外注の仕事の品質を高めるためのチェック手法(第6回)
Web担当者のなかでHTMLやCSSのソースを理解している人は少数だと思います。Web制作の経験者でもない限り、ソースが正しく記述されているのか見ただけでは判断するのは難しいでしょう。ブラウザに正しく表示されていればそれでいいという判断もありますが、正しく記述されたHTMLはSEOの内部施策として重要な要素です。後々、SEOやサイトの改修作業を行う際に、正しくHTMLが記述されていないとコーディングをやりなおす必要が発生し、2重の手間とコストが発生します。
※1 エージェンシー・スラックとは、エージェント(外注)が、プリンシパル(発注側)の利益のために委任されているにもかかわらず、プリンシパルの利益に反してエージェント自身の利益を優先した行動をとってしまうこと。
外注に仕事を依頼する際、品質が保たれているのか、発注側は常に心配になります。スケジュールに遅れて納品されることはまれですが、発注側が成果物の品質まで見極めることは非常に困難です。このような問題は、エージェンシー・スラック(※1)と呼ばれており、外注を使う以上避けられない問題でもあります。
手抜きさせない予防法
品質チェックの有無はWeb業界に限りません。一例として、住宅の手抜き工事を例に手抜きさせない予防法を見てみましょう。住宅の場合も施主は素人ですから、その建物が手抜きかどうか判断できません。住宅の場合は、設計会社と施工会社を分離し、設計会社に工事の途中の工程に対し監視の役割を与えることで、手抜き工事を防止する効果があります。その他にも建築基準法、工事請負契約書、設計図、見積書などが挙げられます。
Webサイトの場合、設計会社はWebコンサルタントの専門家による監視に置き換えられますし、建築基準法はガイドラインやチェックツールと見ることができます。工事請負契約書はRFP、設計図は構成書、見積書はそのままです。
住宅工事 | Webサイト制作 | |
---|---|---|
設計会社による監視 | ←→ | Webコンサルタント |
建築基準法 | ←→ | ガイドライン/チェックツール |
工事請負契約書 | ←→ | RFP |
設計図 | ←→ | 構成書/サイトマップ |
具体的に見ていくと、Webコンサルタントには問題の発見・解決策の提案、戦略への提言など、提案とともに実行行程まで監視してもらい、提案だけに終わらず、結果の検証まで関与してもらいます。理想の形ですが予算もかさむため、採用できる発注側は限られてしまいます。
そこで、ガイドラインとチェックツールによるチェックの仕組みを入れることで、素人でも品質確認できるフローを構築します。さらに、品質項目としてRFPに記載し、瑕疵担保責任と設定することで、外注に対して品質にコミットメントさせることができます。
- 表記ルール
- デザインガイドライン(トーン&マナー)
- ロゴ使用に関するガイドライン
- HTMLの記述に関するガイドライン
- サイト構成に関するガイドライン
- リンクに関するガイドライン
- URL/ドメインに関するガイドライン
- アクセシビリティガイドライン
- リンクチェックツール:http://validator.w3.org/checklink
- HTMLチェックツール:http://validator.w3.org/
- CSSチェックツール:http://jigsaw.w3.org/css-validator/validator.html.ja
表記ルールやトーン&マナー、ロゴ使用などは既存のガイドラインをそのまま利用できるため、それほど戸惑うことはないでしょう。HTML、アクセシビリティ、リンクなどのチェックは目視だけでは限界があるため、ツールを利用して確認します。こうしたガイドラインが定められていると、品質が高まり、後々の作業もスムーズになります。Webのガイドラインがないという場合は、外注への依頼を機会に作成してもらうのもいいでしょう。
ガイドラインやチェックツールによる確認の有無とあわせて、チェックリストの提出を設けるのもおすすめです。チェックリストの提出というステップを設けることで、外注にルールの徹底を促せますし、発注側が素人でも満たすべき品質を客観的に示すことができます。
チェックリストにはガイドラインを満たしているかはもちろん、ブラウザで見ただけでは見落としがちな項目を加えておくことで、うっかりミスも防げます。アクセス解析タグやmetaタグの記述、Flashのプラグインなしの場合に表示させる代替画像などは筆者もよく見落としていた項目でしたが、チェックリストがあれば未然に気づくことができます。
その他、チェックリストとして「Webサイト品質管理のチェック項目リスト」を活用するのもおすすめです。
認識のずれはトラブルのもと
構成書やサイトマップというのは、中間成果物として業務が滞りなく進んでいるのかチェックするために利用します。また、お互いの認識に食い違いがないか確認を行い、それが正確に制作されたかを確認します。
お互いに「やってくれると思っていた」という認識のずれはあるもので、たとえば写真素材は外注(発注側)が手配してくれると思っていた、運営ガイドラインの作成もお願いしたつもりだった、ということがあります。これらは第4回で説明した前提条件にかかわってきます。制作に入ってしまうとたくさんのスタッフが稼働し、制作後の変更はロスが大きくなってしまうため、お互いの作業範囲を共有しておくことが重要です。
見積書は細目まで提出してもらい、それが実行されたかを確認します。一式などという見積もりでは、何を行う予定だったのかが見えないため、実行されたかどうかの確認もできなくなってしまいます。Webコンサルタントに関しては費用がかかりますが、その他は確認の手間がかかるものの、追加で費用が発生するものではないのですぐにでも実践することをおすすめします。
クリエイティブは定量的目標で管理
ここまでに説明したことが、Webサイトの定性的な品質評価方法になります。一方、アイデアやクリエイティブ(デザイン)などの時間(工数)で測れないものは定量的な評価方法を取り入れます。こちらは外回りの営業社員を部下に持つ営業部長を例に考えてみます。
営業部長は、会社の売り上げを上げるために、顧客を獲得しようとして営業社員が外回りをしていると考える。しかし1人ひとりの営業社員がどこで何をしているのかについて、詳細な情報を把握することは極めて難しい。もしかすると、外回りをしているときに、どこかの喫茶店に入ってさぼっている可能性も否定できない。しかし営業部長はその情報を逐一把握することはできないのである。
あなたの会社は営業社員をどのように管理しているでしょうか。営業社員1人ひとりに営業ノルマを課したり、達成度による成果報酬を与えていたりするかもしれません。Webでも同様に結果に対して評価を行います。わかりやすい評価基準としては、コンバージョン率、売り上げ、ユーザー数、PV数の増加などが挙げられます。定量的目標管理による施策管理を行うのです。
実は第2回、第3回で見てきた目標を設定するメリットは施策の成否だけでなく、エージェンシー・スラックを予防する監視の役割も担っています。ただし、成果報酬などの契約でない限り、目標値に対するコミットメントは要求できませんから、あくまで成果の達成度の計測になります。コミットメントがないから手を抜かれても責められないのは事実ですが、評価基準があることで緊張感を与えることができ、手を抜かれる可能性は軽減されます。
クリエイティブに関してはその背景にある考えを伝えてもらい、熟考されているならそのクリエイティブを尊重し、発注側があまり細かいことを言わず、成果で判断することをおすすめします。クリエイティブに関しては好みが評価に入り込むため、好みと品質は切り離す必要があります。
誉めてその気にさせる
管理方法の裏技に誉めて手を抜かせない方法があります。誉めることでさら誉められたいという心理が働き、さぼるどころかよりいっそうがんばってもらえます。ただし、なんでもかんでも誉めていたのでは、お人好しな発注側で終わってしまいます。どんな人に誉めてもらって嬉しいかというと、やはり違いのわかる人に誉められるのが嬉しいものです。
情報武装テクニックの基本はその業界のニュースを知ることです。そして、さりげなく話題にあげることで外注に業界のことを知っている人間だと思わせることができます。最近はTwitterを使って、その業界の著名な方をフォローしておけば、かなりの確率でいち早く情報を知ることができます。
外注に専門家だからと頼りっぱなしにするのではなく、積極的にその業界の情報や技術を収集することも大切です。そうすることで、提案内容の精査ができ、無駄な施策の費用をカットできます。外注の業務内容を把握できれば、スケジュールもこちらで読めるようになるので、仕事もスムーズに運びます。
Web担当を数か月で交代することもないでしょうから、担当としての責務としてある程度の勉強は行いましょう。Web制作にかかわることを学ぶことで、発注側が外注の仕事ぶりを判断できる目を持つことができます。できるWeb担当になることが一番の手抜き防止術です。
- 発注側はチェック機能を働かせる必要があり、チェックツールや目標を利用する
- 一番の防止方法は、Web担当自身がその業界の勉強をして判断できる能力を身につけること
本連載が、電子書籍になりました! タイトルは「Web担当者が知っておきたい『禁断の外注コントロール術』」です。
Web担当者の業務範囲は、制作や運営だけでなく、アクセス解析、インターネット広告やSEOに加え、ソーシャルメディア活用など多岐にわたり、それぞれ業務の内容もますます複雑化しています。そんな中で一定の成果を出していくには、もはや1人2人の手では足りず、社外の人の力を使わないとも対応できなくなっています。
本書は、Webの発注側にいる人が、社外の人の能力を最大限に活かす方法、ノウハウが収録されています。発注側と外注側のゴール・目標の違いを認識することからスタートし、成果を出す目標設定やツールの使い方、社外の人のモチベーション管理方法、対人関係能力の磨き方まで、発注・外注両方を経験している著者が、自らの経験を元に、丁寧に解説しています。
要点がコンパクトにまとまっているので、Web担当者になってから間もない人、自分以外の人の力を借りてもっと成果を上げたい人、気づきが満載です。ご一読のほど!
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