コンバージョン率2.8%、カート放棄率59% - この平均データをどう活用するのか? [アクセス解析tips]
セミナーや講演などで、出席者の方からよく聞かれる質問に、こういうものがある。
コンバージョン率って平均的にはどのくらいなのでしょうか?
自分のサイトはコンバージョン率が1.0%なのだが、これはよいのでしょうか悪いのでしょうか?
こういった疑問はどのようにして解消すればいいのだろうか? そしてその際に注意するべき点にはどういうものがあるのだろうか。
行動に繋がらない競合比較データに意味はない
あなたのサイトのコンバージョン率が5%だったとしよう。そして競合調査データによって、仮にあなたの業界におけるサイトのコンバージョン率の平均が2%であるという数字だけがわかったとする。この場合「平均より上だ!よし、OK」となって安心する。もちろん、具体的な改善行動にはつながらない。
では、あなたのサイトのコンバージョン率が0.5%だった場合はどうか。業界平均値2%より低いため、あわてて目標値を1.0%に設定するかもしれない。目標設定をして、何かに取り組まなければならないという姿勢を示した行動自体は正しいが、業界の平均値がなぜ自社の4倍も高いのか、その理由がわからないのならば、その場しのぎの場当たり的行動になってしまう。
そもそも、この平均値は有意味なデータなのだろうか? 調査の対象が大企業でなく、中小企業に偏っているかもしれないし、サンプルが実は10社しかなかったのかもしれない。これ以上細かいデータがないため、具体的な戦術に落としこめないのだ。特にシンジケート・サービス(同じデータを何社もが共有するサービス)の場合は、大雑把なデータしかない場合が多い。
こうしたデータを高い料金を払って買ってしまうことがあるが、あらかじめなんらかの仮説があってそれを検証するという目的がないのであれば、調査のための調査にしかならない。なぜ他社のコンバージョン率が高いのかの理由(あるいはヒント)がわかるデータもあわせて取得できなければ、「業界平均のコンバージョン率」の数字そのものには価値がない。
もちろん、高い料金を払ってでも「業界平均コンバージョン率」のデータが必要なケースもあることは否定しない。しかし多くの場合は単なる興味でしかない。行動に結びつかないデータは時間と金の浪費だ。特にWeb系のデータはアクセス解析含め大量に存在するが、つねに行動に繋がる分析に使えるかどうかという視点を忘れないようにしたい。
第三者機関の調査はどのように活用するか?
たとえばこの手の調査結果としては、米国のデータだが、Shop.orgが2008年の秋に発表したデータがある。米国125のECサイトの平均データから自分のサイトの行動につながる知見が探れるのであれば、こういったデータを活用するのもいいだろう。
- コンバージョン率(総注文数/総訪問数)は2.8%
- カート放棄率は59%
- 入口ページの直帰率は28%
- 返品率は総注文数の8%
- キャンセルされたため発送されなかった注文数は3%
- リピート顧客による売上は36%
- 過去1年間で再購入する顧客の割合は28%
- EC業者がカートに入れられた商品を保持しておく期間は70日間
- Webサイトのロード時間は3.7秒
- Webサイトの障害発生率は1%
- 注文の平均単価は133ドル
- オンラインでも買える広告チラシ掲載商品は85%
- オンラインでも買えるオフライン商品は73%
- オンラインでしか買えない商品は25%
この調査では、直帰率、購入プロセスにおけるカート放棄率、コンバージョン率などさまざまな視点からデータを見ることができるので、カート放棄率を改善するためのユーザビリティテストという行動に移すことができる可能性もある。
他にも同様なECサイトに関するデータとしては、コアメトリクスのベンチマーク産業レポートや、ファイアクリックのレポートもある(どちらも英語)。
これらのデータを見て、「どっちが正しいんだ」といった質問をするような非建設的な利用をしないのであれば、これらのデータを活用できるようになるだろう。
平均値の罠に注意
入手できた業界平均データとは、いったいどういうものなのだろう。たとえばECサイトなどでは、季節変動、キャンペーンの規模や内容によって、集客やコンバージョン率は劇的に変わることだってある。そのデータの元になった企業のマーケティング活動がわからないのに、その月の各社の平均値にどういう価値を見出せばよいのだろうか。
これが調査データの「平均」の微妙なところだ。コンバージョン率が20%もある優良サイトと2%のサイトが半々あったとした場合の、単純平均のコンバージョン率「11%」に意味があるとは思えない。
「平均値の罠」については項を改めてお話ししたいが、競合データに関しては上記のような問題を想像していただきたい。もちろん全体を1つの値で代表する平均値は重宝するのだが、その使い方には気をつけなければならない。サンプルとなるサイトが多く、ばらつきも正規分布するのであればよいのだが、ネットの利用行動はほとんどがそのようなパターンにはならないのだ。
また米ニールセン・オンラインでは毎月、「ECサイトの利用者数」「人数ベースのコンバージョン率」「回数ベースのコンバージョン率」「1回平均注文単価」などを出す統計情報サービスもある。こういったデータであれば、業界平均ではなく、個々の競合データを季節変動などと共に見ることができるので、参考になるサイトもあるだろう。
いずれにせよ、目の前にあるデータがどういった調査によってどの程度の信頼性があるのかということも考慮に入れて妄信しないという姿勢は大事だ。
日本ではこういったデータにお金を出す習慣があまりないせいか、このようなデータを出す調査会社が皆無であるということも、また別の問題としてある。
「率」を見るときには「絶対値」の視点も重要
さらにもう1つ指摘しておこう。下記の例を想像してみよう。黄色の部分が実際に発表されているデータだとすると、業界平均値2.4%に対して、自社のコンバージョン率は5.6%もある。これは素直に喜んでいいものだろうか。もしかすると、業界平均値の明細はグレイの部分のようになっているかもしれない。
A社 | B社 | C社 | D社 | 業界平均 | 自社 | |
---|---|---|---|---|---|---|
全体の利用者数 | 7,060 | 4,300 | 11,120 | 87,630 | 2,160 | |
購入者数 | 150 | 210 | 230 | 320 | 120 | |
コンバージョン率 | 2.1% | 4.9% | 2.1% | 0.4% | 2.4% | 5.6% |
コンバージョン率の業界平均データだけを見ていても気づかないが、実際には、自社はそもそも利用者のボリュームが少なく、購入者数(コンバージョン数)の絶対数が少ないのだ。
この例は、平均の罠に加えて、絶対値と率の関係についても考えさせられる素材として役に立つ。ある1つの指標だけに頼るのではなく、2つ3つの補完的な指標を見ることで、よい総合的な判断ができるようにしなければならない。
まとめ
- 行動に繋がらない競合比較データに意味はない
- 第三者機関の調査データは参考になる場合も。ただし、平均値の罠には注意が必要
- 「率」を見るときには「絶対値」の視点も重要
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