外注をその気にさせる打ち合わせ術(第5回)
前回、良い成果を上げるためには、外注に熱意を持って仕事に取り組んでもらうことが必要だと話しましたが、外注との仕事というのは人間関係でもあります。ここができていないと、なかなか熱意をもって取り組めず、せっかくの熱意も冷めてしまいます。
いっしょに仕事をするなら、嫌いな人より好きな人といっしょに仕事をした方が楽しいですし、成果を上げることができるでしょう。外注との関係も同じです。外注に好意を持って仕事をしてもらえば、良い関係を築いていけます。しかし、打ち合わせなど限られた時間でしか接点のない外注と心の距離を近づけるのは、なかなか難しいことです。まず、敵意がないことを示して相手の警戒心を解く必要があります。さらにこちらが好意を持っていることを伝えなければなりません。
心理学に「好意の反報性」というものがあります。人間は好意を向けられると好意を返したくなり、自分に好意を持つ人を邪険に扱えなくなります。つまり、戦略的に好意を持つことで、結果的に外注に好意を持ってもらうようにするのです。
今回は、外注との打ち合わせの席で良い関係を築くためのコミュニケーションについてお話します。
ネクタイを取らせてやれ
初対面の人と話すのは苦手という方もいるでしょう。そこで、だれでも簡単に外注と心の距離を近づけられるテクニックをご紹介します。
ネクタイやスーツは今度からは着てこなくてもいいですよ
この一言かけてあげるだけでいいのです。ネクタイやスーツの着用には「あなた(発注側)に対して、礼儀を尽くしています」という意味合いがあります。そのため、この一言によって外注の警戒心を解き、普段の彼らの服装を認めることで好意的であることを伝えられるのです。Web制作会社など、クリエイティブに関わる外注の方々は、普段オフィスではTシャツやジーンズといったラフな格好で勤務している方が多いですから、なおさら、その意味合いは大きくなります。また、自分を寛容な人物と思わせることができ、好印象を持ってもらえます。
共通の趣味人を装うことも好意を持ってもらう最良なテクニックです。好きなジャンルの映画が同じだとなぜか強く共感を覚えるのと同じ感覚です。仕事の話題だけが外注との関係ではありません。
小物を使うのも有効です。クリエイティブを生業とする人たちには文具好きが多いものです。そこで外注と打ち合わせのときには「RHODIA」や「モレスキン」のノート、「クオバディス」の手帳、「LAMY」や「STAEDTLER」のペンを使うことで、自分もクリエイティブなセンスの持ち主と思わせることができます。
Web業界のクリエイターであれば、最新のネットサービスやデバイスへの感度が高いのも特徴です。最近であれば、スマートフォン(特にiPhone)の所有率も高いですから、話題のアプリやサービスから話を広げるのもいいでしょう。
打ち合わせで印象付けるコツ
外注との打ち合わせ時は好感度を上げる絶好の機会です。まず、座る位置ですが、真正面に座ると心理学的には「対立の関係」になり、気詰まりや緊張を生みます。このような対立の関係を避けるには、正面ではなくやや斜めに座ることです。相手を必要以上に意識することなく、自然に会話できる位置を心がけます。
次に、相手の行動をコピーしてみましょう。相手がお茶を飲んだなら、自分もお茶に口をつけます。相手が腕を組んだなら、自分もすかさず腕組みをします。相手と同じ動作を繰り返すうちに、相手は「この人とは気が合うな」と思うようになっていくものなのです。
会話のなかでは、相手の名前を呼ぶように心がけます。「○○さん」と名前を呼ばれて悪い気はしません。むしろ“相手が自分のことを認識してくれている”と好印象を与えられます。また、相手の言葉を意図的に繰り返すのも良い方法です。黙って外注の発言を聞いているだけでなく、相槌を打ちながら、時々、相手の言葉を反復します。そうすることで「この人は私が言ったことを理解してくれている」と外注に思わせることができます。
もちろん、相槌を打つだけでなく、わからないことがあればはっきりと尋ねることも大切です。Web制作の打ち合わせでは、横文字の専門用語が飛び交いがちですが、見栄を張ってうやむやにするのは、場合によっては施策にも影響するため好ましくありません。逆に、発注側のあなたの業界について尋ねられたのならば、歩み寄るチャンスでもあります。
打ち合わせでしか顔を合わせないのだから、1回1回の印象がとても大きな影響を与えます。初めて名刺交換をした時のような、緊張感を持って打ち合わせにのぞみましょう。
外注に味方だと思わせる
ここまでに紹介したものは、打ち合わせに慣れていない方のための基本的なテクニックです。短期的にはここで紹介したテクニックでごまかせても、長期にわたる関係となるとそうはいきません。外注と長期的なパートナー関係を築くためには、「外注だから。報酬を払うのだから」とぞんざいな扱いをするのではなく、フェアな関係を心がけることです。発注側の都合だけを外注に押し付けるのではなく、外注の要望にも応えるために、社内と調整する必要があります。
たとえば、オリエンテーションでは、社内の各部署からのヒアリング内容をそのまま伝えるのではなく、バラバラな各部署の要望をオリエンテーションまでに整理し、デザインが納品直前でひっくり返ることを防ぐために、事前に社内で合意を取るよう働きかけておきます。前回紹介したオリエン資料の作り方を参考に、資料を用意しておくのがベストです。必要であればデザイン提案の際に、社内関係者に出席してもらい、合意を得る場を設けることです。発注側の意思決定までの社内プロセスを外注と共有しておくことで、時間のかかる部分を見越して、外注もスケジュールに組み込むことができます。
発注側の担当者は、あらかじめ提案内容が途中でひっくり返らないように、社内の合意形成手順を構築することです。社内会議では議事録をしっかりと取り、目的を常に明確にしておきます。そうすることで、外注との打ち合わせのたびに言っていることが毎回異なるといったことをなくすことができ、外注のあなたに対する信頼は格段に向上するでしょう。
目標を外注に設定させろ
外注がその気になったかどうかは、目標を外注自身に設定させるとわかります。簡単に達成できそうな目標値であれば、報酬だけの関係です。少し背伸びした目標を設定したなら、あなたは外注と良い関係が築けているでしょう。外注があなたに認めてもらいたいと思っているから、パートナーとしてともに歩みたいと思っているからこそ、背伸びした目標値を掲げてくるのです。
目標を外注自身に設定させることで、外注に結果に対する意識が芽生えます。目標に対する責任感は、目標を誰かに与えられるのと、自身で設定するのとでは段違いになります。外注自身が目標値を設定することで、納得感が生まれ、自らが設定した目標値のため、簡単には言い訳できません。そして達成するために存分に能力を発揮するでしょう。
一度の施策だけの関係なのか、それとも、失敗を恐れずに会社のビジネス全体に深く踏み込んできてほしいのか。発注側としても、外注に何を求めどんな関係を築いていきたいのか、しっかりとした心構えで向き合うことが大切です。
- 外注だからという態度で接するのではなく、パートナーであると意識する
- 互いに認め合い、育て、育てられるフェアな関係を築く
本連載が、電子書籍になりました! タイトルは「Web担当者が知っておきたい『禁断の外注コントロール術』」です。
Web担当者の業務範囲は、制作や運営だけでなく、アクセス解析、インターネット広告やSEOに加え、ソーシャルメディア活用など多岐にわたり、それぞれ業務の内容もますます複雑化しています。そんな中で一定の成果を出していくには、もはや1人2人の手では足りず、社外の人の力を使わないとも対応できなくなっています。
本書は、Webの発注側にいる人が、社外の人の能力を最大限に活かす方法、ノウハウが収録されています。発注側と外注側のゴール・目標の違いを認識することからスタートし、成果を出す目標設定やツールの使い方、社外の人のモチベーション管理方法、対人関係能力の磨き方まで、発注・外注両方を経験している著者が、自らの経験を元に、丁寧に解説しています。
要点がコンパクトにまとまっているので、Web担当者になってから間もない人、自分以外の人の力を借りてもっと成果を上げたい人、気づきが満載です。ご一読のほど!
電子書籍を見てみる
→ http://book.impress.co.jp/books/1114170198
コメント
いやいや
外注をコントロール出来ないのは
発注側にリーダーシップが無いからです。
パートナーだとしてもお互いに
メリットが無いと関係は成り立ちません。
マジレスしてよかったのかな?(笑)
なるほど
確かにそういった点も発注側の課題ですね。
リーダーシップのところをもう少し具体的に書いていただけると
課題として認識しやすいです。