禁断の外注コントロール術

その目標が外注をダメにする(第2回)

外注を使って成果をあげるためには、発注側で達成したい目標と評価方法を明確にすることが必要です
禁断の外注コントロール術

外注の立場と発注側の立場の両方を経験している筆者が、それぞれの立場の経験から、「発注側が外注の力を借り成果を出す方法」を考えていきます。

※この記事では、事業主体の「発注側」に対し、事業を成功させるために協力してもらう専門性の高いパートナー(Web制作会社や広告代理店など)のことを「外注」と表記を統一しています。

何を目標に設定すべきか?

外注を使って成果をあげるためには、発注側としてその発注によって何を達成したいのかという目標を決めなくてはいけません。同時に、目標の達成度を測るための評価方法も考えておく必要があります。評価ができなければ、施策の成否がうやむやにされてしまう恐れがあります。

Webサイトや広告などにも評価システムを取り入れることで、達成度が測れます。学生時代なら、テストの点数や成績表で定期的に評価を確認できたと思いますが、ビジネスの現場の評価システムは目標と置き換えます。目標による施策管理を行っていくことで達成度を測るのです。しかし、「そもそも何を目標にすべきか?」と疑問に思うかもしれません。目標設定そのものが実は難しいものであり、経験や知識、技術、意識を高めるしか方法はありません。

そこで、目標設定のコツをいくつか紹介します。たとえば、広告やWebサイトなどの販促系施策の目標として次のような目標をよく聞きます。

目標パターン1
  • 売上を伸ばすため
  • シェアを高めるため

このような目標設定では、施策の達成度を測ることは困難です。販促目的であれば、その施策によって売上やシェアをどのくらい伸ばしたいのか、具体的な数値目標まで設定しなくてはいけません。では、次のように期間と数値(達成基準)を追加した場合はどうでしょうか。

目標パターン2
  • 年内に売上を15%上げるため
  • 年内にシェアを30%から40%に拡大するため

これもまた問題です。なぜかというと、これらの目標はトータルマーケティング目標であって、広告やWebサイトの目標ではないからです。

トータルマーケティング目標、製造、開発、営業、経営企画、経理、人事、総務、情報システム
トータルマーケティング目標

はっきり言うと、Web担当者の業務範囲だけでこういった目標を達成することはできません。発注側は広告やWebサイトの施策ごとの目標をもっともっと特定する必要があります。最初にやるべきことは、発注側が広告やWebサイトによって達成しようとすることを、はっきりと定義することです。

トータルマーケティング目標のどの部分を担ってほしいと考えているのか?

この問いに対する答えが目標作りのカギです。

部門ごとの役割を考える

あなたの会社にも様々な部門のスタッフがいて、それぞれの部門ごとに役割(目的)があり、それに沿った部門の目標があります。たとえば、会社のトータルマーケティング目標が売上やシェアの拡大だったとします。しかし、月次の目標数値に足りないからといって、経理担当者が営業と同じように月末に客先訪問した結果、月次処理が滞ってしまっては会社が機能しません。経理の目標としては、次のような例があるでしょう。

  • 月次決算の日数短縮
  • 予算との実績差異を5%削減

このように、経理の役割の範囲内で目標を設定するのがふさわしいと思います。役割をはっきり示すことで目標が見えてきます。

では、Web担当者の役割としては何が最適でしょうか。企業のWebサイトには多くの利害関係者がいるため、Web担当者の役割や目標を一概に定義するのは難しいものですが、多くの場合、インターネットを場にして情報を伝え、商品あるいはサービスに対する知識や態度、行動を購入する方向へ導く助けとなることを目標にしているはずです。そして、広告やWebサイトが持っている機能は、コミュニケーション力です。したがって、広告やWebサイトにはコミュニケーションの役割を割り当てなければいけません。

誰に、何を伝えるのか?

Web担当者が扱うのはWebサイトを通じたコミュニケーションです。Webサイトの先には、メッセージを受け取る相手がいますから、目標には「誰に、何を伝えるのか?」も定義されている必要があります。もし、あなたの目標に「誰に、何を伝えるのか?」がなければ、その目標は役割をはっきり示していないことになります。

「誰に」というのは、現在および潜在市場を構成する人々の特性(デモグラフィック属性、ニーズや欲求、ライフスタイル、消費習慣など)です。

「何を」というのは、キーメッセージです。キーメッセージとは、現在および潜在市場を構成する人々の特性と商品やサービスの重要な利点、購買動機と影響要因から、どのように商品あるいはサービスを紹介するのがベストか、ということです。キャッチコピーではありません。キャッチコピーは、キーメッセージをもとにコピーライターがデザインしたメッセージです。

測定できない目標は目標ではない

目標を設定する際にはどのように測定するのかを特定しておく必要があります。目標を設定してもそれが測れない場合、目標が明確になっていないことが多く、目標として機能しません。たとえば、認知度を目標に設定したなら、認知度調査を施策前と後で行うことを計画に盛り込んでおく必要があります。誰に対して何を(社名なのかブランド名なのかメッセージなのか)認知させるのか明確に定義しておく必要があります。Webサイトならアクセス解析ツールを導入し、アクセス解析ツールで測れる指標を目標に設定するのがいいでしょう。

そしてその目標の計測は施策を実施する外注とは別の外注に行ってもらう、または発注側で行うのがいいでしょう。自己採点では評価システムとして、相応しくありません。

明確な目標がもたらすフリークウエーブ

様々な方向に進む波は互いに相殺され、小さな波になってしまいます。一方、同じ方向に進む波がいくつも重なるとフリークウエーブ(大波)を発生します。はっきりと定義された目標は、皆の心を1つにし、関係者の注意を重要なこと、適切なことに結びつけ、大きな成果をもたらします。そして、実体のあるものは目に見える証拠があるため、結果を結論づけることが容易ですが、コミュニケーションには実体がありません。実体のないものを扱うときには、はっきり定義された目標を持たないと関係者の認識の食い違いから無駄な作業が多く発生してしまいます。

発注側の優柔不断な態度は、進むべき方向を誤らせ、外注を疲弊させます。この様な状態では外注の能力を存分に発揮してもらうのは難しくなり、成果を出すのは困難になります。外注からすれば、度重なる仕様や要求の変更によって何を共通の目標として進めばいいのかわからなくなります。このような状態では、良好なパートナーの関係を築くことは難しいでしょう。

目標設定は施策の達成度を計測し、外注に言い逃れをさせないためだけではないのです。

■禁断の外注コントロールのポイント
  • 成果を出すためには正しい目標設定が必要になる
  • 外注に言い逃れをさせないためには、目標によって達成度を計測しなくてはいけない
「禁断の外注コントロール術」が電子書籍になりました!

本連載が、電子書籍になりました! タイトルは「Web担当者が知っておきたい『禁断の外注コントロール術』」です。

Web担当者の業務範囲は、制作や運営だけでなく、アクセス解析、インターネット広告やSEOに加え、ソーシャルメディア活用など多岐にわたり、それぞれ業務の内容もますます複雑化しています。そんな中で一定の成果を出していくには、もはや1人2人の手では足りず、社外の人の力を使わないとも対応できなくなっています。

本書は、Webの発注側にいる人が、社外の人の能力を最大限に活かす方法、ノウハウが収録されています。発注側と外注側のゴール・目標の違いを認識することからスタートし、成果を出す目標設定やツールの使い方、社外の人のモチベーション管理方法、対人関係能力の磨き方まで、発注・外注両方を経験している著者が、自らの経験を元に、丁寧に解説しています。

要点がコンパクトにまとまっているので、Web担当者になってから間もない人、自分以外の人の力を借りてもっと成果を上げたい人、気づきが満載です。ご一読のほど!

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