向上型「ビジネス的アウトソーシング」
「ビジネス的アウトソーシング」は、いわゆる「BPO(business process outsourcing)」と言われるアウトソーシング活用手法である。PM・TDの上に顧客のビジネスを理解できるWebコンサルタントが立ち、プロジェクトの企画・立案から開発、運用管理などをすべてマネージメントするやり方だ。社内のWeb決裁者・担当者はもちろん、経営層と同じような視点や立場でWebコンサルタントが責任を持って加わるので、コストの適正な配分やスピードアップ、プロジェクトの精度向上に加え、中長期的な戦略を見据えながらWeb資産価値を向上させることが可能だ。
このビジネス的アウトソーシングに取り組むときの問題点は、Web決裁者・担当者の勇気である。まず、それなりの予算がかかる。またWeb担当者自信が「自分の仕事がなくなる」という錯覚に陥る。誤解を恐れずに言えば、ある程度かかるコストは、短・中・長期で上げる成果によって十分吸収できるだろう。またWeb担当者の仕事については、決してなくなることはない。むしろWeb担当者のキャリアアップに確実につながる経験を積めるはずだ。
ビジネス的 アウトソーシング | 戦略的 アウトソーシング | 戦術的 アウトソーシング | 外注 | |
---|---|---|---|---|
業務箇所 | ビジネスを中心に考える | 業務を中心に考える | タスクを中心に考える | タスク |
ビジネス プロセス | 最適化させる | 変更なし | 変更なし | ―― |
委託する 理由 | 会社への売上や利益に中長期で貢献できるパートナーだから | 社内スタッフよりも高い能力をもち、会社や部署の生産性を上げられるから | コストを削減できるから | ―― |
【事例】ビジネス的アウトソーシングを活用した企業
実際に、こうした3種類のアウトソーシングを発展的に活用してビジネスを進めた事例を紹介しよう。
ある接客サービス業を提供する企業がいた。経営者は、現場重視の接客業でもWebからの新規顧客獲得はあり得ると考え、ありがちな会社案内的なWebサイトから、新規顧客を獲得できるコンテンツが充実したWebサイトへの変化を望んだ。
まず、社内にWeb事業部を立ち上げて「戦術的アウトソーシング」手法で取り組んだ。サイトがリニューアルされ、サイト訪問者も少し増えたが、1つひとつの施策に時間がかかり、新規顧客獲得もほとんどできず、残念ながらWeb事業部はコストセンター化していた。
そこで、生産性向上を目的とした「戦略的アウトソーシング」の相手先として、(手前味噌ではあるが)我々クリエイティブホープが選ばれた。結果、以前は半年かかっても成果が出なかったことが、1か月あまりで成果を出すことができた。ポイントは各ベンダーへの正しいRFPとコンペの実施、そしてプロジェクトを最適に動かすためのスケジューリングや予算管理だった。
そして、手応えを感じた経営者から、中長期的な戦略の立案・実施とさらなる成果を求められ、我々は「ビジネス的アウトソーシング」を提供した。この段階で我々は、Web事業は会社の縦割り的な1つの部署ではなく、会社の全部署に関わるインフラ的な役割であることを理解してもらうように打ち合わせや調整を重ね、実際の現場までを含めたビジネスプロセスの改善・最適化プロジェクトを提案し、ほぼすべての事業部と連携を取りながら取り組んだ。
結果的に、約半年後にはWeb事業部はプロフィット部門となり、今ではWebを活用した新たなサービスメニューや事業開発にも発展し、同社の経営戦略上、なくてはならない部署に成長した。
まとめ
私の経験から言えば、Webのデザインやサイト集客という段階から一歩踏み込んだ、システムの構築・改編の段階で、会社の業績アップやWeb事業部の成長が実現されることが多い。しかし、戦術的アウトソーシングで単純な外注を使ってしまい、残念な結果に陥ってしまう話もよく聞く。基幹システムまで含めた改編となると大きな予算がかかるため、なかなか会社も判断できないという状況もあるだろう。
しかし、前回解説した「ハブスポークモデル」を使って、確実に売り上げ向上につながるポイントを見つけ出し、適切な外部リソースを活用すれば、会社の短期的な業績向上と中長期な成長も、決して難しい話ではない。
今回は私の業務上、なかなか具体性のある事例を提供できなかったが、次回は、立ち上げ期から成長期を体現し、会社の業績に大きく寄与したという、Web担当者の生の声をお伝えする予定だ。
もし、実在のWeb担当者に聞きたいことがあれば、Twitter ID「@takamartie」へDMでももらえれば嬉しい。
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